プリンセス王子と虹色騎士団

美作美琴

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第99話 巨大怪獣を討て!!

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 「魔導士隊準備!!」

 ファランクス防御陣形の後方、ベガの号令でローブを着た一団が横一列に整列、腕を前へ突き出し呪文の詠唱を開始した。
 徐々に魔法力が彼らの掌へと収束していく。

「今よ!! 放て!!」

 味方に中らぬよう放物線を描き火球の魔法が発射された。
 火球が中った小ベヒモスらはある者は砕け散り、あるものは燃え上がり朽ちていく。
 しかし小ベヒモスたちの数は一向に減る気配が無い、寧ろ増えてさえいる。
 最奥に鎮座する親である山のように巨大なベヒモス本体が常に彼らを産み落としているのだ。
 覚悟はしていたはずの兵士たちであったが、その絶望的な状況に諦めムードが漂い始めた。

「サファイア、今どれだけ溜まっていますか?」

『現在55%です、あと約12分で充填が完了します』

「そうですか……」

 グラハムの表情はより一層険しくなった。
 エターニアの兵士の数は当初の三分の一まで減っていたのだ。
 残り時間に対して人員が圧倒的に釣り合っていない。
 防衛線も後退を続け、巨人サファイアのすぐ目前まで来てしまっていた。

「陣形変更!! 方円陣!!」

「はい!!」

 人数が減ったことで密集陣形ファランクスが意味を成さなくなってきた、もう限界だ。
 そして敵の数も増えて来ている。
 こうなればいっそ最終防衛線を張るしかない、全員で巨人サファイアを背にぐるりと取り囲み全方向に守りを固めた。
 しかしこれは文字通り最後の守り、エイハブやイワン、他の実力者はともかく一般兵が担当している部分は早くに突破される事だろう。

「万事休す……かしらね」

 特に取り乱すことも無く淡々とつぶやくベガ。
 遂に彼らは小ベヒモスに完全に包囲されてしまったのだ。

「諦めるなよ、お前らしくも無い……私は諦めないぞ、まだ完成してない薬品もあるし解読していない古文書も沢山あるんだ」

「ぷっ……あははははっ!!」
 
 ベガが急に腹を抱えて笑い始めた。

「何だよ急に、何がおかしいんだ?」

「いえ、そうじゃないのよアルタイル、今のは自分のあまりの情けなさに笑ったの……そうよね、ここで終わる訳にはいかないものね」

 ベガの表情に希望の明かりが灯る。
 身体の不調のせいで必要以上に弱気になっていたのかもしれない。

「その通り!! まだ諦めるのは早いぜ!!」

 戦場に聞き覚えのある男の声が響いたと同時に雨あられと風の魔法を纏った矢が降り注ぐ。
 次々と地面に縫い付けられる小ベヒモスたち、そして風の魔法によって身体を破壊され砕け散る。
 ベヒモスたちは土属性の為、風の魔法に対して相性が悪いのだ。

「フランク!!」

 ティーナの視線の先、高台に大勢の耳長族の仲間を引き連れたフランクの姿があった。

「悪い!! 仲間の到着が遅れちまってな!!」

「一体どこからそんなに増援を集めたの!?」

「な~~~に、姫様がたがマウイマウイに行っている間に伝書鳩を出したのよ
 世界中に散らばる耳長族の隠れ里にな……
 既に滅んじまった里もあったが無事な連中はこうして集まってくれたって訳よ」

 自慢気に鼻を鳴らすフランク。
 
「そうか、通りで出発前にお前を見かけなかった訳だ」

「だが大いに役に立ったろうイワン? もっと感謝してほしいものだな」

「分かった分かった、生き残ったら靴でも何でも舐めてやるよ」

「おっ、言ったな? 忘れるんじゃないぞ!?」

「もう!! 今は戦闘中よ!? 軽口の叩き合いは後でやって頂戴!!」

「「フン……!!」」

 ティーナに怒鳴られお互いそっぽを向く、イワンとフランクのしがらみはもう無いはずだが相変わらず二人の仲は良くなかった。
 それはさておきフランクの増援は予想以上の成果を上げた、巨人サファイアに迫っていた敵の配置に大きな空白が出来たのだ。
 ここまで距離が開けば小ベヒモスたちがこちらに到着するまでに数分は掛かるはず……このチャンスを生かさない手は無い。

「残った者は横陣の体勢を取ってください!! 一気に前線を押し上げるのです!!」

「はい!!」

 兵士たちは盾を構え横一列に並び足並みをそろえながら前進する。
 一度破綻した戦況を立て直すには持って来いの時間が稼げたのだ。

『只今の魔力充填率99パーセント……あと僅かです』

「そうかですか!! では満充電になったら私の合図を待たずあなたの任意で発射をお願いします!! 私も前線に出ます、後は頼みましたよサファイア!!」

『了解しました、お任せください』

 ここまで来たらもう指揮は必要ない、グラハムも戦闘に参加して少しでも戦力になるため抜刀し走り出した。

「傷ついた者や魔力の尽きた者は後方へ下がりなさい!! 発射に巻き込まれますよ!!」

 グラハムの指示を受け、息のあるものに肩を貸し合い、兵士たちは巨人サファイアより後方に下がっていく……既にアルタイル、ベガ、イワン、ティーナは退避を完了していた。
 もう発射まで時間がない。

「俺たちも退避だ!! 岩場に隠れろ!!」

 高台の岩場に居たフランクたち耳長族はその場からサファイアの射線上の外側に飛び降り、岩を背にし身体を隠す。

『魔力充填が完了しました、発射へのカウントダウン開始……10……9……』

「みんな伏せろ!!」

 ありったけの声を張り上げ皆に警告を出すグラハム。
 声を聞いた兵たちは一斉に地面に這いつくばった。

『……2……1……キャッスルブレイカー発射……』

 轟音を響かせ二門の大砲の先端から虹色の光の束が目にも止まらぬ速さで打ち出された。
 あまりの威力にサファイアの足が地面を抉りながらジリジリと後退していく。
 空気が震え、後方に避難していた者たちも立ってはいられず、一様に地面に倒れ込むしかなかった。
 やがて二条の光は前線に出ていたエイハブや兵士たちの頭上を通過しあっという間にベヒモスに命中するに至った。
 
『グモモモモッ……!! 何だこの力は!?』

 かつて無い程の火力がベヒモスを襲う……光の束は絶えず照射され、彼の自慢の甲羅を容赦なく焼き続けているのだ。
 山と見まごう程の身体が災いしベヒモスの鈍重な動きでは逃れる術がない。
 そもそも渓谷を塞ぐように鎮座しているので仮に動けたとしても彼に身体を移せる場所など無いのだが。

『グアアアアッ……己ええええええ……!!』

 遂に砲撃がベヒモスの固い甲羅を貫いた……それと同時に大爆発が起き、辺りにもうもうと黒煙が立ち上った。
 その直後、小ベヒモスたちは突然行動を止め、地面に腹這いになるとそのまま石化し動かなくなった。
 
「やった!! 自分たちの勝利だーーー!!」

 地面から身体を起こし立ち上がり、拳を突き上げ歓喜の声を上げるエイハブ。
 周りには彼同様勝鬨かちどきを上げる者、お互いの健闘を称え抱き合う者、地面にへたり込み泣き出す者……各々に喜びを表現している。

「何とか乗り切りましたねグラハム殿……」

「アルタイル様もご無事で何よりです……多くの犠牲が出ましたが、女勇者の力に頼らず事を成し遂げたことに意義があります、我々にも世界が守れるのです」

「御尤も、少しでもシャルロット様の負担を減らさなくてはなりませんからね」

 二人は心底ほっとした様子で微笑みあう。
 そんな時だった。

『ただの人間ごときがよくもこの私をここまで追い込んでくれたなぁ……許さんぞ……』

 黒煙が晴れていく……するとそこには甲羅を背中から取り去った状態のベヒモスが居た。
 この状態だと巨大な蜥蜴のようにも見える。
 攻撃を受けた背中の傷口からは夥しい量の青い体液が小川の様に流れ落ち、地面に水たまりを作っている。

「馬鹿な……あれで倒せなかっていうの……?」

「化け物め……」

 絶望に打ちひしがれ目を見開くティーナ。
 側にいるイワンも心中穏やかではなかった。

『こうなったからにはもう通せんぼは止めだ……貴様ら全員殺したのち、エターニアの国を滅ぼしてくれる……』

 キャッスルブレイカーに耐えたとはいえ相当なダメージを追っているはずのベヒモス……しかしこの瀕死の状態ですらただの人間であり、疲労困憊のエイハブ達にはこの目の前の怪獣を倒すための術がなかったのだ。

「させませんよ、その穢れた足でエターニアに入ろうなどとは私が許しません」

「まさか……この声は!?」

 凛としたよく響く女性の声にグラハムが振り向くと、そこには一人の女戦士が立っていた。

「エリザベート王妃様!!」

「皆さんよくやってくれました、ここから先は私が引き受けましょう……」

「しかしそれでは王妃様が……」

「良いのです、だって私にも資格はあるのですよ、御覧なさい」

「それは……」

 グラハムは目を見張った。
 エリザベートの右手には【未来の剣】が握られていたのだ。
 昏睡状態のシャルロットから少しの間拝借して来たのである。
 当然だがエリザベートも女勇者の末裔である、三種の神器を使う資格はあって当然である。

『あり得ない……お前のような前時代の者に神器が使えるわけがない……はったりだ……』

 そう言いつつもベヒモスの声からは怯えの兆候が見え隠れしている。

「そう思うなら試してみますか? さあ掛かってらっしゃいな」

『ふざけるな!!』

 エリザベートが左掌で来い来いと手招きする。
 その仕草を見て頭に血が上ったベヒモスは身体を奮い立たせ彼女に向け突進を開始したのだ。
 しかしエリザベートは少しも慌てず剣を顔の前で立てるように構える。

「秘剣、ロイヤルスラッシュ……」
 
 エリザベートがただ剣を前方に突き出した様に見えた……それもそんなに早くない。
 ベヒモスは突進したまま、すれ違ってもいないのにエリザベートの後方に居た。
 どちらもかわす動作は取っていない……まるで身体をすり抜けたかのようだ。

『あれぇ? いつの間によけたのだ?』

 ベヒモスが後方を確認するため後ろを振り返ろうとすると額に亀裂が入った。
 そしてそのまま傷が伝播するように身体を駆け抜け尻尾の先端まで到達する。

『まさか……まさか、そんなあああああああ……!!』

 身体の中心から真っ二つ、べヒモスの身体は両外側に別れ倒れ込んだ。

「フッ……」

 剣を振るい付着した体液を払うエリザベート。

「流石ですエリザベート様」

「ブランクは長いけど私もまだまだいけそうね……」

 不意にバランスを崩す、慌ててグラハムが彼女を抱きとめた。

「思った以上に力を持っていかれるわね……流石は神器といった所かしら……」

「そういうところはお若い時からお変わりありませんね、自重してください」

「むっ、私はまだ若いわよ!!」

「はははっ……」

 エリザベートの明るさに気の抜けるグラハム。
 何はともあれエターニアは四天王ベヒモスの討伐に成功したのであった。
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