プリンセス王子と虹色騎士団

美作美琴

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第40話 シャルロットのお見合い?

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 翌日…シャルロットはハインツと共に王国騎士団の馬房を訪れていた。
西方の遠征に向かう為の馬車を曳く馬を見立てる為だ。
虹色騎士団レインボーナイツは発足して間もない騎士団だ…それ故にまだまだ団運営に際して足りないものが多いのが現実である。
その為必要なものは当面、父シャルルの王国騎士団から借り受ける事になっていた。

「この子!!僕はこの子がいい!!」

雪の様に純白の毛並みの馬を前にシャルロットが声を上げる。

「こら、そんなに大声を出すな…馬が驚いてしまうだろう」

「あっ、ごめん…この子が可愛かったからつい…」

ハインツにたしなめられて静かにするも、その白馬の首筋を優しく撫でる。
白馬もシャルロットを気に入ったのか長い顔を彼女の頬に押し付けてきた。

「あははっ、くすぐったいよ」

白馬と戯れているとくたびれた帽子に胴長を着用した中年男性が揉み手をしながら近付いて来た。
どうやらこの馬房の管理者の様だ。

「これはシャルロット姫様…さすがはお目が高い、
この馬は気性は穏やかですがいざ駆けだすとまるで疾風の様に速いのです」

「へえ~そうなんだ…」

それを聞いて瞳を爛々と輝かせる。

「それじゃ駄目だな…」

「え~?何でよ?」

ハインツの一言で一転して不機嫌に頬を膨らます。

「いいか、馬車馬ってのはパワーとスタミナが重要なんだ…この白馬は単騎で走る分には優秀かもしれないが、馬車を曳くのには向いていないと思うぜ」

「そう言うものなの?」

「そう言うものなの!」

「そう…ハインツがそいう言うんなら仕方が無いね…」

残念そうなシャルロットの顔を見ると些か心が痛むが、馬選びは重要な事なので今回ばかりはハインツも妥協しなかった。

「オヤジ、大体同じ能力の馬車を曳くのに適した馬を四頭見立ててくれないか?」

「はい、かしこまりました」

「シャル様~!!兄上~!!」

管理者が馬房に引っ込んだタイミングでグロリアがこちらに向かってくるではないか。
しかも物凄く慌てた様子で全速力で走って来る。

「どうしたのそんなに慌てて…何かあったの?」

「ゼェ…ゼェ…シャル様…エリザベート様が呼んでおられます…」

「お母様が…?何だろう…」

「それならば仕方が無いな…馬は俺が調達しておくからお前は王妃様の所へ行って来るといい…」

ハインツが馬房の方へ行こうとすると不意に右腕を掴まれた…掴んだのはシャルロットだ。

「何だよ?」

「一緒に来てくれないかな?ハインツ…」

ハインツはシャルロットのいつもの悪ふざけだと思ってたしなめようと口を開けたが、シャルロットの様子が少しおかしいのに気付き何も言えなくなる。

「どうした…?」

「何だろう…凄く嫌な予感がするんだ…虫の知らせとでも言うのかな…」

普段見せない怯える様に視線を伏せる仕草にどきりとしつつも敢えてこう答える。

「また何か王妃様に怒られるような事でもしでかしたのか?」

「バカッ!!そんな事する訳ないだろう!?何だよまたって!!」

シャルロットにいつもやり込められている仕返しをここでするハインツ…深刻そうな空気が和らぐ…しかしいざエリザベートのもとに彼らが駆け付けると、シャルロットの悪い予感が現実のものとなる。

「お見合い!?私がですか!?」

「そんなに大きな声を出さないで頂戴!!」

シャルロットのあまりの剣幕にエリザベートは耳を塞ぐ。
ハインツとグロリアもお見合いと聞いて気が気ではない。

「何故いつもの様に最初からお断りしなかったのです!?お見合いならすべてお断りする様に言ってあったではないですか!!お母様だっていつもそうして来られたはず!!それはそうと何故このタイミングなんです!?私は数日の内に西方へ遠征に赴くのですよ!?」

シャルロットのお見合い嫌いは城内のみならず、国民も大半は知っている事実だ。
なお理由もほぼ知れ渡っている…皆、姫はハインツとくっ付くと噂しているし、
当然シャルロット本人もそのつもりだ。
エリザベートがお見合いを断る理由の一つも勿論それだが、もう一つ…どちらかと言うとこちらの理由の方が大きい…そう、シャルロットが男の子であることが他国に、世界に知られない様にするためである。
無論、男を嫁に差し出された相手国は激怒するであろうし、エターニアの評判も地に落ちる事だろう…しかし世界平和のためとはいえ、そう育ててしまったのは他ならぬエリザベートなのだ…我が子には幸せになって欲しい…やりたいように生きて欲しい…そのためにはやれる事は何でもする。
それがエリザベートが自分に課した罰なのだ。
しかし今回はそうもいかない理由があった。

「落ち着きなさいシャルロット…」

エリザベートが矢継ぎ早に言葉を発するシャルロットにたじろいでいると、そこに後ろからある女性の声が割って入る。

「この縁談は私が持ち込んだんですのよシャルロット…」

「えっ…フランソワ叔母様…!?」

シャルロットが振り向くとそこには彼女の叔母であるフランソワと、更にその後方にはイケメン執事が立っていた。

「ご機嫌よう叔母様…でも何故なのですか?叔母様も私がお見合い嫌いなのを知っている筈ではないですか!」

いつもの挨拶をした後、フランソワまでも問い質す…シャルロットの憤りは未だ収まってはいなかった。

「あなたはもう少しで成人するのですよ?婚約者くらい居ても良い頃合いです…」

「ですが私には今やるべき事があります…それを成し遂げない内は婚約だとか結婚だとか考えている余裕はありません」

「魔王の復活…あんなおとぎ話を信じているのですか?」

「お言葉ですが叔母様…それはおとぎ話ではありませんわ!!現にその魔王の配下が暗躍していて私は何度もその者達と戦っています!!」

「その者達が本当に魔王の配下だという証拠はありますの?ただそう騙っているならず者なのでは無くて?」

「仮に騙りだとしてもあのような危険な集団を放置してよい筈がありません!!」

次第にヒートアップするシャルロットに対してフランソワは一歩も退かなかった…しかしこのまま言い争っていてもシャルロットは縁談に対して絶対に首を縦に振らないだろう…それこそシャルロットが生まれてからの付き合いなのだ、フランソワも重々承知している…そこでフランソワは口論の焦点を変えることにした。

「本当にあなたったら強情ね…お姉様、先程私がお姉様に渡したマウイマウイ公国の親書をシャルロットに見せてあげて下さらない?」

「…いいでしょう…あの親書をシャルロットへ…」

エリザベートは侍女に命じてある書簡をシャルロットに手渡した。
書簡から手紙を取り出すとそこにはマウイマウイ公国の第一王子、カルネとのお見合いを要望する文章と何やら円形の図解が書き込まれていた。

「この円形の物は…!!」

シャルロットは自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じる…これは彼女の直感だがほぼ間違いないという確信が彼女にはあった。

「それは『現在の盾』…シャルロット、あなたが王子と結婚してくれるのならばマウイマウイ王は自国の国宝である『現在の盾』をエターニアに進呈してもよいと言って来ているのよ…」

エリザベートが力無くつぶやく…実に彼女らしくない。
どうやら彼女がお見合いを断り切れなかった理由はここにあった様だ。

「そんな…!!これは世界の宝!!どこか一国が独占して良いものではない筈です!!しいて言うなら女勇者の末裔であるエターニアが責任をもって預かるべきものではないですか!!これは即刻マウイマウイに抗議するべきです!!」

まさか長年探し続けていた『現在の盾』がこんな事で見つかるとはシャルロットも思いもよらなかった。

「それが、事はそんなに簡単ではないのですよ…あなたにも分かるでしょう?」

何故エリザベートが弱腰かというと…
マウイマウイ公国とエターニア王国は国交が殆ど無い…故にエターニアの調査の手が及んでいないのだ。
迂闊に申し出を断ろうものならどんな外交問題に発展するのか想像もつかない。
魔王の脅威以外で、こう言った人間同士、国家同士の軋轢が世界を危機に陥れかねないとは何たる皮肉か。

「分かりました…このお見合い、受けましょう…」

「まあ、やっと理解してくれたのねシャルロット!!叔母さん嬉しいわ!!」

ガバッとフランソワがシャルロットに抱きしめる…しかしシャルロットの表情は晴れない…母であるエリザベートも同様だ。
一旦この話はここで終わらせ、シャルロット達は部屋を出た。
廊下を不機嫌に大股で歩くシャルロットにハインツが問いかける。

「おいおい!!お見合いを受けるなんて本気か!?」

「…無いだろう…」

「えっ…!?」

「本気な訳無いだろう!?何で僕が…以外と…」

シャルロットの声は始めこそ大きかったがどんどん尻蕾になりハインツには聞き取れないほど小さくなっていった。

「今何て…?」

「そんな事は気にしなくていいの!!」

顔を真っ赤にし、手を振り回して誤魔化す。

「それよりどうするんですか?まさか盾を手に入れるために結婚を?」

グロリアが顔を青ざめ狼狽える。

「二人共良く聞いて…西方の遠征は中止するよ…」

「そうか…」

あんな事があった後だ、当然そうするだろうとは思っていた…しかしシャルロットの言動には続きがあったのだ。

「西方の遠征はは中止する…けど、新たな遠征先は南方だよ!!」

「何だって!?」

「誰が黙って知らない男の嫁になんてなるもんですか!!こうなったら僕が直接マウイマウイに乗り込んで盾を渡す様に交渉してやるんだから!!」

力強く右の拳を宙に突き挙げるシャルロット。
やれやれと思いつつもそれでこそシャルロットだと安心したハインツとグロリアであった。
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