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第67話 二つのエターニア、もう一人の自分
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アルタイルの情報提供を受け、シャルロットも自分の知りうる情報、自分の今までの活動の記憶をなるべく要点を押さえて語った。
一度話し始めたらまるで堰を切ったかの如く続けざまに語りつくしてしまい、気が付くと三時間ほどが経っていた。
「これは凄い!! あなたはとても貴重な経験をしてきたのですね!! 王家や一部の関係者しか知りえない極秘情報もあったし、嘘を吐いてはいないようだ!!
即興の作り話ではここまで壮大で辻褄の合った話は作れないだろうからね!! 大いに参考になったよ!!」
シャルロットに賞賛の拍手を浴びせるアルタイル。
その顔には満面の笑みを湛えている。
「流石に……喉が渇きました……」
「水で良ければ飲んでくれ給え!!」
ローブの懐から水筒を取り出しシャルロットに手渡す。
すぐさま水筒の蓋を開けがぶ飲みし、あっという間に飲み干してしまった。
「私ばかり長々と語ってしまいすみません……」
一息ついたシャルロットは壁に寄り掛かった……冷たい石壁が今に限っては火照った身体に心地よい。
「いやいや、お陰でさっき立てた仮説が真実であると確信するに至ったよ!!」
アルタイルは物凄く興奮している……興味のあることに対しては上機嫌で饒舌になる所は自分の知っているアルタイルと同じだとシャルロットは感じた。
「先ほども言ってましたが、その仮説とは何だったのですか?」
「よくぞ聞いてくれました!!」
オーバーアクションでシャルロットの眼前ギリギリまで顔を近づけてきた。
「あなたはもう一つのエターニアから来たもう一人の王子様なんですよ!!」
「えーーーと……」
「あっと、これは失礼……あなたにはまだ言ってない情報がありましたね
私たちのエターニアにも王子が居ます、チャールズ王子です
同じ服を着て髪を切れば、あなたはそのチャールズ王子と瓜二つの容姿となるでしょう……なにせ世界線が違うだけで同一人物なのですから」
「うーーん、益々分からなくなりました……」
あまりにもいっぺんに情報が溢れて理解が追い付いていないシャルロット。
「どう説明しましょうか、あっそうだ、あなたはあなたの世界のエアターニアでは女として育てられたのでしょう?」
「はい……」
「こちらの世界のエターニアではそのまま男として育てられたあなたが居るってことです」
「あっ……」
さっきよりは少しだけ理解が進んだようだ。
「世界線……便宜上私はそう名付けましたが、私たちがこうやって生活しているように、別の世界では少しづつ違った境遇で異なった生活をしている別の私たちが居るのではという仮説を立てたんですよ……はじめにあなたの話を聞いたときにね」
「なるほど……だからアルタイル、あなたも私の世界では子供になってしまったのにここでは大人のままなのですね……」
「そう!! 流石は王子様と同一人物、理解が早い!! 聡明な方のようですねあなたは」
「恐れ入ります……それでもう一人の私とハインツたち虹色騎士団はこちらではどうなっているのでしょう?」
当然シャルロットとしては話しをそこに持っていく。
本来の男として、王子として育った自分と関わった人物がどう過ごしているか、とても興味があったのだ。
「それを聞きますか……お話ししてもいいですが、後悔しませんか?」
先ほどまでハイテンションだったアルタイルの表情が急に曇る。
その様子を見てこちらのエターニアではあまり良くない事が起こっているのは容易に想像できた……しかし……。
「ええ、大丈夫……覚悟はできています」
「分かりました、ならばお話ししましょう」
シャルロットは息を呑んだ。
「まずそのあなたが設立した騎士団、虹色騎士団ですが……こちらの世界には存在していません……」
「えっ……?」
「こちらの世界のあなた、チャールズ王子は騎士団を設立しなかったのですよ」
「そう、でしたか……ではハインツは、グロリアは……」
「あなたはその二人とは幼馴染なのでしたね、ハインツはあなたの護衛として取り立てられたので、いつも側にいましたよ」
います、ではなくいた……過去形なのが気になったが今は追及しない。
「グロリアはあなたの許嫁として将来を約束されて居ましたが、数か月前に王都に進行してきた魔王軍の襲撃に遭い、お屋敷を焼かれ父上のサザーランド卿共々お亡くなりになりました」
「そんな馬鹿な!!」
「いいえ、こちらの世界ではそれが真実です」
「そんな……そんなのって無い……グロリアがどちらの世界でも命を落としてしまうなんて……」
シャルロットの身体が悲しみのあまり激しく震える。
「まだお聞きになりますか?」
「そうだ!! 私は!! チャールズ王子は何をしているんです!? 何故グロリアを守れなかったんです!?」
これはもう一人の自分、チャールズにだけに言ったのではない……自分に対しても言っていたのだ。
「チャールズ王子は魔王の討伐にハインツとその他大勢の兵を引き連れて向かっていました、その留守中を狙われたのです……そして王子もハインツも、誰一人帰っては来ませんでした」
「………!! それではこちらの私は……」
「残念ながら分かりません、生きていらっやるのか、そうでないのか……」
「くっ……」
ある意味こちらの世界に起こっているのはシャルロットの世界にも起こりうること……チャールズが魔王に負けたのは恐らく男であるが故、伝説の女勇者の装備と力を使う事が出来なかったからに他ならない。
こちらの世界に紛れ込んで唐突にも偶然に自分が男であった事実を知らされてしまったシャルロットにも同様の事が起こるのは明白だ。
言うなれば今いるこの世界は『魔王討伐に失敗してしまった世界』なのだ。
「それで、魔王は未だ健在なのですね?」
「ええ、恐らくは次に魔王がここを来襲した時がこの国の、この世界の終わりでしょうね」
特に感情を表さず、淡々と答えるアルタイル。
既に諦めているのだろう。
「させない……」
「えっ?」
「そんなことは私がさせない!!」
許せなかった……自分の世界ではないとはいえエターニアが滅ぶと聞いて落ち着いては居られなかった。
「そうはいいますけどシャルロット、一体どうするというのです? こう言っては何ですがあなたに何が出来ますか?」
「男の私には何も出来ないと? 仮にそうだとしても座して滅びを待つなど私にはできません!!」
「あなたは……」
凛とした力強い眼差しのシャルロットの姿に、アルタイルが以前文献で見た伝説の女勇者ダイアナの肖像画が重なって見えた。
「分かりました……不肖、魔導士アルタイル、あなた様に忠誠を誓いましょう……
何なりとお申し付けください」
アルタイルはその場に片膝をつき、恭しく頭を下げた。
「急にどうしたのですかアルタイル!?」
「私はあなたに希望を見出しました、あなたとなら最後にもう一度だけ立ち上がることが出来る気がしたのです」
「そうですか、ありがとうアルタイル」
いささか弱々しくはあったがこの世界に来て一番の笑顔を見せた。
「さあこんな汚らしい牢から早く出ましょう」
アルタイルが錠前に手をかざすと、鍵を使っていないのに勝手に外れて床に落ちた。
「アルタイル、もう一つだけ確認したいのですが、魔王の軍勢にシェイドという黒い騎士は居ますか?」
「シェイド? はて、私の知る限りそのような人物はいなかったはずですが……
何者です?」
「手練れた部下と魔導兵器を使いこなす恐ろしい男です……そう、こちらの世界にはいないのですか……」
シャルロットは少し考える……そして力強くこう言った。
「分かりました、我々にはまだやれることがあります、ここから起死回生の大逆転を起こしますよ!!」
「おおっ!! これは頼もしい!!」
羨望の眼差しでシャルロットを見つめるアルタイル。
「それで、これからどうします?」
「私にいくつか確かめたいことがあります……付き合ってくれますか?」
「仰せのままに、シャルロット姫」
足取りも力強くシャルロットは裸足で石造りの廊下を歩く。
アルタイルもその後に従った。
一度話し始めたらまるで堰を切ったかの如く続けざまに語りつくしてしまい、気が付くと三時間ほどが経っていた。
「これは凄い!! あなたはとても貴重な経験をしてきたのですね!! 王家や一部の関係者しか知りえない極秘情報もあったし、嘘を吐いてはいないようだ!!
即興の作り話ではここまで壮大で辻褄の合った話は作れないだろうからね!! 大いに参考になったよ!!」
シャルロットに賞賛の拍手を浴びせるアルタイル。
その顔には満面の笑みを湛えている。
「流石に……喉が渇きました……」
「水で良ければ飲んでくれ給え!!」
ローブの懐から水筒を取り出しシャルロットに手渡す。
すぐさま水筒の蓋を開けがぶ飲みし、あっという間に飲み干してしまった。
「私ばかり長々と語ってしまいすみません……」
一息ついたシャルロットは壁に寄り掛かった……冷たい石壁が今に限っては火照った身体に心地よい。
「いやいや、お陰でさっき立てた仮説が真実であると確信するに至ったよ!!」
アルタイルは物凄く興奮している……興味のあることに対しては上機嫌で饒舌になる所は自分の知っているアルタイルと同じだとシャルロットは感じた。
「先ほども言ってましたが、その仮説とは何だったのですか?」
「よくぞ聞いてくれました!!」
オーバーアクションでシャルロットの眼前ギリギリまで顔を近づけてきた。
「あなたはもう一つのエターニアから来たもう一人の王子様なんですよ!!」
「えーーーと……」
「あっと、これは失礼……あなたにはまだ言ってない情報がありましたね
私たちのエターニアにも王子が居ます、チャールズ王子です
同じ服を着て髪を切れば、あなたはそのチャールズ王子と瓜二つの容姿となるでしょう……なにせ世界線が違うだけで同一人物なのですから」
「うーーん、益々分からなくなりました……」
あまりにもいっぺんに情報が溢れて理解が追い付いていないシャルロット。
「どう説明しましょうか、あっそうだ、あなたはあなたの世界のエアターニアでは女として育てられたのでしょう?」
「はい……」
「こちらの世界のエターニアではそのまま男として育てられたあなたが居るってことです」
「あっ……」
さっきよりは少しだけ理解が進んだようだ。
「世界線……便宜上私はそう名付けましたが、私たちがこうやって生活しているように、別の世界では少しづつ違った境遇で異なった生活をしている別の私たちが居るのではという仮説を立てたんですよ……はじめにあなたの話を聞いたときにね」
「なるほど……だからアルタイル、あなたも私の世界では子供になってしまったのにここでは大人のままなのですね……」
「そう!! 流石は王子様と同一人物、理解が早い!! 聡明な方のようですねあなたは」
「恐れ入ります……それでもう一人の私とハインツたち虹色騎士団はこちらではどうなっているのでしょう?」
当然シャルロットとしては話しをそこに持っていく。
本来の男として、王子として育った自分と関わった人物がどう過ごしているか、とても興味があったのだ。
「それを聞きますか……お話ししてもいいですが、後悔しませんか?」
先ほどまでハイテンションだったアルタイルの表情が急に曇る。
その様子を見てこちらのエターニアではあまり良くない事が起こっているのは容易に想像できた……しかし……。
「ええ、大丈夫……覚悟はできています」
「分かりました、ならばお話ししましょう」
シャルロットは息を呑んだ。
「まずそのあなたが設立した騎士団、虹色騎士団ですが……こちらの世界には存在していません……」
「えっ……?」
「こちらの世界のあなた、チャールズ王子は騎士団を設立しなかったのですよ」
「そう、でしたか……ではハインツは、グロリアは……」
「あなたはその二人とは幼馴染なのでしたね、ハインツはあなたの護衛として取り立てられたので、いつも側にいましたよ」
います、ではなくいた……過去形なのが気になったが今は追及しない。
「グロリアはあなたの許嫁として将来を約束されて居ましたが、数か月前に王都に進行してきた魔王軍の襲撃に遭い、お屋敷を焼かれ父上のサザーランド卿共々お亡くなりになりました」
「そんな馬鹿な!!」
「いいえ、こちらの世界ではそれが真実です」
「そんな……そんなのって無い……グロリアがどちらの世界でも命を落としてしまうなんて……」
シャルロットの身体が悲しみのあまり激しく震える。
「まだお聞きになりますか?」
「そうだ!! 私は!! チャールズ王子は何をしているんです!? 何故グロリアを守れなかったんです!?」
これはもう一人の自分、チャールズにだけに言ったのではない……自分に対しても言っていたのだ。
「チャールズ王子は魔王の討伐にハインツとその他大勢の兵を引き連れて向かっていました、その留守中を狙われたのです……そして王子もハインツも、誰一人帰っては来ませんでした」
「………!! それではこちらの私は……」
「残念ながら分かりません、生きていらっやるのか、そうでないのか……」
「くっ……」
ある意味こちらの世界に起こっているのはシャルロットの世界にも起こりうること……チャールズが魔王に負けたのは恐らく男であるが故、伝説の女勇者の装備と力を使う事が出来なかったからに他ならない。
こちらの世界に紛れ込んで唐突にも偶然に自分が男であった事実を知らされてしまったシャルロットにも同様の事が起こるのは明白だ。
言うなれば今いるこの世界は『魔王討伐に失敗してしまった世界』なのだ。
「それで、魔王は未だ健在なのですね?」
「ええ、恐らくは次に魔王がここを来襲した時がこの国の、この世界の終わりでしょうね」
特に感情を表さず、淡々と答えるアルタイル。
既に諦めているのだろう。
「させない……」
「えっ?」
「そんなことは私がさせない!!」
許せなかった……自分の世界ではないとはいえエターニアが滅ぶと聞いて落ち着いては居られなかった。
「そうはいいますけどシャルロット、一体どうするというのです? こう言っては何ですがあなたに何が出来ますか?」
「男の私には何も出来ないと? 仮にそうだとしても座して滅びを待つなど私にはできません!!」
「あなたは……」
凛とした力強い眼差しのシャルロットの姿に、アルタイルが以前文献で見た伝説の女勇者ダイアナの肖像画が重なって見えた。
「分かりました……不肖、魔導士アルタイル、あなた様に忠誠を誓いましょう……
何なりとお申し付けください」
アルタイルはその場に片膝をつき、恭しく頭を下げた。
「急にどうしたのですかアルタイル!?」
「私はあなたに希望を見出しました、あなたとなら最後にもう一度だけ立ち上がることが出来る気がしたのです」
「そうですか、ありがとうアルタイル」
いささか弱々しくはあったがこの世界に来て一番の笑顔を見せた。
「さあこんな汚らしい牢から早く出ましょう」
アルタイルが錠前に手をかざすと、鍵を使っていないのに勝手に外れて床に落ちた。
「アルタイル、もう一つだけ確認したいのですが、魔王の軍勢にシェイドという黒い騎士は居ますか?」
「シェイド? はて、私の知る限りそのような人物はいなかったはずですが……
何者です?」
「手練れた部下と魔導兵器を使いこなす恐ろしい男です……そう、こちらの世界にはいないのですか……」
シャルロットは少し考える……そして力強くこう言った。
「分かりました、我々にはまだやれることがあります、ここから起死回生の大逆転を起こしますよ!!」
「おおっ!! これは頼もしい!!」
羨望の眼差しでシャルロットを見つめるアルタイル。
「それで、これからどうします?」
「私にいくつか確かめたいことがあります……付き合ってくれますか?」
「仰せのままに、シャルロット姫」
足取りも力強くシャルロットは裸足で石造りの廊下を歩く。
アルタイルもその後に従った。
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