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第24話 女神の企み
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「う~ん…」
モイライが一人、『現在のベルダンデ』が虚空を仰ぎ何やら考え込んでいる。
「あの…どう…なされました?」
先程のエリザベートと『過去のウルト』の口喧嘩の余韻が残る険悪な雰囲気の中、シャルロットを抱きかかえたまま恐る恐る口を開くシャルル王…ハインツとグロリアを介抱していたグラハムと共にずっと傍らに居たのだが完全に空気になっていた…しかし一国の王がそれでいいのか。
言わずもながだが先程の仮面の三人組、王妃以外の残り二人は彼らだ。
「いえ~こんな森の中で立ち話も何ですから談話するのに良い物件を探していましたの…あっ!!近くに良いお屋敷がありますね!!そこにしましょう!!」
胸の前でポンと手を合わせ満面の笑みを浮かべると、ベルダンデは右手を大きく天に伸ばした…するとこの場に居た一同全員が光の球に包まれ一瞬で姿が消える。
そして次に彼らが現れたのはツィッギーの屋敷内の居間であった。
「国王様…!!王妃様…!!どうしてここに!?」
既に居間に居た、くのいち装束のシオンが突如として現れた団体に驚きすぐさまかしづく。
「それはこちらの台詞です…偵察に出ていたあなたが何故ここに居るのです?」
流石のエリザベートもいささか混乱していた。
実はシオンは国王命令を請けたグラハムの指示でシャルロット達を監視していた。
城壁から抜け道を使って国外へ出たシャルロット達を見下ろしていたのは彼女であった。
そして『輝きの大樹』へ向かう一行の行動をグラハムに報告していた所を偶然エリザベート王妃に聞かれてしまい、シャルル王も巻き込んで陰ながら彼らの道中を見守る事になっていたのだった。
「はっ…それが森の中で賊に襲われていたイオ殿たちを見付けまして…救助してこのツィッギー様のお屋敷に避難しておりました…」
「賊ですか?それで一体何者だったのです?」
「それが…彼らを救い出して一目散に逃げて参りましたので…」
シオンが目を伏せる。
急な事で危機に陥っていたイオ達二人を逃がすのに精一杯で敵の素性を調べるに至らなかったのだから。
「…恐れながらそれはボクがお話いたします…」
丸太で作られた椅子に座って休んでいたイオがフラフラと立ち上がっりお辞儀をする。
「…確かあなた…魔導士アルタイルの弟子でしたね…」
「はい、イオと申します…以後お見知りおきを…」
意外にもいつもふざけた言動と行動が多い彼が王妃に対してはしっかりとした受け答えをしていた。
それからイオは王族探知魔法を使ってシャルロットを探しに行き、黒ずくめの角の生えた兜の男と耳長族の女性に遭遇、戦闘になった事を話した。
「二人の会話を少しだけ聞けたのですが…どうやら『無色の疫病神』に関わっていた様なのです…しかも組織として計画的に…恐らくアレを持ち込んだのは彼らかと…
それと、不思議な事にその男からシャルロット様と同一の反応が出ていました…その上何故かボクとツィッギー様の名前を知っていたのです…勿論ボクはこの人物に会った事はありません…」
「………」
場に重苦しい空気が漂う…無理もない、これはここグリッターツリーやエターニア王国のみならず世界の存続を脅かすかもしれない重大な案件であったのだから。
「失礼ですが…エターニア王様に王妃様とお見受けしますが…」
そこへ使用人の女性の肩を借りてツィッギーが入って来た。
彼女はとても憔悴しきっていて一人では足元もおぼつかなくなっていた。
「そうです…あなたは?」
「申し遅れました…私はここグリッターツリーの長をしておりますツィッギーと申します…」
「まあ…そうでしたかあなたが…この度はとても大変な思いをされた事でしょう…
しかしもう安心してください…大樹に寄生していた『無色の疫病神』は今しがた退治されました」
「ええっ!!?」
ツィッギーとイオは身体の疲労を忘れてしまう位盛大に驚いた。
「そんな…私達耳長族が数か月手も足も出なかったあの怪物をどうやって!?」
にわかには信じられないと言った表情のツィッギー。
「…それは我が娘シャルロットが古の女勇者の装備を用いて打ち倒しました…」
エリザベートはソファに横たえられて気を失っている我が子に視線を移しそう言った。
半信半疑だったツィッギーもシャルロットが身に付けている神々しい鎧を見て納得せざるを得ない。
「あの言い伝えは本当だったのですね…『魔王復活せし時、女勇者もまた復活しこれを討つ』…」
ツィッギーもあの伝説を知っていた…どうやらこの伝説は世界全土に知れ渡っている様だ。
「その事については我々以上に詳しい方々がいらしていますのよ…そろそろお話しいただけますかモイライ?」
「えっ…!?この方々があの伝説の『時の三女神』…?」
ツィッギーが驚愕する…まさか目の前の女性たちが女神であるとは思っていなかったのだ。
「…フン」
エリザベートのわざとらしい振りに不機嫌そうにそっぽをむくウルト。
まだ先程のいざこざを引きずっている様だ。
これでは埒が明かないと苦笑いを浮かたベルダンデが語り始めた。
「約束通り我々の目的と行動理由をお話しましょう…但しこれはとてもデリケートな問題なのです…特にそちらで眠っている三人には聞かせられない話だという事は納得して頂けるかしら?」
眠っているシャルロト、ハインツ、グロリアに目をやる。
「そんな…!!ではこの子らは真実を知らずに戦わなければいけないのですか!?
それは余りに不憫すぎるのでは…」
シャルル王が悲し気な表情でベルダンデに訴える…しかしエリザベートが割って入った。
「あなた…例えモイライが関係していなくても我々王族の者は国を護るのが定め…それはシャルロットも例外ではありません…分かりましたわモイライ、それで構いません」
毅然としてはいたが彼女も内心はシャルロットに対して後ろめたい気持ちを抱いていた。
本当は母として我が子が運命に翻弄されているのを黙って見ているなど我慢ならないのだ…しかし一国の王妃という立場がそれを許してくれない。
「じゃあさ~最初に言っておこうと思うんだけど…これからあたしらが言う事は物凄~~~~~く重要な事なのね…それこそ世界が滅ぶか滅ばないかってくらいに…それでこの話を受け止める覚悟がない人、秘密をバラさない自信のない人には退席してもらいたいんだなこれが…」
顔はニコニコしながらも全身から強烈なプレッシャーを発するスクード。
あどけない見た目をしているが伊達に女神を名乗っていないと言う事か。
「失礼ながら、私はエターニアの民ではないので席を外させていただきますわ…明らかに部外者ですからね…」
「申し訳ございません…ツィッギー様…」
そう言ってお辞儀をし退室するツィッギー。
エリザベートも彼女の背中に向かって深々とお辞儀をした。
「…ボクみたいな魔導士見習いが国政の深い所に関わるのは駄目ですよね…では失礼して…」
口ではそう言っているが明らかに顔が引きつっている…イオは面倒ごとにこれ以上首を突っ込みたくないらしい。
そして部屋を出ようとしたその時…。
「お前は聞いておきなさい…何かあった時、お前には私の代わりをしてもらうんだからな…」
「お師様…!?」
アルタイルがイオを押し戻す様には部屋に入って来た。
弟子の考える事など師である彼にはお見通しであった。
渋々イオは部屋の中に戻ってきた。
「お師様ですって!?あなたはアルタイル殿なのですか!?どうしてそんな変わり果てた姿に!?」
グラハムがアルタイルの前まで駆け寄りしゃがみ込む。
そうしないと子供化して背が縮んでしまった彼と目線が合わないからだ。
「…色々事情があってね…この事は今の一件が片付いたら説明するよ…」
赤面し恥ずかしそうに横を向きながらアルタイルは口をつぐんだ。
「では始めます…一度しか言いませんからしっかりと聞いていてくださいね…?」
この場に居た一同は固唾を呑み女神たちの言葉に耳を傾けた。
モイライが一人、『現在のベルダンデ』が虚空を仰ぎ何やら考え込んでいる。
「あの…どう…なされました?」
先程のエリザベートと『過去のウルト』の口喧嘩の余韻が残る険悪な雰囲気の中、シャルロットを抱きかかえたまま恐る恐る口を開くシャルル王…ハインツとグロリアを介抱していたグラハムと共にずっと傍らに居たのだが完全に空気になっていた…しかし一国の王がそれでいいのか。
言わずもながだが先程の仮面の三人組、王妃以外の残り二人は彼らだ。
「いえ~こんな森の中で立ち話も何ですから談話するのに良い物件を探していましたの…あっ!!近くに良いお屋敷がありますね!!そこにしましょう!!」
胸の前でポンと手を合わせ満面の笑みを浮かべると、ベルダンデは右手を大きく天に伸ばした…するとこの場に居た一同全員が光の球に包まれ一瞬で姿が消える。
そして次に彼らが現れたのはツィッギーの屋敷内の居間であった。
「国王様…!!王妃様…!!どうしてここに!?」
既に居間に居た、くのいち装束のシオンが突如として現れた団体に驚きすぐさまかしづく。
「それはこちらの台詞です…偵察に出ていたあなたが何故ここに居るのです?」
流石のエリザベートもいささか混乱していた。
実はシオンは国王命令を請けたグラハムの指示でシャルロット達を監視していた。
城壁から抜け道を使って国外へ出たシャルロット達を見下ろしていたのは彼女であった。
そして『輝きの大樹』へ向かう一行の行動をグラハムに報告していた所を偶然エリザベート王妃に聞かれてしまい、シャルル王も巻き込んで陰ながら彼らの道中を見守る事になっていたのだった。
「はっ…それが森の中で賊に襲われていたイオ殿たちを見付けまして…救助してこのツィッギー様のお屋敷に避難しておりました…」
「賊ですか?それで一体何者だったのです?」
「それが…彼らを救い出して一目散に逃げて参りましたので…」
シオンが目を伏せる。
急な事で危機に陥っていたイオ達二人を逃がすのに精一杯で敵の素性を調べるに至らなかったのだから。
「…恐れながらそれはボクがお話いたします…」
丸太で作られた椅子に座って休んでいたイオがフラフラと立ち上がっりお辞儀をする。
「…確かあなた…魔導士アルタイルの弟子でしたね…」
「はい、イオと申します…以後お見知りおきを…」
意外にもいつもふざけた言動と行動が多い彼が王妃に対してはしっかりとした受け答えをしていた。
それからイオは王族探知魔法を使ってシャルロットを探しに行き、黒ずくめの角の生えた兜の男と耳長族の女性に遭遇、戦闘になった事を話した。
「二人の会話を少しだけ聞けたのですが…どうやら『無色の疫病神』に関わっていた様なのです…しかも組織として計画的に…恐らくアレを持ち込んだのは彼らかと…
それと、不思議な事にその男からシャルロット様と同一の反応が出ていました…その上何故かボクとツィッギー様の名前を知っていたのです…勿論ボクはこの人物に会った事はありません…」
「………」
場に重苦しい空気が漂う…無理もない、これはここグリッターツリーやエターニア王国のみならず世界の存続を脅かすかもしれない重大な案件であったのだから。
「失礼ですが…エターニア王様に王妃様とお見受けしますが…」
そこへ使用人の女性の肩を借りてツィッギーが入って来た。
彼女はとても憔悴しきっていて一人では足元もおぼつかなくなっていた。
「そうです…あなたは?」
「申し遅れました…私はここグリッターツリーの長をしておりますツィッギーと申します…」
「まあ…そうでしたかあなたが…この度はとても大変な思いをされた事でしょう…
しかしもう安心してください…大樹に寄生していた『無色の疫病神』は今しがた退治されました」
「ええっ!!?」
ツィッギーとイオは身体の疲労を忘れてしまう位盛大に驚いた。
「そんな…私達耳長族が数か月手も足も出なかったあの怪物をどうやって!?」
にわかには信じられないと言った表情のツィッギー。
「…それは我が娘シャルロットが古の女勇者の装備を用いて打ち倒しました…」
エリザベートはソファに横たえられて気を失っている我が子に視線を移しそう言った。
半信半疑だったツィッギーもシャルロットが身に付けている神々しい鎧を見て納得せざるを得ない。
「あの言い伝えは本当だったのですね…『魔王復活せし時、女勇者もまた復活しこれを討つ』…」
ツィッギーもあの伝説を知っていた…どうやらこの伝説は世界全土に知れ渡っている様だ。
「その事については我々以上に詳しい方々がいらしていますのよ…そろそろお話しいただけますかモイライ?」
「えっ…!?この方々があの伝説の『時の三女神』…?」
ツィッギーが驚愕する…まさか目の前の女性たちが女神であるとは思っていなかったのだ。
「…フン」
エリザベートのわざとらしい振りに不機嫌そうにそっぽをむくウルト。
まだ先程のいざこざを引きずっている様だ。
これでは埒が明かないと苦笑いを浮かたベルダンデが語り始めた。
「約束通り我々の目的と行動理由をお話しましょう…但しこれはとてもデリケートな問題なのです…特にそちらで眠っている三人には聞かせられない話だという事は納得して頂けるかしら?」
眠っているシャルロト、ハインツ、グロリアに目をやる。
「そんな…!!ではこの子らは真実を知らずに戦わなければいけないのですか!?
それは余りに不憫すぎるのでは…」
シャルル王が悲し気な表情でベルダンデに訴える…しかしエリザベートが割って入った。
「あなた…例えモイライが関係していなくても我々王族の者は国を護るのが定め…それはシャルロットも例外ではありません…分かりましたわモイライ、それで構いません」
毅然としてはいたが彼女も内心はシャルロットに対して後ろめたい気持ちを抱いていた。
本当は母として我が子が運命に翻弄されているのを黙って見ているなど我慢ならないのだ…しかし一国の王妃という立場がそれを許してくれない。
「じゃあさ~最初に言っておこうと思うんだけど…これからあたしらが言う事は物凄~~~~~く重要な事なのね…それこそ世界が滅ぶか滅ばないかってくらいに…それでこの話を受け止める覚悟がない人、秘密をバラさない自信のない人には退席してもらいたいんだなこれが…」
顔はニコニコしながらも全身から強烈なプレッシャーを発するスクード。
あどけない見た目をしているが伊達に女神を名乗っていないと言う事か。
「失礼ながら、私はエターニアの民ではないので席を外させていただきますわ…明らかに部外者ですからね…」
「申し訳ございません…ツィッギー様…」
そう言ってお辞儀をし退室するツィッギー。
エリザベートも彼女の背中に向かって深々とお辞儀をした。
「…ボクみたいな魔導士見習いが国政の深い所に関わるのは駄目ですよね…では失礼して…」
口ではそう言っているが明らかに顔が引きつっている…イオは面倒ごとにこれ以上首を突っ込みたくないらしい。
そして部屋を出ようとしたその時…。
「お前は聞いておきなさい…何かあった時、お前には私の代わりをしてもらうんだからな…」
「お師様…!?」
アルタイルがイオを押し戻す様には部屋に入って来た。
弟子の考える事など師である彼にはお見通しであった。
渋々イオは部屋の中に戻ってきた。
「お師様ですって!?あなたはアルタイル殿なのですか!?どうしてそんな変わり果てた姿に!?」
グラハムがアルタイルの前まで駆け寄りしゃがみ込む。
そうしないと子供化して背が縮んでしまった彼と目線が合わないからだ。
「…色々事情があってね…この事は今の一件が片付いたら説明するよ…」
赤面し恥ずかしそうに横を向きながらアルタイルは口をつぐんだ。
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