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第30話 裏切りの序曲
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「う…ん…はっ!?ここはっ!?」
グロリアは目が覚めるなり勢いよく上体を起こす。
辺りを見回すとそこは鍾乳洞であり水の滴る音がそこかしこから聞こえてくる。
ただ不思議なのは明かりの類が無いのに鍾乳洞内が明るいと言う事だ。
この鍾乳洞には自ら発光することができるピカリゴケという苔の一種がそこら中の岩や天井、壁面に自生しており洞内をほのかな緑色に照らしているのだ。
奥から足音がする…シャルロットか?ハインツか?いやもしかしたら敵かも知れない…。
グロリアは身体を起こし立ちあがる…しかし右足に激痛が走りよろめいた。
どうやらここに落下した時に足を痛めた様だ。
仕方なくしゃがんだ状態でレイピアを構える。
『お前もここに落ちたのかグロリア…』
「お前は…!!」
彼女の目の前に現れたのはよりによって敵であるシェイドであった。
彼は無傷の様で何事も無く行動していた。
グロリアは素早く立ち上がり構えを取る…しかし又しても足が痛み、体勢を崩してしまう。
『なんだ…足を痛めているのか?』
「お前には関係ないだろう!!さあさっきの決着を着けよう!!」
痛みを我慢しているせいで身体に変に力が入ってしまっている…これではまったくシェイドの相手にはならないだろう。
シェイドはやれやれといった手ぶりをした後、腰の剣を鞘から抜かずに持った。
そして瞬時にグロリアの右側面に回り込みその鞘の先端で彼女の右足を叩いたのだ。
「うっ…うわああああっ…!!」
グロリアはあまりの激痛に悲鳴を上げ倒れ込みそのまま気絶してしまった。
『まったく…相変わらず無理をする娘だ…』
優しげな声でそう言うと、シェイドはグロリアを両手で抱きかかえるとそのまま鍾乳洞を後にした。
落下中に戦闘を続行していた者達が居た…シオンとその相手、シェイドの仲間の暗殺者だ。
落ちていく無数の瓦礫を足場にして跳躍しながらお互い刃を交えていた。
それは既に常人が行えるレベルを超えており、目にも留まらぬ速さで戦闘が繰り広げられているのだ。
やがて下の階層に着地したが足場が安定した事により更に戦闘が激化していった。
シオンが手裏剣を投げれば暗殺者がダガーを投げ相殺する。
暗殺者がナイフで斬りかかって来ればシオンは忍者刀で応戦する。
両者の実力はほぼ互角であった。
しかしこの戦闘にシオンは既視感を持っていた…確かに以前、こんな戦闘スタイルの人物と戦った事があると…。
ふと先程この暗殺者がグロリアに掛けた言葉が脳裏を過った。
(へぇ…まさかあなたがこんな騎士まがいの事をしているなんてね…意外だわグロリア…)
「まさかお前は…リサか…!?」
シオンの呼びかけにより暗殺者の動きが止まる…そしておもむろに顔の下半分を覆っているマスクを手で下げた。
「あ~~あ…まさかここにあなたが現れるなんて…失態だわ…後でシェイド様に叱られてしまうわねこれは…」
現れた顔は紛れもなくシャルロット暗殺未遂事件の実行犯で、シオンが追い詰めた際に自害したあのリサであった。
「何故お前が生きている?それとも死んでいなかったのか?もしやシェイドとか言う輩に蘇生されたか…いや、今の世にそんな魔法も技術も存在しない筈…」
いつも冷静なシオンがこの時ばかりは混乱していた。
確かにリサが自害した際、シオン自らが死亡を確認した上に埋葬までしたのだ…生きているはずが無い。
「ざ~んねん!!そのどちらでもないわ…真実を話した所であなたには理解できないだろうし…もともと言う気も無いんだけど…ね!!」
リサは煙玉を地面に叩き付けた…まだこの場の地形を確認する前だったのでシオンは迂闊に動けなかった…煙が晴れるとリサの姿は既に消えていた。
「逃がしたか…この敵勢力…得たいが知れないわね…」
シオンは一人洞窟内に立ち尽くしそう呟いた。
「痛った~~~っ…」
シャルロットはしきりにお尻をさすっている。
広間の落下時に『絶望の巨人』が丁度彼女の下に入り込み地面への激突の衝撃が多少だが緩和されたのだ…したがって彼女の足元には『絶望の巨人』が横たわっている。
地面に叩き付けられたせいなのか『絶望の巨人』は機能を停止していた…目の光も今は消えている。
「しっかし何で僕が触ったら起動したんだろうこの子…しかも襲い掛かって来るし…」
よく魔法力が強いだとか特別な血筋の者が古いマジックアイテムに触れて起動してしまったなんて話は稀にある事だが、大抵はその者が使役するか言う事を聞くと言うのが定番だ…しかしこの巨人はシャルロットに躊躇なく襲い掛かって来たのだ。
だが今は全く情報が無い状態だ…この場にアルタイルが居れば何か分かったのかもしれないが言っても始まらない。
「また動き出さない内にっと…」
シャルロットは『絶望の巨人』の胸の上から降りようと手を突いた…そこには何か掌ほどの大きさの突起があり思わず押してしまう。
すると巨人の身体が青白く発光し始めたではないか。
「うわっ!!まさかまた~~!?」
また動き出して襲ってくるのかと思い急いで巨人から飛び降り、近くにある大き目な瓦礫に身を隠す。
そこから覗き込むように様子を窺う…しかし巨人が立ち上がる気配は全くない。
「一体何だったんだろう…」
ホッとするのもつかの間、巨人の体中の装甲の至る所が一斉にパカパカと開き始めたではないか…その様はまるで大型の生き物が解体されていく工程を想像させ、少し不気味であった。
ひとしきり蓋が空いた状態になると今度は折り紙の様に折りたたまれ始めどんどんその容積を減らしていった…そして遂にそれは一糸纏わぬあどけない少女の姿に変わってしまったのだ。
「これは…どうなってるの…!?」
考えるより先に好奇心が勝り、シャルロットは横たわるその少女の側まで駆け出していた。
あの巨人がこんな小さな女の子になってしまうなんて…まるで物理法則と常識を無視した挙句に踏みつけてから蹴とばしてしまった様な感じだ。
「君!!大丈夫!?…ってあれ?」
シャルロットがその子の首の後ろに手を回し上体を起こそうにも、まるで鋼鉄の塊を持ち上げようとしているとくらいビクともしなかった。
しかし少女の目蓋がゆっくりと開く…その瞳は真っ青で、覗き込むと吸い込まれるのではないかと錯覚を起こすくらい美しかった。
『アナタガワタシノマスターデスカ?』
少女は片言でシャルロットに話しかけてきた。
「マスター?いや、僕は君とお友達になりたいな…それじゃ駄目かな?」
『オトモ…ダチ?』
「そう、お友達」
何やら少女の頭の中からカシャカシャと機械的な音がしてくる…やがてその音が収まると少女は棒の様に真っすぐの状態のまま踵を起点に起き上がった。
『トモダチ…フレンドトウロクシュウリョウ…トライアルシヨウキカンデサイキドウヲカイシシマス…ワタシニナマエヲツケテクダサイ…』
「なんだ…君名前が無いのかい?え~とそれじゃね~…」
シャルロットは顎に人差し指を当て少女の名前を考える…そして一つの名前を思い付いた。
「君の名前はサファイア!!サファイアの様に真っ青な瞳だからサファイア…どうだい?」
『サファイア…ナマエノトウロクヲカンリョウシマシタ…キョウカラワタシノコトハサファイアトオヨビクダサイ…』
「うん!!よろしくねサファイア」
シャルロットがサファイアの手を掴む…その手はとても冷たかった。
「お~~い無事か!?」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてくる…ハインツが手を振りながらこちらに向かって来た。
「ハインツ!!こっちこっち!!」
「やっと見つけた…あれ?ところでこの子は?」
ハインツの視線がサファイアに移る…しかし彼女は未だ裸のままだったのだ。
「ハインツのエッチ~~~~~!!!」
「何で~~~!!?」
シャルロットの平手がハインツの頬に炸裂!!きりもみしながら吹っ飛んでいく。
シャルロットはハインツから上着を借りサファイアに着せた、袖が余ってダラーンと下がっているがこの際仕方が無い。
「何!?この子があの青い巨人だって言うのか!?」
「うん…どう言う訳かこの姿になっちゃって…」
サファイアはシャルロットと手を繋いで歩いている…ただ非常に無表情で何を考えているのかさっぱり読み取れないのだ。
「ほら見えてきたぞ…ここが本来のこの遺跡の出入り口だ」
巨人がいた大広間と同じほどの広さの部屋、その眼前には人の背丈を大きく超える程の高さを誇る扉が存在していた。
「はぁ…やっと一息付けるね…」
「お前はここで休んでいろ…おれはグロリアとくのいちを探して来る…」
「あっ…それなら僕も行くよ!!」
「お前はその子を見てろ…まだ敵が潜んでいるかもしれないんだ…丸腰のお前じゃ足手まといだよ」
「なんだよ!!そんないい方しなくてもいいだろう…!?」
こちらに背を向けたまま手を振ってハインツは再び遺跡の奥へと行ってしまった。
「あれ…ここは?」
グロリアが再び目を覚ますとそこは石造りの部屋だった。
どうやら遺跡の地上部の一室の様だ。
痛めていた右足を見ると足を挟むように当て木がしてあり布を巻かれて固定されていた。
『目は覚めたか?』
僅かに離れた位置にシェイドが立っていた。
「この手当てはあなたが…?」
『ん…?ああそうだな…』
バツが悪そうに横を向くシェイド。
「ありがとうございました…何とお礼を言っていいか…」
『気にするな…初めから手負いの者を倒しても何の自慢にもならないからな…』
本来は敵味方の関係の二人だが受けた恩への礼は尽す…グロリアはそういう娘であった。
「ところで…何故あなたは私の名前を知っていたのですか?さっき呼んでましたよね?グロリアって…」
『………』
だんまりを決め込むシェイド…その質問の答えは言いたくないらしい…しかし暫くして彼から語られた内容は衝撃的なものであった。
『俺はもう君を傷つけたくない…なあグロリア…君は俺の仲間にならないか?』
「なっ…?」
グロリアは一瞬何を言われたのか分からなかった…だが冷静になるとこの誘いに乗ると言う事はシャルロットとハインツ、そして国のみんなを裏切ると言う事だ…。
『いきなりこんな事を言われて決心がつかないか…?ならばこれを渡しておく…』
シェイドから渡された物は真っ赤な宝石が嵌った黒い指輪であった。
「これは…?」
『俺の仲間になる決心がついたのならその指輪を左手の薬指に嵌め俺に呼びかけろ…すぐに迎えに来てやる…』
「えっ…」
戸惑うグロリア…これではまるで結婚指輪ではないか。
『知っているぞ…君が想い人と結ばれる事は絶対にない…その者には別の相手がいるからな…これからずっと今の場所に居ても辛いだけだと思うんだがな…』
「何でそんな事を…」
『時間はまだある…いい返事を期待しているよ…』
耳元でささやき、言葉巧みにグロリアを誘惑するシェイド。
「グロリア!!無事か!?」
勢いよく部屋の入り口からハインツが入って来た。
グロリアの側にシェイドが居るのを見るや否やハインツは戦闘態勢に入り槍を構えて突進して来た。
「てめえシェイドォ!!俺の妹から離れろ~~~!!」
槍を構え突進するハインツ…シェイドを捉えようとした瞬間、眼前に黒い影が現れその一撃を防いでしまう。
「何ぃ!?」
ハインツの槍を受け止めたのは黒いフードと髑髏を模した仮面を被った人物の持つ大きな鎌であった…まるで伝承に出てくる死神の姿その物のイメージだ。
そしてもう一人、金属をこすり合わせる音を立てこちらに歩いてくる…所々青いラインの入ったシェイドとは別の意匠の全身鎧を身に纏った槍を持った男まで登場したではないか。
『コハー…コハー…』
全身鎧の男は呼吸音の身を響かせじっとハインツを睨んでいる様だ。
(コイツら…どっから湧いて出やがった!?)
直前まで全く気配がしなかった…その人物らはそれこそ死神の様に突然現れたのだ。
『シェイド様…こちらにおられましたか、探しましたぞ』
『グリムか…それにハイドまで来るとは大袈裟だな…私があんな落盤ごときでどうにかなるとでも思ったのか?』
『いえ…決してそのような事は』
『大方ティーのお節介だろう?…まあ良い…ここは素直に感謝するよ』
『勿体なきお言葉…』
鎌の持ち主…グリムと呼ばれた黒フードの男と黒居フルプレートアーマーのハイドはシェイドの前に立つとそれぞれの武器を構えハインツと対峙する。
『少年…これ以上やるというのなら命を失う覚悟が出来ていると言う事でよろしいか?』
「何を!!そんな脅しに俺が乗るとでも……なにっ!?」
ハインツの全身に言い知れぬ悪寒が駆け巡る…グリムの恫喝に対して声を荒げたハインツであったが、髑髏の仮面から覗くグリムの妖しく赤く光る眼光に睨まれ身体が動かせなくなっていた。
この感覚は紛れもなく恐怖…ここから一歩でも彼に近づこうものならたちまち命を奪われてしまう…そんな恐ろしさをハインツの身体は無意識に感じ取ってしまったのだろう。
『相変わらずの猪突猛進振りだなハインツ君…しかし今の私は戦闘って気分ではないのだよ…だからここは痛み分けといこうじゃないか…』
「お前!!逃げるのか!?」
『口の利き方には気を付け給え、ここに居るグリムとハイドだけでも君を討ち取るには十分すぎる手練れなのだよ?…ではまた会おう…さらばだ!!」
シェイド達三人は一斉に走り出した。
シェイドは最後にグロリアに目配せするとマントを広げそのままグリム、ハイド共々遺跡の窓から外に飛び出していった。
「畜生…また逃げられたか…グロリア無事か!?アイツに何かされなかっただろうな!?」
「う…うん大丈夫…何もされてないよ…」
さっと指輪を後ろに隠す。
その後、無事帰還を果たしたシオンと合流、一行は迎えに来たグラハムと彼が連れてきた騎士団と共に城への帰路に就いたのであった。
「………」
その日の夜…満月に照らされた自室のベランダには黒い指輪を見つめるグロリアの姿があった。
(お前は想い人と結ばれる事は絶対にない…その者には別の相手がいるからな…これからずっと今の場所に居ても辛いだけだと思うんだがな…)
「言われなくても分かっているわよそんな事…私がどんなにシャル様を好きになっても女同士…絶対に結ばれない…それにシャル様の心には兄上がいる…」
ベランダの手すりに顔を乗せ突っ伏す。
(時間はまだある…いい返事を期待しているよ…)
ブンブンとかぶりを振り頭に中に響くシェイドの声を掻き消そうとする。
「…私は…どうすればいいの…?」
暫くベランダに立ち尽くすグロリア…夏だというのに彼女に吹き付ける風は冷たかった…。
グロリアは目が覚めるなり勢いよく上体を起こす。
辺りを見回すとそこは鍾乳洞であり水の滴る音がそこかしこから聞こえてくる。
ただ不思議なのは明かりの類が無いのに鍾乳洞内が明るいと言う事だ。
この鍾乳洞には自ら発光することができるピカリゴケという苔の一種がそこら中の岩や天井、壁面に自生しており洞内をほのかな緑色に照らしているのだ。
奥から足音がする…シャルロットか?ハインツか?いやもしかしたら敵かも知れない…。
グロリアは身体を起こし立ちあがる…しかし右足に激痛が走りよろめいた。
どうやらここに落下した時に足を痛めた様だ。
仕方なくしゃがんだ状態でレイピアを構える。
『お前もここに落ちたのかグロリア…』
「お前は…!!」
彼女の目の前に現れたのはよりによって敵であるシェイドであった。
彼は無傷の様で何事も無く行動していた。
グロリアは素早く立ち上がり構えを取る…しかし又しても足が痛み、体勢を崩してしまう。
『なんだ…足を痛めているのか?』
「お前には関係ないだろう!!さあさっきの決着を着けよう!!」
痛みを我慢しているせいで身体に変に力が入ってしまっている…これではまったくシェイドの相手にはならないだろう。
シェイドはやれやれといった手ぶりをした後、腰の剣を鞘から抜かずに持った。
そして瞬時にグロリアの右側面に回り込みその鞘の先端で彼女の右足を叩いたのだ。
「うっ…うわああああっ…!!」
グロリアはあまりの激痛に悲鳴を上げ倒れ込みそのまま気絶してしまった。
『まったく…相変わらず無理をする娘だ…』
優しげな声でそう言うと、シェイドはグロリアを両手で抱きかかえるとそのまま鍾乳洞を後にした。
落下中に戦闘を続行していた者達が居た…シオンとその相手、シェイドの仲間の暗殺者だ。
落ちていく無数の瓦礫を足場にして跳躍しながらお互い刃を交えていた。
それは既に常人が行えるレベルを超えており、目にも留まらぬ速さで戦闘が繰り広げられているのだ。
やがて下の階層に着地したが足場が安定した事により更に戦闘が激化していった。
シオンが手裏剣を投げれば暗殺者がダガーを投げ相殺する。
暗殺者がナイフで斬りかかって来ればシオンは忍者刀で応戦する。
両者の実力はほぼ互角であった。
しかしこの戦闘にシオンは既視感を持っていた…確かに以前、こんな戦闘スタイルの人物と戦った事があると…。
ふと先程この暗殺者がグロリアに掛けた言葉が脳裏を過った。
(へぇ…まさかあなたがこんな騎士まがいの事をしているなんてね…意外だわグロリア…)
「まさかお前は…リサか…!?」
シオンの呼びかけにより暗殺者の動きが止まる…そしておもむろに顔の下半分を覆っているマスクを手で下げた。
「あ~~あ…まさかここにあなたが現れるなんて…失態だわ…後でシェイド様に叱られてしまうわねこれは…」
現れた顔は紛れもなくシャルロット暗殺未遂事件の実行犯で、シオンが追い詰めた際に自害したあのリサであった。
「何故お前が生きている?それとも死んでいなかったのか?もしやシェイドとか言う輩に蘇生されたか…いや、今の世にそんな魔法も技術も存在しない筈…」
いつも冷静なシオンがこの時ばかりは混乱していた。
確かにリサが自害した際、シオン自らが死亡を確認した上に埋葬までしたのだ…生きているはずが無い。
「ざ~んねん!!そのどちらでもないわ…真実を話した所であなたには理解できないだろうし…もともと言う気も無いんだけど…ね!!」
リサは煙玉を地面に叩き付けた…まだこの場の地形を確認する前だったのでシオンは迂闊に動けなかった…煙が晴れるとリサの姿は既に消えていた。
「逃がしたか…この敵勢力…得たいが知れないわね…」
シオンは一人洞窟内に立ち尽くしそう呟いた。
「痛った~~~っ…」
シャルロットはしきりにお尻をさすっている。
広間の落下時に『絶望の巨人』が丁度彼女の下に入り込み地面への激突の衝撃が多少だが緩和されたのだ…したがって彼女の足元には『絶望の巨人』が横たわっている。
地面に叩き付けられたせいなのか『絶望の巨人』は機能を停止していた…目の光も今は消えている。
「しっかし何で僕が触ったら起動したんだろうこの子…しかも襲い掛かって来るし…」
よく魔法力が強いだとか特別な血筋の者が古いマジックアイテムに触れて起動してしまったなんて話は稀にある事だが、大抵はその者が使役するか言う事を聞くと言うのが定番だ…しかしこの巨人はシャルロットに躊躇なく襲い掛かって来たのだ。
だが今は全く情報が無い状態だ…この場にアルタイルが居れば何か分かったのかもしれないが言っても始まらない。
「また動き出さない内にっと…」
シャルロットは『絶望の巨人』の胸の上から降りようと手を突いた…そこには何か掌ほどの大きさの突起があり思わず押してしまう。
すると巨人の身体が青白く発光し始めたではないか。
「うわっ!!まさかまた~~!?」
また動き出して襲ってくるのかと思い急いで巨人から飛び降り、近くにある大き目な瓦礫に身を隠す。
そこから覗き込むように様子を窺う…しかし巨人が立ち上がる気配は全くない。
「一体何だったんだろう…」
ホッとするのもつかの間、巨人の体中の装甲の至る所が一斉にパカパカと開き始めたではないか…その様はまるで大型の生き物が解体されていく工程を想像させ、少し不気味であった。
ひとしきり蓋が空いた状態になると今度は折り紙の様に折りたたまれ始めどんどんその容積を減らしていった…そして遂にそれは一糸纏わぬあどけない少女の姿に変わってしまったのだ。
「これは…どうなってるの…!?」
考えるより先に好奇心が勝り、シャルロットは横たわるその少女の側まで駆け出していた。
あの巨人がこんな小さな女の子になってしまうなんて…まるで物理法則と常識を無視した挙句に踏みつけてから蹴とばしてしまった様な感じだ。
「君!!大丈夫!?…ってあれ?」
シャルロットがその子の首の後ろに手を回し上体を起こそうにも、まるで鋼鉄の塊を持ち上げようとしているとくらいビクともしなかった。
しかし少女の目蓋がゆっくりと開く…その瞳は真っ青で、覗き込むと吸い込まれるのではないかと錯覚を起こすくらい美しかった。
『アナタガワタシノマスターデスカ?』
少女は片言でシャルロットに話しかけてきた。
「マスター?いや、僕は君とお友達になりたいな…それじゃ駄目かな?」
『オトモ…ダチ?』
「そう、お友達」
何やら少女の頭の中からカシャカシャと機械的な音がしてくる…やがてその音が収まると少女は棒の様に真っすぐの状態のまま踵を起点に起き上がった。
『トモダチ…フレンドトウロクシュウリョウ…トライアルシヨウキカンデサイキドウヲカイシシマス…ワタシニナマエヲツケテクダサイ…』
「なんだ…君名前が無いのかい?え~とそれじゃね~…」
シャルロットは顎に人差し指を当て少女の名前を考える…そして一つの名前を思い付いた。
「君の名前はサファイア!!サファイアの様に真っ青な瞳だからサファイア…どうだい?」
『サファイア…ナマエノトウロクヲカンリョウシマシタ…キョウカラワタシノコトハサファイアトオヨビクダサイ…』
「うん!!よろしくねサファイア」
シャルロットがサファイアの手を掴む…その手はとても冷たかった。
「お~~い無事か!?」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてくる…ハインツが手を振りながらこちらに向かって来た。
「ハインツ!!こっちこっち!!」
「やっと見つけた…あれ?ところでこの子は?」
ハインツの視線がサファイアに移る…しかし彼女は未だ裸のままだったのだ。
「ハインツのエッチ~~~~~!!!」
「何で~~~!!?」
シャルロットの平手がハインツの頬に炸裂!!きりもみしながら吹っ飛んでいく。
シャルロットはハインツから上着を借りサファイアに着せた、袖が余ってダラーンと下がっているがこの際仕方が無い。
「何!?この子があの青い巨人だって言うのか!?」
「うん…どう言う訳かこの姿になっちゃって…」
サファイアはシャルロットと手を繋いで歩いている…ただ非常に無表情で何を考えているのかさっぱり読み取れないのだ。
「ほら見えてきたぞ…ここが本来のこの遺跡の出入り口だ」
巨人がいた大広間と同じほどの広さの部屋、その眼前には人の背丈を大きく超える程の高さを誇る扉が存在していた。
「はぁ…やっと一息付けるね…」
「お前はここで休んでいろ…おれはグロリアとくのいちを探して来る…」
「あっ…それなら僕も行くよ!!」
「お前はその子を見てろ…まだ敵が潜んでいるかもしれないんだ…丸腰のお前じゃ足手まといだよ」
「なんだよ!!そんないい方しなくてもいいだろう…!?」
こちらに背を向けたまま手を振ってハインツは再び遺跡の奥へと行ってしまった。
「あれ…ここは?」
グロリアが再び目を覚ますとそこは石造りの部屋だった。
どうやら遺跡の地上部の一室の様だ。
痛めていた右足を見ると足を挟むように当て木がしてあり布を巻かれて固定されていた。
『目は覚めたか?』
僅かに離れた位置にシェイドが立っていた。
「この手当てはあなたが…?」
『ん…?ああそうだな…』
バツが悪そうに横を向くシェイド。
「ありがとうございました…何とお礼を言っていいか…」
『気にするな…初めから手負いの者を倒しても何の自慢にもならないからな…』
本来は敵味方の関係の二人だが受けた恩への礼は尽す…グロリアはそういう娘であった。
「ところで…何故あなたは私の名前を知っていたのですか?さっき呼んでましたよね?グロリアって…」
『………』
だんまりを決め込むシェイド…その質問の答えは言いたくないらしい…しかし暫くして彼から語られた内容は衝撃的なものであった。
『俺はもう君を傷つけたくない…なあグロリア…君は俺の仲間にならないか?』
「なっ…?」
グロリアは一瞬何を言われたのか分からなかった…だが冷静になるとこの誘いに乗ると言う事はシャルロットとハインツ、そして国のみんなを裏切ると言う事だ…。
『いきなりこんな事を言われて決心がつかないか…?ならばこれを渡しておく…』
シェイドから渡された物は真っ赤な宝石が嵌った黒い指輪であった。
「これは…?」
『俺の仲間になる決心がついたのならその指輪を左手の薬指に嵌め俺に呼びかけろ…すぐに迎えに来てやる…』
「えっ…」
戸惑うグロリア…これではまるで結婚指輪ではないか。
『知っているぞ…君が想い人と結ばれる事は絶対にない…その者には別の相手がいるからな…これからずっと今の場所に居ても辛いだけだと思うんだがな…』
「何でそんな事を…」
『時間はまだある…いい返事を期待しているよ…』
耳元でささやき、言葉巧みにグロリアを誘惑するシェイド。
「グロリア!!無事か!?」
勢いよく部屋の入り口からハインツが入って来た。
グロリアの側にシェイドが居るのを見るや否やハインツは戦闘態勢に入り槍を構えて突進して来た。
「てめえシェイドォ!!俺の妹から離れろ~~~!!」
槍を構え突進するハインツ…シェイドを捉えようとした瞬間、眼前に黒い影が現れその一撃を防いでしまう。
「何ぃ!?」
ハインツの槍を受け止めたのは黒いフードと髑髏を模した仮面を被った人物の持つ大きな鎌であった…まるで伝承に出てくる死神の姿その物のイメージだ。
そしてもう一人、金属をこすり合わせる音を立てこちらに歩いてくる…所々青いラインの入ったシェイドとは別の意匠の全身鎧を身に纏った槍を持った男まで登場したではないか。
『コハー…コハー…』
全身鎧の男は呼吸音の身を響かせじっとハインツを睨んでいる様だ。
(コイツら…どっから湧いて出やがった!?)
直前まで全く気配がしなかった…その人物らはそれこそ死神の様に突然現れたのだ。
『シェイド様…こちらにおられましたか、探しましたぞ』
『グリムか…それにハイドまで来るとは大袈裟だな…私があんな落盤ごときでどうにかなるとでも思ったのか?』
『いえ…決してそのような事は』
『大方ティーのお節介だろう?…まあ良い…ここは素直に感謝するよ』
『勿体なきお言葉…』
鎌の持ち主…グリムと呼ばれた黒フードの男と黒居フルプレートアーマーのハイドはシェイドの前に立つとそれぞれの武器を構えハインツと対峙する。
『少年…これ以上やるというのなら命を失う覚悟が出来ていると言う事でよろしいか?』
「何を!!そんな脅しに俺が乗るとでも……なにっ!?」
ハインツの全身に言い知れぬ悪寒が駆け巡る…グリムの恫喝に対して声を荒げたハインツであったが、髑髏の仮面から覗くグリムの妖しく赤く光る眼光に睨まれ身体が動かせなくなっていた。
この感覚は紛れもなく恐怖…ここから一歩でも彼に近づこうものならたちまち命を奪われてしまう…そんな恐ろしさをハインツの身体は無意識に感じ取ってしまったのだろう。
『相変わらずの猪突猛進振りだなハインツ君…しかし今の私は戦闘って気分ではないのだよ…だからここは痛み分けといこうじゃないか…』
「お前!!逃げるのか!?」
『口の利き方には気を付け給え、ここに居るグリムとハイドだけでも君を討ち取るには十分すぎる手練れなのだよ?…ではまた会おう…さらばだ!!」
シェイド達三人は一斉に走り出した。
シェイドは最後にグロリアに目配せするとマントを広げそのままグリム、ハイド共々遺跡の窓から外に飛び出していった。
「畜生…また逃げられたか…グロリア無事か!?アイツに何かされなかっただろうな!?」
「う…うん大丈夫…何もされてないよ…」
さっと指輪を後ろに隠す。
その後、無事帰還を果たしたシオンと合流、一行は迎えに来たグラハムと彼が連れてきた騎士団と共に城への帰路に就いたのであった。
「………」
その日の夜…満月に照らされた自室のベランダには黒い指輪を見つめるグロリアの姿があった。
(お前は想い人と結ばれる事は絶対にない…その者には別の相手がいるからな…これからずっと今の場所に居ても辛いだけだと思うんだがな…)
「言われなくても分かっているわよそんな事…私がどんなにシャル様を好きになっても女同士…絶対に結ばれない…それにシャル様の心には兄上がいる…」
ベランダの手すりに顔を乗せ突っ伏す。
(時間はまだある…いい返事を期待しているよ…)
ブンブンとかぶりを振り頭に中に響くシェイドの声を掻き消そうとする。
「…私は…どうすればいいの…?」
暫くベランダに立ち尽くすグロリア…夏だというのに彼女に吹き付ける風は冷たかった…。
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因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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