プリンセス王子と虹色騎士団

美作美琴

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第96話 ベガの苦悩

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 作戦決行まであと三日。

 サファイアとY3は闘技場を貸し与えられそこで過ごしていた。
 少女然とした姿になれるのに何故人間と同じ部屋では無くこんな場所に居るのか、これには訳がある。

「やあサファイア、進捗はどうだい?」

『これはアルタイル様、おはようございます……既に妹とは同期がとれています、後は実際巨人の姿になって試してみなければ何とも言えませんが……』

「じゃあ試してみようか」

『よろしいのですか?』

「本番がぶっつけでは不具合があった場合困るだろう? 流石にその大砲とやらの試し打ちまではさせられないけどね」

 実際に巨人化して予行演習をさせる。
 彼女たちを闘技場で過ごさせていたのはアルタイルの目論見であった。

『分かりました、やってみましょう……Y3、準備を』

『はい、お姉さま』

 サファイアはY3を背中に負ぶった、そしていつもの変形を開始……見る見る彼女たちが巨大化していく。

「ほほう、これはこれは……」

 アルタイルが彼女たちを見上げ感嘆の溜息を吐く。

 青の巨人サファイアの背中とY3の黄色いボディの胸と腰が融合している。
 そして見る者を圧倒する程長くて太い大砲が左右の肩から一本ずつ生えていた。

「ただ背中に担ぐのかと思ったんだけど、君たちは一体化出来るんだね」

『いいえ、これは本来の仕様ではありません、私が考案しシステムを変更したのです』

「何だって? 君は自らの身体を作り替えたっていうのかい?」

『船に変形出来たのですからもしやと思い試行していました、結果上手くいきましたのでこれで良いでしょう』

(機械仕掛けの存在とは思えない発言だなぁ、彼女らは自分自身の思考と発想でただの物ではない何かへと進化しているんだ……こんな事が起こったのも全てシャルロット様のお力なのだろうか……)

  シャルロットとはマウイマウイ遠征前に多少険悪になってしまっていたアルタイルであったが、それは彼女を嫌っての事ではない。
 こういった面ではしっかりシャルロットの事を認めているのだ。
 もの思いに耽っていたそんな時、ベガが闘技場へ現れた。

「あらここに居たのアルタイル」

「ベガか、私を探していたのかい?」

「そうよ、ちょっと聞いておきたい事があって……」

「どうしたんだ? お前らしくない真剣な顔をして」

「何よ失礼な、まるでいつもはアタシが真剣ではないみたいな口ぶりね」

 確かにいつもの様などこか人を食ったような笑みが今のベガには無かった。

「そんな事より確認したいことがあるの」

「何だい?」

「パパが逝ってしまってから改めて考えたのよ、今アタシたちが居るこの世界とアタシやシャルちゃんが元居た世界の二種類の世界があるのは周知の事実よね?」

「そうだな、初めはにわかには信じられなかったけど実際に目の前に別の世界線から来た人間がいるのだから認めざるを得ないよ、不本意ながらね……それがどうかしたのかい?」

「それで思い出したんだけど、向こうで仲間達から聞いていた話しにリサってメイドの話しがあってね、その子は元の世界ではどこかの勢力の間者でシャルちゃんの命を狙った事があるのよ……その結果シオンちゃんが彼女を殺めたのだけれど」

「シオンか、実に優秀なくのいちだったよ」

「そうだったわね、こちらでは戦死していたんでしたっけ」

 場の空気が重くなる、しかしここで話を止める訳にはいかない。
 だがベガには確信があった……これからアルタイルに確認する事柄がとても重要な意味を持つという事を。
 
「そこでここからが本番なんだけれど、その後にもう一人リサが現れたのよ、シェイドと言う敵勢力の一員としてね」

「どういうことだい? まさか討ち取り損ねた彼女が再び現れた? それとも誰かの変装かい?」

「討ち取り損ねはあり得ないわね、シオンはリサの死亡を確認しているし埋めたとされる墓には掘り起こした形跡はなかったというわ……それに変装はする意味がある? シオンを混乱させる以外にメリットが無いと思うんだけれど」

 ベガが肩をすくめる。

「それもそうか、ではもう一人のリサもまた本人だという事だな……つまり君はこういいたい、もう一人のリサは別の世界線から来たのだと」

「ビンゴ!! 分かってるじゃない、流石アルタイルね」

 オーバーな動きでアルタイルを指さすベガ。

「アタシたちがこちらの世界線に来てしまったという事は逆もまた然り……こちらから元の世界に誰かが行く事だってあり得るって事……恐らくもう一人のリサはこの世界からあちらの世界に来たのだと思うわ」

「なるほどね、各々の世界に各々の人物がいる……しかも何らかの力で世界線を渡ることが出来るという事か、実に興味深いね……リサという子については後で調べておくよ」

「頼むわね、この話しはあなたにとっては面白い仮説どまりでしょうけれど、実際アタシの元の世界にもあなたや国王様たちは居るわけだし、分からないのはその世界線の渡り方だけなのよ……リサはどうやって世界を渡ったのか」

「それさえ分かれば君らは元の世界に帰れるという訳だ」

「そうね、でもそれはまだ知らなくてもいいとアタシは考えてるの」

「へえ、君は今すぐ元の世界へ帰りたくは無いのかい?」

「ここまで首を突っ込んでしまったのだもの、こちらの世界の平和を取り戻すまではね……それはきっとシャルちゃんも同じ気持ちじゃないかしら?」

 ニィっといたずらな笑みを浮かべるベガに一瞬胸がときめくのを感じたアルタイルは慌てて目を背ける。

「どうかした?」

「いや、何でもない」

「少し話が逸れたわね、確認したい事っていうのはそれだけじゃないのよ、ここからが本題……こちらのアタシとパパはどこで何をしているの? もちろんいる筈よね?」

 そう、殆どのシャルロットゆかりの人物は存在が確認されているが、どういう訳かベガとデネブの所在が分からないままだった。
 こちらの世界にシャルロットたちが来て以来、落ち着いて状況を整理する暇は皆無であった。
 現在の決戦前の準備期間はある意味それを確認するには丁度良い機会だと言える。

「分からないんだよ、ベガは世界を探求すると称して世界を飛び回っていて今どこに居るのか見当もつかない……もう十年以上顔を見ていないよ」

「あら、こちらのアタシもそこは同じなのね……」

 ベガは苦笑いを浮かべる。

「お師様は何年も前から私に行先も告げず旅に出られたままだよ……私の方が教えて欲しいくらいだ」

「じゃあ、こちらではパパは召喚魔法の事故で異世界に消えた訳ではないのね?」

「ここに居た時に限って言えばそれは無いよ、旅先でやってないという保証はないけど……」

「ふーーーん、そこは違うんだ……」

 同一人物であっても全く同じ行動をとるとは限らない様だ。

「もう一つ、前も聞いたけどアルタイル、あなた本当にイオって子を弟子にしていない?」

「以前答えた通りさ、私に弟子は居ないよ」

(何故イオちゃんだけこちらの世界に形跡がないのかしら? 気にはなるのよね、嘆きの断崖に現れたあの魔導士がどう見てもイオちゃんだったから、そしてアタシをこちらの世界へ飛ばしたのもあの子……でもどこか違和感があったのも確か、あれは本当にイオちゃんだったのかしら?)

「ベガ? 大丈夫か? 顔色が悪いけど……」

「うん? いえ、ちょっと頭に中を整理していただけよ、心配いらないわ」

「そうか、あまり根を詰めるなよ?」

「分かってるわ、邪魔して悪かったわね」

 軽く手を振りベガは闘技場を後にした。

(痕跡が無いと言えばシェイドたちはどうかしら? でも奴らはみんな仮面で顔を隠し声も魔法で変質させているから正体が分からない、唯一素性が知れているのがリサってことになるけど何故彼女はシェイドたちと行動を共にしているのかしら? 今の情報量じゃ確信に迫れないわね)

 結局の所結論は出ず、更に頭を悩ませることになったベガであった。
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