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第27話 邂逅
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「ツィッギー様、耳長族の皆様…この度は大変ご迷惑をお掛けしました」
見送りに出て来た耳長族たちに深々と頭を下げるシャルロット。
シャルロット、ハインツ、グロリアの三人が目覚めたのは倒れてから三日後であった…そして体力を回復するまで四日を要し一週間『輝ける大樹』に滞在していた…そして今日が出立の日だ。
「いいのよいいのよ!!お互い様なんですからね…頭を上げて下さい!!」
ツィッギーが両手を振って彼女に頭を上げる様に促す。
「この林道を道なりに歩けば森の南側に出るのですが、またこの前の賊が現れないとも限りません…私達が最後まで護衛を致します」
「ありがとうございます…とても助かりますわ」
周りの目があるのでシャルロットは畏まった女言葉のままだ。
耳長族の自警団が十数人、シャルロット達を取り巻く様に同行しながら一行は林道を進む。
「しかしその魔王に与する者…何が目的なのでしょうね…魔王が復活して徳をする事があるとは到底思えないのですが…」
療養中にシャルロット達はアルタイルからある程度の事情の説明は受けていた。
シャルロットが男であると言う事を除いてではあるが…。
「姫様、世界には刹那主義、破滅主義、終末願望…様々な思考の人間が存在しています…その賊が何を考えているのかは今の我々には到底計り知れないでしょう」
アルタイルが真剣な表情で返す。
「残念な事です…我々が彼らを理解できないのと同様に彼らもまた平和を提唱する我々を理解できないのですね…」
沈んだ表情で俯くシャルロット。
『理解できないというのならここで死んでくれないか?シャルロット姫…』
すると突然、どこからともなく声が響いた。
「誰だ!?」
ハインツとグロリアがシャルロットを護る様に前に立つ…それを合図にその場にいた全員が一斉に戦闘体制に移行した。
耳長族たちも皆、弓に矢をつがえ周囲を警戒する。
すると林道の進行方向に黒い影の一団が現れたではないか。
全員黒い装備に身を固めた不気味な集団…手にはそれぞれ剣、槍、魔法の杖、弓など様々な武器が握られていた。
そしてその中心に立っているのは黒い角兜のシェイドだ。
『フッ…お初にお目に掛かる…でいいんだよなシャルロット姫?』
「…?何を言っているのです?私にあなたの様なお知り合いはおりません…それよりあなた、名を名乗ってはどうです?無礼ですよ?」
『おっとこれは失礼…我が名はシェイド…以後お見知りおきを…』
わざとらしく大仰に胸の前に腕を当てお辞儀をする。
「シェイド…?」
名を聞いてもやはり心当たりがないシャルロット…しかしシェイドの思わせぶりな口振りが何処か胸に引っ掛かる。
「あーーーーーっ!!!アイツです!!アイツがボクとツィッギーさんを襲った奴です!!」
イオがシェイドを指差し、大声で騒ぎ立てる…あわや殺される所だった相手だ、忘れる訳が無い。
「何…!?貴様…!!何しに現れた!?ここで一戦交えるってのなら受けて立つぜ!!」
『そういきり立つな小僧…残念ながら今はそのつもりは無い…』
ハインツの挑発を相手にせずシェイドは話を続ける。
『折角姫君がこの森に来ているというから挨拶に来たのさ…言わば顔見せ、まあ俺たちはみんな仮面をしているから顔は見せられないんだがね…フフフッ』
ジョークのつもりだろうが全く周りの人間は笑わないむしろ白けてさえいる。
「そんな事よりあなた達は何故こんな事をするのです!?」
目の前に本人が居るのだ、シャルロットは思い切って先程の疑問をシェイドにぶつけた。
『フン…お前が自分で言っていた通り、聞いた所でお前には理解できぬよ…まあしいて言うなら世界への復讐と言った所かな…』
「復讐ですって…!?」
思いもよらぬ回答に動揺するシャルロット。
『ああそうだ…だがこれ以上のおしゃべりは不要…こちらも今回の事で大きな手駒を失ったからな…また出直すとするよ』
「逃げるのですか!?」
『フフッそう言うな…どうせまた近い内に会えるさ…それまで無駄に足掻くいい…さらばだ自分自身の事すら何も知らない操り人形のお姫様…』
シェイドが右腕を掲げると黒ずくめの一団は一瞬にしてその姿を掻き消した。
どうやら後ろに控えていた魔導士風の人物が転移の魔法を使った様だ。
ただグロリアがシェイドの立っていた一点を見たまま呆然と立ち尽くしていたのだ。
「おいどうしたグロリア、ボーッとして…まだ本調子じゃないのか?」
「うん…?いや…何でもないよ兄上…」
(何なのだ私は…あのシェイドという男を見ていると胸が高鳴る…
いやいや駄目だろう!!相手は敵なのだぞ!!しっかりしろ私!!)
しかしグロリアは彼に会ったのはこれが初めての筈なのにどこか親近感があったのだ。
それが何故なのか彼女自身も分からないでいた。
両手で頬っぺたを挟むように二度三度叩き気合いを入れ直す。
(…僕が…操り人形だって…?)
シェイドが何を持って自分をそう呼んだのかは分からなかったが胸に棘が突き刺さった様な感覚を覚えるシャルロット。
その後、森を出るまでに彼らが再び現れる事は無く、無事出口まで辿り着く事が出来た。
「これでお別れなんて名残惜しいわね…みんな元気でね…」
ツィッギーは笑顔をつくりつつも目にちょっぴり涙を浮かべており、指でそれを拭う。
「ツィッギー様もお元気で…折角交流が出来たのですからお城にも遊びに来てくださいな」
シャルロットが微笑み返す。
「そうね…そうさせてもらうわ…」
「はい!!」
ツィッギーがシャルロットに抱き着く…そして順番にハインツ、グロリア、アルタイル、イオと抱き着いていった。
ハインツは女性に免疫が無いので思い切り恥ずかしがっていたが…。
その後、森で遭遇したのを境にシェイド率いる黒の一団は大きな活動を見せなかった。
それから二年の歳月が流れ、シャルロットは十五歳になった…。
見送りに出て来た耳長族たちに深々と頭を下げるシャルロット。
シャルロット、ハインツ、グロリアの三人が目覚めたのは倒れてから三日後であった…そして体力を回復するまで四日を要し一週間『輝ける大樹』に滞在していた…そして今日が出立の日だ。
「いいのよいいのよ!!お互い様なんですからね…頭を上げて下さい!!」
ツィッギーが両手を振って彼女に頭を上げる様に促す。
「この林道を道なりに歩けば森の南側に出るのですが、またこの前の賊が現れないとも限りません…私達が最後まで護衛を致します」
「ありがとうございます…とても助かりますわ」
周りの目があるのでシャルロットは畏まった女言葉のままだ。
耳長族の自警団が十数人、シャルロット達を取り巻く様に同行しながら一行は林道を進む。
「しかしその魔王に与する者…何が目的なのでしょうね…魔王が復活して徳をする事があるとは到底思えないのですが…」
療養中にシャルロット達はアルタイルからある程度の事情の説明は受けていた。
シャルロットが男であると言う事を除いてではあるが…。
「姫様、世界には刹那主義、破滅主義、終末願望…様々な思考の人間が存在しています…その賊が何を考えているのかは今の我々には到底計り知れないでしょう」
アルタイルが真剣な表情で返す。
「残念な事です…我々が彼らを理解できないのと同様に彼らもまた平和を提唱する我々を理解できないのですね…」
沈んだ表情で俯くシャルロット。
『理解できないというのならここで死んでくれないか?シャルロット姫…』
すると突然、どこからともなく声が響いた。
「誰だ!?」
ハインツとグロリアがシャルロットを護る様に前に立つ…それを合図にその場にいた全員が一斉に戦闘体制に移行した。
耳長族たちも皆、弓に矢をつがえ周囲を警戒する。
すると林道の進行方向に黒い影の一団が現れたではないか。
全員黒い装備に身を固めた不気味な集団…手にはそれぞれ剣、槍、魔法の杖、弓など様々な武器が握られていた。
そしてその中心に立っているのは黒い角兜のシェイドだ。
『フッ…お初にお目に掛かる…でいいんだよなシャルロット姫?』
「…?何を言っているのです?私にあなたの様なお知り合いはおりません…それよりあなた、名を名乗ってはどうです?無礼ですよ?」
『おっとこれは失礼…我が名はシェイド…以後お見知りおきを…』
わざとらしく大仰に胸の前に腕を当てお辞儀をする。
「シェイド…?」
名を聞いてもやはり心当たりがないシャルロット…しかしシェイドの思わせぶりな口振りが何処か胸に引っ掛かる。
「あーーーーーっ!!!アイツです!!アイツがボクとツィッギーさんを襲った奴です!!」
イオがシェイドを指差し、大声で騒ぎ立てる…あわや殺される所だった相手だ、忘れる訳が無い。
「何…!?貴様…!!何しに現れた!?ここで一戦交えるってのなら受けて立つぜ!!」
『そういきり立つな小僧…残念ながら今はそのつもりは無い…』
ハインツの挑発を相手にせずシェイドは話を続ける。
『折角姫君がこの森に来ているというから挨拶に来たのさ…言わば顔見せ、まあ俺たちはみんな仮面をしているから顔は見せられないんだがね…フフフッ』
ジョークのつもりだろうが全く周りの人間は笑わないむしろ白けてさえいる。
「そんな事よりあなた達は何故こんな事をするのです!?」
目の前に本人が居るのだ、シャルロットは思い切って先程の疑問をシェイドにぶつけた。
『フン…お前が自分で言っていた通り、聞いた所でお前には理解できぬよ…まあしいて言うなら世界への復讐と言った所かな…』
「復讐ですって…!?」
思いもよらぬ回答に動揺するシャルロット。
『ああそうだ…だがこれ以上のおしゃべりは不要…こちらも今回の事で大きな手駒を失ったからな…また出直すとするよ』
「逃げるのですか!?」
『フフッそう言うな…どうせまた近い内に会えるさ…それまで無駄に足掻くいい…さらばだ自分自身の事すら何も知らない操り人形のお姫様…』
シェイドが右腕を掲げると黒ずくめの一団は一瞬にしてその姿を掻き消した。
どうやら後ろに控えていた魔導士風の人物が転移の魔法を使った様だ。
ただグロリアがシェイドの立っていた一点を見たまま呆然と立ち尽くしていたのだ。
「おいどうしたグロリア、ボーッとして…まだ本調子じゃないのか?」
「うん…?いや…何でもないよ兄上…」
(何なのだ私は…あのシェイドという男を見ていると胸が高鳴る…
いやいや駄目だろう!!相手は敵なのだぞ!!しっかりしろ私!!)
しかしグロリアは彼に会ったのはこれが初めての筈なのにどこか親近感があったのだ。
それが何故なのか彼女自身も分からないでいた。
両手で頬っぺたを挟むように二度三度叩き気合いを入れ直す。
(…僕が…操り人形だって…?)
シェイドが何を持って自分をそう呼んだのかは分からなかったが胸に棘が突き刺さった様な感覚を覚えるシャルロット。
その後、森を出るまでに彼らが再び現れる事は無く、無事出口まで辿り着く事が出来た。
「これでお別れなんて名残惜しいわね…みんな元気でね…」
ツィッギーは笑顔をつくりつつも目にちょっぴり涙を浮かべており、指でそれを拭う。
「ツィッギー様もお元気で…折角交流が出来たのですからお城にも遊びに来てくださいな」
シャルロットが微笑み返す。
「そうね…そうさせてもらうわ…」
「はい!!」
ツィッギーがシャルロットに抱き着く…そして順番にハインツ、グロリア、アルタイル、イオと抱き着いていった。
ハインツは女性に免疫が無いので思い切り恥ずかしがっていたが…。
その後、森で遭遇したのを境にシェイド率いる黒の一団は大きな活動を見せなかった。
それから二年の歳月が流れ、シャルロットは十五歳になった…。
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