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第46話 船大工サファイア
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『シェイド様…お呼びでしょうか?』
こはシェイドのアジト、彼の元にアークライトが呼び出されていた。
『シャルロットの側にいるあのベガとか言う魔導士を抹殺して来い…アイツは危険だ…』
会うなり苛立った様子で先に命令を伝えてくる…こういう時はシェイドの機嫌が特に悪い時とアークライトは知っている…そしてその命令はアークライトにとっては非常に実行し辛いものなのであった…それは魔法の実力とは関係ない所から来ている。
『…やはり知り合いを手に掛けるのは抵抗があるか?いや、お前にとっては知り合いなどと言うそんな言葉で片付けられるものではないか…』
『…いえ、シェイド様の命令とあれば…ですが許されるのでしたら理由をお聞かせ願えませんか?』
内心、穏やかではないがなるべく平静を装い質問を返すアークライト。
『いいだろう…グロリアに渡した指輪を介して奴らの動向を探っていたのだが、あのベガと言う魔術師はことごとくこちらの行動を予想し言い当てているのだよ…』
『成程…あ奴ならありえない話ではないですな…』
『ベガは間違いなくこれからの我々にとって邪魔な存在になるだろう…だから消せと言っている…一度マウイマウイに言った事のあるお前なら転移魔法ですぐに向かえるだろう?』
『分かりました、そう言う事ならすぐに出発いたします…』
これ以上ここに居ると内心を見透かされてしまう…早急に踵を返し部屋を出ようとしたアークライトであったが、そこへ背後からシェイドの声が掛かる。
『なあ…なぜ俺たちの側に奴はいなかったんだ?』
『申し訳ありませんがその問いには答えられません…失礼します』
シェイドに背を向けたままそう言い残しアークライトは足早に部屋を出て行った。
「船の事は任せろって…一体どうするつもりなんだいサファイア?」
元は魔王の手先、古代魔導兵器であったサファイア…シャルロットの仲間になってからも感情が希薄で無口だったその彼女が自発的に発言して来た事にさすがのシャルロットもいささか困惑気味だ。
『私の魔導思考回路では船を強奪するのが最適解と出ましたが、人間の判断基準ではその選択はしてはいけない事…そうですよね?』
「うん、そうだね…それでサファイアは次にどんな結論に達したんだい?」
『はい、所有者が船を出港させてくれないのであれば自分で船を造り出せばよいのでは…と考えます』
「えっ…?」
シャルロットは一瞬耳を疑った。
当然、船を作る事はそんなに簡単な事では無い…筏《いかだ》や小型のボートならともかく、虹色騎士団全員を乗せられる船を建造するとなるとかなりの時間と材料を要するだろう…ましてや船の建造の素人である自分らに出来るとは到底思えない。
「ちょっと待ってよ、僕たちが船を作るなんて無理だよ?」
『いいえ、船を作るのは私一人で十分です』
「サファイア…君、そんな事が出来るのかい!?」
『恐らく可能です…今一度、港で船を見させて頂ければ…』
シャルロットは又しても驚いた…サファイアに関しては未だ謎な部分が多いのは事実だが、彼女が物を作り出す事が出来るとは正直想像もしていなかったからだ。
「でもあまり時間が掛かるのも困るんだけど…」
『そこまでの日数は掛からないと思います…船を見てからでなくては正確な日数は何とも言えませんが…』
「そう…船の見学に関しては所有者にお願いすれば中も見せてもらえるんじゃないかな?」
『是非に…しかし一つ問題があります…船の建造にあたって大量の木材が必要です…こればかりは私にはどうにもなりません』
「ああそっか…それはどうしようかな」
「あの…ちょっとよろしいかしら?」
「ツィッギー…?」
ここでツィッギーが話に乗って来た。
「その木材、グリッターツリーの森の木を使ってはどうでしょう」
「えっ…!?大丈夫なのかい!?あの森の木は君たち耳長族にとってはとても大切な物なのでは!?」
シャルロットは子供の頃、アルタイルを探しに探検に行ったグリッターツリー…その時に森にある物は木の枝はおろか、石ころ一つ持ち出してはならないという話を聞いた事を思い出していた。
「シャルロット様、我々耳長族はエターニアに…あなたに未来永劫協力するとお約束しました…これは『輝きの大樹《グリッターツリー》』を救って頂いた我々からのお礼と思ってもらえばよいのですよ」
「ツィッギー…ありがとう…」
二人は手を取り合う。
「いいえ~では早速行動を起こしましょうか~よろしければこの件は私とサファイアちゃんに取り仕切らせてもらえませんか?」
「うん、それは構わないけど…」
「ありがとうございます~一緒に頑張りましょうねサファイアちゃん!!」
『はい、よろしくお願いします』
満面の笑みのツィッギーは勢いよくサファイアに抱きついた。
「話を円滑に進めるために私の妹である村長に手紙を書きましょう…シオン様、お願いできますか?」
「承知しました…私が先行してその手紙を村長様にお渡しして参りましょう」
「ではこれを持って行って」
ツィッギーが懐から取り出したのは紐が付いた小さな緑色の宝石だ。
それをシオンの掌に載せる。
「これは?」
「数年前、グリッターツリーに賊が侵入した事件の反省を踏まえて、今あの森には耳長族以外の人間の侵入を拒む結界が張ってあるの…でもこれがあれば森に入る事が可能よ」
「なるほど、お借りします」
「お願いしますね」
ツィッギーがサラサラと羊皮紙に文面をしたため、紐で結びシオンに手渡す。
それを受け取るなりシオンは素早く踵を返し部屋を出て行った。
こうして虹色騎士団は造船用の木材を調達するため一旦ポートフェリアを出て再びグリッターツリーを目指す事になった。
「あなた方は先の騒動で無罪放免になっておりますが、次回の入国を制限させていただきます事をあらかじめ申し上げておきます…」
港で船の見学を終えた後、ポートフェリアの北側の門を抜ける時に門番にそう言い渡された一行…制限と言っているが実質、入国禁止と同義であった。
「あの狸オヤジ…貰う物貰っておいてこの仕打ちとかありえねーです」
「何?何の話だい?」
「いいえ~何でもないんですのよ~?オホホホ…」
イオがうっかり口を滑らした事に慌ててフォローを入れるベガ。
(ちょっと!!シャルちゃんに言ったらダメってあれほど言ったでしょう!?)
(すみません、つい…)
ヒソヒソと囁くような声でイオを叱る。
「完成した船をポートフェリアに持ち込むの訳では無いですし、これでよいのですよ」
そう言うツィッギーの表情は晴れやかだ。
「ねえツィッギー…君は今回の作戦をどう考えているのかな?船は森の中で建造するにしたって完成した後どうやって海に運ぶんだい?」
「ふっふっふ~それはその時のお楽しみ…大丈夫、ちゃんと考えてありますから」
彼女はいたずらな笑みをシャルロットに向ける。
「まあ君がそう言うならこれ以上何も言わないけどね…ところで足の具合はどうだい?」
「ええ、お蔭さまですっかり!!飲んでよしかけてよしなんてアルタイル様の作られたあの回復薬は素晴らしい物ですね!!」
この遠征にあたって彼らはアルタイルから回復薬を小瓶で数本持たされており、死神に斬り付けられたツィッギーの傷に振りかけると見る見る傷が塞がっていったのだ…グロリアの足の捻挫の時より改良を加えられており明らかに効き目が向上していた。
「エッヘン!!そうでしょうとも!!ボクのお師様は凄いのですから!!」
「何でお前が偉そうなんだよ…お前は薬を貰って来ただけだろう」
「そうそう、あなたには一日も早く一人前になってもらわないと困るのだけど…」
「ハインツ殿~ベガ様~二人共酷いです~!!」
皆の笑い声が響く…そこへ突然突風が吹き込んで来た。
「うわっぷ!!何この風…!?」
風があまりのも強く一同は目も開けていられない…吹き飛ばされない様に必死に耐える。
そして数秒…何事も無かったかのように風は収まった。
「何だったんだろう今の風…びっくりしたね…」
「つむじ風か何かか?さっきまで無風だったってのに…」
シャルロットやハインツが一様に不思議がっている時、ベガだけは無言で立ち尽くしていた。
「お~いベガ…どうかした?」
「えっ…?いいえ、何でもないわ…ちょっと目にゴミが入っただけよ…」
シャルロットにそう答えながらベガは何かを上着のポケットにしまうのであった。
こうして虹色騎士団の徒歩での行軍は続く。
それからは特に問題も無く彼らが行軍して二時間ほどでグリッターツリーに到着した。
シャルロットにとっては数年ぶりの訪問になる。
「レズリー、帰って来たわよ!!」
「お帰りなさいお姉様」
村の中に入ると一人の耳長族の女性が出迎えてくれた。
その容姿はツィッギーに瓜二つだ。
「紹介します、この子は私の双子の妹、レズリーと申します…グリッターツリーの現村長です」
「村長のレズリーです!!よろしくお願いします虹色騎士団の皆様!!」
レズリーは満面の笑みで出迎えてくれた。
「初めまして、私はシャルロットと申します、宜しくお願いしますねレズリーさん」
スカートの裾を摘んで挨拶するシャルロットを見つめ頬を赤らめ呆けたように顔が緩むレズリー。
「はぁ…お噂はお聞きしていましたが何てお美しいのでしょう…」
「あっ…ありがとうございます」
彼女はシャルロットの手をギュッと握って来た…しかもその後も包み込む様で撫でまわすような動作をしてきたのでどこか妙な感覚を受けた。
(ごめんなさいね…この子、可愛い女の子に目が無いので…)
ツィッギーが耳元でささやく。
(ああ、成程…大丈夫、こういうのはもう慣れてるから…)
チラッとイオとベガを見やる。
「何かしら…?」
「いや~自分の気持ちをさらけ出せるっていいな~って事」
(シャルちゃん…あなたも本当は人の事言えないのよ…)
ベガも喉元まで言葉が出掛かったが心の中に押し留めた。
本人に男である事を教えてはいけないという三女神との約束故、仕方ない事とは言え、自分もそちら側だと言う事に自覚のないシャルロットであった。
「お話は先にいらしたシオン様からお聞きしてますわ、船を造るために木材と場所が必要とか…皆さまこちらへどうぞ」
レズリーに案内され虹色騎士団一行は森の奥へと入っていく…暫く進むとかなり大きく開けた広場に出た。
そこには既にシオンの姿があった。
「シャルロット様、ご無事に到着されて何よりです」
「やあシオン、ご苦労さまっ」
お辞儀をするシオンにねぎらいの言葉を掛ける。
「この広場に隣接する樹木は好きに使って構いませんので、他に何か必要なものがあれば仰ってください」
「ありがとうレズリーさん…じゃあサファイア、早速取り掛かってくれるかな?」
『はい、分かりました…』
返事をした直後、サファイアの身体が変形を始め、みるみる巨人の姿へと変わってていく。
「おおっ!!これが噂に聞く『絶望の巨人』ですか…!!」
「どうです?凄いでしょう?」
レズリーが感嘆の声を上げる横で自慢気に胸を張るシャルロット。
「何でお前がそんなに誇らし気なんだよ!!」
「いいじゃない!!サファイアは僕の友達なんだから!!」
ハインツに額を人差し指でつつかれ憤慨する。
「ねえツィッギー姉さん、シャルロット様っていつもこうなの?」
「あ~…何て言ったらいいかな…シャルロット様とハインツ君は特別な関係なのよ…本当、ご馳走様って感じよね…」
耳長族の姉妹は言い争う二人に聞こえない様にヒソヒソ話をするのであった。
そうこうしている内に『絶望の巨人』と化したサファイアの右手の拳がガシャガシャと音を立てながら姿を変えていく…それはやがて巨大なチェーンソーに変わりギュイーンと唸りを上げる。
そして左手で樹の幹を掴み、右手のチェーンソーで切断…これを次々とこなしあっという間に丸太の山を築き上げてしまったではないか。
「凄い…サファイアが船を造ると言い出した時はどうなる事かと思ったけど、最初からこうするつもりだったんだね…なるほどなるほど」
「えっ!?シャル様…何も考え無しにサファイアに船の建造を任せたのですか!?」
グロリアが半分呆れたように驚く。
その顔を見てさすがにシャルロットもバツが悪くなったのか冷や汗を掻きながら目を逸らす。
「そっ…そんな訳ないじゃない!!サファイアは仮にも魔導人形だよ!?それなりのスキルを有していると踏んだから彼女に任せたんじゃないか…僕は団員を信頼しているからね…」
「はいはい…そう言う事にしておきましょう…」
やれやれと言った表情のグロリアと対照的に引きつり顔のシャルロット。
そうしている間もサファイアの作業は進み、夥しい数の角材と木板が成形されていった。
「これならそう時間は掛からずに完成するんじゃない!?」
シャルロットは満面の笑みを浮かべご満悦だ。
「イオちゃん、ちょっと…」
「はい?ベガ様どうしたのですか?」
「ついてらっしゃい…」
「…?」
イオは困惑していた…ベガの様子がいつもと違い神妙な感じがしたからだ。
しかもまるでシャルロットの目を盗む様に広場を後にしているのも気になる。
そんな事もあり一瞬躊躇したが黙ってベガの後を付いて行くことにした。
森を分け入り造船をしている広場からかなり離れてしまった…少し不安になる。
やがて草原に到着し、そこでベガは歩みを止めた。
「…イオちゃん…あなた、このままではこの騎士団の足手まといよ…」
「えっ…?」
訳が分からないといった表情のイオ。
「今のままではあなたはシャルロット様の役には立てないと言ってるの…」
「そっそんな…!?」
唐突に突き付けられる戦力外通告…一体ベガは何を思ってこんな事を言い出したのであろうか。
こはシェイドのアジト、彼の元にアークライトが呼び出されていた。
『シャルロットの側にいるあのベガとか言う魔導士を抹殺して来い…アイツは危険だ…』
会うなり苛立った様子で先に命令を伝えてくる…こういう時はシェイドの機嫌が特に悪い時とアークライトは知っている…そしてその命令はアークライトにとっては非常に実行し辛いものなのであった…それは魔法の実力とは関係ない所から来ている。
『…やはり知り合いを手に掛けるのは抵抗があるか?いや、お前にとっては知り合いなどと言うそんな言葉で片付けられるものではないか…』
『…いえ、シェイド様の命令とあれば…ですが許されるのでしたら理由をお聞かせ願えませんか?』
内心、穏やかではないがなるべく平静を装い質問を返すアークライト。
『いいだろう…グロリアに渡した指輪を介して奴らの動向を探っていたのだが、あのベガと言う魔術師はことごとくこちらの行動を予想し言い当てているのだよ…』
『成程…あ奴ならありえない話ではないですな…』
『ベガは間違いなくこれからの我々にとって邪魔な存在になるだろう…だから消せと言っている…一度マウイマウイに言った事のあるお前なら転移魔法ですぐに向かえるだろう?』
『分かりました、そう言う事ならすぐに出発いたします…』
これ以上ここに居ると内心を見透かされてしまう…早急に踵を返し部屋を出ようとしたアークライトであったが、そこへ背後からシェイドの声が掛かる。
『なあ…なぜ俺たちの側に奴はいなかったんだ?』
『申し訳ありませんがその問いには答えられません…失礼します』
シェイドに背を向けたままそう言い残しアークライトは足早に部屋を出て行った。
「船の事は任せろって…一体どうするつもりなんだいサファイア?」
元は魔王の手先、古代魔導兵器であったサファイア…シャルロットの仲間になってからも感情が希薄で無口だったその彼女が自発的に発言して来た事にさすがのシャルロットもいささか困惑気味だ。
『私の魔導思考回路では船を強奪するのが最適解と出ましたが、人間の判断基準ではその選択はしてはいけない事…そうですよね?』
「うん、そうだね…それでサファイアは次にどんな結論に達したんだい?」
『はい、所有者が船を出港させてくれないのであれば自分で船を造り出せばよいのでは…と考えます』
「えっ…?」
シャルロットは一瞬耳を疑った。
当然、船を作る事はそんなに簡単な事では無い…筏《いかだ》や小型のボートならともかく、虹色騎士団全員を乗せられる船を建造するとなるとかなりの時間と材料を要するだろう…ましてや船の建造の素人である自分らに出来るとは到底思えない。
「ちょっと待ってよ、僕たちが船を作るなんて無理だよ?」
『いいえ、船を作るのは私一人で十分です』
「サファイア…君、そんな事が出来るのかい!?」
『恐らく可能です…今一度、港で船を見させて頂ければ…』
シャルロットは又しても驚いた…サファイアに関しては未だ謎な部分が多いのは事実だが、彼女が物を作り出す事が出来るとは正直想像もしていなかったからだ。
「でもあまり時間が掛かるのも困るんだけど…」
『そこまでの日数は掛からないと思います…船を見てからでなくては正確な日数は何とも言えませんが…』
「そう…船の見学に関しては所有者にお願いすれば中も見せてもらえるんじゃないかな?」
『是非に…しかし一つ問題があります…船の建造にあたって大量の木材が必要です…こればかりは私にはどうにもなりません』
「ああそっか…それはどうしようかな」
「あの…ちょっとよろしいかしら?」
「ツィッギー…?」
ここでツィッギーが話に乗って来た。
「その木材、グリッターツリーの森の木を使ってはどうでしょう」
「えっ…!?大丈夫なのかい!?あの森の木は君たち耳長族にとってはとても大切な物なのでは!?」
シャルロットは子供の頃、アルタイルを探しに探検に行ったグリッターツリー…その時に森にある物は木の枝はおろか、石ころ一つ持ち出してはならないという話を聞いた事を思い出していた。
「シャルロット様、我々耳長族はエターニアに…あなたに未来永劫協力するとお約束しました…これは『輝きの大樹《グリッターツリー》』を救って頂いた我々からのお礼と思ってもらえばよいのですよ」
「ツィッギー…ありがとう…」
二人は手を取り合う。
「いいえ~では早速行動を起こしましょうか~よろしければこの件は私とサファイアちゃんに取り仕切らせてもらえませんか?」
「うん、それは構わないけど…」
「ありがとうございます~一緒に頑張りましょうねサファイアちゃん!!」
『はい、よろしくお願いします』
満面の笑みのツィッギーは勢いよくサファイアに抱きついた。
「話を円滑に進めるために私の妹である村長に手紙を書きましょう…シオン様、お願いできますか?」
「承知しました…私が先行してその手紙を村長様にお渡しして参りましょう」
「ではこれを持って行って」
ツィッギーが懐から取り出したのは紐が付いた小さな緑色の宝石だ。
それをシオンの掌に載せる。
「これは?」
「数年前、グリッターツリーに賊が侵入した事件の反省を踏まえて、今あの森には耳長族以外の人間の侵入を拒む結界が張ってあるの…でもこれがあれば森に入る事が可能よ」
「なるほど、お借りします」
「お願いしますね」
ツィッギーがサラサラと羊皮紙に文面をしたため、紐で結びシオンに手渡す。
それを受け取るなりシオンは素早く踵を返し部屋を出て行った。
こうして虹色騎士団は造船用の木材を調達するため一旦ポートフェリアを出て再びグリッターツリーを目指す事になった。
「あなた方は先の騒動で無罪放免になっておりますが、次回の入国を制限させていただきます事をあらかじめ申し上げておきます…」
港で船の見学を終えた後、ポートフェリアの北側の門を抜ける時に門番にそう言い渡された一行…制限と言っているが実質、入国禁止と同義であった。
「あの狸オヤジ…貰う物貰っておいてこの仕打ちとかありえねーです」
「何?何の話だい?」
「いいえ~何でもないんですのよ~?オホホホ…」
イオがうっかり口を滑らした事に慌ててフォローを入れるベガ。
(ちょっと!!シャルちゃんに言ったらダメってあれほど言ったでしょう!?)
(すみません、つい…)
ヒソヒソと囁くような声でイオを叱る。
「完成した船をポートフェリアに持ち込むの訳では無いですし、これでよいのですよ」
そう言うツィッギーの表情は晴れやかだ。
「ねえツィッギー…君は今回の作戦をどう考えているのかな?船は森の中で建造するにしたって完成した後どうやって海に運ぶんだい?」
「ふっふっふ~それはその時のお楽しみ…大丈夫、ちゃんと考えてありますから」
彼女はいたずらな笑みをシャルロットに向ける。
「まあ君がそう言うならこれ以上何も言わないけどね…ところで足の具合はどうだい?」
「ええ、お蔭さまですっかり!!飲んでよしかけてよしなんてアルタイル様の作られたあの回復薬は素晴らしい物ですね!!」
この遠征にあたって彼らはアルタイルから回復薬を小瓶で数本持たされており、死神に斬り付けられたツィッギーの傷に振りかけると見る見る傷が塞がっていったのだ…グロリアの足の捻挫の時より改良を加えられており明らかに効き目が向上していた。
「エッヘン!!そうでしょうとも!!ボクのお師様は凄いのですから!!」
「何でお前が偉そうなんだよ…お前は薬を貰って来ただけだろう」
「そうそう、あなたには一日も早く一人前になってもらわないと困るのだけど…」
「ハインツ殿~ベガ様~二人共酷いです~!!」
皆の笑い声が響く…そこへ突然突風が吹き込んで来た。
「うわっぷ!!何この風…!?」
風があまりのも強く一同は目も開けていられない…吹き飛ばされない様に必死に耐える。
そして数秒…何事も無かったかのように風は収まった。
「何だったんだろう今の風…びっくりしたね…」
「つむじ風か何かか?さっきまで無風だったってのに…」
シャルロットやハインツが一様に不思議がっている時、ベガだけは無言で立ち尽くしていた。
「お~いベガ…どうかした?」
「えっ…?いいえ、何でもないわ…ちょっと目にゴミが入っただけよ…」
シャルロットにそう答えながらベガは何かを上着のポケットにしまうのであった。
こうして虹色騎士団の徒歩での行軍は続く。
それからは特に問題も無く彼らが行軍して二時間ほどでグリッターツリーに到着した。
シャルロットにとっては数年ぶりの訪問になる。
「レズリー、帰って来たわよ!!」
「お帰りなさいお姉様」
村の中に入ると一人の耳長族の女性が出迎えてくれた。
その容姿はツィッギーに瓜二つだ。
「紹介します、この子は私の双子の妹、レズリーと申します…グリッターツリーの現村長です」
「村長のレズリーです!!よろしくお願いします虹色騎士団の皆様!!」
レズリーは満面の笑みで出迎えてくれた。
「初めまして、私はシャルロットと申します、宜しくお願いしますねレズリーさん」
スカートの裾を摘んで挨拶するシャルロットを見つめ頬を赤らめ呆けたように顔が緩むレズリー。
「はぁ…お噂はお聞きしていましたが何てお美しいのでしょう…」
「あっ…ありがとうございます」
彼女はシャルロットの手をギュッと握って来た…しかもその後も包み込む様で撫でまわすような動作をしてきたのでどこか妙な感覚を受けた。
(ごめんなさいね…この子、可愛い女の子に目が無いので…)
ツィッギーが耳元でささやく。
(ああ、成程…大丈夫、こういうのはもう慣れてるから…)
チラッとイオとベガを見やる。
「何かしら…?」
「いや~自分の気持ちをさらけ出せるっていいな~って事」
(シャルちゃん…あなたも本当は人の事言えないのよ…)
ベガも喉元まで言葉が出掛かったが心の中に押し留めた。
本人に男である事を教えてはいけないという三女神との約束故、仕方ない事とは言え、自分もそちら側だと言う事に自覚のないシャルロットであった。
「お話は先にいらしたシオン様からお聞きしてますわ、船を造るために木材と場所が必要とか…皆さまこちらへどうぞ」
レズリーに案内され虹色騎士団一行は森の奥へと入っていく…暫く進むとかなり大きく開けた広場に出た。
そこには既にシオンの姿があった。
「シャルロット様、ご無事に到着されて何よりです」
「やあシオン、ご苦労さまっ」
お辞儀をするシオンにねぎらいの言葉を掛ける。
「この広場に隣接する樹木は好きに使って構いませんので、他に何か必要なものがあれば仰ってください」
「ありがとうレズリーさん…じゃあサファイア、早速取り掛かってくれるかな?」
『はい、分かりました…』
返事をした直後、サファイアの身体が変形を始め、みるみる巨人の姿へと変わってていく。
「おおっ!!これが噂に聞く『絶望の巨人』ですか…!!」
「どうです?凄いでしょう?」
レズリーが感嘆の声を上げる横で自慢気に胸を張るシャルロット。
「何でお前がそんなに誇らし気なんだよ!!」
「いいじゃない!!サファイアは僕の友達なんだから!!」
ハインツに額を人差し指でつつかれ憤慨する。
「ねえツィッギー姉さん、シャルロット様っていつもこうなの?」
「あ~…何て言ったらいいかな…シャルロット様とハインツ君は特別な関係なのよ…本当、ご馳走様って感じよね…」
耳長族の姉妹は言い争う二人に聞こえない様にヒソヒソ話をするのであった。
そうこうしている内に『絶望の巨人』と化したサファイアの右手の拳がガシャガシャと音を立てながら姿を変えていく…それはやがて巨大なチェーンソーに変わりギュイーンと唸りを上げる。
そして左手で樹の幹を掴み、右手のチェーンソーで切断…これを次々とこなしあっという間に丸太の山を築き上げてしまったではないか。
「凄い…サファイアが船を造ると言い出した時はどうなる事かと思ったけど、最初からこうするつもりだったんだね…なるほどなるほど」
「えっ!?シャル様…何も考え無しにサファイアに船の建造を任せたのですか!?」
グロリアが半分呆れたように驚く。
その顔を見てさすがにシャルロットもバツが悪くなったのか冷や汗を掻きながら目を逸らす。
「そっ…そんな訳ないじゃない!!サファイアは仮にも魔導人形だよ!?それなりのスキルを有していると踏んだから彼女に任せたんじゃないか…僕は団員を信頼しているからね…」
「はいはい…そう言う事にしておきましょう…」
やれやれと言った表情のグロリアと対照的に引きつり顔のシャルロット。
そうしている間もサファイアの作業は進み、夥しい数の角材と木板が成形されていった。
「これならそう時間は掛からずに完成するんじゃない!?」
シャルロットは満面の笑みを浮かべご満悦だ。
「イオちゃん、ちょっと…」
「はい?ベガ様どうしたのですか?」
「ついてらっしゃい…」
「…?」
イオは困惑していた…ベガの様子がいつもと違い神妙な感じがしたからだ。
しかもまるでシャルロットの目を盗む様に広場を後にしているのも気になる。
そんな事もあり一瞬躊躇したが黙ってベガの後を付いて行くことにした。
森を分け入り造船をしている広場からかなり離れてしまった…少し不安になる。
やがて草原に到着し、そこでベガは歩みを止めた。
「…イオちゃん…あなた、このままではこの騎士団の足手まといよ…」
「えっ…?」
訳が分からないといった表情のイオ。
「今のままではあなたはシャルロット様の役には立てないと言ってるの…」
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唐突に突き付けられる戦力外通告…一体ベガは何を思ってこんな事を言い出したのであろうか。
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