異世界デリバリー~転生先にはチャリで来た~

美作美琴

文字の大きさ
上 下
6 / 10

第6話 いきなり大ピンチ!!

しおりを挟む
 
 それにしても異様に疲れた……、自分でも神経がすり減っているのを感じる。会場を出てからも、妙に頭の中が騒がしくて、こんな時は強めの酒で、記憶を消し去りたい気分になる。

「どうする? 須藤の車置いてく?」
「あー、そうだな、うちまで行くか」

 先に誠人の家へ寄り、車を駐車場へ止めると長谷部の車へ乗り込んだ。
「それにしても、この辺りいいよね」と周辺に空きの土地は無いのかと尋ねて来るのを聞き。

「やめてくれ、俺の店を潰す気か」
「この辺りならケーキショップもいいかなと思ってさ」
「ま、悪くはないな」

 確かに、この辺りは美容院やネイルサロンなど、女性を中心としたショップが多いので、長谷部の言うように、ケーキショップなどあれば流行るだろう。
 目の付け所は悪くないな、と感心していると、ふと笑みを零して、長谷部は誠人の方へ頭を少し傾けた。

「それに、昔は喧嘩ばかりだったけど、今なら上手く付き合っていけると思わない?」

 そんな風に言われて、確かに、今ならお互いの距離を上手く量れるだろうし、妙な勘繰りや下手な駆け引きもしないだろう。きっと、それは恋愛とは呼べないが仕事仲間の延長として、やっていける気がした。

「お前なら、いくらでも良い男捕まえられるだろ、何も中古品に手を出さなくても」
「ンー、中古の方が価値があって高いの知らないの?」
「人をヴィンテージ扱いするなよ」

 くつくつと誠人は微笑した。それに釣られることなく、長谷部は真剣な表情と口調で「失わないと価値に気が付かないもんなんだよな……」と呟く。

「俺さ、須……、誠人と別れてすぐ、違う男と付き合って、あー、こいつじゃない、って、すぐに別れて、それの繰り返しだったよ」

 昔のように、『誠人』と下の名を呼ぶ長谷部に、別れを切り出したのは長谷部からだったことを思い出して、少しだけ胸がざわつく。
 承諾したのはお互いのためだったし、今更、思い出して後悔するような出来事には感じなかったが、二度と同じ思いはしたくないと思う。

「過去は過去だろ、今はその日が楽しければいい」
「……そう思ってたけど、なんかなぁ……、あの子を見て取られたくないって思った」
「いやいや、取る取らないじゃなくて、そもそも海翔の方だって、その日限りを楽しむタイプなんだよ」
「あ、知らないフリするんだ? あんなのどう見たって俺を見て嫉妬してたのにな」

 長谷部の言っていることを認めたら、自分の中のブレーキが壊れそうで嫌だった。それをズバズバ言われて、誠人は一気に面白くない気分になる。
 軽く舌打ちして「他の男の話するなんて余裕だな?」と長谷部の太腿に手を置いた。びくっと一瞬、筋肉が硬直するのが分かり、そのまま上へと手を這わせ腰骨を撫で上げた。

「ちょ、運転中! 事故る」
「余計な話しするからだろ、ほら、しっかり前見てろ」
「あの子の代わりに抱こうとするから、ちょっと意地悪したくなったんだよ」
「……代わりなんて扱いするわけないだろ」

 長谷部の拗ねた様な言葉を聞いて、海翔の代わりなんているわけがない、と思わず本音を零しそうになる。
 少し間が空き、その間に誠人はホテルに予約を入れた。今日は休日で、しかも長谷部が相手なら、泊りがけになることを想定して、慣れ親しんだシティホテルへ予約を入れた。

「あそこのホテルなら、あとでカツサンド食べたい」
「あー、あれな」

 昔からルームサービスで、よく頼んでいた食べ物の話題に、ほっこりしながら、目的の場所に辿り着くと、長谷部を駐車場に残して誠人が先にフロントへ向かう。
 金子の所で働いていた頃は、よくここのホテルロビーで待ち合わせをしていたので、少し懐かしい気分になった。
 まだ駆け出しの料理人で、貧相な家に住んでいたから、声も出せず不完全燃焼なセックスになりがちだったことから、結果、ホテルを使うようになった。
 取った部屋はダブルベッドの中層階の部屋で、先に部屋に入ると、長谷部に部屋番号のメッセージを送った。ほどなくしてインターホンが鳴る。

「先にシャワー浴びていいぞ」
「……部屋開けるなり、それ?」
「ヤリに来たんだから当然だろ」
「違いない」

 長谷部は「じゃ、お先に」と言ってバスルームへ移動した。少々不満な様子だったのを察して誠人は、ルームサービスでシャンパンを頼んだ。
 長年の付き合いから分かる僅かな表情の変化を見て、ご機嫌を取る方法を実行した。シャワーを終えて長谷部がバスルームから出て来る。
 シャンパンが乗ったワゴンが見えた瞬間、満面の笑みを浮かべてグラスを手に取ると「やった」と子供のように喜ぶ。

「それ飲んで待ってろ」
「うん」

 素直な返事を聞き、誠人もシャワーを浴びることにした。慣れないスーツを着たせいか、首当りに汗がこびり付いてる気がして、何度も首を擦る。
 シャワーを終えて部屋へ戻れば、浮かない顔した長谷部に「電話鳴ってた」と言われ、着信を確認する。

「あー……、徹か、珍しい……」
「なに、なに、何処かの子猫?」
「違う、そっちじゃない方……」

 誠人は確認だけするとポンと携帯をテーブルの上に置いた。

「いいの?」
「どうせ大した用事じゃない、そんなことより、美味いか?」
「美味しいよ、誠人も飲めば?」
「ああ――」

 渡されたグラスを取ろうとしたが、誠人の携帯が鳴り画面を確認すると徹だった。

「は……、しつこいな……」
「出てあげたら? って言うか、そんなに頻繁に連絡取る仲?」
「いや、滅多に取らないな」

 それなら、急用なんじゃないの? と指摘されて、それもそうだなと誠人も思う。それでも、長谷部の潤んだ瞳を見れば、既に昂り始めているのは明らかで、身体を満たしてからで良いのでは? と欲望を先行させようと、頬に手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

処理中です...