プリンセス王子と虹色騎士団

美作美琴

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第93話 三種の神器の力

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 『……あのジジイ……よくも私の美しい身体に傷を……』

 スキュラは足の火傷の痛みに耐えながら跳躍を繰り返し移動していた。
 
『ダメージを回復しなくては……我が眷属の居る浜辺まで行けばこちらのもの……今度こそあのオカマ王子を亡き者にしてくれるわ……』

 スキュラが目指しているのは彼女の眷属が集う場所、海岸線だ。
 この回復魔法のない世界に置いて彼女の取ろうとしている方法は眷属を食らう事である。
 元々彼女の身体から生み出されている者たちであるので回復にはもってこいの手段であった。
 
『確かそろそろのはず……ああっ!?』

 砂浜に差し掛かりスキュラは愕然とする……彼女の眷属である陸ダコの死骸が砂浜を埋め尽くしていたのである。
 それは黒焦げになり消し炭と化し、異臭を放っていた。
 この状態では例え食らったとしても彼女の身体は回復しない。

『これはどうした事なの!?』

 惨劇の現場から更に先に進むと、陸ダコと何者かが戦っている最中であった。

「本当に次から次へとしつこい奴らね!! そんなんじゃ女の子にモテないわよ!!」

 ベガの鞭が空を切り次々に陸ダコたちを切り刻んでいく。
 残骸が砂の上に無造作に転がる。

『あいつか~~~!! 私の可愛いタコちゃんを殺したのは~~~!!』

 怒りに我を忘れスキュラはその場に飛び込んだ、その衝撃で砂が派手に飛び散り激しく砂浜が揺らぐ。

『お前~~~~!! 許さない~~~!!』

 鬼の形相でベガを睨みつけるスキュラ。

「あら、とうとうタコの女王様がお出ましって訳?」

『その野太い声……お前もオカマか~~~!! あのオカマ王子といい忌々しい奴らばかりだわ!! 気持ち悪いのよ!!』

「何ですって!? オカマに失礼な!! お謝りなさい!!」

『ええい、うるさい!! 代わりにお前を食らって傷を癒してやる!!』

 スキュラがベガに襲い掛かった。
 ベガは鞭で応戦するもスキュラの手と触手に裁かれ上手くダメージを与えられない。

「なっ……このタコ女、強い……!!」

『伊達に四天王を名乗ってないわよ!! 手負いであろうとそんな非力な攻撃にやられる私ではない!!』

 スキュラの突き出した腕を寸でで回避しすかさず距離を取るベガ。

(まさかの四天王のお出ましとはまずいわね……エクスプロジオンの魔法が使えればまだ戦いようもあったんだけど生憎と魔力切れなのよね……)

 このまま戦ってもベガには勝ち目がない、しかしサファイアは黄色の巨人に起動の為まだ手が離せない。
 
『死ね~~~!!』

 サラマンダーに焼かれずに残った足を魔獣に変え、ベガに差し向ける。
 あまりの素早さにベガの反応が僅かに遅れてしまった。
 万事休す……。

 しかし上空から衝撃波が降り注ぎ、魔獣を胴体から切断してしまったのだ。

『ギャアアアアアッ!!』

 またも足を切断され悲鳴を張り上げるスキュラ。

「この攻撃は!?」

 ベガが上空を見上げると、何とそこにはシャルロットが全ての三種の神器を装備した姿で宙に浮いているではないか。

「シャルちゃん!! 現在の盾を手に入れたのね!?」

「うん……ごめん、来るのが遅くなって」

 シャルロットの表情は沈んでいた……自分の判断ミスでデネブを死なせてしまった事でその弟子であるベガに対してどう接していいのか迷っていたからだ。
 だが三種の神器を使い熟すのに怒りや迷いは邪魔でしかない……砂浜に着地したシャルロットは気持ちを切り替えスキュラをキッと睨みつけ剣を構えた。

「私の仲間に危害を加えた以上あなたに掛ける慈悲はありません……ここで果てなさい」

『何よ、男のくせに女勇者気取り!? 恥ずかしくないの!?』

「私を動揺させようとしても無駄です」

『ああもう!! あんたの何もかもが気に入らないわ~~~!!』

 シャルロットの冷静な態度に嫌悪感を露にしスキュラは手から水流を発し攻撃を仕掛けて来た。
 しかしその水流はシャルロットに届く事は無かった、彼女の僅か前で見えない壁に中ったかのように弾かれる。

『なっ!?』

「三種の神器が揃った以上、あなたに私を倒す事は出来ません」

『おっ、おのれーーーーー!!』

 破れかぶれの突進……シャルロットはおもむろに剣を持ち上げ振り下ろす。
 まるでスローモーションのような錯覚を起こす動作……二人は交差してすれ違う。

『えっ!? 何よ何ともないじゃない……脅かしてくれちゃって……ああっ!?』

 スキュラの腕が指先から輪切りになりポロポロと落ちていく……それはやがて体の方へと向かって進み、彼女の身体は全てがバラバラに切り刻まれてしまった。
 その間、僅か数秒の事であった。
 スキュラは断末魔すら上げる暇がなかった。

「ベガ様~~~ご無事ですか!?」

 エイハブが手を振りながらこちらへ走って来る。

「ええ、坊やも無事で何よりね、所でパパは?」

「そっ、それが……」

 エイハブが言い淀んでいるとシャルロットがベガに抱き着いてきた。
 その腕にはかなりの力が加わっていた。

「ちょっとどうしたのシャルちゃん……?」

「ごめん……ごめんなさい……」

 大粒の涙がシャルロットの瞳から溢れ出しとどまることを知らない。

「僕のせいでデネブは……!!」

 そういったままシャルロットは意識を失った……ベガは慌てて彼女を抱きとめる。

「神器が全て揃った状態で戦ったから一気に体力を消耗したのね……
 それはそうと坊や、パパの事について何か知ってるんでしょう?」

「………」

 エイハブは沈痛な面持ちで下を向く。
 この態度だけでベガには何が起きたか大方の予想は付いていたが敢えて問う。

「いいから言いなさい……」

「分かりました……実は……」

 いつもの女性的なしゃべり方では無く凛とした真剣な言葉遣い……エイハブは観念して事の顛末を語りだした。



「なるほどね……だからあれほど分かれて行動する時に作戦の参加を渋ったんだ……」

 シャルロットが二手に分かれると作戦を立てた時、おそらくあの時点でデネブには消滅の兆候……身体が透ける症状が出ていたのだろう。

「あれが今生の別れになるなんてね……」

 しかしベガは言う程落ち込んではいない様子だった。

「失礼ですが、その、悲しくは無いのですか? デネブ様はベガ様にとって親同然の師弟関係と聞き及んでいましたが……」

「そう見える?」

「いえ……」

 バツが悪そうにエイハブは顔を伏せる。

「まあパパはあちらの世界では十数年前に前触れも無く行方不明になっていたからね、その時にアタシは一度心の中でお別れは済ましていたのよ……それが奇跡的に再会できたのだから運命に感謝しないと……それに二度も死ぬなんて流石アタシのパパと言った所かしら」
 
「申し訳ありません……自分が不甲斐ないばかりに……」

「いいのよ、パパが捨てられた世界からこちらに来た時点で避けられない事なんだから……誰も悪くない、坊やも、勿論シャルちゃんもね」

 ベガは優し気な表情を浮かべ、涙で顔をグシャグシャにして眠っているシャルロットの頭を撫でた。


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