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第三章 運命を呪います(怒)
第18話 男の僕がお姉様に妹としてゲットされた件
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「…僕にはまだ信じられない…母さんが嘘を吐いているなんて…」
ここは月華団のアジトらしい、室内を見渡す限り教会の礼拝堂の様な部屋だ、長机と椅子が数十個整然と置いてある、窓は暗幕で完全に覆われていて外の様子を窺う事は出来ない。
明かりは蝋燭だけ…取り敢えず手近な椅子を引っ張り出し腰掛けそのままうな垂れた。
ここに連れて来られるまで僕は気絶していたので現在位置が何処なのかは全く分からない。
「敵対していたわたくしの言葉ですものね…にわかには信じられませんか?」
目の前にはミヤビが立っている、
その後ろにはフードコートの時に居たメイド達も整列していた。
さっきは気が付かなかったがこのメイド達、どうも違和感がある、
何と言えばよいか…顔はみんな整っていて綺麗にメイクはしているのだが…どこか不自然だ。
「あら、この子たちに興味がおあり?薄々感じてると思いますけどこのメイドたちはみんな男性よ」
「やっぱり…そんな気はしていたんだ…」
僕が感じていた違和感の正体はそれだったか。
「以前お話した【全人類男の娘化計画】の一環ですわ、まずは地道な普及活動が重要でしょう?」
ミヤビも専用らしき豪華な装飾の椅子に腰かけ脚を組みながら微笑む。
そう言えば噂でミヤビに襲われた男性が女装癖に目覚めるって話があったが、このメイド達はその犠牲者?
「こんな一人ひとり洗脳していって、その計画は時間が掛かり過ぎるのでは?」
いずみ荘での会議でハルカさんが疑問に思っていた事を聞いてみた、ここで上手く情報を引き出せれば対抗策が打てるかもしれない。
「その辺はちゃんと考えていますわよ、もうすでに計画は半分以上進んでいるのだから…」
「何だって?」
「時が来ればあなたにも分かりますわ、楽しみは後に取っておいた方が面白いでしょう?」
まさか僕が鎌をかけていたのを見透かされた?相変わらずこのミヤビと言う人物は底が知れない。
「さあ出掛けますわよアキラさん」
おもむろに立ち上がりミヤビはそう言った。
「え?一体どこへ…」
突然どこへ行くと言うのか…
「決まってますわ…あなたはまだ自分の出生の話を疑っている…ならば直に当事者に確認すれば済む事…」
「それじゃ…」
「そう…あなたのおウチです」
大きな木造の扉を開け僕らは建物の外へと向かった。
「あなた達、留守をお願いね」
「「「「はい、いってらっしゃいませミヤビ様」」」」
メイド達が一斉にお辞儀をする、まるで屋敷からお出かけする良家のお嬢様の様だ。
外に出て分かったが、今まで居たこの建物はやはり教会であった。
こんな所にアジトを構えていたとは…
「ちょっと、ごめん遊ばせ」
そう言ってひょいと軽々と僕をお姫様抱っこの態勢に持ち上げるミヤビ。
「わわっ!おい!ちょっと…!」
僕を抱えたままジャンプ!余裕で二階建ての家の屋根の上に飛び乗り、
そして次々と建物の屋根を飛び移りながらいずみ荘を目指している様だ。
「凄い…!」
ミヤビの腕の中で、思わず感嘆の言葉をもらしてしまった。
「あら、あなたもアルティメットなんですから少し練習すればこれ位訳無いですわ」
そうこうしている内に僕の家であるいずみ荘の前まで来てしまっていた。
今更ながら緊張して来た…どう話を切り出そうか…
「あれ…アキラはん?と…あんたは!!」
何故かくのいちカナメを背負ったアイとばったり出くわした。
「御機嫌ようアイさん、まあ…カナメさん、何処へ行っていたかと思いましたら倒されていたのですわね」
平然とアイに挨拶するミヤビ、カナメが倒されていたのに全く慌てた様子はない。
「丁度良かったですわ…あなたアキラさんのお母様のシノブさんとカグラさんを呼んで来て下さらないかしら?」
「…はいな~ちょいと待っててな~」
アイは怪訝そうに少しだけこちらに視線を向け、いずみ荘に入って行く。今の僕は目を合わせる事が出来なかった、メイド服のスカートの裾を握りしめ、下唇を噛みしめる。
程なくして慌ただしくカグラと母さん、そして僕の外出中に来ていたのかミズキ先生もいずみ荘から出て来た。
「何故…アキラとミヤビが一緒に居るニャ!」
僅かに狼狽えるカグラ、母さんもどこか落ち着かない様子だ。
「さあアキラさん…ここでハッキリさせましょう?」
僕の耳元で囁くミヤビ、確かにこのままうやむやにはしておけない。
「…母さんが実は父親じゃなくて、僕を生んだのは本当は母さんだって言うのは本当かい?」
問いに対する答えが怖くて、何とか口から言葉を発する。
事情を知らない人物が聞いたらとても意味不明な言葉だが、こうとしか聞きようがない。
「…その話を…どこで聞いたの?」
神妙な表情で聞き返して来る母さん、その反応だけで僕の問いが肯定であると言っている様な物だ。
「そして…本当の父親がカグラだって言うのも?」
視線をカグラに移す、するとカグラが大きくため息を吐き、
「大方そこのミヤビに聞いたのであろう?そうだ…ワシがアキラ…お前の父親だ…そしてシノブの件も本当の事だ…」
全身に強烈な電流が流れたかの様な衝撃…さっきミヤビから聞いたのと直に当人から聞いたのとではショックの度合いが段違いだった…カグラの語尾が無いのも事実であると再度認識させられるには十分だ。
「騙したんだ…」
僕の心の中の怒りの感情が静かに…そして段々と大きくなっていくのが分かる。
握りしめた拳がブルブルと震えだし、とうとう全身が怒りを抑えられなくなっていた。
「今まで黙っていたのも許せないけど、騙していたのが一番許せない!!!」
僕はありったけの大声を張り上げ母さんを睨みつける、目から涙が意志に反して滝の様に流れ出す。
「ごめんなさい…ごめんなさい!」
その場に泣き崩れる母さん…どうして…こんな嘘を…
「シノブは悪くない…ワシが事実を隠そうと言ったんだ…アキラが困惑するだけだからと…本当はワシが墓まで持って行こうと思っていた秘密だからな」
俯きながら語るカグヤ、今までのおちゃらけたキャラが嘘の様に真剣な表情だ。
「本当に秘密の多い人ですわよね…わたくしのお母様との事も何も語って下さらない…知らされない方が辛い事だってありますのよ!」
ミヤビがカグラと母さんを睨みつける、同じ様な境遇にあるせいか僕の心情を代弁してくれているかのようだ。
ドクン…
「うっ…あ?…」
何だ?急に胸の辺りが熱くなる、怒りと悲しみの感情が混ざり合ってドンドン大きくなっていく。
「始まった様ですわね」
僕のこの状態を見て目を細めるミヤビ、まさか僕に何かしたのか?だとしたらあのキスが?…
「うああああああああ!!!!!!!」
邪悪な衝動を遂には押さえ切れなくなり、野獣の様に大声で叫んでいた。
取り急ぎ背負って来たカナメはんをいずみ荘の食堂内の休憩所に運ぶと、丁度そこにはハルカさんが居た。
「あら、また新しい患者さん?」
いつものハルカスマイル、癒される~って…そんな事言ってる場合じゃ無かった。
「ハルカさん~ちょうこのコの介抱したって~!今外に何故かアキラはんとミヤビはんが一緒に来てカグラ様たちと揉めてるんですわ~!ウチも様子を見て来ます」
「分かったわ!気を付けて」
ウチは慌てて外へ引き返す、するとアキラはんと思われる叫び声が聞こえた。
「うああああああああ!!!!!!!」
普段のアキラはんからは想像できない取り乱しぶり、体からはどす黒いアニマが炎の様に立ち昇っている。
「アキラさんにはほんの少しですけどわたくしのアニマを体内に入れさせてもらいましたの、怒りや悲しみの感情が昂った時に発動するようにね、これでアキラさんは完全に私たちの仲間になりましたわ」
唇に人差し指をあてがい、据わった目で冷たい微笑みを浮かべるミヤビ。
「ミヤビお前!!禁断の秘術【アニマスレイブ】をアキラに使ったのか?!何も知らなかったアキラまで巻き込んで…ワシが憎いならワシだけに憎悪の矛先を向ければいいだろう!!」
物凄い剣幕でミヤビを怒鳴りつけるカグラ様
「復讐はその相手をとことん追い詰めるためにする事でしょう?お父様!あなたには徹底的に地獄を味わって頂きますわよ?」
対照的に落ち着き払って物騒な事を言うミヤビ、表情は変わらず凍てつく笑顔のまま…
「さあアキラさん、もうこんな嘘つきたちは片付けてしまいなさいな!」
「…はい…姉さま…」
ミヤビの横に居て、荒い息で目の焦点も定まらないままアニマを放出していたアキラはんが突如動き出しウチらの方に向かって襲い掛かって来た、最初の標的は…シノブママさん?
「きゃぁ!!」
ガキィ!
「やめなさい!アキラ君!」
地面にへたり込むシノブママさん、二人の間に割って入ってアキラはんの拳を止めたのはミズキはんや!
「あなたが怒るのも分からなくはないけど…どんな理由があろうと親に手を上げてはダメ!!」
「邪魔をするな~!!」
もはや狂戦士と化したアキラはんがミズキはんに猛攻を仕掛ける、何とか凌いではいるがミズキはんには焦りの表情が見える。
「邪魔が入りましたわね…ではお父様たちのお相手はわたくしがいたしましょう」
ミヤビからも漆黒のアニマが立ち昇り、辺りを闇が覆い尽くす、何て大量のアニマ放出量や!
その闇を見ているだけで恐怖心が沸き起こり、発せられる衝撃波で弾き飛ばされそうだ。
「くっ!まさかこれほどの負のアニマを身に付けていたとはニャ…」
あまりのミヤビのアニマの猛威に驚愕するカグラ様、小さな体で耐え続ける。
「さあ受けなさい!」
ミヤビはんが拳を突き出すと、先端から無数の漆黒の蛇を模したアニマが絡み合うように飛び出しカグラ様目がけて向かって来る。
ガブゥ!ギリギリ…
「がはっ!!!」
その黒い蛇たちは数匹がカグラ様の腕や足、体の各所に噛み付き、
残りが首や体を締め上げる、
「ぐうう!!」
カグラ様はたまらず吐血しうめき声を上げる。
「まさかこれで終わりでは無いですわよね?あなたも反撃なさったらどうかしら?」
蔑むように挑発するミヤビに対してカグラ様は苦笑いを浮かべ
「正直なめてたニャ…ではこちらもちょっとだけ本気を出させてもらうかニャ!」
そう言い放ちアニマの集中を開始した。
カグラ様の体を銀色の光が包み込む、するとどうした事かグングン手足が伸び、体も大きくなり、幼女から十七、十八歳くらいの少女の姿になったのだ!
それに伴い、体に絡みついていた蛇状のアニマも消し飛んでいた。
対峙する二人、やはり親子なのか服装は違えど見た目から受ける印象はとても似ている。
「さあ、おいたが過ぎた子供にはお仕置きが必要ニャ!」
「出来るものならやってごらんなさいな!」
女装した父と息子…親子の壮絶な戦いが始まるのか?
「きゃああああ!!!」
私はアキラ君の度重なる攻撃に耐えかね、吹き飛ばされ地面に転がる。
これが【アニマスレイブ】、術者がその相手にキスなどの接触で体内にアニマを注入し思うがままに操る技!しかしアキラ君のこの強さは一体…?それに完全に我を忘れているなんて…
私の眼鏡はレンズにヒビが入り、赤いアンダーリムのフレームもグニャリと曲がってしまった。
立ち上がろうにも足に力が入らず膝を付いてしまう、これはいけない…今攻撃されたら一溜りもない。
しかし、次の一撃はいつまで経っても来ない、これはどうしたこと?
「もうやめてアキラちゃん!私が憎ければ、私だけを狙えばいいわ!」
シノブさんがアキラ君に呼びかけている!?
「ダメ!そんな事を言ったら…」
案の定、アキラ君の攻撃対象がシノブさんに切り替わった!物凄い勢いで向かっていく、アキラ君の拳がシノブさんの腹部に届きそうな瞬間、誰かが間に入り込んだ。
ズンッ!!
「…あああ…」
それはアイ君だった!みぞおち辺りに拳がめり込み嗚咽をもらす。
「…アカン…アキラはん…お母ちゃんは大事にせな…」
そのまま力無く倒れる、アイ君は気絶してしまった様だ。
「あ…ああ…あああああああ!!!!!」
その有様を見て突然取り乱すアキラ君、頭を両手で抱え苦しんでいる。
「これは…まだ完全じゃない見たいですわね…」
ミヤビさんはカグラ様との睨み合いを切り上げアキラ君のもとへ瞬時に移動するとそのままアキラ君と口づけを交す、するとまるで糸の切れた操り人形の様にミヤビさんの腕の中に倒れ込んだ。
「まあ最初としてはこんなものでしょう…今日の所はこの辺で失礼しますわ、御機嫌よう」
そう言うとアキラ君を抱きかかえたまま飛び去って行ってしまった。
「アキラ~!」
「アキラちゃん!」
彼の両親の悲痛な叫び声だけがこだましていた。
ここは月華団のアジトらしい、室内を見渡す限り教会の礼拝堂の様な部屋だ、長机と椅子が数十個整然と置いてある、窓は暗幕で完全に覆われていて外の様子を窺う事は出来ない。
明かりは蝋燭だけ…取り敢えず手近な椅子を引っ張り出し腰掛けそのままうな垂れた。
ここに連れて来られるまで僕は気絶していたので現在位置が何処なのかは全く分からない。
「敵対していたわたくしの言葉ですものね…にわかには信じられませんか?」
目の前にはミヤビが立っている、
その後ろにはフードコートの時に居たメイド達も整列していた。
さっきは気が付かなかったがこのメイド達、どうも違和感がある、
何と言えばよいか…顔はみんな整っていて綺麗にメイクはしているのだが…どこか不自然だ。
「あら、この子たちに興味がおあり?薄々感じてると思いますけどこのメイドたちはみんな男性よ」
「やっぱり…そんな気はしていたんだ…」
僕が感じていた違和感の正体はそれだったか。
「以前お話した【全人類男の娘化計画】の一環ですわ、まずは地道な普及活動が重要でしょう?」
ミヤビも専用らしき豪華な装飾の椅子に腰かけ脚を組みながら微笑む。
そう言えば噂でミヤビに襲われた男性が女装癖に目覚めるって話があったが、このメイド達はその犠牲者?
「こんな一人ひとり洗脳していって、その計画は時間が掛かり過ぎるのでは?」
いずみ荘での会議でハルカさんが疑問に思っていた事を聞いてみた、ここで上手く情報を引き出せれば対抗策が打てるかもしれない。
「その辺はちゃんと考えていますわよ、もうすでに計画は半分以上進んでいるのだから…」
「何だって?」
「時が来ればあなたにも分かりますわ、楽しみは後に取っておいた方が面白いでしょう?」
まさか僕が鎌をかけていたのを見透かされた?相変わらずこのミヤビと言う人物は底が知れない。
「さあ出掛けますわよアキラさん」
おもむろに立ち上がりミヤビはそう言った。
「え?一体どこへ…」
突然どこへ行くと言うのか…
「決まってますわ…あなたはまだ自分の出生の話を疑っている…ならば直に当事者に確認すれば済む事…」
「それじゃ…」
「そう…あなたのおウチです」
大きな木造の扉を開け僕らは建物の外へと向かった。
「あなた達、留守をお願いね」
「「「「はい、いってらっしゃいませミヤビ様」」」」
メイド達が一斉にお辞儀をする、まるで屋敷からお出かけする良家のお嬢様の様だ。
外に出て分かったが、今まで居たこの建物はやはり教会であった。
こんな所にアジトを構えていたとは…
「ちょっと、ごめん遊ばせ」
そう言ってひょいと軽々と僕をお姫様抱っこの態勢に持ち上げるミヤビ。
「わわっ!おい!ちょっと…!」
僕を抱えたままジャンプ!余裕で二階建ての家の屋根の上に飛び乗り、
そして次々と建物の屋根を飛び移りながらいずみ荘を目指している様だ。
「凄い…!」
ミヤビの腕の中で、思わず感嘆の言葉をもらしてしまった。
「あら、あなたもアルティメットなんですから少し練習すればこれ位訳無いですわ」
そうこうしている内に僕の家であるいずみ荘の前まで来てしまっていた。
今更ながら緊張して来た…どう話を切り出そうか…
「あれ…アキラはん?と…あんたは!!」
何故かくのいちカナメを背負ったアイとばったり出くわした。
「御機嫌ようアイさん、まあ…カナメさん、何処へ行っていたかと思いましたら倒されていたのですわね」
平然とアイに挨拶するミヤビ、カナメが倒されていたのに全く慌てた様子はない。
「丁度良かったですわ…あなたアキラさんのお母様のシノブさんとカグラさんを呼んで来て下さらないかしら?」
「…はいな~ちょいと待っててな~」
アイは怪訝そうに少しだけこちらに視線を向け、いずみ荘に入って行く。今の僕は目を合わせる事が出来なかった、メイド服のスカートの裾を握りしめ、下唇を噛みしめる。
程なくして慌ただしくカグラと母さん、そして僕の外出中に来ていたのかミズキ先生もいずみ荘から出て来た。
「何故…アキラとミヤビが一緒に居るニャ!」
僅かに狼狽えるカグラ、母さんもどこか落ち着かない様子だ。
「さあアキラさん…ここでハッキリさせましょう?」
僕の耳元で囁くミヤビ、確かにこのままうやむやにはしておけない。
「…母さんが実は父親じゃなくて、僕を生んだのは本当は母さんだって言うのは本当かい?」
問いに対する答えが怖くて、何とか口から言葉を発する。
事情を知らない人物が聞いたらとても意味不明な言葉だが、こうとしか聞きようがない。
「…その話を…どこで聞いたの?」
神妙な表情で聞き返して来る母さん、その反応だけで僕の問いが肯定であると言っている様な物だ。
「そして…本当の父親がカグラだって言うのも?」
視線をカグラに移す、するとカグラが大きくため息を吐き、
「大方そこのミヤビに聞いたのであろう?そうだ…ワシがアキラ…お前の父親だ…そしてシノブの件も本当の事だ…」
全身に強烈な電流が流れたかの様な衝撃…さっきミヤビから聞いたのと直に当人から聞いたのとではショックの度合いが段違いだった…カグラの語尾が無いのも事実であると再度認識させられるには十分だ。
「騙したんだ…」
僕の心の中の怒りの感情が静かに…そして段々と大きくなっていくのが分かる。
握りしめた拳がブルブルと震えだし、とうとう全身が怒りを抑えられなくなっていた。
「今まで黙っていたのも許せないけど、騙していたのが一番許せない!!!」
僕はありったけの大声を張り上げ母さんを睨みつける、目から涙が意志に反して滝の様に流れ出す。
「ごめんなさい…ごめんなさい!」
その場に泣き崩れる母さん…どうして…こんな嘘を…
「シノブは悪くない…ワシが事実を隠そうと言ったんだ…アキラが困惑するだけだからと…本当はワシが墓まで持って行こうと思っていた秘密だからな」
俯きながら語るカグヤ、今までのおちゃらけたキャラが嘘の様に真剣な表情だ。
「本当に秘密の多い人ですわよね…わたくしのお母様との事も何も語って下さらない…知らされない方が辛い事だってありますのよ!」
ミヤビがカグラと母さんを睨みつける、同じ様な境遇にあるせいか僕の心情を代弁してくれているかのようだ。
ドクン…
「うっ…あ?…」
何だ?急に胸の辺りが熱くなる、怒りと悲しみの感情が混ざり合ってドンドン大きくなっていく。
「始まった様ですわね」
僕のこの状態を見て目を細めるミヤビ、まさか僕に何かしたのか?だとしたらあのキスが?…
「うああああああああ!!!!!!!」
邪悪な衝動を遂には押さえ切れなくなり、野獣の様に大声で叫んでいた。
取り急ぎ背負って来たカナメはんをいずみ荘の食堂内の休憩所に運ぶと、丁度そこにはハルカさんが居た。
「あら、また新しい患者さん?」
いつものハルカスマイル、癒される~って…そんな事言ってる場合じゃ無かった。
「ハルカさん~ちょうこのコの介抱したって~!今外に何故かアキラはんとミヤビはんが一緒に来てカグラ様たちと揉めてるんですわ~!ウチも様子を見て来ます」
「分かったわ!気を付けて」
ウチは慌てて外へ引き返す、するとアキラはんと思われる叫び声が聞こえた。
「うああああああああ!!!!!!!」
普段のアキラはんからは想像できない取り乱しぶり、体からはどす黒いアニマが炎の様に立ち昇っている。
「アキラさんにはほんの少しですけどわたくしのアニマを体内に入れさせてもらいましたの、怒りや悲しみの感情が昂った時に発動するようにね、これでアキラさんは完全に私たちの仲間になりましたわ」
唇に人差し指をあてがい、据わった目で冷たい微笑みを浮かべるミヤビ。
「ミヤビお前!!禁断の秘術【アニマスレイブ】をアキラに使ったのか?!何も知らなかったアキラまで巻き込んで…ワシが憎いならワシだけに憎悪の矛先を向ければいいだろう!!」
物凄い剣幕でミヤビを怒鳴りつけるカグラ様
「復讐はその相手をとことん追い詰めるためにする事でしょう?お父様!あなたには徹底的に地獄を味わって頂きますわよ?」
対照的に落ち着き払って物騒な事を言うミヤビ、表情は変わらず凍てつく笑顔のまま…
「さあアキラさん、もうこんな嘘つきたちは片付けてしまいなさいな!」
「…はい…姉さま…」
ミヤビの横に居て、荒い息で目の焦点も定まらないままアニマを放出していたアキラはんが突如動き出しウチらの方に向かって襲い掛かって来た、最初の標的は…シノブママさん?
「きゃぁ!!」
ガキィ!
「やめなさい!アキラ君!」
地面にへたり込むシノブママさん、二人の間に割って入ってアキラはんの拳を止めたのはミズキはんや!
「あなたが怒るのも分からなくはないけど…どんな理由があろうと親に手を上げてはダメ!!」
「邪魔をするな~!!」
もはや狂戦士と化したアキラはんがミズキはんに猛攻を仕掛ける、何とか凌いではいるがミズキはんには焦りの表情が見える。
「邪魔が入りましたわね…ではお父様たちのお相手はわたくしがいたしましょう」
ミヤビからも漆黒のアニマが立ち昇り、辺りを闇が覆い尽くす、何て大量のアニマ放出量や!
その闇を見ているだけで恐怖心が沸き起こり、発せられる衝撃波で弾き飛ばされそうだ。
「くっ!まさかこれほどの負のアニマを身に付けていたとはニャ…」
あまりのミヤビのアニマの猛威に驚愕するカグラ様、小さな体で耐え続ける。
「さあ受けなさい!」
ミヤビはんが拳を突き出すと、先端から無数の漆黒の蛇を模したアニマが絡み合うように飛び出しカグラ様目がけて向かって来る。
ガブゥ!ギリギリ…
「がはっ!!!」
その黒い蛇たちは数匹がカグラ様の腕や足、体の各所に噛み付き、
残りが首や体を締め上げる、
「ぐうう!!」
カグラ様はたまらず吐血しうめき声を上げる。
「まさかこれで終わりでは無いですわよね?あなたも反撃なさったらどうかしら?」
蔑むように挑発するミヤビに対してカグラ様は苦笑いを浮かべ
「正直なめてたニャ…ではこちらもちょっとだけ本気を出させてもらうかニャ!」
そう言い放ちアニマの集中を開始した。
カグラ様の体を銀色の光が包み込む、するとどうした事かグングン手足が伸び、体も大きくなり、幼女から十七、十八歳くらいの少女の姿になったのだ!
それに伴い、体に絡みついていた蛇状のアニマも消し飛んでいた。
対峙する二人、やはり親子なのか服装は違えど見た目から受ける印象はとても似ている。
「さあ、おいたが過ぎた子供にはお仕置きが必要ニャ!」
「出来るものならやってごらんなさいな!」
女装した父と息子…親子の壮絶な戦いが始まるのか?
「きゃああああ!!!」
私はアキラ君の度重なる攻撃に耐えかね、吹き飛ばされ地面に転がる。
これが【アニマスレイブ】、術者がその相手にキスなどの接触で体内にアニマを注入し思うがままに操る技!しかしアキラ君のこの強さは一体…?それに完全に我を忘れているなんて…
私の眼鏡はレンズにヒビが入り、赤いアンダーリムのフレームもグニャリと曲がってしまった。
立ち上がろうにも足に力が入らず膝を付いてしまう、これはいけない…今攻撃されたら一溜りもない。
しかし、次の一撃はいつまで経っても来ない、これはどうしたこと?
「もうやめてアキラちゃん!私が憎ければ、私だけを狙えばいいわ!」
シノブさんがアキラ君に呼びかけている!?
「ダメ!そんな事を言ったら…」
案の定、アキラ君の攻撃対象がシノブさんに切り替わった!物凄い勢いで向かっていく、アキラ君の拳がシノブさんの腹部に届きそうな瞬間、誰かが間に入り込んだ。
ズンッ!!
「…あああ…」
それはアイ君だった!みぞおち辺りに拳がめり込み嗚咽をもらす。
「…アカン…アキラはん…お母ちゃんは大事にせな…」
そのまま力無く倒れる、アイ君は気絶してしまった様だ。
「あ…ああ…あああああああ!!!!!」
その有様を見て突然取り乱すアキラ君、頭を両手で抱え苦しんでいる。
「これは…まだ完全じゃない見たいですわね…」
ミヤビさんはカグラ様との睨み合いを切り上げアキラ君のもとへ瞬時に移動するとそのままアキラ君と口づけを交す、するとまるで糸の切れた操り人形の様にミヤビさんの腕の中に倒れ込んだ。
「まあ最初としてはこんなものでしょう…今日の所はこの辺で失礼しますわ、御機嫌よう」
そう言うとアキラ君を抱きかかえたまま飛び去って行ってしまった。
「アキラ~!」
「アキラちゃん!」
彼の両親の悲痛な叫び声だけがこだましていた。
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そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
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