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ケース5 横恋慕する女

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 その日、魔女の占い館の扉が乱暴に開け放たれる。

「ここに魔女が居るんでしょう!? 出て来なさいよ!!」

 原因はこの少女、ツインテールに纏めた髪とカジュアルなガーリーファッションがマッチしていた。

「あら、女の子のお客様とは珍しいわね」

 そう、どういう訳かこの占い館は男性の客が大半を占める。
 だから女性のお客様は実に数年ぶりであったのだ。

「あんたが魔女!?」

 少女はアンジェリーナに至近距離まで顔を寄せ睨みつける。

「私はアンジェリーナ、魔女と言えば魔女ね」

「あなたが……ならあなたに彼氏を奪われた私に謝罪をして頂戴!!」

「あら? 私にそんな覚えは無いのだけれど……人違いでは無くて?」

「間違ってないわ!! あなたがあのいじめられっ子を女装させたせいで私の彼がアイツに取られてしまったんだから!!」

「ああ、そう言う事ね、確かにある意味間違ってないかもねぇ」

 数か月前に相談しに来た気弱青年の話しがここで繋がって来るとはアンジェリーナは思いもしなかった。

「隣の男子校には女装の女教師が赴任したり、よそのクラスの子はお父さんがお母さんになったって話も聞くし、それもこれも全てこの占い館が原因だってもっぱらの噂よ!!」

 それは噂では無く事実だ。

「あらあら、そうなのね」

「何よその態度!! 人の人生を悪意を持って変えてしまうなんてこれはもう立派な犯罪でしょう!?」

「あら、それは違うわよ? 私は私に救いを求めてきた人々に幸せになる切っ掛けを与えただけ……全て当事者である彼らが選択した事よ、その事にあなたがとやかく言うのはお門違いでは無くて?」

「なっ……」

 アンジェリーナの言葉に少女は言葉を失う。

「私が後押しした事柄であなたが被害を被ったのはお気の毒だけど私にはどうする事も出来ないわね……彼氏を寝取られたのはあなたに魅力がないからでしょう?」

「ぐっ……」

 少女の顔が怒りで真っ赤になっていく。

「そう言うんなら私もあなたに相談するわ!! あなたに救いを求めたら幸せにしてくれるのよね!? じゃあやって見せないさいよ!!」

「ウフフ……あなた食えない子ね、一本取られたわ……でもね、私は私が幸せになる切っ掛けを与えた人間を拭こうにする気は無いの、要するに彼氏を取り返すのには手を貸せないけどそれでもいいかしら?」

「それなら彼氏を取り返すなんてもうどうだっていいわ!! 新たに彼氏を作る方法を教えなさい!!」

 こんなに気性が荒いのならきっとこの事件が無くても遅かれ早かれこの子とその彼氏は長くは続かなかっただろう。
 そう感じ取ったアンジェリーナは奥の部屋に入っていき紙袋を出してきた。

「何よこれは?」

「そんなに彼氏を作りたいならこれを持っていきなさい」

 少女は紙袋の中身を見て首を傾げる。

「これ、意味が分からないにだけれど」

「信じる信じないはあなた次第よ、さあどうするの?」

「分かった、分かったわよ!! 上手くいかなかったら承知しないからね!!」

 再び乱暴に扉を閉め少女は館を出て行った。



 数日後。

「アンジェリーナはいる?」

「何よ馴れ馴れしいわね」

 例のツインテール少女がやって来た、しかし髪はバッサリと切り落されていて、一見すると少年のように見える。
 それもそのはず彼女はガールズファッションでは無くボーイズファッションに身を固めていたのだから。

「男の子の恰好って楽だよね、メイクもしなくていいし」

 その場でくるっと回って見せる少女、何だか楽しそうだ。

「それで、今日は何の用?」

「そんなに邪険にすることないじゃない、出来たのよ私に彼氏が!!」

 彼女の後ろにもう一人立っていた。

「あら、あなた……」

「お久しぶりですアンジェリーナさん」

 なんとあの気弱青年がワンピースのスカートを着て現れたではないか。

「元の彼氏から奪い取ってやったの、この子別に男だけが好きな訳では無かったみたいね、私のこの恰好を見てこの子から告白してきたのよ!!」

「えへへっ、カッコいいなって思ったら居てもたってもいられなくなって」

 気弱っこはバイセクシャルであった。

「まあ、それじゃあ彼氏さんはフラれてしまったの……折角幸せそうだったのに残念だわ」

 アンジェリーナのモットーに反する事態にさすがの彼女も残念がっている。
 しかしこれはある意味不可抗力だ、

「そんな事は無いわよ、あんたも入っておいで」

「どうも」

 彼氏も現れた。

「僕たち、三人で付き合う事にしたんです、僕が言い出しっぺで……だって恋愛は二人でするものですけどあぶれたら可哀そうじゃないですか」

「あなた、変わったわね……」

 さすがのアンジェリーナのも驚きを隠せない。

「いま三人で住む家を探しているの、それじゃあね魔女さん!!」

 振り向きざまに手を振り三人は館を後にした。

「本当に現実は小説より奇なり……ね」

 なんとも言い表せない気持ちで彼らを見送るアンジェリーナであった。

 ここは魔女のいる占い館……相談に訪れた者は必ず幸せになるという。
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