5 / 10
第5話 ギルドの初仕事
しおりを挟むイングウェイ氏にギルドへの加入を認めてもらった俺はその足でクエストの依頼書が張ってある掲示板のある屋内へと戻ってきた。
「随分と減ったな、依頼書……」
「まあね、原則早い者勝ちだから割りが良くて目ぼしい依頼はすぐに誰かに取られてしまうのさ」
ジェイクが首をすくめる。
加入手続きによりギルドハウスのオープンから少し時間が経ったせいもあり、掲示板に張られた依頼書は残りわずかとなっていた。
早朝にも関わらずあれだけ冒険者で賑わっていたんだ、無理も無いだろう。
「でもね、だからと言って残った依頼書が全て貧乏くじという訳でもないんだよ」
「どういうことだい?」
「報酬が低い、目的地が遠い、求めていた内容ではなかったって理由で選ばれなかった仕事が残っている場合があるんだ、後は難易度かな……名声目的で高難易度のクエストを敢えて選ぶ者もいるけど高難易度の依頼は大抵残るよ」
「いや、それは俺も願い下げなんだけど……」
「それはそうだよね、例えガッポリ日銭が入ったとしても命あっての物種だから」
そうともさ、そもそも戦闘経験も訓練も受けていない俺が出来るのは精々輸送任務くらいだ、と言うかそれ以外の仕事を受ける気はない。
早速残った依頼書を物色するとしよう。
「え~~~と、どれどれ……」
邪竜王ドルガ討伐……うわぁ、これはジェイクが言っていた高難度過ぎて誰も依頼を受けないタイプのヤツだな……付けられた夥しい量の星の数がその達成の困難さを物語っている、当然このクエストはパスだ。
北の辺境防衛線勤務……極寒の地での魔物の侵攻を阻止する防衛任務か、これも俺向きではない、はい次。
ポン……。
あれ? 今のはスマホの……俺はポケットからスマホを取り出して画面を確認する。
すると今まで同様ユーザービーツのアプリが立ち上がっており、依頼のポインターが現れていた。
そのポインターの示す場所は……ここだ?
「なあ、これなんか君に向いてるんじゃないか? ってこれは……」
「どうしたんだジェイク?」
ジェイクが手に取った依頼書を横から覗き込む。
「配達依頼……山奥に住む祖母に薬を届けてほしい」
薬が必要な山奥に住む祖母? どこかで聞いた様な気が……。
「水臭いなユニのヤツ、ギルドを通さなくても俺に言ってくれれば届けたものを……」
「あっ……」
依頼書の提出者はユニ・ファーランディア……どうやら間違いない様だ。
「ギルドへの依頼だってタダじゃないんだ、ユニに取り下げさせよう……そして俺が自分で届ける」
依頼書を握り締め窓口へ行こうとしたジェイクを引き留める。
「ちょっと待った、じゃあ俺がこの依頼を受けるよ、ユニのおばあさんの家には一度言ったことがあるんだ場所は分かるよ」
そう大きくない物の配達な上に場所が分かっているなんて、これはある意味今の俺にとって持って来いな依頼だろう。
「そう言ってくれるのはありがたいが、ユニの事を考えると折角仕送りの為に街に稼ぎに来ているのに余計な出費をさせたくないんだ」
ああ、そういう理由があるのか……それならしょうがないかもしれない。
「あら~~~お忘れ? 依頼を取り下げる場合は違約金として依頼時と同額のお金を頂くって事」
「うわっ!! びっくりした!!」
いつの間にか俺とジェイクの後ろにイングウェイ氏が張り付いていた、そして俺たちの肩を外側からしっかりとホールドし、顔を割り込ませてきた。
「あちゃ~~~そうだった……軽い気持ちで依頼を出す人間を減らすための対策があったんだっけ」
「そうよ~~~ん」
イングウェイ氏の指摘に対してジェイクが額に手を当て悔しがる。
なるほどね、そういう事なら益々俺に任せてほしいものだな。
それにその依頼書を見る直前にスマホがなったのも気になる……これまでもアプリが起動したときは何かしら俺に有利な事が起こってきた気がするしな。
「よし、じゃあ改めてこの仕事は俺が受けよう……では早速……」
「待った、それなら俺も同行するよ」
「えっ? ただの薬の配達だから俺一人でもなんとかなると思うんだけど」
「昨日の君の話しでは山に灰色熊が出たって言うじゃないか、そんな危険な仕事に不慣れな君を一人で行かせられない」
キュン……。
もう、一々俺の心を鷲掴みにしてくるなジェイクは。
本当になんて出来た男なんだろう。
「大丈夫、俺は勝手について行くだけだから報酬はいらない、それでいいだろう?」
「分かった、それじゃあお願いするよ」
依頼書を受付に提出、手続きを済ませた俺たちは依頼主であるユニの居る宵の明星亭へ戻って来ていた。
「あら、まさかタクさんがこの依頼を受けてくれるなんて、びっくりだわ」
「ユニ、ギルドに依頼を出す前に何で俺に相談してくれなかったんだ? 君の頼みならすぐに俺が行って来てあげたのに」
「そう言う訳にもいかないでしょう? あなたにはあなたにしか出来ない依頼があるんだから……こんなお使いみたいな依頼であなたを煩わせたくなかったのよ」
「その言い方は無いな、君の言うそのお使いにタクが行くんだぞ? たかがお使いでだって命を落とす事にもなりかねないのに」
「あっ、ごめんなさい……悪気はなかったの」
何だか空気が重たくなってきたぞ? これは良くないな。
「はいはいそこまで!! 俺はこれが初めての仕事なんだからこれくらいで丁度いいんだよ……そう、お使いくらいの仕事がね」
二人はハッとしていた、そして俺が気を使って自虐に出たことに罪悪感を感じたようだ。
「本当にごめんなさい……」
「済まない、俺も言い過ぎた」
「いいっていいって、最初から他意が無いのは分かっていたから」
二人とも実に聞き訳が良くて助かった、俺はこんな些細な事でこの二人に言い争ってほしく無かったんだ。
「それで薬ってのは?」
「はい、これよ」
ユニが褐色の紙袋を奥の部屋から持ち出し、カウンターに置いた。
紙袋はいいだけ膨らんでおり、はち切れんばかりだ。
「おばあちゃんの咳の薬が約三か月分入っているわ、これを山奥の実家まで届けてほしいの」
「了解しました、お任せを!!」
俺はふざけて敬礼をして見せた。
「ウフフ、タクったら城門を守る兵隊さんみたいよ」
良かった、ユニが笑ってくれた……やはり彼女には笑顔が似合う。
「タクは今日が初仕事だから俺も付き添う事にしたんだ、行ってくるよ」
「あら、それなら十分だけ待ってくれないかしら?」
「どうしたの?」
酒場から出ようとした俺たちを引き留めて、ユニが戸棚から野菜や食パン、ハムなどを取り出した。
「今から二人にお弁当を作るわ、そんなに時間話掛からないから待ってて」
さすがの手際で食材を重ね、それをナイフで切る……あっという間に野菜たっぷりのハムサンドが出来上がった。
「はい、お昼に食べてね」
「ありがとう、ありがたく頂くよ」
弁当の入ったバスケットを持たせてくれた、これで一食分浮いたのでとても助かる。
「じゃあ行ってくるよ!!」
「気を付けてねーーー!!」
ユニに見送られながら俺とジェイクは一路山奥にある彼女の実家を目指した。
道は山道が一本きりなのもあり迷う事は無い、わざわざスマホのナビを使うまでも無いだろう。
それにスマホはあまりこの世界の人間には見せない方が良いのではないかと思っている。
それは何故か? もちろんこんな科学技術の産物をファンタジー世界の人間に見せるのは危険と判断したからだ。
まだ確認した訳では無いが、ギルドには魔法の杖らしき物を持った魔術師風の人間を見掛けたのでここが魔法の存在する世界なのは間違いないだろう。
だから最悪スマホは魔法の道具だと言い張ればいいのかもしれない。
しかし街にゴロツキが居たことからも分かる通りこの世界は元の世界に比べ格段に治安が悪い事も想像に難くない。
珍しいものはそれだけで価値が付く。
どこで誰が目を光らせているとも限らない、下手にスマホをひけらかせば立ちどころに噂が広がるだろう。
そうなればスマホを奪わんとする輩が襲い掛かってくるなど要らぬトラブルに巻き込まれるのは必至……そう言った理由でわざわざ自ら危険を招く事も無いだろう。
同様に自転車のチャリオットにも俺と二人きりの時以外は人前でしゃべらない様にと念を押しておいたのだ。
「済まないな、俺が付いてきたことでその自転車が生かせないよな……」
「そんな事無いよ、こうやって荷物を載せて押すだけでもただ持ち運ぶより全然楽だからね、それに上り坂が急になってきたらそもそも乗っていられないよ」
モトクロスのようなオフロードならともかく、チャリオットはオンロードだからそもそも山道を走るのには向いていない。
尖った石を踏みつけてパンクするんじゃないかと気が気ではない。
この世界には替えのタイヤは無いのだから。
三時間ほどたっただろうか、そろそろ目的地のユニの実家に着く頃だ。
ここまで特にトラブルらしいトラブルも無く無事に進んで来られた。
しかし、しかしだ……このクエストが文字通りただのお使いで済まないことを俺たちはこの後に嫌という程思い知るのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。


Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる