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第3話 ビキニアーマーの秘密
しおりを挟む『おいライアン』
「………」
『おいライアン聞こえていないのか?』
「あっ、ああ悪い、まだその名前に慣れてなくってな」
洞窟を終点の光りを目指しながら歩くライアンに|知恵《ウィズダム|》が語り掛ける。
『オレは目覚めたばかりで今の時代の事をよく知らない、ざっとでいい今の外の世界がどうなっているか説明しろ』
「偉そうだよなホントお前は……まあいいや、こうなってしまった以上お前にはしっかり働いてもらわないといけないからな、説明してやる」
ライアンは現在世界は魔王ゾンダイク率いる魔王軍に侵攻され滅びるのもそう遅くは無い事……部下の四天王が強力過ぎて誰も太刀打ちできない事などを|知恵《ウィズダム|》に伝えた。
「俺がお前の居る洞窟に落ちて来たのも四天王の一人、五頭巨竜ドグラゴンにやられたからなんだ、他に四人の仲間がいたけどあれからどうなったのか分からない……出来れば探し出したいんだけれど……」
『いいや、そんな暇はないぞ』
「えっ? そんな薄情な……お前が言う凄い身体能力を俺が手に入れたっていうならその力で仲間を探したっていいだろう?」
『いいかライアン、女勇者は唯一無二の究極の存在だ、一人で大抵の強敵を討伐できる、仲間なんて必要ないんだよ』
「そっ、そうかもしれないけど俺はルシアンが心配で……」
『ルシアン? 誰だそれは?』
「さっき言った俺のパーティーの女戦士だよ、俺の幼馴染なんだ」
『ほうほう、成程ねぇ……』
「なっ、何だよ……」
|知恵《ウィズダム|》のねちっこい物言いにたじろぐライアン。
『要するにお前はその幼馴染みちゃんを助け出してその娘に対していい恰好をしたいんだな? 要するにその娘にホの字って訳だ』
「なっ、そんな言い方無いだろう、悪いかよ昔から好きなんだよルシアンの事……」
ライアンは俯いて胸元で落ちつきなく手を動かしている。
(『おやおや、しおらしくなっちまって、こりゃあ本気だな』)
『よし分かった!! そのルシアンちゃんの捜索だけは許可しようじゃないか』
「本当か!?」
『但し条件がある』
「条……件……?」
ぱぁっと明るい表情になったライアンに対し、|知恵《ウィズダム|》はこう切り出す。
『オレの立てた作戦に従う事、口答えは許さない』
「あっ……」
|知恵《ウィズダム|》の事だ、塗り難題を吹っかけてくるのは間違いない、しかしルシアンを探し出すには|知恵《ウィズダム|》の協力が不可欠な訳で。
暫く考えたうえでライアンは結論を出した。
「うん、分かった、従うよ……」
『言ったな? 男に二言は無いな?』
「いや、今の俺は女だし」
『ほほう、お前は今の自分は女だと自覚しているんだな?』
「あっ、お前!! 俺にそう言わせようと誘導しやがったな!?」
『そうかそうか、うんうん、女勇者の自覚を持ってくれてお父さんは嬉しいぞ』
「誰が誰のお父さんだって!?」
又しても不毛な口喧嘩が始まってしまった。
|知恵《ウィズダム|》は間違いなくライアンを弄って楽しんでいる。
噛み付いてくるライアンをそこそこでいなし、|知恵《ウィズダム|》は本題に入る事にした。
『いいかライアン、そもそもが多勢に無勢のこの戦いだ、何も馬鹿正直に正面から挑む必要は無い』
「えっ? それって……」
『強力な四天王が居るんだよな? じゃあ戦わなければいい』
「えっ?」
ライアンは心底不思議そうな顔をしている。
自分の作戦に驚いていると思い込み、|知恵《ウィズダム|》はその真意を知らず自分の戦略を語り続ける。
『四天王には伝説の女勇者が現れたと町や村至る所で情報を流す、もちろん嘘の情報を織り交ぜてな、そうする事によって四天王を俺たちの進行ルートから遠ざけ魔王の居城に易々と侵入するのだ』
どうだ、と言わんばかりに鼻を鳴らし意気揚々とふんぞり返るイメージの|知恵《ウィズダム|》。
しかしその優越感は次の瞬間、いとも簡単に脆くも崩れ去る。
「いやいや、それは無理だから」
ライアンが高速で縦にした掌を激しく左右に振ったのだ。
『何だと!? オレの作戦は完璧だ、戦力と体力は温存、敵の将だけを討ち取るという実に効率的で合理的な戦法に何の不満があるというのだ!? いやそれ以前にお前はオレのいう事を聞くとさっき誓ったばかりでは無いか!!』
「いや、それなりに無茶な作戦だったら従うさ、そういう約束をしちゃったからね、でも最初から無理なのが分かっている作戦にはさすがに意見させてもらうよ」
『……どういうことだ?』
憤慨する|知恵《ウィズダム|》であったがライアンの口ぶりが気になって一度落ち着きを取り戻す。
「魔王ゾンダイクの居城にはシルバの塔という巨塔がそびえ立っているんだけどゾンダイクは常にそのシルバの塔に引き籠っているらしい」
『フム……』
「そしてその塔にには強力な魔力結界が施してあるそうでどんな攻撃や魔法でも塔の扉を開けることは出来ないらしい」
『なっ、何だと!?』
素っ頓狂な声を上げる|知恵《ウィズダム|》。
「まあ聞けって、全く手段が無い訳では無いらしい、塔の扉には四つの窪みがあってそこに四天王が各々一つづつ持っているカオスジュエルと呼ばれる宝石を嵌め込めばその結界は解除され塔の扉は開くって話さ」
『魔王め面倒な事をしてくれたな、要は全ての四天王を倒さなければならないという事だな?』
「そういう事、焦らず行こうよ」
『ムムム……オレの主義に反するが致し方あるまい……』
渋々納得せざるを得ない|知恵《ウィズダム|》であったが、ふとある事に気付く。
『ちょっと待て、なぁ何でお前がそんな秘密を知っている? 普通そういう事はある程度魔王軍の討伐が進んだ段階で判明するものじゃないのか? 魔王軍に全く歯が立っていない状態で何故そんな事を知っている?』
「ああ、それはね、魔王軍自体がこの事を喧伝している身体よ」
『はっ!?』
訳が分からないといった風の|知恵《ウィズダム|》。
「何でも人間たちが余りに弱っちいので攻略情報を提供してやってるんだそうだよ、余裕のある奴らの考えることは分からないよね」
そう言ってけらけらと笑うライアン。
『笑い事じゃないだろう、完全に舐められてるぞお前ら』
そうこうしている内に洞窟の出口に到達する。
「はぁ……やっぱり外の空気は美味しいねぇ」
ライアンは大きく深呼吸した。
眼下には鬱蒼とした緑の森林が広がっている。
どうやらこの出口は崖の中腹辺りに開いているらしい。
「遠くにロローゼンの王城が見えるね、この方角だとすぐ近くにヒデリーって小さい町があるはずだよ」
『そうか、ではまずそこで色々と準備をしようでは無いか』
「分かったよ、ってここからどうやって降りればいいんだい? 結構高いし近くに足場が無いんだけど……」
『何を言っている、そんなの飛び降りれば良いではないか』
「かっ、簡単に言わないでよ!! この高さ、落ちたら死んじゃうよ!?」
ライアンは恐る恐る洞窟の外、足元の崖の岩肌の絶壁を見下ろす。
一応爪先が僅かに引っ掛かりそうな突起がいくつか見えるがどれも距離が開いている、おまけに奥底は霞が掛かっていて見通すことが出来ない。
『大丈夫だと言っておろう、お前の身体のレクチャーついでだ、四の五の言わずこの崖を降りて見よ』
「ううっ……仕方ないなぁ……」
まずは出口の端に腰を下ろし、足場を探り探り足を延ばしていく。
『何をやっている!! さっさと降りんか!! 風呂の温度を確かめてるんじゃないんだぞ!!』
「ひっ……!?」
今の|知恵《ウィズダム|》の怒声に驚きライアンは体勢を崩す。
「あっ……」
端に乗っていた尻がそこから外れライアンは宙に居た。
崖に背を向けている恰好なので岩壁を手で掴むことが出来ない。
「うわあああああっ!!」
ライアンはそのまま重力に任せ背中から落ちて行った。
地面に到着するまで数秒、ライアンは尻から思いきり地面に衝突した。
「いったーーーーーい!!」
尻を腕で押さえ転げまわる。
『ほらな? 大丈夫であろう?』
「馬鹿ぁ!! 死んだらどうするの!?」
『何を言う、今お前はピンピンしているではないか』
「絶対にお尻が割れている……」
『ハハッ、面白い事を言う、そんな余裕があれば大丈夫だろう』
怨めしそうな顔をするライアンだが目の前に相手がいないので睨みつける事も出来ない。
『これで分かったか? お前は落下して尻を打とうが剣で切りつけられようがその美しき柔肌に傷一つ付かぬわ!!』
「でもすごーーーく痛かった……」
『うむ、痛みは相応に感じる、でも死ぬ程では無かったろう?』
「それはそうだけど……」
ライアンは文句ありげだったが|知恵《ウィズダム|》は無視して説明を続ける。
『オレの鎧の装着者はその加護の恩恵を受け一切の物理攻撃を無効にできる、ただ気を付けろよ? 魔力や闘気といった特別な力が付与された攻撃にはしっかりダメージを受けるからな』
「そうなんだ」
『当面は雑魚相手の戦闘が多いだろうから問題は無いと思うが、今言った事は忘れるなよ?』
「うん、分かったよ」
ライアンが身体に付いた埃を手で叩き落とす、すると元通りビキニアーマーは美しい輝きを取り戻す。
『そうそう、もう一つ言っておく、この状態にあるお前は腹も減らなければ汗も掻かない、排泄も必要としない、おまけに入浴も必要ない』
「何だいそれ」
『言ってしまえばお前の身体はビキニアーマーを着けている間、外界から身体が遮断されている状態だ、もっと言えば歳も取らない』
「ちょっと待った、それって早く魔王を倒さないと俺は周りの人と歳がずれていくんじゃ?」
『おっ、賢いじゃないか、その通りだ』
「なっ……」
ライアンは脳内でルシアンと自分が並んでいるビジョンを思い浮かべる。
そして早回しの様にルシアンだけ年を取り、今より大人の美しい女性、中年で少し体型がふくよかに、皺が顔に増え始め遂には老婆になっていく。
無論隣のライアンは美少女のままだ。
「冗談じゃない!! そんな事に絶対なってたまるか!!」
勢いよく立ち上がりライアンはしっかりした足取りでのしのしと歩き始める。
『ほほう、いい気構えだ、期待しているぜライアン』
「うるさい!!」
|知恵《ウィズダム|》の茶化しにも取り合わずライアンは一路ヒデリーの町を目指して進むのであった。
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