プリンセス王子と虹色騎士団

美作美琴

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第37話 混乱する戦場

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 「過去の鎧よ来たれ!!」

シャルロットがそう叫んで天に向かって右手を上げる。
すると彼女目がけて空から激しい落雷が起った。
眩い光が辺りを包み込み、その場にいた全員の目がくらみ身動きが取れなくなってしまった。

「シャルロット!!」

彼女を案じて声を張り上げるハインツ。
やがて雷光が収まっていくと徐々にシャルロットのシルエットが鮮明に浮かび上がる…彼女は三種の神器の一つ、『過去の鎧』を纏ったまま仁王立ちしていた。

「アイツ…神器を自分で呼び寄せられるようになっていたのか…」

ハインツは神器を纏ったシャルロットを見るのは初めてでは無い…しかしその神々しさと迫力に圧倒されてしまうのであった。
実際、今彼女が神器を召喚しただけで虹色騎士団レインボーナイツを取り囲んでいた帝国兵士の大半が卒倒していた…意識を保っている者も腰が抜けたり、あたふたと地面を這いずりながら逃げ惑ったりと混沌を極めていた。

「なっななな…!!何なんだ貴様は!?」

目の前で起こった事が信じられず大いに動揺するドミネイト。

「あなたには人として大切なものが欠落しているらしい…大抵の事では怒らないと自負している僕もさすがに我慢の限界だ…」

今迄見せた事が無い物凄い怒りの形相でドミネイトを睨みつけるシャルロット。
力強い足取りでドミネイトに歩み寄っていく。

(さすがにあのシャルロットもキレるか…まあ無理もない…)

ハインツがそんな事を心の中で考えていたその時…。

「ハインツ!!これを!!」

目の前の地面に上空から降って来た槍が刺さる…見上げると砦の扉の上の見張り台にシオンが居るではないか。

「おう!!さすがシオン、助かるぜ!!」

「よ~し!!私も少しは役に立たないとね!!」

弓と矢の入った筒を受け取ったグリーンのドレスのツィッギーは目にも留まらぬ速さで次々と矢を放っていく…すっかり戦意を喪失した帝国兵士たちは蜘蛛の子を散らす様に逃げ回っていた。
尚もシオンは虹色騎士団レインボーナイツのメンバーに向かって次々と専用武器を届けていく。
これはシャルロットの指示で、もし交渉が失敗して戦闘へと発展した場合に備えてシオンに予め準備させてあったのだ。
要するにシャルロットもドミネイト帝国に丸腰が通用するとは始めから思っていなかったと言う事になる。

「ひっ…!!ひいいいいいいっ!!」

ドミネイトはなりふり構わず逃げ出していた…地面にへたり込んでいる兵士たちを気に掛けるでもなく、それらを押しのけ自分だけ逃走したのだ。
無論それを許すシャルロットではない…地面を一蹴りで瞬時にドミネイトの背後まで迫る。

「ほらお前達!!皇帝である儂を守れ!!」

「はっ!!」

まだ戦意の残っている兵隊が数人、大型の盾を構えドミネイトを守るべく進路を塞ぐ…しかしそんな物は今のシャルロットには通用しない…彼女が闘気を纏った右の拳を突き出しただけで大型の盾がまるで木枯らしに吹かれた木の葉の様にことごとく吹き飛ばされていった。

「ひゃあああああっ!!!ぐえっ…」

その煽りを受けドミネイトも吹き飛び背中から地面に落下した。
そこに向かってシャルロットがゆっくりと歩みよる。

「ひっ!!来るな化け物めっ…!!」

ドミネイトは必死に後ずさりするが、怯えてしまって身体が思う様に動いてくれない。
しかしここでシャルロットが立ち止まる…ドミネイトの後ろにある人物が立っていたからだ。

『これはこれはシャルロット姫…最近はよく会いますな…』

「シェイド!!やはり現れたね…」

二人は睨み合う。

「おおっシェイド殿!!いい所に来てくれた!!早く巨人を使ってこの者達を倒してくれ!!」

「…巨人ならここに…」

シェイドが指を鳴らすと途端に地面が大きく揺れる…すると帝国の城と城下町のある近辺の地面を突き破り赤い身体の巨人が出現した。
崩れ落ちる城壁、建物、悲鳴を上げ逃げ惑う民衆…この光景はまるで地獄絵図の様であった。

「あああっ…儂の城が…儂の街が…シェイド貴様っ!!何ということを事をしてくれたんだ!!」

物凄い剣幕でシェイドにしがみ付くドミネイト…しかしシェイドは全く意に介さずドミネイトの首根っこを掴み吊るし上げる。

「うわぁ何をする!!貴様…皇帝である儂にこんな事をしてタダで済むと思っているのか!!」

「ギャアギャアうるさいんだよこのジジイ!!皇帝がどれほどのものだって言うんだ!?ああっ!?」

「ひっ!!」

シェイドが血走った眼球でドミネイトを睨む。
突如として態度が豹変したシェイド…そのあまりの眼力にドミネイトは縮みあがってしまった。
そしてそのまま反動をつけて放り投げられしまい、悲鳴を上げながら倒れている兵士たちの所へと落下した。

「せめてもの情けだ…地面や壁に叩き付けられなかっただけありがたいと思え…」

手で身体の埃を祓う様な仕草をしながらいつもの冷静さを取り戻していく。
赤い巨人は尚も街を破壊していく…帝国その物を無かった事にしそうな勢いだ。

「サファイア!!あの赤い巨人は君の姉さんなんだよね!?何とか暴れるのをやめさせられないかい!?」

『はい、やってみます…』

サファイアの身体の至る所が一斉に開き、体内に押し込められていた骨格や装甲が一気に体外に飛び出した。
みるみる巨大化していくサファイア…彼女は青い巨人の姿に変形を完了したのであった。
そしてそのまま全速力で赤い巨人に向かって走っていく。
赤い巨人もサファイアの登場に気付き両腕を前に突き出すと、向かって来たサファイアと組み合った。
お互いの腕がギシギシと金属が軋む様な音を上げている。
両者、パワーは全くの互角…動きが止まる。
すると赤い巨人はサファイアの腹に右足で蹴りを入れてきた。
突き飛ばされたサファイアは後方に倒れ込み、建物を派手に粉塵を巻き上げながら押しつぶしていくと軽度の地震並に地面を揺るがした。
すかさず上に覆い被さろうとする赤い巨人であったが、今度はお返しとばかりに寝転がったサファイアが赤い巨人の腹を蹴り返した…怯む赤い巨人。
そこから一進一退の攻防が繰り広げられ、結局街は破壊を免れることなく瓦礫の山を増やしていくだけだった。
その光景を眉をひそめながら見つめていたシャルロットはシェイドに視線を移し口を開いた。

「シェイド…お前はやはり巨人が目当てだったのかい?」

『ああそうとも…本来ならエターニアの地下遺跡の青い巨人を起動させ、手っ取り早くお前の国を滅ぼしてやろうと思っていたのにまんまとお前たちに妨害されたからな』

シェイドは肩をすくめて見せるがシャルロットの追及は尚も続く。

「それで今度は帝国に眠る赤い巨人かい…しかしそれだけなら何故ここまで帝国を破壊する必要がある?」

『ああ…言いたい事は何となくわかるよ…何故帝国を拠点にしてエターナルに攻め込まないのか…』

シャルロットの沈黙の眼差し…どうやらシェイドは彼女の図星を突いた様だ。

『初めはそのつもりだったんだが、単にその必要が無くなった…なに、ちょっと面白い情報を得たんでね…今は言えないが後で面白い事が起るよ、楽しみにしている事だ…あっ、それと騎士団設立おめでとう…虹色騎士団レインボーナイツだったかな?改めてお祝いの挨拶に伺うよ…ではまたその内に…』

「おい!!待てシェイド!!」

シェイドの傍らに黒マントの魔導士が空間を割って出現、シェイド共々その空間の歪みに入りその場から姿を消した。
その直後、赤い巨人も忽然と姿を消した…あれほどの巨体が瞬時に衆人環視の前で消え去ったのだ。

(何故シェイドが虹色騎士団レインボーナイツの事を知っている?
そして巨人が姿を消した…まさかサファイアと同じく小型化した?まさかそれでは…)

自身の身体を両腕で抱きしめその場に膝を着く。
何とも形容しがたい不安がシャルロットの全身を悪寒として駆け巡った。

「お~い!!大丈夫か!?」

ハインツがドレスのスカートをつまみ上げこちらに向かって走って来る。
ドレスは暴れ回ったせいでビリビリに裂けていた。
虹色騎士団レインボーナイツの活躍で粗方戦闘が収束した所に、ほぼ間を置かずシャルル国王が率いる王国騎士団が到着、この場の収拾にあたっていた。

「ハインツ…」

「どうした!?顔色が悪いぞ!?」

シャルロットは顔面蒼白で身体も小刻みに震えていた。

「こちらの情報がシェイドに漏れているみたいなんだ…奴は虹色騎士団レインボーナイツの事を知っていた…まだエターニアの国民にすら公表していないのに…それと赤い巨人が消えたのも、サファイア同様に少女の姿になったのではないかな…それなら消えたように見える…でもその方法を何処から知ったんだろう?」

「何だって!?それって…」

「どうやら内通者がいるようですね…いや、裏切り者と言うべきか…」

「シオン!?それは本当か!?」

二人の背後にはいつの間にかシオンが居た。

「はい…そういう情報は掴んでいました…ここまで情報が洩れているのであればその線が強いかと…」

「何故そんな重要な事をすぐに報告しなかった!?」

ハインツが声を荒げる。

「申し訳ありません…情報元が情報元だけに半信半疑だったもので…以降気を付けます…」

シオンには言える訳はなかった…情報元が敵の陣営に居るリサである事を…
見方を変えるならばシオンも敵と内通している事にもなり兼ねないからだ。

「ハインツ、シオン、この事は誰にも言っては駄目だよ…悪いんだけどシオンには他の仲間をそれとなく探ってくれないかな?本当はこんなことしたくは無いんだけど…」

「承知いたしました…」

シオンはすぐさま小走りでその場を離れていった。

「まさかこんな事になるなんてね…」

「大丈夫か?」

「うん…ちょっとだけショックだったかな…でも裏切り者が出ると言う事は僕がまだまだ人間として未熟だって事だから…」

ここまで元気の無いシャルロットを見るのはハインツは初めてだった。
敵対する者から嫌悪や憎悪の感情を向けられるのはある程度慣れてくるものだが、こと身内となるとまた話は別である。

「当たり前じゃないか…」

「えっ?」

「お前はまだ十五年ちょいしか生きていないんだぞ?未熟なのが当たり前だろう…
お前はお前でいい所が一杯あるんだ…少しづつ成長していけばいい…」

シャルロットからわざと顔を背けてハインツが言う…彼女の顔を見て励ましの言葉を言うのが恥ずかったのだ。

「…バカ…でもありがとう…」

シャルロットがハインツの胸に飛び込む。
ハインツも最初は戸惑ったがシャルロットが落ち着くまでそのままでいる事にした。

その後…暫定的ではあるがドミネイト帝国はエターニア王国の管理下で復興を進める事になった。
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