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第69話 伝説の装備をもう一度
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「そんな!! ツィッギーまで……!!」
シャルロットの脚が早まる……もう一人の自分チャールズ、ハインツ、グロリアに続いてツィッギーまで命を落としてしまったのではと心が逸る。
とにかく一刻も早くグリッターツリーに赴き彼女の生存を確認したい……その一心で走り続けた。
「お待ちください姫様……ゼェゼェ……」
体力のないアルタイルは既に虫の息だ、魔法の杖を文字通り杖代わりにヨタヨタと歩いている。
『私ガ運ビマス』
「うおおっ!!」
ひょいっと軽々とアルタイルを担ぎ上げるアイオライト。
そしてそのまま猛スピードで走り出す。
年端もいかぬ少女のような外見だが、サファイア同様そのパワーは折り紙付きだ。
「あっ……ああっ……」
焼け焦げて炭化した樹がまだらにそびえ立つ焼け野原を前にシャルロットは立ち尽くす。
あまりの衝撃に言葉が出てこない。
彼女の記憶にあるグリッターツリーは深緑の美しい広大な森林であった。
それがここが同一の場所であるとは信じがたいほど豹変してしまっている。
「報告を聞いただけで自分で見たのは初めてですが、これは酷い……」
遅れて到着したアルタイルはアイオライトの肩から降りながら眉間にしわを寄せた。
「ここには……友達が居たんだ……ツィッギー……レズリー……うっ……うわああああああん!!」
湧き上がる悲しみの感情が抑えきれず号泣するシャルロット。
振り向きざま、勢いよくアルタイルの胸に飛び込み泣きじゃくる。
「心中お察しします……姫様……」
そっとシャルロットの肩に手を置くアルタイル。
そうしてしゃくりあげて中々泣く事を止められない彼女に暫く胸を貸すことになった。
「ごめん、取り乱した……」
「いいんですよ、主人の悲しみを紛らわせるのも家臣の務めですから」
目元を赤くしてうなだれるシャルロットにアルタイルはやさしく微笑んだ。
「悲しみに暮れているところ無粋で申し訳ないのですが、グリッターツリーにはどういったご用向きで?」
「……ここにはとても重要な場所があるの……伝説の装備が安置された祠さ……でもこの惨状では無事であるかどうか……」
「まさか!! あの伝説の装備がここグリッターツリーにあるというのですか!?
その在処はどの文献にも記されていないというのに……!!」
しかし辺りを見回すが、すべてが焼け焦げてしまっているせいで何の目印もなく、その祠の位置が分からなくなっていた。
「魔王を倒すには必須の装備だからね、今の内に手に入れておきたかったんだけど、まさかこんな事になるなんて」
シャルロットは必死に思い出そうとする……過去に祠に行った時はどういった状況だったろうかと。
「あっ、そうだ!! 声に呼ばれたんだった!! あの祠の番人と連絡が付けば或いは……」
あれは夜更け過ぎ、頭の中に声が直に話しかけてきた感覚を今も覚えている……恐らく大声を上げても答えてくれないはず。
となれば、今度はこちらが頭の中で念じ、祠の番人の彼女に呼び掛けなければ。
シャルロットは瞼を閉じ力強く念じ始めた。
(聞こえますか祠の番人……私はシャルロット……エターニアの王女です……)
返事はない……しかし彼女は諦めずに何度も呼び掛ける。
(祠の番人……お願い返事をして……)
(おお……まさか、この私に声を掛けられる者がこの時代に現れるとは……)
「番人!! 良かった、繋がった!!」
シャルロットがいきなり大声を上げたせいでアルタイルはビクッと震え上がった。
(そなたは……一体何者だ? この代のエターニアの子孫は男であるはずだが、はて……お前は自らを王女と申すか?)
「はい……いえ、厳密には違うのですが説明するには色々と複雑でして……」
(ふむ、まあ我の声が聞こえるのであれば今はそれで良い……取り合えず我の居る場所まで来てくれぬか?)
「分かりましたわ、誘導お願いします」
「ちょっと!! シャルロット様!?」
シャルロットが移動を開始する、しかしアルタイルには何がどうなっているのかさっぱり分からない。
アイオライトに至っては無表情のまま首を傾げる始末。
やがて何かに引き寄せられるように迷いなく進んだシャルロットは、中央から真っ二つにかち割られた大きな岩のもとに辿り着く。
「この岩には見覚えがあるね、確かこの辺に……ほら有った」
煤けた岩肌をなでると、エアターニア王家の紋章が現れる。
「そうなると、この下に祠へと続く階段があるはずなんだけど……これだけ破壊されていると前みたいに自動的に動かないよね……」
(そなた、前にもここを訪れたことがあるような口ぶりよの……我にはとんと覚えがないのだがな)
「はい、私のもと居た世界での話なので」
(じゃが、何としても祠に入って来てもらわなければな……)
「大丈夫、お任せください……アイオライト、ドレスを脱いで」
『ハイ、シャルロット様』
何の躊躇もなくアイオライトは着ていた青いドレスを脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと!! 何ですかいきなり!!」
突然の少女の裸に目を覆うアルタイル。
「あれ、君は女性には興味ないんじゃなかったっけ?」
「それはあなたの世界の私の話しでしょう? こちらの私は両方愛でてるんです」
「それはそれでどうなの……まあいいや、アイオライト、元の姿に戻ってこの大岩を取り除いてくれないか?」
『仰セノママニ』
けたたましい音を立て体のあちこちが蓋を開ける……そして瞬く間に巨大な絶望の巨人へと姿を変えた。
大岩といえど巨人にかかれば小石を拾い上げるのと変わらない。
あっという間に大岩は撤去され、その下に隠れていた地下への階段が露になった。
(なんと!! その者は憎き魔王の魔導兵器ではないか!! 何故そなたが従えておる!?)
「これも元の世界で……」
(はあ、もう何が起こっても驚かぬ……)
番人は深く考えるのを止めた。
「中は無事のようですね、さすがに魔王軍の者どもも地下にこのような施設があるとは思いもしなかったでしょう」
(うむ、この周辺には認識阻害の結界が張ってある故な、この場所は王家の末裔にしか分からぬ)
祠の中を一通り見回すが、以前見たものと全く変わらない。
「では早速なのですが番人よ、伝説の装備をわたくしめに授けてはいただけませんか?」
(ふむ、それは我としてもやぶさかではないが、そなたに使いこなせるのか?)
「そうですね、以前はごく短い時間なら装備を使う事が出来ました」
(ほう、その男の身でか、それは興味深いな……どれ)
僅かな振動が起こり、壁が開き中から台座が現れた。
台座の上には依然同様『未来の剣』と『過去の鎧』が鎮座していた。
(世界が滅ぶ寸前だ、こうなってしまった以上そなたに賭ける以外にない、受け取りが良い)
「ありがとうございます!!」
そういうが早いかシャルロットは現在身に着けている鎧と衣服を脱ぎ去った。
「ちょっ!! またですか!?」
アルタイルは再び目を伏せる。
「何故そんなに恥ずかしがるんだい? 君と同じ男の裸じゃないか」
既にシャルロットは自分の身体が男であることを受け入れていた。
無論、心はその限りではないが。
(そなたは男なのだよな……では何故乳房がそこまで大きいのだ? 解せぬ)
「実は私にもその辺のいきさつは分からないのです……年相応に胸が育っていたので私も自分が女であることに疑いを持たなかったのです」
(そうか、そなたも苦労しておるのだな……済まぬ)
「何故あなたが謝るのです?」
(これは我が血族に綿々と受け継がれた能力ゆえの弊害だ……私があの時油断をしていなければそなたにここまでの苦労を掛けることはなかったのだ)
「それはどういう意味でしょう?」
(いや、少し感傷的になってしまったか……忘れてくれ)
番人のいう事が気にならないではないがシャルロットはそれ以上の詮索はせず、過去の鎧の装着に取り掛かる。
「あれ? この鎧、こんなに重かったかしら?」
一通り鎧を身に着けてみて違和感を感じた……以前装着した時と比べ、ズシリとその重量が身体にのしかかる。
「剣の方は……こちらも重い……」
持ち上がらないほどでは無いが、やはり依然持った時の様に鳥の羽を握っているような軽さは感じられなかった。
(装備できるだけ大したものよ、本来王家の血を引いていても男には装備できないはずなのだ)
「しかしこれでは満足に戦えません……」
想定外の事態……短時間でも女勇者の力を上手く使いこなせれば戦いようはある……そう思っていたシャルロットなのだが、ここで大きく計算が狂ってしまった。
そこへ突然轟音と地響きが祠を襲う。
「何事です!?」
(どうやら外で暴れている不届き者がおるよだな)
「様子を見てきます!!」
(気を付けよ)
シャルロットたちは急いで祠の階段を駆け上り、地上へと出た。
既に焼き尽くされている炭の木を吹き飛ばし、地上を炎が包み込んでいた。
「ギャハハハ!! まだネズミがチョロチョロしていたようだな!!」
仁王立ちでこちらを見下ろす下品な声の主は真っ赤な皮膚をした大男だ、頭には鬼のような角が二本ある。
そして体中の至る所から炎が立ち昇っている。
「あれは何者だい?」
「あの者は魔王四天王の一人、『業火のイグニス』です……このグリッターツリーを焼き尽くしたのは恐らく奴の仕業……」
「ほう、俺様のことを知っていたか関心関心!! 炎といえば俺様、俺様といえば炎だからな!! ギャハハハハ!!」
「ここを焼き尽くしたのは本当にあなたなのですか?」
「おうとも!! 耳のとがった奴らが沢山いたが、一人残らず消し炭にしてやったわ!!」
しかしその事を聞いたシャルロットの中には得も言われぬ感情が燻り始めた。
「許さない……」
「あ~~~ん!? 何だって!? 聞こえね~な!!」
「許さないといったのです!! 敵とはいえここまで相手を憎悪したことはこれが初めてです!!!」
シャルロットの身体から物凄い衝撃波が発せられる……表情も彼女が今まで見せたことがないほど険しいものだった。
「そうかそうか!! ならかかって来な!! 俺様は戦いは大好きだぜ!!」
「はああああああっ!!!」
剣を構え切り掛かる。
シャルロットとイグニス……戦いの火ぶたは切って落とされた。
シャルロットの脚が早まる……もう一人の自分チャールズ、ハインツ、グロリアに続いてツィッギーまで命を落としてしまったのではと心が逸る。
とにかく一刻も早くグリッターツリーに赴き彼女の生存を確認したい……その一心で走り続けた。
「お待ちください姫様……ゼェゼェ……」
体力のないアルタイルは既に虫の息だ、魔法の杖を文字通り杖代わりにヨタヨタと歩いている。
『私ガ運ビマス』
「うおおっ!!」
ひょいっと軽々とアルタイルを担ぎ上げるアイオライト。
そしてそのまま猛スピードで走り出す。
年端もいかぬ少女のような外見だが、サファイア同様そのパワーは折り紙付きだ。
「あっ……ああっ……」
焼け焦げて炭化した樹がまだらにそびえ立つ焼け野原を前にシャルロットは立ち尽くす。
あまりの衝撃に言葉が出てこない。
彼女の記憶にあるグリッターツリーは深緑の美しい広大な森林であった。
それがここが同一の場所であるとは信じがたいほど豹変してしまっている。
「報告を聞いただけで自分で見たのは初めてですが、これは酷い……」
遅れて到着したアルタイルはアイオライトの肩から降りながら眉間にしわを寄せた。
「ここには……友達が居たんだ……ツィッギー……レズリー……うっ……うわああああああん!!」
湧き上がる悲しみの感情が抑えきれず号泣するシャルロット。
振り向きざま、勢いよくアルタイルの胸に飛び込み泣きじゃくる。
「心中お察しします……姫様……」
そっとシャルロットの肩に手を置くアルタイル。
そうしてしゃくりあげて中々泣く事を止められない彼女に暫く胸を貸すことになった。
「ごめん、取り乱した……」
「いいんですよ、主人の悲しみを紛らわせるのも家臣の務めですから」
目元を赤くしてうなだれるシャルロットにアルタイルはやさしく微笑んだ。
「悲しみに暮れているところ無粋で申し訳ないのですが、グリッターツリーにはどういったご用向きで?」
「……ここにはとても重要な場所があるの……伝説の装備が安置された祠さ……でもこの惨状では無事であるかどうか……」
「まさか!! あの伝説の装備がここグリッターツリーにあるというのですか!?
その在処はどの文献にも記されていないというのに……!!」
しかし辺りを見回すが、すべてが焼け焦げてしまっているせいで何の目印もなく、その祠の位置が分からなくなっていた。
「魔王を倒すには必須の装備だからね、今の内に手に入れておきたかったんだけど、まさかこんな事になるなんて」
シャルロットは必死に思い出そうとする……過去に祠に行った時はどういった状況だったろうかと。
「あっ、そうだ!! 声に呼ばれたんだった!! あの祠の番人と連絡が付けば或いは……」
あれは夜更け過ぎ、頭の中に声が直に話しかけてきた感覚を今も覚えている……恐らく大声を上げても答えてくれないはず。
となれば、今度はこちらが頭の中で念じ、祠の番人の彼女に呼び掛けなければ。
シャルロットは瞼を閉じ力強く念じ始めた。
(聞こえますか祠の番人……私はシャルロット……エターニアの王女です……)
返事はない……しかし彼女は諦めずに何度も呼び掛ける。
(祠の番人……お願い返事をして……)
(おお……まさか、この私に声を掛けられる者がこの時代に現れるとは……)
「番人!! 良かった、繋がった!!」
シャルロットがいきなり大声を上げたせいでアルタイルはビクッと震え上がった。
(そなたは……一体何者だ? この代のエターニアの子孫は男であるはずだが、はて……お前は自らを王女と申すか?)
「はい……いえ、厳密には違うのですが説明するには色々と複雑でして……」
(ふむ、まあ我の声が聞こえるのであれば今はそれで良い……取り合えず我の居る場所まで来てくれぬか?)
「分かりましたわ、誘導お願いします」
「ちょっと!! シャルロット様!?」
シャルロットが移動を開始する、しかしアルタイルには何がどうなっているのかさっぱり分からない。
アイオライトに至っては無表情のまま首を傾げる始末。
やがて何かに引き寄せられるように迷いなく進んだシャルロットは、中央から真っ二つにかち割られた大きな岩のもとに辿り着く。
「この岩には見覚えがあるね、確かこの辺に……ほら有った」
煤けた岩肌をなでると、エアターニア王家の紋章が現れる。
「そうなると、この下に祠へと続く階段があるはずなんだけど……これだけ破壊されていると前みたいに自動的に動かないよね……」
(そなた、前にもここを訪れたことがあるような口ぶりよの……我にはとんと覚えがないのだがな)
「はい、私のもと居た世界での話なので」
(じゃが、何としても祠に入って来てもらわなければな……)
「大丈夫、お任せください……アイオライト、ドレスを脱いで」
『ハイ、シャルロット様』
何の躊躇もなくアイオライトは着ていた青いドレスを脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと!! 何ですかいきなり!!」
突然の少女の裸に目を覆うアルタイル。
「あれ、君は女性には興味ないんじゃなかったっけ?」
「それはあなたの世界の私の話しでしょう? こちらの私は両方愛でてるんです」
「それはそれでどうなの……まあいいや、アイオライト、元の姿に戻ってこの大岩を取り除いてくれないか?」
『仰セノママニ』
けたたましい音を立て体のあちこちが蓋を開ける……そして瞬く間に巨大な絶望の巨人へと姿を変えた。
大岩といえど巨人にかかれば小石を拾い上げるのと変わらない。
あっという間に大岩は撤去され、その下に隠れていた地下への階段が露になった。
(なんと!! その者は憎き魔王の魔導兵器ではないか!! 何故そなたが従えておる!?)
「これも元の世界で……」
(はあ、もう何が起こっても驚かぬ……)
番人は深く考えるのを止めた。
「中は無事のようですね、さすがに魔王軍の者どもも地下にこのような施設があるとは思いもしなかったでしょう」
(うむ、この周辺には認識阻害の結界が張ってある故な、この場所は王家の末裔にしか分からぬ)
祠の中を一通り見回すが、以前見たものと全く変わらない。
「では早速なのですが番人よ、伝説の装備をわたくしめに授けてはいただけませんか?」
(ふむ、それは我としてもやぶさかではないが、そなたに使いこなせるのか?)
「そうですね、以前はごく短い時間なら装備を使う事が出来ました」
(ほう、その男の身でか、それは興味深いな……どれ)
僅かな振動が起こり、壁が開き中から台座が現れた。
台座の上には依然同様『未来の剣』と『過去の鎧』が鎮座していた。
(世界が滅ぶ寸前だ、こうなってしまった以上そなたに賭ける以外にない、受け取りが良い)
「ありがとうございます!!」
そういうが早いかシャルロットは現在身に着けている鎧と衣服を脱ぎ去った。
「ちょっ!! またですか!?」
アルタイルは再び目を伏せる。
「何故そんなに恥ずかしがるんだい? 君と同じ男の裸じゃないか」
既にシャルロットは自分の身体が男であることを受け入れていた。
無論、心はその限りではないが。
(そなたは男なのだよな……では何故乳房がそこまで大きいのだ? 解せぬ)
「実は私にもその辺のいきさつは分からないのです……年相応に胸が育っていたので私も自分が女であることに疑いを持たなかったのです」
(そうか、そなたも苦労しておるのだな……済まぬ)
「何故あなたが謝るのです?」
(これは我が血族に綿々と受け継がれた能力ゆえの弊害だ……私があの時油断をしていなければそなたにここまでの苦労を掛けることはなかったのだ)
「それはどういう意味でしょう?」
(いや、少し感傷的になってしまったか……忘れてくれ)
番人のいう事が気にならないではないがシャルロットはそれ以上の詮索はせず、過去の鎧の装着に取り掛かる。
「あれ? この鎧、こんなに重かったかしら?」
一通り鎧を身に着けてみて違和感を感じた……以前装着した時と比べ、ズシリとその重量が身体にのしかかる。
「剣の方は……こちらも重い……」
持ち上がらないほどでは無いが、やはり依然持った時の様に鳥の羽を握っているような軽さは感じられなかった。
(装備できるだけ大したものよ、本来王家の血を引いていても男には装備できないはずなのだ)
「しかしこれでは満足に戦えません……」
想定外の事態……短時間でも女勇者の力を上手く使いこなせれば戦いようはある……そう思っていたシャルロットなのだが、ここで大きく計算が狂ってしまった。
そこへ突然轟音と地響きが祠を襲う。
「何事です!?」
(どうやら外で暴れている不届き者がおるよだな)
「様子を見てきます!!」
(気を付けよ)
シャルロットたちは急いで祠の階段を駆け上り、地上へと出た。
既に焼き尽くされている炭の木を吹き飛ばし、地上を炎が包み込んでいた。
「ギャハハハ!! まだネズミがチョロチョロしていたようだな!!」
仁王立ちでこちらを見下ろす下品な声の主は真っ赤な皮膚をした大男だ、頭には鬼のような角が二本ある。
そして体中の至る所から炎が立ち昇っている。
「あれは何者だい?」
「あの者は魔王四天王の一人、『業火のイグニス』です……このグリッターツリーを焼き尽くしたのは恐らく奴の仕業……」
「ほう、俺様のことを知っていたか関心関心!! 炎といえば俺様、俺様といえば炎だからな!! ギャハハハハ!!」
「ここを焼き尽くしたのは本当にあなたなのですか?」
「おうとも!! 耳のとがった奴らが沢山いたが、一人残らず消し炭にしてやったわ!!」
しかしその事を聞いたシャルロットの中には得も言われぬ感情が燻り始めた。
「許さない……」
「あ~~~ん!? 何だって!? 聞こえね~な!!」
「許さないといったのです!! 敵とはいえここまで相手を憎悪したことはこれが初めてです!!!」
シャルロットの身体から物凄い衝撃波が発せられる……表情も彼女が今まで見せたことがないほど険しいものだった。
「そうかそうか!! ならかかって来な!! 俺様は戦いは大好きだぜ!!」
「はああああああっ!!!」
剣を構え切り掛かる。
シャルロットとイグニス……戦いの火ぶたは切って落とされた。
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