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第22話 知恵の樹とそれに仇なす者
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俺たちの乗ってきたシーファントム号が南の孤島の港に寄港した。
聞けば50年前までは植物や鉱石の探索ラッシュで栄えていたらしく、傷んでいるが港の機能はいまだ健在だった。
「私共はここでアクセルさんたちの帰りをお待ちしています、どうかお気を付けて!!」
「ああ、ありがとうよ!!」
船上の三人組に手を振る。
「よし、気を抜くなよ二人とも」
「はい!!」
「ウガッ!!」
俺たちは島の奥地へ向かって進みだす。
まず俺たちの目に入って来たのは廃墟と化した街だった。
「うわぁ、大きな街ですねぇ……」
溜息交じりにイングリットが感嘆の声を上げる。
「でも今は人っ子一人いない……」
街の規模、建物の様子からかなりの人間が暮らしていたのが分かる。
空前の探索ラッシュがあったのを裏付ける証拠と言える。
しかし俺たちの用があるのはここではない、もっと奥の広大な森だ。
大きな街だっただけに抜けるのに時間がかかったが目当ての森の前に到着した。
俺が探している知恵の実は当たり前だが木の実だ、恐らく森にあるはず。
見た目などの特徴を聞いてもライムは教えてくれなかったが。一言だけ、島に行けばすぐに分かると言った……という事は余程特徴的な木の実なのだろう。
早速一歩森に足を踏み入れる。
すると森の樹々が一斉にざわめき始めた、風も無いのにだ。
「まるで能動的に動いている様だな、ここの樹は」
『そうとも、この森はまだ生きているからな……』
「何っ!? 誰だ!?」
特に誰に言うでもなくつぶやいたつもりだったのだが、どこからともなく返事が返ってきた。
『誰だとはご挨拶だな、それはこちらが聞きたい……』
耳をそばだてるが、この謎の声が聞こえてくる場所がイマイチ特定できない。
一体どうなっている?
「……俺はこの島に知恵の実というものを探しに来た、どこにあるか知らないか?」
一か八か謎の声と会話を試みる、運よく答えが引き出せればそれでいい。
『知恵の実か……そんなものを欲してどうする?』
「知っている様だな、俺の連れが戦いのダメージでしゃべれなくなって困っているんだ、是非とも知恵の実を手に入れたい」
『ほう、私利私欲の為でなく他者の為に知恵の実を欲するか……』
謎の声が感慨深そうにした後、何かがこちらに近づいている気配がする。
「気を付けろ、何か来る!!」
俺は腰の剣を抜き、カタリナはイングリットを庇うように前に立ちはだかる。
緊張の一瞬……前方の茂みから何かが飛び出してくる。
「ウガッ!!」
「カタリナ、ちょっと待て!! そいつは!!」
飛び掛ろうとしたカタリナを制し、俺たちは飛び出してきたその者を見た。
樹だった……一本の樹が根を器用に使ってここまで走ってきたのだ。
『私は知恵の樹……この森を守る番人だ』
よく見ると樹の幹の真ん中辺に顔がある、しかもかなりお年を召したようなしわしわ顔だ。
だが最も俺の興味をそそったのはその樹が名乗った自分の名前だ。
「知恵の樹だと? まさかお前が……」
『そうとも、お前の欲する知恵の実は私の身体に実る果実だ』
ライムが知恵の実の事は島に行けばすぐに分かるといったのはこういう事だったのか。
無人島で人に尋ねられなくとも、樹本人が教えてくれた。
「やはりそうか!! 頼む!! その実を譲ってくれ!! この通りだ!!」
俺は知恵の樹に対して深々と頭を下げる、こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない……リーダー曰く『チャンスの女神は前髪しかない』だったな……なりふり構ってられるか。
『知恵の実を譲るのはやぶさかではないが、今の私には実を付ける力は僅かしか残っていないのだ』
「それはどういった理由で?」
馬鹿な、ここまで来て手ぶらで帰れるものか。
『私は、いや、この森はもう長くはもたないのだよ、あやつらのせいでな』
「あやつら?」
『見てみなさい森の樹々を……皆一様に痩せこけ、中には枯れているものもあるだろう?』
そう言われればこの森、全体的に見て枯れたり折れたりしている樹がやたら多いことに気づく。
「俺たちに何か出来ないのか?」
『そこまでして仲間を助けたいか?』
「ああ、そうとも、俺にできる事があれば何でも言ってくれ!!」
『そうか、ならば交換条件といこう……我々がこうなってしまったのはあやつら、樹液を吸う巨大な昆虫が現れたからなのだ……あやつらを倒してくれるのなら私が最後の力を振り絞って知恵の実を実らせると約束しよう』
「分かった、頼むぜ知恵の樹」
『こちらこそよろしく頼む……』
俺は知恵の樹の枝を掴み、握手の様に上下に動かした。
「その巨大昆虫とやらの居場所は見当つくか?」
知恵の樹に尋ねる。
『いつも日が昇り切った昼に現れるな、ただどこに来るかまでは分からない』
「そうか」
これだけ広大な森だ、山を張ったところで巨大昆虫に出くわすのは難しいだろう。
これは時間をかけて偶然発見を待つ以外にないのか?
「ちょっと!! カタリナ、あなた体中ベタベタじゃない!!」
イングリットの怒鳴り声が聞こえる。
何だ? 俺と知恵の樹が大事な話をしているというのに。
「アクセルさん、ちょっと見てくださいよ!! カタリナったらどこからかハチミツを見つけてきてベトベトになって帰って来たんですよ!?」
「あちゃーーー、これは派手にやったな」
カタリナは頭からハチミツを被って全身デロンデロンになっていた……独特の甘い香りがあたりに漂う。
「これじゃあ蜂が寄って来るんじゃないか? あっ!!」
「どうしたんです? アクセルさん」
「そうだよ、探せないならおびき寄せればいいんだ!! でかしたぞカタリナ!!」
「ウガーーーッ!!」
褒められたのが嬉しいらしく、カタリナは俺に飛びついてきた、当然ハチミツ塗れのままで。
「あ~~~あ……」
俺の服にもベットリとハチミツが付着する。
俺の作戦ではどれかの樹にハチミツを塗り、巨大昆虫をおびき寄せる算段だったのだが、これでは俺たち自身が囮になるしかないな……。
「あれ? 何か聞こえてきませんか?」
これは虫の羽音……もしかしてもう来たのか?
空が開けている草原に移動するとやはり来た、あれは巨大なカブトムシだ、確実に俺目がけて降下して来る。
こうなってしまったのならそれはそれで手っ取り早くていい……俺は腰のミドルソードを抜き巨大カブトムシとの戦闘に備えた。
聞けば50年前までは植物や鉱石の探索ラッシュで栄えていたらしく、傷んでいるが港の機能はいまだ健在だった。
「私共はここでアクセルさんたちの帰りをお待ちしています、どうかお気を付けて!!」
「ああ、ありがとうよ!!」
船上の三人組に手を振る。
「よし、気を抜くなよ二人とも」
「はい!!」
「ウガッ!!」
俺たちは島の奥地へ向かって進みだす。
まず俺たちの目に入って来たのは廃墟と化した街だった。
「うわぁ、大きな街ですねぇ……」
溜息交じりにイングリットが感嘆の声を上げる。
「でも今は人っ子一人いない……」
街の規模、建物の様子からかなりの人間が暮らしていたのが分かる。
空前の探索ラッシュがあったのを裏付ける証拠と言える。
しかし俺たちの用があるのはここではない、もっと奥の広大な森だ。
大きな街だっただけに抜けるのに時間がかかったが目当ての森の前に到着した。
俺が探している知恵の実は当たり前だが木の実だ、恐らく森にあるはず。
見た目などの特徴を聞いてもライムは教えてくれなかったが。一言だけ、島に行けばすぐに分かると言った……という事は余程特徴的な木の実なのだろう。
早速一歩森に足を踏み入れる。
すると森の樹々が一斉にざわめき始めた、風も無いのにだ。
「まるで能動的に動いている様だな、ここの樹は」
『そうとも、この森はまだ生きているからな……』
「何っ!? 誰だ!?」
特に誰に言うでもなくつぶやいたつもりだったのだが、どこからともなく返事が返ってきた。
『誰だとはご挨拶だな、それはこちらが聞きたい……』
耳をそばだてるが、この謎の声が聞こえてくる場所がイマイチ特定できない。
一体どうなっている?
「……俺はこの島に知恵の実というものを探しに来た、どこにあるか知らないか?」
一か八か謎の声と会話を試みる、運よく答えが引き出せればそれでいい。
『知恵の実か……そんなものを欲してどうする?』
「知っている様だな、俺の連れが戦いのダメージでしゃべれなくなって困っているんだ、是非とも知恵の実を手に入れたい」
『ほう、私利私欲の為でなく他者の為に知恵の実を欲するか……』
謎の声が感慨深そうにした後、何かがこちらに近づいている気配がする。
「気を付けろ、何か来る!!」
俺は腰の剣を抜き、カタリナはイングリットを庇うように前に立ちはだかる。
緊張の一瞬……前方の茂みから何かが飛び出してくる。
「ウガッ!!」
「カタリナ、ちょっと待て!! そいつは!!」
飛び掛ろうとしたカタリナを制し、俺たちは飛び出してきたその者を見た。
樹だった……一本の樹が根を器用に使ってここまで走ってきたのだ。
『私は知恵の樹……この森を守る番人だ』
よく見ると樹の幹の真ん中辺に顔がある、しかもかなりお年を召したようなしわしわ顔だ。
だが最も俺の興味をそそったのはその樹が名乗った自分の名前だ。
「知恵の樹だと? まさかお前が……」
『そうとも、お前の欲する知恵の実は私の身体に実る果実だ』
ライムが知恵の実の事は島に行けばすぐに分かるといったのはこういう事だったのか。
無人島で人に尋ねられなくとも、樹本人が教えてくれた。
「やはりそうか!! 頼む!! その実を譲ってくれ!! この通りだ!!」
俺は知恵の樹に対して深々と頭を下げる、こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない……リーダー曰く『チャンスの女神は前髪しかない』だったな……なりふり構ってられるか。
『知恵の実を譲るのはやぶさかではないが、今の私には実を付ける力は僅かしか残っていないのだ』
「それはどういった理由で?」
馬鹿な、ここまで来て手ぶらで帰れるものか。
『私は、いや、この森はもう長くはもたないのだよ、あやつらのせいでな』
「あやつら?」
『見てみなさい森の樹々を……皆一様に痩せこけ、中には枯れているものもあるだろう?』
そう言われればこの森、全体的に見て枯れたり折れたりしている樹がやたら多いことに気づく。
「俺たちに何か出来ないのか?」
『そこまでして仲間を助けたいか?』
「ああ、そうとも、俺にできる事があれば何でも言ってくれ!!」
『そうか、ならば交換条件といこう……我々がこうなってしまったのはあやつら、樹液を吸う巨大な昆虫が現れたからなのだ……あやつらを倒してくれるのなら私が最後の力を振り絞って知恵の実を実らせると約束しよう』
「分かった、頼むぜ知恵の樹」
『こちらこそよろしく頼む……』
俺は知恵の樹の枝を掴み、握手の様に上下に動かした。
「その巨大昆虫とやらの居場所は見当つくか?」
知恵の樹に尋ねる。
『いつも日が昇り切った昼に現れるな、ただどこに来るかまでは分からない』
「そうか」
これだけ広大な森だ、山を張ったところで巨大昆虫に出くわすのは難しいだろう。
これは時間をかけて偶然発見を待つ以外にないのか?
「ちょっと!! カタリナ、あなた体中ベタベタじゃない!!」
イングリットの怒鳴り声が聞こえる。
何だ? 俺と知恵の樹が大事な話をしているというのに。
「アクセルさん、ちょっと見てくださいよ!! カタリナったらどこからかハチミツを見つけてきてベトベトになって帰って来たんですよ!?」
「あちゃーーー、これは派手にやったな」
カタリナは頭からハチミツを被って全身デロンデロンになっていた……独特の甘い香りがあたりに漂う。
「これじゃあ蜂が寄って来るんじゃないか? あっ!!」
「どうしたんです? アクセルさん」
「そうだよ、探せないならおびき寄せればいいんだ!! でかしたぞカタリナ!!」
「ウガーーーッ!!」
褒められたのが嬉しいらしく、カタリナは俺に飛びついてきた、当然ハチミツ塗れのままで。
「あ~~~あ……」
俺の服にもベットリとハチミツが付着する。
俺の作戦ではどれかの樹にハチミツを塗り、巨大昆虫をおびき寄せる算段だったのだが、これでは俺たち自身が囮になるしかないな……。
「あれ? 何か聞こえてきませんか?」
これは虫の羽音……もしかしてもう来たのか?
空が開けている草原に移動するとやはり来た、あれは巨大なカブトムシだ、確実に俺目がけて降下して来る。
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