ビキニアーマーは俺が着る！～冴えない弱小冒険者（♂）、伝説の女勇者を目指す～

第26話 女勇者の逆襲

「おやおやこんな所に隠れていたのですか人間の皆さん」

　大魔王ゾンダイクが対大魔王反乱組織カスケードのアジトである洞窟へと現れた。
　突然の事にローガンとサンファン以下組織の構成員たちは建物から飛び出した。

「お、お前は……！？」

　空中に浮遊している人物に困惑するローガン。
　
「おや、これは失礼……初めまして私、大魔王ゾンダイクと申します」

　穴の上に乗っかっている白のシルクハットを手に取り胸に手を当て恭しくお辞儀をして見せる。

「大魔王だって！？」

「そんな……何で大魔王自身が直々にここへ乗り込んで来るんだ……」

　構成員たちは動揺し騒ぎ立てる。

「フフフ……簡単な事です、先ほど呼び寄せた剣士の元居た場所を逆に辿って来たのですよ」

「ギロードか！？　突然消えたと思ったらお前の仕業だったのか！！」

「ギロードをどこにやったのです！？」

　ローガンとサンファンは怒りの形相を見せる。
　
「女勇者との戦いで人質に使わせてもらいましたよ、使い終わったのでクシャポイしましたけどね」

　半分小馬鹿にした言い草のゾンダイク。

「貴様！！」

「待ってください……それでは女勇者は……」

　憤慨するローガンに反して戦慄の表情を浮かべるサンファン。

「流石察しの良い、もちろん倒しましたとも大魔王であるこの私が」

「……そんな」

　自慢げに語るゾンダイクの言葉にサンファンは意気消沈する。

「それでですね、ささやかな祝勝会でも開こうと思いまして、私の勝利を記念してここで花火大会などどうです？」

「ふざけるな！！　何が花火大会だ！！」

「そうだそうだ！！　花火なんてどこにある！！」

　ゾンダイクの提案に対し喧騒が巻き起こる。

「花火ならあるじゃないですか、ほらここに……」

　ゾンダイクが指を鳴らすと次々と地面から柱が勢いよく突き出し構成員たち人間を突き上げる。
　空中に放り上げられた人間たちは柱が勢いよく当たった事で身体が爆ぜ血が噴き出るのである。
　その様はさながら花火の様であった、響き渡る悲鳴はさしずめ花火の打ち上げ音だろうか。

「きったない花火ですねぇ、所詮薄汚い人間ではこの程度ですか、ククク」

　せせら笑うゾンダイク。

「よくも同胞を……！！」

　運よく難を逃れたローガンは怒り狂っている、サンファンも無事だ。
　他の構成員たちは全て絶命してしまっていた。

「ほほう、少しは骨のある人間がいるようですね、ちょっと遊んであげましょう」

　ゾンダイクがローガン達に向かって右手を突き出すと掌を上に向け人差し指をちょいちょいと動かす、掛って来いというのだ。

「舐めるなよ！！　ファイアボール！！」

　ローガンの構えた杖の先から大きな火球が放たれゾンダイク目がけて飛んでいく。

「こちらの方がよっぽど花火らしい、ではこんな余興はどうです？」

　ゾンダイクが再び指を鳴らすとファイアボールは忽然と掻き消えてしまった。

「なっ！？」

「ぐあああああああっ……！！」

　ローガンが狼狽えると同時にサンファンの悲鳴が上がる。
　何とサンファンが火達磨になってもがき苦しんでいた。
　そう、ゾンダイクが先ほどのファイアボールを転移させサンファンにぶつけたのだ。

「サンファン！！」

「………」

　駆け寄るも時すでに遅し、サンファンは既に消し炭へと姿を変えており言葉を発する事は無かった。

「くっ……」

　力なく膝から崩れ落ちるローガン、虚ろな目で彼からは既に戦意が消失していた。

「ハハハ……いいですねぇその顔！！　女勇者もそんな絶望を湛えた顔をしてましたねぇ！！」

　拍手をしながら声を上げあざ笑うゾンダイク。

「……誰がどんな顔してたって？」

「………」

　背後から語り掛けられゾンダイクの笑い声と拍手がぴたりと止む。
　
「……どうやってあの石化を……？」

　身体を半分捻り後方に意識を向けるとそこにはライアンが飛行状態で背後に佇んでいた、ゾンダイクの先ほどまでのふざけた態度は影を潜める。

「分かってるんだよね？　今のあたしが、あたし達がどんな状態にあるかを……」

「そうか、覚醒したのか……小癪な小娘が」

「あららどうしたの？　丁寧な口調じゃなくなって地が出ている様だけどさっきまでの余裕の態度はどこへ行ったのかしら？」

「………」

　ライアンの挑発にすら軽口を叩いて言い返して来ない所を見るにドグラゴンの言っていた事が信ぴょう性を帯びてくる。
　やはり四元徳の装備の覚醒はゾンダイクにとってただ事では無いのだ。

「調子に乗るなよ！？　覚醒したからと言って簡単にこの私を倒せるとでも思ったか！！　見せてやろう大魔王と呼ばれし者の本気の戦いを！！」

　そう言い放った直後、ゾンダイクの姿が消え少し離れた空中に自らの身体を転移させた。
　ライアンと距離を取った形だ。

「先ほどの戦いとは違うぞ！！　あれでも力を押さえていたからなーーー！！」

　ゾンダイクが両手を広げると彼の周囲の空間は剣、槍などの先端が尖った武器で埋め尽くされた。
　それは一見しただけでは数え切るのは困難な程の夥しい数であった。
　気配を察し横目に視線を向けるライアン、武器は彼女の背後はおろか足元以外の全周囲に展開されていた。
　無論全ての切っ先は例外なくライアンに向けられている。

「先ほどやられた方がどれだけ良かったかと後悔しながら死んでゆけーーー！！」

　広げていた両手を前方で交差させると空中の武器は一斉にライアンに向かって物凄い速さで飛んでいく。
　だがライアンに避けたり躱したりする仕草は全く見受けられない。
　武器群は彼女のすぐそこまで迫っている。

「ハハッ！！　何だ口だけか！？　他愛もない！！」

　勝利を確信するゾンダイクは実に小物臭くせせら笑う、今までの紳士然とした態度と言動は虚飾でこちらの方が本性なのだろう。

『……究極防御アルティメットディフェンス……』

　ライアンが呟くように言葉を発すると同時に宝石のブリリアントカットのような煌めく防御壁が彼女を包むように展開された。
　究極防御アルティメットディフェンスの防御壁に押し返され無数の刃は全てその場で蒸発するかのように消滅してしまった。

「なっ……馬鹿な……」

　その光景に絶句するゾンダイク。

「こうなる事は分かっていたんでしょう？　いたぶるのは趣味じゃないの、もう終わらせましょう？」

「ふっ……ふざけるなーーー！！　この俺が……大魔王である俺様が手も足も出ないで終わってたまるかーーー！！」

　形振り構わずゾンダイクは振りかぶった掌にありったけの暗黒の魔力を結集させ巨大な魔法球を形成、ライアンに特攻をかけてきた。
　
「………」

　ライアンは無言で一息吐くと右手を突き出した、ゾンダイクの魔力を湛えた右手を迎え撃つ形で両者は衝突する。

「何っ！？　俺の魔力が……」

　あれほど巨大だったゾンダイクの暗黒の魔法球は蠟燭の炎が吹き消された様に掻き消えてしまった、しかもそれだけでは止まらず彼の腕はライアンの手の平に中った部分から分解される様に消滅していくでは無いか。

「グアアアアアアアッ！！　腕がーーー！！」

　黒い消し炭と化してボロボロと崩れていくゾンダイクの腕は彼が咄嗟に身体を引いた事によって肩の辺りまでで消滅を免れた。
　もしあのまま勢いに任せて突進していたら腕はおろか全身が消滅していたに違いない。

「勇気の剣カリッジソードリミッター解放」

　ライアンの手に握られている勇気の剣カリッジソードの刀身に直線状に無数のラインが入りその部分から金属音を立て展開、徐々にその幅と長さを増していく。
　そして剣全体が虹色の光りを放ったのだ。

「はあああああああああっ……！！　ゾンダイクーーーッ！！」

　柄を両手で持ち刀身を寝かせた状態でライアンがゾンダイクに向かっていく。
　腕の苦痛の為怯んでいたゾンダイクは虚を突かれた形でそのまま胸の中心に勇気の剣カリッジソードを突き刺されてしまった。
　あっさりと、実にあっさりと決着が着いた瞬間であった。
　先ほどの腕同様ゾンダイクの身体は剣の刺さった部分から徐々に炭化していきそれは伝染するかのように全身に色がっていく。

「……ああ、やはりこうなったか……俺はただ、自分でいられる時間が欲しかっただけなのに……」

「………」

　ゾンダイクの言葉に眉を顰めたライアンであったがそれも一瞬であった、どんなに同情的な部分があろうと彼のしてきた事は到底許せるものでは無いからだ。

「……大魔王ゾンダイクとしての俺はここ迄の様だ……だがこのまま終わると思うな……俺が自らの顔と引き換えにしたこの力がお前たちを、この世界丸ごと破壊しつくす事だろう……」

　トレードマークであった白いシルクハットがぽとりと落下していく。

『へっ、負け惜しみを……』

　意味深な言葉を残すゾンダイクに悪態をつく知恵ウィズダム。
　ライアンは静かに着地し宙を見上げる。
　ゾンダイクだった《モノ》は既に身体は消え失せ頭部の暗黒の渦だけになっていた、しかしその渦はいくら経っても消滅する事が無いのだ。

「どういう事？　あの暗黒球、ゾンダイクを倒したら消滅するものでは無いの？」

『……何かおかしいぞ……ライアンあの暗黒球に一太刀浴びせてみてくれないか』

「ええ、ウィズダムがそう言うのなら……」

　ライアンは再び勇気の剣カリッジソードを構え腰を落とした。
　跳躍して宙に残った暗黒球を一刀両断するつもりなのだ。
　しかしその時異変が起こった。

『見て下さい！！　暗黒球が！！』

　節制テンパランスがそう言った刹那、暗黒球が一気に膨張、元の大きさの数十倍の大きさまで膨れ上がった。
　拡がった暗黒球にぶつかった岩肌は砂細工でも崩すように簡単に削られていく。

「何なの一体！？」

　安全な位置まで飛び退くライアン、暗黒球は急激に膨張こそしたがそれ以上の大きさにはならなかった。
　だが当然このまま無事に済む筈が無かった。

『……なあ、何だか揺れてねぇだか？』

「揺れてる？……あっ」

　勇気カリッジの言う通り洞窟全体が揺れている、それも時間と共にどんどん激しくなっていくでは無いか。

『……何か……来る……』

　暗黒球の周囲が大きく揺らぎ始めた。
　やがて内側から押し出される様に何かが突き出してくる。

「あれは……一体？」

　限界を迎えた暗黒の膜が弾け飛ぶ、そこから現れたのは大きな黒い拳、続いて姿を現した頭は両側に突き出した角の様なシルエット、とうとう全身が現れる、それは筋骨隆々の漆黒の巨人であった。