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第16話 野生の脅威
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「さあ、ここから城壁の外側に出られますですよ~」
イオの導きにより国の南側の城壁の外にある枯れ井戸の底から現れるシャルロット一行。
城の地下、アルタイルの魔道工房からはいくつかの地下道が伸びており、この井戸以外にも地上を通らずに直接城下や国の管轄の施設などに移動できるようになっていた。
これは遥か昔、有事の際に王族の脱出用に造られていたものである。
だがこの抜け道はこれまで殆ど使用された事は無く、その存在はごく一部の関係者しか知らない。
余談ではあるがエリザベート王妃は知っているがシャルル王は知らなかったりする。
「まさか城の地下からこんな抜け道があるなんてな…」
井戸の内側に掛かる縄梯子を先に昇り先にハインツが次に上って来るシャルロットに手を差し出しながらつぶやく。
「僕も初めて知ったよ…でもこれで警備が厳しくなったお城から抜け出すのも楽になったね」
「何を言ってるんだ!!本当ならこんな事、絶対に許されないんだからな!!
もしこの抜け道が賊に知れたら一大事だ!!」
シャルロットを引き上げ次にイオに手を貸す。
「その辺は大丈夫ですよ、抜け道の一番外側の扉は外からは開けられない仕組みになってますですから」
「そうなのか…?」
もう井戸から出ていると言うのにイオはハインツの手を放そうとしない。
後ろからシャルロットの殺気にも似たプレッシャーを感じ慌ててハインツは手を振りほどく。
「だけどそれだとこっそり出掛けたとして戻って来た時にここから入れないのでは…?つまりこっそり戻れない…」
「あっ………」
最後に上がって来たグロリアに言われた一言に一同は凍り付いた。
ハインツは一旦井戸の底に戻り先程出て来た石造りの内壁を探ってみたが、ぴたりと閉じられており、イオが言った通りこちらから押しても駄目…引っ張り出そうにも指の掛かる所は無し…既に開ける事は出来なくなっていた。
城を抜け出した事はいずればれるだろうが秘密裏に戻って来れればある程度の言い訳が立つ。
しかし大手を振って城門から帰ってくるとなると大人から大目玉をくらうだろう…いや、そんな程度で済むわけがない。
そもそも抜け道は脱出が目的であってそれ以上でも以下でもないのだ。
「ああっ…ますます俺の騎士団入りが遠のいていく…」
目の辺りを掌で覆い天を仰ぐハインツ。
姫の護衛とは言えこんなに素行が悪ければ騎士団の入団試験に審査段階で弾かれるかもしれないと思ったのだ。
「なぁに?ハインツったら騎士団に入りたかったんだ?」
「悪いかよ!!騎士団に入団する事は俺の小さい時からの夢なんだよ!!」
「ふ~ん…」
ハインツの剣幕からもその本気の程が窺える。
シャルロットは顎に人差し指を添えて考え込む…何やら思う所がある様だ。
「見て下さいです、はるか向こうに見える森がグリッターツリーのある大森林ですよ…早速向かうです」
イオが指差す先には広大な草原の先、木々が鬱蒼と茂った壮大な森が見えている。
そこまではかなり距離が有るにもかかわらずその森の存在感には圧倒されてしまう。
「よ~し!!じゃあみんな、張り切っていこう!!お~っ!!」
「「「…おーっ…」」」
腕を突き上げて張り切るシャルロットに対して他の三人は元気がない。
「何でそんなにノリが悪いのさ?」
「これからピクニックへ行くんじゃないんだぞ!!お前ももう少し緊張感をもってだな…っておい!!」
「前方に大きな森を発見!!全員突撃~~~!!」
「シャル様お待ちください!!」
「姫様~~~ボクは体育会系のノリは苦手です~~~」
ハインツの小言が続いているがどこ吹く風、喜々として森へ向かって駆け出すシャルロット…そしてそれを慌てて追いかける一行。
だがそんな彼らを城壁のてっぺんから見下ろす人物が居た事に誰も気が付かなかった。
「…ねえハインツ…この森、どこから入ればいいのかな?」
「それはこっちが聞きたいね…」
一行は森の直近まで来たのだが森には入り口らしきものは無く、草木が鬱蒼と生えておりどう中に入ってよいものか戸惑っていた。
森の外周を回って平坦な場所を探すにしてもこの森の規模は大きすぎる。
「仕方が無いね…ここから草を掻き分けて強引に入ろう…」
「シャル様…こう剣で草をなぎ倒しながら進んではどうですか?」
腰からレイピアを引き抜こうとするグロリアの手をハインツが咄嗟に押さえた。
「グロリア…お前何も分かってないな…無闇に森を荒して耳長族の機嫌を損ねたらどうするんだ?彼らは耳が良い…どこで聞いているか分からないんだぞ?」
「そうですよ、彼らは無益な殺生と必要以上の自然破壊を極端に嫌っていますです、グロリアさんはもっと世界情勢を勉強するべきです」
「うっ…みんなしてそこまで言う事無いじゃない…」
ただ楽に進む方法を提案しただけでハインツとイオに総攻撃を受けるグロリア。
しかもつい先ほど知り合ったイオにまで言われたものだから少し落ち込んでしまった。
この魔術師見習いのイオという少年…少女と見紛う程の可愛らしい容姿な上、頭脳明晰で魔法知識や雑学などの知識は豊富なのだが如何せん口が悪く、特に女性には辛辣な態度を取る事が多い…性格に多少問題があった。
ただシャルロットに対してはとてもフレンドリーであり、女神の祝福の効果は受けているのは間違いないが、それ以上に本能的にシャルロットが男性である事を感じ取り親近感を抱いているのではないだろうか。
数十分後…
人の背丈程ある草を掻き分けやっとの事で開けた場所に出た。
草の丈は芝生程度でかなり広めの草原だ。
「ゼェ…ゼェ…何て森だ…まるで人間を森に入れたくないと言わんばかりだな…まさに耳長族の人嫌いここに極まれり…」
日頃武芸の訓練に明け暮れているハインツも音を上げる程森の行軍は過酷であった。
膝から地面に崩れ落ち両手をつく。
「誰かに聞こえますですよ…まあ概ね同意しますですが…」
魔法の杖を突きよろけながらイオも座り込む。
「…少しここで休んでいきませんか?幸い近くに川が流れているようですし…」
耳を澄ますとグロリアが言う様に川のせせらぎが聞こえる。
一行が音を頼りに先に進むととても澄んだ水が流れる小川があった。
「これは有り難い…!!もう喉がカラカラだよっ!!」
シャルロットは身体の疲労も何のその、小川まで駆け出した、負けじと三人も後を追う。
そして川縁に膝ま付くと浴びる様に水を飲み始めた。
「ぷはぁ…生き返る…」
顔から水滴を滴らせシャルロットは満足そうな笑顔を浮かべる。
皆、顔を洗ったり、靴を脱いで川に足を浸したりと思い思いに休憩を満喫している。
「あっ…何あれ!!カワイイ!!」
対岸に小動物が現れた。
それは真っ白い体毛に長い耳、赤い目をした兎に酷似した容姿の小動物であったが決定的に違う部分があった。
その額には可愛らしい容姿に不釣り合いな螺旋状に捻じれた一本の角が生えていたのだ。
その小動物は身じろぎ一つせずじっとこちらを見ている。
「本当に可愛いな~もっと近づいてみようか…」
「はい!!シャル様!!」
女子が可愛いものを見た時特有のとろけた様な表情を浮かべシャルロットとグロリアが川の中を進んで行く。
「ちょと待て二人共!!迂闊に野生動物に近付くな!!」
ハインツは嫌な予感がして槍を手に取り二人の後を走って追いかける。
「え~っ?大丈夫だよ、こんなに可愛いんだし…ハインツは心配性だな~」
シャルロットがハインツの方を振り返った時にそれは起った。
小動物の目付きが急に鋭くなり突然シャルロットに向かって猛突進を開始したのだ。
加速したのち跳躍し、螺旋角をこちらに向けてドリルの様に回転しながら高速で向かってくる。
それはまるで弾丸の様であった。
「シャル様危ない!!」
「きゃっ!!」
危険を察知したグロリアが咄嗟にシャルロットに飛び付き寸での所でそれをかわす。
二人は全身が川の水に浸かってしまった。
その上を通過していく兎弾丸。
「受けろ!!」
駆けつけたハインツがそれに向かって槍を突き出す…見事槍はその角兎の胴を貫いた。
キュウウウウウウウウウンンンンンンンーーーーーーー………!!!
耳を劈《つんざ》くような甲高い断末魔を上げて角兎は絶命した。
「ほら見た事か!!いくら可愛い容姿だとしても野生動物には危険なものが多いんだぞ!!気を付けろ!!」
「ううっ…ご免なさい…」
「…面目ない…」
ハインツの剣幕にしゅんとしてしまう二人。
ただ危機はまだ去っていなかった。
「何ですか…この地響きのような…いえ、何か音が聞こえますですね…これは動物の泣き声です?」
イオが言う通り微かに甲高い鳴き声の様な物が聞こえてくる…それはジワジワと、確実に大きくなりこちらに近付いて来ている感じがする。
それに伴い地響きも確実に大きくなっていた。
やがてその正体が知れる事になった。
次々と先程倒した角兎と同種の小動物が大挙としてこの草原に押し寄せたのだ。
その数ざっと見回しても数百匹はいるであろう。
「なっ…!!まさかさっきのウサギ…仲間を呼んでいたのか!?」
ハインツは先程の角兎の異様なまでに大きな断末魔を思い出す。
あれは仲間に危機を知らせると同時に呼び寄せる効果があったのではないかと。
「アワワ…どうするんですかこれ~~~!!」
キョロキョロと辺りを見回し杖を抱きしめるイオ、内股の膝がガクガクと震える。
「みんな背中合わせに集まれ!!完全に囲まれたぞ!!」
ハインツの合図で足が竦んで動けないイオの元に背中を合わせる様に寄り集まった。
キュウキュウと鳴き声を上げながら一行を包囲する角兎たち。
その表情は目と口角が吊り上がり怒りの形相だ、先程倒された個体が初めに見せた愛らしさは微塵も感じられない。
「これは大変な事になったね…」
「はい…」
シャルロットとグロリアも腰から剣を抜き戦闘態勢に入り角兎たちと睨み合う。
果たしてこの多勢に無勢の状況…彼らは打破できるのだろうか…。
イオの導きにより国の南側の城壁の外にある枯れ井戸の底から現れるシャルロット一行。
城の地下、アルタイルの魔道工房からはいくつかの地下道が伸びており、この井戸以外にも地上を通らずに直接城下や国の管轄の施設などに移動できるようになっていた。
これは遥か昔、有事の際に王族の脱出用に造られていたものである。
だがこの抜け道はこれまで殆ど使用された事は無く、その存在はごく一部の関係者しか知らない。
余談ではあるがエリザベート王妃は知っているがシャルル王は知らなかったりする。
「まさか城の地下からこんな抜け道があるなんてな…」
井戸の内側に掛かる縄梯子を先に昇り先にハインツが次に上って来るシャルロットに手を差し出しながらつぶやく。
「僕も初めて知ったよ…でもこれで警備が厳しくなったお城から抜け出すのも楽になったね」
「何を言ってるんだ!!本当ならこんな事、絶対に許されないんだからな!!
もしこの抜け道が賊に知れたら一大事だ!!」
シャルロットを引き上げ次にイオに手を貸す。
「その辺は大丈夫ですよ、抜け道の一番外側の扉は外からは開けられない仕組みになってますですから」
「そうなのか…?」
もう井戸から出ていると言うのにイオはハインツの手を放そうとしない。
後ろからシャルロットの殺気にも似たプレッシャーを感じ慌ててハインツは手を振りほどく。
「だけどそれだとこっそり出掛けたとして戻って来た時にここから入れないのでは…?つまりこっそり戻れない…」
「あっ………」
最後に上がって来たグロリアに言われた一言に一同は凍り付いた。
ハインツは一旦井戸の底に戻り先程出て来た石造りの内壁を探ってみたが、ぴたりと閉じられており、イオが言った通りこちらから押しても駄目…引っ張り出そうにも指の掛かる所は無し…既に開ける事は出来なくなっていた。
城を抜け出した事はいずればれるだろうが秘密裏に戻って来れればある程度の言い訳が立つ。
しかし大手を振って城門から帰ってくるとなると大人から大目玉をくらうだろう…いや、そんな程度で済むわけがない。
そもそも抜け道は脱出が目的であってそれ以上でも以下でもないのだ。
「ああっ…ますます俺の騎士団入りが遠のいていく…」
目の辺りを掌で覆い天を仰ぐハインツ。
姫の護衛とは言えこんなに素行が悪ければ騎士団の入団試験に審査段階で弾かれるかもしれないと思ったのだ。
「なぁに?ハインツったら騎士団に入りたかったんだ?」
「悪いかよ!!騎士団に入団する事は俺の小さい時からの夢なんだよ!!」
「ふ~ん…」
ハインツの剣幕からもその本気の程が窺える。
シャルロットは顎に人差し指を添えて考え込む…何やら思う所がある様だ。
「見て下さいです、はるか向こうに見える森がグリッターツリーのある大森林ですよ…早速向かうです」
イオが指差す先には広大な草原の先、木々が鬱蒼と茂った壮大な森が見えている。
そこまではかなり距離が有るにもかかわらずその森の存在感には圧倒されてしまう。
「よ~し!!じゃあみんな、張り切っていこう!!お~っ!!」
「「「…おーっ…」」」
腕を突き上げて張り切るシャルロットに対して他の三人は元気がない。
「何でそんなにノリが悪いのさ?」
「これからピクニックへ行くんじゃないんだぞ!!お前ももう少し緊張感をもってだな…っておい!!」
「前方に大きな森を発見!!全員突撃~~~!!」
「シャル様お待ちください!!」
「姫様~~~ボクは体育会系のノリは苦手です~~~」
ハインツの小言が続いているがどこ吹く風、喜々として森へ向かって駆け出すシャルロット…そしてそれを慌てて追いかける一行。
だがそんな彼らを城壁のてっぺんから見下ろす人物が居た事に誰も気が付かなかった。
「…ねえハインツ…この森、どこから入ればいいのかな?」
「それはこっちが聞きたいね…」
一行は森の直近まで来たのだが森には入り口らしきものは無く、草木が鬱蒼と生えておりどう中に入ってよいものか戸惑っていた。
森の外周を回って平坦な場所を探すにしてもこの森の規模は大きすぎる。
「仕方が無いね…ここから草を掻き分けて強引に入ろう…」
「シャル様…こう剣で草をなぎ倒しながら進んではどうですか?」
腰からレイピアを引き抜こうとするグロリアの手をハインツが咄嗟に押さえた。
「グロリア…お前何も分かってないな…無闇に森を荒して耳長族の機嫌を損ねたらどうするんだ?彼らは耳が良い…どこで聞いているか分からないんだぞ?」
「そうですよ、彼らは無益な殺生と必要以上の自然破壊を極端に嫌っていますです、グロリアさんはもっと世界情勢を勉強するべきです」
「うっ…みんなしてそこまで言う事無いじゃない…」
ただ楽に進む方法を提案しただけでハインツとイオに総攻撃を受けるグロリア。
しかもつい先ほど知り合ったイオにまで言われたものだから少し落ち込んでしまった。
この魔術師見習いのイオという少年…少女と見紛う程の可愛らしい容姿な上、頭脳明晰で魔法知識や雑学などの知識は豊富なのだが如何せん口が悪く、特に女性には辛辣な態度を取る事が多い…性格に多少問題があった。
ただシャルロットに対してはとてもフレンドリーであり、女神の祝福の効果は受けているのは間違いないが、それ以上に本能的にシャルロットが男性である事を感じ取り親近感を抱いているのではないだろうか。
数十分後…
人の背丈程ある草を掻き分けやっとの事で開けた場所に出た。
草の丈は芝生程度でかなり広めの草原だ。
「ゼェ…ゼェ…何て森だ…まるで人間を森に入れたくないと言わんばかりだな…まさに耳長族の人嫌いここに極まれり…」
日頃武芸の訓練に明け暮れているハインツも音を上げる程森の行軍は過酷であった。
膝から地面に崩れ落ち両手をつく。
「誰かに聞こえますですよ…まあ概ね同意しますですが…」
魔法の杖を突きよろけながらイオも座り込む。
「…少しここで休んでいきませんか?幸い近くに川が流れているようですし…」
耳を澄ますとグロリアが言う様に川のせせらぎが聞こえる。
一行が音を頼りに先に進むととても澄んだ水が流れる小川があった。
「これは有り難い…!!もう喉がカラカラだよっ!!」
シャルロットは身体の疲労も何のその、小川まで駆け出した、負けじと三人も後を追う。
そして川縁に膝ま付くと浴びる様に水を飲み始めた。
「ぷはぁ…生き返る…」
顔から水滴を滴らせシャルロットは満足そうな笑顔を浮かべる。
皆、顔を洗ったり、靴を脱いで川に足を浸したりと思い思いに休憩を満喫している。
「あっ…何あれ!!カワイイ!!」
対岸に小動物が現れた。
それは真っ白い体毛に長い耳、赤い目をした兎に酷似した容姿の小動物であったが決定的に違う部分があった。
その額には可愛らしい容姿に不釣り合いな螺旋状に捻じれた一本の角が生えていたのだ。
その小動物は身じろぎ一つせずじっとこちらを見ている。
「本当に可愛いな~もっと近づいてみようか…」
「はい!!シャル様!!」
女子が可愛いものを見た時特有のとろけた様な表情を浮かべシャルロットとグロリアが川の中を進んで行く。
「ちょと待て二人共!!迂闊に野生動物に近付くな!!」
ハインツは嫌な予感がして槍を手に取り二人の後を走って追いかける。
「え~っ?大丈夫だよ、こんなに可愛いんだし…ハインツは心配性だな~」
シャルロットがハインツの方を振り返った時にそれは起った。
小動物の目付きが急に鋭くなり突然シャルロットに向かって猛突進を開始したのだ。
加速したのち跳躍し、螺旋角をこちらに向けてドリルの様に回転しながら高速で向かってくる。
それはまるで弾丸の様であった。
「シャル様危ない!!」
「きゃっ!!」
危険を察知したグロリアが咄嗟にシャルロットに飛び付き寸での所でそれをかわす。
二人は全身が川の水に浸かってしまった。
その上を通過していく兎弾丸。
「受けろ!!」
駆けつけたハインツがそれに向かって槍を突き出す…見事槍はその角兎の胴を貫いた。
キュウウウウウウウウウンンンンンンンーーーーーーー………!!!
耳を劈《つんざ》くような甲高い断末魔を上げて角兎は絶命した。
「ほら見た事か!!いくら可愛い容姿だとしても野生動物には危険なものが多いんだぞ!!気を付けろ!!」
「ううっ…ご免なさい…」
「…面目ない…」
ハインツの剣幕にしゅんとしてしまう二人。
ただ危機はまだ去っていなかった。
「何ですか…この地響きのような…いえ、何か音が聞こえますですね…これは動物の泣き声です?」
イオが言う通り微かに甲高い鳴き声の様な物が聞こえてくる…それはジワジワと、確実に大きくなりこちらに近付いて来ている感じがする。
それに伴い地響きも確実に大きくなっていた。
やがてその正体が知れる事になった。
次々と先程倒した角兎と同種の小動物が大挙としてこの草原に押し寄せたのだ。
その数ざっと見回しても数百匹はいるであろう。
「なっ…!!まさかさっきのウサギ…仲間を呼んでいたのか!?」
ハインツは先程の角兎の異様なまでに大きな断末魔を思い出す。
あれは仲間に危機を知らせると同時に呼び寄せる効果があったのではないかと。
「アワワ…どうするんですかこれ~~~!!」
キョロキョロと辺りを見回し杖を抱きしめるイオ、内股の膝がガクガクと震える。
「みんな背中合わせに集まれ!!完全に囲まれたぞ!!」
ハインツの合図で足が竦んで動けないイオの元に背中を合わせる様に寄り集まった。
キュウキュウと鳴き声を上げながら一行を包囲する角兎たち。
その表情は目と口角が吊り上がり怒りの形相だ、先程倒された個体が初めに見せた愛らしさは微塵も感じられない。
「これは大変な事になったね…」
「はい…」
シャルロットとグロリアも腰から剣を抜き戦闘態勢に入り角兎たちと睨み合う。
果たしてこの多勢に無勢の状況…彼らは打破できるのだろうか…。
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