プリンセス王子と虹色騎士団

美作美琴

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第29話 シェイド再び

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 地下通路を黙々と進むシャルロット達三人…。

地下通路は初めこそ荒れた石造りであったが、奥へ進むにつれ保存状態の良い整った物へと変わっていった。

「本当に考え無しに進んで大丈夫なんでしょうか…」

シャルロットとハインツのやや後方を僅かに身体を縮こませてキョロキョロと周りを警戒しながら歩くグロリア。

「なんだお前…怖いのか?」

「なっ…!!そんな事は無いぞ!!おかしなことを言わないでくれ!!」

ハインツに図星を突かれ狼狽える。
どんなモンスターや強敵にも臆する事の無いグロリアだが、こういった未知で不気味な場所は苦手であった。
いくら長年の鍛錬で剣の腕前が上達しても、根っからの怖がりな所は完全には克服できないものだ。

「二人とも見て!!明かりが見えるよ!!」

シャルロットが指差す先には強い光が見える…それはこの長い通路の終わりを意味していた。

「まさか外に出れるのか?取り敢えず行ってみよう…」

ハインツが先んじて通路を抜ける…するとそこは大広間と言っていい程の広大な一室になっていた。
照明の仕掛けも通って来た通路とは比べ物にならない程沢山設置されており、眩いばかりであった。

「…何だあれは…?」

「どうしたんだいハインツ…何かあったのかい?あっ…!!」

広間に入った途端、まるで放心したように立ち尽くすハインツの横にやって来たシャルロットは正面にある物を見て驚愕した。
広場の正面の壁に寄りかかる様に座っているのは立っていれば身の丈が十数メートルは有りそうな巨大な人型の物体であった。
身体全体が金属的で青い輝きを放ち、全身を鎧兜で覆っているその姿は騎士を連想させる。

「これは彫刻?銅像?なんだか今にも動き出しそうだよね…」

「ちょっと…!!怖い事言わないでくださいよシャル様!!」

「まさかエターニアの地下にこんな物があったなんて…これは歴史的大発見だぞ…!!」

三人は暫くその巨像を見上げ、その大きさにただただ圧倒されるのだった。

「これをアルタイルが知ったら大喜びするだろうね…ここを脱出できたら探索隊を編成してもう一度訪れたい所だよ」

「そう言う事は脱出してから言え…縁起でもない…」

これが終わったら〇〇するんだ…等の言動はエターニアでは縁起が悪いとされている…目の前の何かを為す前に先の事を気に掛け過ぎると足元をすくわれるという戒めの意味合いもあるのだが、ほぼ悪い事が起る前提で言い回されることが多い。

「ちぇっ…ハインツはノリが悪いな~」

口を尖らせてシャルロットが巨像の脛辺りを手で触った。
すると巨像の兜の奥まった目にあたる部分が突然光り出した。
それと同時に広間自体が振動を始めたではないか。

「何だ!?何が起こった!?」

ガタガタと揺れる足元…そこまで大きなものではなかったが、天井から砂埃がパラパラと降って来る。

「見て!!巨像が!!」

グロリアの叫びを受けシャルロット達が巨像を見ると、手を地面に突き上体を起こそうとしている…明らかに動いているのだ。

「おい!!お前何をした!?」

「何って…ちょっと触っただけだよぅ…」

ハインツとシャルロットは言い争いをしながら逃げ惑う。
巨像はというと膝立ちの状態まで起き上がっていた…そしてゆっくりと立ち上がる。

「来た通路を戻りましょう!!」

「駄目だよグロリア!!この揺れでは落盤の恐れがある…却って危険だよ!!」

言うか言わないかのタイミングでここにやって来た通路の入り口が目の前で崩れ落ち、閉じてしまった。

「ああっ…そんな…!!」

退路を断たれ愕然とするグロリア。
しかしシャルロットの助言が無ければ降ってきた瓦礫に押しつぶされていたかも知れなかったのだ。

『ハハハッ!!わざわざ起動してくれるとは有り難い…礼を言うぞ!!』

「誰だ!?」

いつの間にか青い巨像の右肩の上に漆黒の鎧兜で武装した人物が立っていた…それは二年前…『輝ける大樹グリッターツリー』で一度対峙した事のあるシェイドだった。
そして左肩にはその時彼の横に控えていた一団の中に居た覆面で顔を覆った暗殺者風の人物とフードを目深く被った杖を持った魔導士風の人物、それにティーと呼ばれていた弓兵の女がいた。

『フフフッ…これはこれはお久し振りだなシャルロット姫…』

大仰に腕を身体の前に回しお辞儀をする。

「シェイド!!何故あなたがここに居るのです!?」

『それは俺の台詞だよ…俺たちは巨人を探しにたまたま今日ここに来たんだが…偶然か…いや、やはり我々が出会う事は運命なのだな…』

「何を言っているのですか!?理解に苦しみます!!」

シェイドの言動にあからさまな嫌悪感を現わすシャルロット。

『所でお前たちはこの巨人が何か知っているか?』

「知らないわ…」

『折角だから教えといてやる…その方がお前たちの絶望感が増すからな~!!』

兜で表情は見えないが恐らくシェイドは愉悦に浸った下卑た笑いを浮かべている事だろう。

『こいつは『絶望の巨人デスペアジャイアント』…二千年前、魔王が女勇者の拠点や城壁を破壊する時に使った古代の兵器なのだよ!!』

シェイドは芝居じみた動作で両手で天を仰いだ。

「何ですって!?」

『クックックッ…その様子だと本当に知らなかったのだな…不勉強もいい所だ…
まあ知っていた所でここで死んでしまえば同じ事だがね!!
やれ!!『絶望の巨人デスペアジャイアント』!!』

肩からシェイド以外の人物が飛び降り、『絶望の巨人デスペアジャイアント』は右足を大きく上げた、シャルロット達を踏みつぶすつもりだ。
彼らがここに来たのは半分事故の様な物なので、武器を置いて来てしまっている…今は逃げるしかない。

『丸腰の人間をいたぶるのは多少気が引けるが、これも大儀の為…』

「そう思うのならやめればいいだろう…!!」

巨人の左右の足が交互に上から落とされる度に地震の様に床が揺れる。
何とか逃れているが、ある程度の広さがある広間といえど地下の閉鎖空間だ…逃げ回るのにも限界がある。

(僕たちが来た道は塞がっちゃったけどシェイドたちがここに居ると言う事は別の出入り口があるはず…)

走り回りながらシャルロットは思案を巡らす。
辺りを注視すると『絶望の巨人デスペアジャイアント』が座っていた台座の付近に周りの壁に比べて不自然にずれている部分を見付けた。

(もしかしてあそこが…?)

「出口発見!!」

わざわざ聞こえる程の大声をだしながらシャルロットがそこへ向かおうとした時、足元に一本の矢が飛んで来たが寸でで回避する…矢を射ったのは黒い耳を持つ耳長族のティーだ。

「うわっ!!あっぶないな~~~!!」

『何故出口が分かった?』

「へぇ~やっぱりここが出口なんだ~…いやね、確証があった訳じゃないんだ…ちょっとあそこの壁がずれている位の気付きだったんだけど…教えてくれてありがとう」

『………』

シャルロットの誘導にまんまと引っ掛かってしまったティー…一瞬の沈黙の後、次々と矢を乱射して来た。
どうやら怒らせてしまった様だ。
ティーの猛攻撃のせいで出口から遠ざけられてしまった…これは一筋縄ではいかなそうだ。

一方、ハインツには魔導士が襲い掛かっていた…彼は両手を正面に突き出し手の平から火の玉ファイアボールを次々と打ち出しハインツを追い詰める。

「くそっ!!せめて俺の槍が手元にあれば…!!」

丸腰では魔法を捌く事が出来ない…槍さえあれば彼の必殺技『蒼き閃光ブルーゲイル』で魔導士に一矢報いる事が出来るのに…。
逃げ惑ううちに彼は広間の角へと追い詰められてしまった。
どうやら魔導士はこれが目的で計画的に魔法を放っていた様だ。

「しまった…!!」

魔導士は立ち止まると両腕を上げると炎が球状に収束しその大きさを増していく。
今いる場所にあの大きな火の玉を発射されては逃げ場がない。
だがそこで信じられない事が起る…ハインツの目の前に彼愛用の槍が上から降って来て床に突き刺さったではないか。

「これは俺の…!?」

驚いたハインツは槍が投げられたであろう上方を見上げた。
それは敵である魔導士も同じようで視線を上に移す。

「ハインツ・サザーランド!!それを使え!!」

空気の取り入れ口らしき所に一人の女忍者が居た…シオンだ。

「お前は!?」

「そんな事はいい!!戦え!!」

そう言いながらシオンは魔導士に棒手裏剣を数発放った。
魔導士は手をかざし防御魔法でそれを防いだ。

「今だ!!」

その隙にハインツは床から槍を引き抜くと、気合いを込めて槍を前方へ突き出す。

「『蒼き閃光ブルーゲイル』!!」

槍の先端から高速で打ち出される青白い閃光は魔導士の左脇腹を捉えた…吹き飛ばされる魔導士。

「どうだ、思い知ったか!!」

ハインツが吠える。
床に突っ伏したあと、よろよろと上体を起こした魔導士はかなりのダメージを負ったがまだ生きていた。

『シェイド様…申し訳ございません…撤退いたします』

『分かった…急ぎ戻って傷の手当てをせよ…』

『ははっ…』

魔導士は一瞬にしてその場から姿を消した…転移の魔法を使った様だ。

「くそっ…仕留めそこなったか…いや、今はあいつを助けないと…!!」

ハインツはシャルロットを探しにその場を後にした。



グロリアに向かって『絶望の巨人デスペアジャイアント』の左の拳が打ち下ろされる…それを紙一重で避け、逆にその腕を伝って上へと昇っていく…彼女の目的は巨人の肩に載っているシェイドだ。
彼女も愛用のレイピアを地上に置いて来てしまっていたが、幸いお茶の準備でケーキやフルーツを切り分けるためのペティナイフを携帯していたのだ。

「やああああああっ…!!!」

それを右手に持ちシェイドに向かって行く…しかし横から暗殺者が両手に短剣を構え飛び掛かって来たのだ。

「くっ…!!」

何とかペティナイフで短剣を防ぐ…しかし必死にシェイドまでの距離を詰めたのが今の攻防でまた開いてしまった。

「邪魔するな!!」

『へぇ…まさかあなたがこんな騎士まがいの事をしているなんてね…意外だわグロリア…』

「何ッ…?貴様は一体!?」

何とこの暗殺者、グロリアを知っているかのような口ぶりだ。
その言葉に動揺し、グロリアに生まれた一瞬の隙を暗殺者は見逃さなかった。
目にも留まらぬ速さでグロリアの懐に潜り込み彼女の腹を掻き着る刹那…なんと横からシオンが組み付いて来たではないか。

「グロリア!!あなたまだ甘さが抜けきっていないのね!!いい加減死ぬわよ!?」

シオンが暗殺者に組み付いたまま落下していく…その間際、グロリアにレイピアを投げつけていった。

「あなたはあの時の…!!」

レイピアを受け止めくのいちを目で追う…間違いない、シャルロット暗殺疑惑を掛けられた時に自分を助けてくれたくのいちその人だ。
ただこの時点でグロリアはまだそのくのいちがシオンであることを知らないのだ。
しかし落ちていく彼女を今は助ける事が出来ない…グロリアは気を取り直し再び腕の上を走りはじめる。

『こいつ…叩き潰してくれる!!』

左腕を登って来るグロリアを撃退するため、まるで蚊でも叩き潰すかのように
右手の平を振り下ろす。
しかしグロリアは加速しその掌をすり抜けて行った。
そして遂にシェイドに肉薄しレイピアを高速で突き立てる。
だがシェイドもすかさず愛刀『ブラッドムーン』を抜きそれに対抗する。

「貴様は何が目的でこんな事をするんだ!?世界を滅ぼして何の得があると言うんだ!!」

『前にも言ったろう…!!これは俺の…世界に対する復讐なのだ!!これは言うなればお前たちの為にもなるんだぞ!!』

「何っ!?出鱈目を言うな!!」

先の暗殺者にも言葉で惑わされる所だったのだ、今度はそうはいかない…グロリアは聞く耳を持たずレイピアを振るう。
しかし彼女の攻撃はことごとくシェイドに避けるか捌かれるかで一度もヒットしていない…まるで手の内を知られている様な錯覚に陥る。

(どうなっている…この感覚…どこかで覚えがある…これではまるで…)

有り得ない…しかしグロリアの脳裏にはある事が思い浮かんでいた。



「も~~~!!しつこいな~~~!!」

執拗に狙ってくるティーの放つ矢を避けながら逃げ惑うシャルロット。
武器が無い以上避けに徹するしかない。

「ムッ…あそこ見えるのはシャルロットか…!?あの弓兵め、目にもの見せてくれる!!」

ハインツは槍を持った右腕を後ろに引き力を貯め、前方に突き出すと同時に叫ぶ。

「『蒼き閃光ブルーゲイル』!!」

兄ハインツの掛け声が響く…グロリアはハッと我に返った。
ハインツの放った『蒼き閃光ブルーゲイル』はティーを怯ませ尚も突き進み『絶望の巨人デスペアジャイアント』の足場を強襲した。
バランスを崩した巨人は背中から倒れ込み床に激突…その衝撃で床全体に亀裂が入り、遂には広間全体の底が抜けてしまった。

「うわああああっ…!!」

「きゃあああっ…!!」

『何と言う事だ…!!』

敵味方入り乱れその場にいた全員が更に地下へと落下していった。

『これは大変な事になった…ハイドとグリムに報告しなければ…』

間一髪、高い所に居たティーだけが難を逃れた様だ…壁の突起に片手でぶら下がっている。

乱戦の末、奈落へと落ちていったシャルロットたち…果たして彼らは無事なのだろうか…。
そしてシェイドの言葉の真意とは一体…。
伝説にはまだ明らかになっていない謎があるようだ…。
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