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第25話 復活の女勇者
しおりを挟むガアアアアアアアアッ……!!
俺たちパーティーが洞窟の最奥部に到達するとそこには見上げる程の巨体のドラゴンが姿を現した。
耳を劈く大きな咆哮が洞窟内に反響し空気を震わせる。
「みんな!! 手筈通りに!! 行くわよ!!」
「おう!! 任せろ!!」
「はい!!」
「フッ、誰に物を言ってるんです!?」
ルシアンの号令にギロード、サンファン、ローガン、各々が反応し事前に立てた作戦の通りに散開する。
「氷瀑結界!!」
まずは魔術師のローガンが杖を高らかにかざし呪文を唱える。
するとドラゴンの足元に青白い魔方陣が現れ冷気が立ち昇り地面に亀裂が走る。
ドラゴンは自らの自重が災いし地面を踏み抜き割れた岩に沈んでいく。
その上氷魔法の効果で身体が凍結しドラゴンはその場から身動き出来なくなってしまった。
「チャンス!!」
ギロードが大剣をドラゴン目掛け構え突進する。
「はぁっ!!」
グオオオオオオンンン……!!
ギロードの振り下ろした剣がドラゴンの胸元に大きくも長い傷を付けた。
悲鳴を上がると共に傷口から吹き出るドラゴンの青い体液。
足元が崩れた事により虚を突かれたドラゴンにだからこそ入れられた一太刀であった。
「どうだ!!」
ギロードが息巻いている所にドラゴンが首をもたげ首全体を後方に仰け反らせたあと彼の方に向かって大口を開く。
口内には赤い発光を伴う灼熱の滾りが現れている、ファイアブレスを放とうというのだ。
「させません!! 聖なる盾!!」
ギロードとドラゴンの間にすかさず入り込んだのはサンファン、ドラゴンの方に向かって両手を突き出し神聖魔法による白き輝きを放つ円形の魔力防御壁を展開させた。
ドラゴンの口から放たれた高熱の炎が魔力障壁に中る。
しかしその威力をもってしてもサンファンの魔力の盾を焼き尽くす事は叶わなかった。
「みんな良くやってくれたわ!! 後は任せて!! はーーーっ!!」
ドラゴンの注意がサンファン、ギロードに向いている隙にルシアンはその自慢の足を使って反対方向に回り込んでいた。
そしてジャンプ一番、ドラゴンの首の側面に切り掛かった。
ドラゴンもそれに気付くが時すでに遅し、ルシアンの剣はドラゴンの首を輪切りにする。
ギャオオオオオオン……!!
断末魔を上げるドラゴン、頭部はそのまま地面に落ち二度三度弾みながら転がっていった。
ルシアンは軽やかに着地すると剣を素早く振りドラゴンの血液を落とすと鞘に納めた。
「やった!! みんな凄いや!!」
岩陰に一人離れていた俺は喜び勇んでみんなの所に駆け寄る。
「どうだいブライアン、俺たちに掛かれば如何に強大なドラゴンだろうと敵じゃあないぜ!!」
「うんうん!!」
ギロードが勝ち誇った自慢げな表情を見せる。
「連携がものを言いましたね、当然個々の能力が高水準だからこそ出来た事ですが」
「うんうん!!」
サンファンは額に滲んだ汗を手で拭いながらも大仕事をやり切った爽やかな顔をしている。
「フッ、この程度俺たちなら出来て当然だ」
「うんうん!!」
ローガンは特に嬉しさを顔には出さないが内心は喜んでいる事だろう。
「さて、一休みしたら解体作業に入りましょうか、ドラゴンの素材は引く手数多だからね」
「あっ、それなら俺が今から始めるよ、みんなは休んでて!!」
ルシアンの提案に俺は意見をし一人でやると言った。
「でもブライアン一人じゃ大変じゃない? それにみんなでやれば早く終わるんだし……」
地面に這いつくばるドラゴンの亡骸に目をやる一同。
確かにこの大きさのドラゴンを解体するのは一人では骨が折れそうだ。
「いいじゃないか、本人がやるって言ってるんだから、その為にこんな何の能力も無い奴をパーティーに参加させている意味がないからな」
ローガンが鋭い流し目で俺を睨みつけている。
「言い過ぎですよローガン」
サンファンがローガンを窘める。
「俺が何か間違った事を言ったか? お前たちがどうして実もて言うから俺はブライアンのパーティー加入を受け入れてやってるんだぜ」
「コイツ……!!」
ギロードがローガンの胸倉を掴む。
「もう、また始まった……」
ルシアンは額を押さえて頭を振る。
そう、このやり取りは初めてではない、ローガンは何かにつけ俺に対しての嫌味を言い、ギロードと揉める事は日常茶飯事であった。
「いいよいいよ、これくらいやれなきゃ一緒にクエストに付いてきている意味がないからね……」
俺はショルダーバッグからモンスター解体用の大型のナイフを取り出すと早速ドラゴンの亡骸にナイフを突き立てた。
そして一人黙々とドラゴンの皮や鱗を剥いでいく。
「ブライアン……」
俺に対して憐れんだ目を向けるルシアン、でもやめてくれ俺を憐れむのは。
何度目だといってもこのギスギスしたやり取りは俺は嫌いだった。
庇ってくれるギロードたちにはいつも悪いとは思っている。
ポーター兼雑用係の俺は戦闘には参加できない、俺には剣の才能も魔法の素養も無いのだから。
それならその分を戦闘以外の分野で役に立たなければ折角パーティーに俺を置いてくれているみんなに申し訳が立たない。
(……ライアン……ライアン……)
「あれ? 何か聞こえたような……?」
「いや、何も聞こえないぞ? 聞こえたかサンファン?」
「いいえ何も……」
「ルシアンは?」
「私にも聞こえなかったけど……」
水を飲んですぐに解体を手伝ってくれているギロード、サンファン、ルシアンには何も聞こえていない様だ。
俺の気のせいだろうか?
(……ライアン……おいライアン……)
「はっ、いややっぱり聞こえる……これは……俺の、いやあたしの事を呼んでいる……」
何故かは分からないが俺には得も言われぬ確信があった、俺はブライアンで呼んでいる名前はライアンなのにも関わらずだ。
しかも自分の事をあたしと言ってしまうも何故か違和感が全くしない。
俺はフラフラと夢遊病の様に立ち上がりこの場から声がしたであろう方向に自然と足が向いて歩き始めていた。
「おいお前!! こんな所で職務放棄とはな!! やっぱり使えない奴だな!!」
背後からローガンの罵る声が聞こえるがそんな事はお構いなしだ、これはきっととても大事な事なんだ、そう俺の心が言っている。
数十歩歩みを進めたその時、急に周りの景色がぐにゃりと歪む。
「あれ? どこだここは? 俺は夢でも見ているのか?」
俺の目に飛び込んできたのは先ほどとは違う洞窟だ、岩肌の色や広さですぐに気が付く。
どこなんだここは? この地形、どこかで見た気がする……初めてきた気もするがとても嫌な予感がする。
俺は少し小走りで洞窟の奥へと駆けて行った。
「ええっ!? みんな!! どうして……!!」
辿り着いた先にはルシアン、ギロード、サンファン、ローガンの四人が血みどろで地面に倒れていた。
すぐさまみんなの所へ駆け寄る。
「ブライアン……逃げて……」
「ルシアン!?」
他の三人は昏倒している様だがルシアンにはまだ意識があった。
『ほう、まだ生き残りがおったか』
「………!!」
腹に響く重低音、凡そ人の発する音域ではないその発声をしている方向に視線を移す。
「ドラゴン!? しかも五つ首の……!!」
そこには見上げる程の巨体の五つも頭のあるドラゴンだ、しかも人の言葉を話すとは。
先ほどみんなが倒した個体とは明らかに違う、見た目もそうだが威圧感がまるで違う。
何だって俺はこんな所に来てしまったんだ? 訳が分からない。
しかもこの場所に来た時に感じた違和感と同様この五つ首ドラゴンとは初めて対峙したはずなのに以前から知っているような錯覚が起きている。
『なぁに? この人間すっごく弱そうなんですけど』
五つ首の一本、黄色の竜頭が女性的な声色で言い放つ。
『どうする赤の、こいつも始末するのかい?』
物騒な事を青い竜頭が隣の赤い竜頭に話しかけた。
『決まっているじゃねぇか!! 人間はみんなぶっ殺す!!』
ひと際野太い声の濃緑色の竜頭が鼻息を荒くする。
『……そうだな、大魔王様にはそう仰せつかっている、例外は無い』
真ん中の赤い竜頭が俺に視線を向けそう言った。
しかし妙な感覚だ、この赤い竜頭の眼差し、どこか俺を憐れんでいるというか諦めているというか何と言語化すればよいのか、爬虫類系のモンスターの表情なんてどれも同じだと思うのだが。
(……思い出せライアン……オレと……オレたちの記憶を……)
まただ、またさっきの声だ。
この声が聞こえた途端俺の頭に割れるような激痛が走った。
「死ぬがよい小さき者よ……」
赤い竜頭の喉元が内側から赤く発光している、きっとファイアブレスを放とうというのだろう。
それも先ほどのドラゴンのものとは比べ物にらない程の威力の。
今ここでそんなものを放たれてしまったら俺は骨すら残らず燃え尽きてしまう事だろう。
(馬鹿野郎!! オレの声が聞こえないのか!? 死んじまうぞ!!)
「うるさいなさっきから!! ウィズダム!!」
あれ? ウィズダム? この声の主の名前を俺は知っている……?
そうだ思い出した、俺は女勇者ライアンとして大魔王の軍勢と戦っていたんだ。
女勇者のビキニアーマー、生きている装備を装備させられ身体まで女にされてしまったけれど四天王までは倒せたんだっけ。
そして大魔王ゾンダイクに挑むも奴の卑劣な手に成す術も無く破れあろう事か身体を石にされて封印されてしまったんだ。
『やっと記憶を取り戻したかライアン、いや今はブライアンなのか、まあいい早くオレを呼べ!!』
「何だか分からないけど来い!! リビングアーマーウィズダム!!」
俺がそう叫ぶと目線の先、遥か上空に何か煌めく光が見えた。
その光はどんどん大きくなっている、こちらへ近づいているのだ。
そして光は俺の元へ降り注ぐと俺の身体を包み更に激しく輝いた。
見る見る形を変えていく光。
額、胸、腰、肩、前腕、膝から下に分散した光は徐々に形を成しやがて艶やかな美しい防具へと姿を変えていく。
それに伴い俺の、私の身体も女性らしい細く丸みを帯びたものに変化したのだ。
ガアアアアアアアアッ!!
女勇者ライアンの姿になった俺に感慨深さを抱かせる前に五つ首ドラゴン、名前はドグラゴンと言ったか、こちらに先ほどまで為に溜めた灼熱の炎を吐き掛けてきた。
寸での所で躱すあたし、ブライアンのままでは直撃していただろう横えられたのはビキニアーマーの加護、身体能力強化の賜物だ。
『ほう、これが噂に聞く女勇者の鎧……装着者の性別すら変化させるのか、これは興味深い』
『へぇ、可愛いじゃん』
ドグラゴン赤の竜頭と青の竜頭があたしの姿をジロジロと見てくる。
「止めろ!! 恥ずかしいだろう!!」
思わず赤面し身体を隠すように腕を動かしてしまう。
『恥ずかしがってる場合か!!』
「仕方が無いだろう!! 女の身体に慣れていた意識がまた初めからになっちゃったんだから!!」
『女勇者の鎧が何だってんだ!! そんな丸腰で俺たちを倒せるのかよ!!』
そうだった、濃緑の竜頭の言う通り今のあたしは丸腰だ、それならば……」
「来い!! リビングソードカリッジ!!」
ウィズダムを呼んだ時同様勇気の剣カリッジも呼んでみた、本当に来るかどうかなんて確信も確証はない。
『応!! 待ってたがや!!』
どこからともなく激しく回転しながら飛んできた剣があたしの手に収まった。
「カリッジ!! 来てくれたんだね!!」
『あったり前でねぇか!! よくぞオイラを呼んでくれたなや!!』
「これで鬼に金棒、女勇者に伝説の剣よ!!」
勇気の剣を構え切っ先をドグラゴンに向け睨みを効かせる。
『でも剣がわたしらに届かなければ意味がないよね? みんな行くよ!!』
『おう!!』
黄色の竜頭が音頭を取り赤、青、濃緑、黄色の四本の竜頭が一斉に各々の得意の固有ブレスをこちらに向けて放った。
溜め無しで放たれたので先ほどのファイアブレス単体より威力が弱いとはいえ広範囲に放たれたため地上には避ける場所が無い。
「リビングクロステンパランス!!」
『お呼びとあらば!!』
背中に突如純白のマントが纏わさった。
同時にあたしは上空へと跳び上がった、足元の今いた場所はドグラゴンの複数のブレスで酷い有様になっていた。
「ナイスタイミング!! テンパランス!!」
『お褒めにあずかり光栄の至り……』
芝居じみた口調でテンパランスが答えた。
「このまま一気に行くよ!!」
『おうともよ!!』
『任せるだ!!』
『はい!!』
宙に舞ったそのままでドグラゴンに向かって高速で飛行、そのまま赤の竜頭目掛けて切り掛かる。
このタイミングならブレスを吐いた直後だ、避けられない筈。
『私が居る事をお忘れなく……』
桃色の竜頭が赤の竜頭前に割って入った、大きく口を開いて待ち構えていた。
いくら桃色の竜頭に戦闘用の魔法が無いとはいえドラゴンの顎の力で噛み付かれてしまったら一溜りも無い。
一気に勝負を掛けようと息巻いたあまりにしくじった、剣を振りかぶるのを止め防御姿勢を取った、これならいくらか持ち堪えられるはず。
『ライアン!! 私を使って!!』
この声は……ルシアン!?
高速で飛んできた円形の盾、正義の盾があたしの前に姿を現した。
『究極防御!!』
正義の盾を中心に水晶の様な透き通った殻が出現、あたしの身体をすっぽりと包み込む。
その外見は宝石のカット技術の様に多面的な表面をしていた。
ガキイイイン……!!
『あら……』
巨大な宝石を纏ったあたしに噛み付いた桃色の竜頭であったが究極防御のあまりの硬さに牙が弾かれてしまった。
そのまま押し戻されてあたしは地面に着地、宝石状の防御殻も消失する。
「ルシアン!! 無事だったの!? 良かった!!」
『ゴメンねライアン!! みんなも!! これから私も頑張るから!! 伝説の装備として頑張るから!!』
そう決意したルシアンことジャスティス、正義の盾が左前腕に接続された途端、他の生きている装備達にも変化が現れた。
虹色の魔法力が各々の装備から噴出していたのだ。
「凄い!! 力が漲る!!」
『……これこそが四元徳の装備が四つ全て揃った時に起こる完全形態……』
「これが……」
あたしは自分の身体が自分の物では無い感覚陥り戸惑いながら自身の身体を見回した。
『やっと至高の高み迄到達したか、世話の掛かる……』
何か様子がおかしい、赤の竜頭、ドグラゴンはそう言った切り微動だにしなくなったのだ。
もちろん攻撃もしてこない。
「どうしたっていうの? ウィズダム分かる?」
『オレにも分からない、そもそもドグラゴンはオレ達が倒したはずでここに居るのがおかしいんだ』
そうこう言っている内にドグラゴンの身体が端々から砂の様に崩れている事に気付く。
「あっ、あれを見て!!」
『ドグラゴンの身体が消滅している……? ますます何が何やら……』
『よくぞ完全に力を引き出しましたね』
あたしが首を捻っていると桃色の竜頭が話しかけてきた。
「どういう事なの?」
『全ての魔物の王、あの大魔王であるゾンダイクが人質を取ってまであなたに勝利しました、何故かお分かりですか?』
「えっ? それはあいつが単に卑怯だから……?」
『……そうか!! 奴はオレ達が完全な状態ではないのを知って戦いの中で万が一にもこの力が発動するのを恐れたんだ!! だからあんな小物臭い姑息な手を使ってでも勝負を急いだ!!』
流石ウィズダムだ、伊達に知恵の二つ名を名乗っていない。
『その通りです、ゾンダイクが大魔王である以上完全に力を解放したその装備に抗う術はありません、その装備が四つ揃った状態を別名『魔王殺し』と言います』
「魔王殺し……」
ドクン、と鼓動が高鳴る。
『さあお行きなさい、今のあなた達なら石化の封印も容易に解けるでしょう……』
『もしかしてあんたは、あんた達はわざわざ俺たちを覚醒させるためにこんな事を……?』
『勘違いするなよ、誰がお前たちの味方なんぞするか、それ以上にあの顔無し野郎にムカついてんだ』
見事なツンデレを披露する濃緑の竜頭。
『僕らに勝った君たちが簡単にやられたんじゃ僕らの株が下がっちゃうじゃない』
青の竜頭が軽口を叩く。
『まあそういう事、頑張ってね』
黄色の竜頭がウインクしてみせた。
『武運を祈る』
赤い竜頭が首をすっともたげ宙を仰ぎを目を閉じる。
ドグラゴンの身体は既に首の付け根まで達していた。
五本の首だけが宙に浮いている状態だ。
「ありがとーーーー!!」
やがて全ての首が霧散し消滅する。
あたしの感謝の言葉は彼らに届いたであろうか。
「みんな!! 元の場所に戻るよ!!」
『もちろん、今のオレ達を止められるものなど居ない!!』
『よっしや!! 気合を入れるべ!!』
『大魔王に目に物見せてやりましょう!!』
『次こそはしくじらないは!!』
あたしと四元徳の装備達はそれぞれ士気を向上させるの。
「はぁーーーーーーっ!!」
石化の封印を破るべく意識を集中させる、すると物凄い量の虹色の魔力が身体から噴出しそのまま飛び上がる、そこからの記憶は少し途切れている。
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