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第9章
2 元カレの人格③
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「ごめんね、俺の話になっちゃった。他に何か聞きたいことは?」
「えっと……。今、奥さんと優子さんが仲良しじゃないですか。そういうのって、どう思ってるんですか?」
「うーん……、あんまり何も考えてないかな。実華子が優子を元カノだって知ってても慕うのは、それだけ優子が魅力的だってことだから、良いことだと思うし……」
のんびりとした返答に、なんだか拍子抜けした。
「というか、優子さんのことは、今どう思ってるんですか? 本当に諦められたのか……とか」
「優子のことは今も大事に思ってるよ。でも、今も好きかと聞かれると、それは違うかな。実華子のほうが好きだし、実華子のほうが大事。奥さんなんだから、当たり前だけどね」
「それじゃ、今、正樹さんが独身で、優子さんと奥さんどっちでも好きなほうを選べるとしたら、奥さんを選びます?」
「アハハ、発想が若い。そうだなぁ、俺が優子を選んだら、亮弥くん困るでしょ」
「困るというか、渡しません」
「ハハ、じゃあ、俺は実華子にする」
「いや、そういうんじゃなくて、もし、何も制限がなくて、自由に選べたら!」
思わず手振りまで入れて熱弁してる自分に、一瞬何言ってんだと我に返った。
でも、ちゃんと返事を聞かねばと、強気に答えを待つ。
正樹さんは、そんな俺を温かな眼差しでたっぷり見つめてから、言った。
「亮弥くんには悪いけど、俺は実華子。だって、俺は優子と過ごした時間より、実華子といる時間のほうが圧倒的に長いんだよ。それだけ絆も深いし、愛情も深いし、正直もう、実華子のいない人生は考えられないな」
「優子さんと比べても、実華子さんが上なんだ……」
「俺にはね。……正直に言うとね、俺から見たら優子は完璧過ぎたっていうか……。自分以上に何でもできちゃう優子が、脅威でもあったんだ」
「脅威……」
「日頃から何でも一人で解決できたし、他人のためにも躊躇なく動ける人だったし、仕事も追い越されちゃって……、ほら、俺から見たら優子は年下だからさ、しかも五つも。やっぱり男としては、焦るよね。自分が上じゃなきゃ、カッコつかないから」
「たしかにそれはちょっとわかるかも……。俺も最初は、仕事くらいは優子さんよりデキる自分でいたいって思ってたし。でも全くかなわないってわかったら、あっさり降参しましたけど……」
「それが俺にはできなかったんだよね。結局最後まで、勝ってからもう一度、って思ってたし。張り合わずにいられるのは、十二も年下であることの特権かもね」
「そう言われると……張り合うとかは考えたこと無いです。だって経験値からしてどう足掻いてもムリだし……」
そう思えるのって、優子さんとつき合う上ではけっこう重要だったのかな。
何も考えてなかったけど。
「優子は本当にデキる子だったからね。仕事してても、他は皆、目の前のことをこなすのにいっぱいいっぱいなのに、優子は違ったんだよなぁ。何が会社にもお客様にもプラスになるか、何がマイナスになってるか。漫然と続けてきたやり方が本当に正しいのか、何をどう改善すればより良くなるのか、細部まで追究してたし、全体最適も常に考えてた。営業所の下っ端なのにだよ。まあ……周囲の凡人には理解しきれなくて、風当たりはキツかったとこもあるけどね。こういう人を経営者脳って言うのかなって俺は思ってた」
「経営者脳……」
「実際、そういうレポート出して本社に採用されてるしね。でも、秘書になってるのはちょっとびっくりした。もったいないなって。もちろん、社長秘書は重要な役割だから、優子が重宝されるのもわかるんだけど、秘書の器は小さいと思うんだよね、優子には」
「そういえば、俺が社長秘書って話題出した時も、なんかテンション低かったです」
「あ、そう? やっぱりもっと第一線で活躍したいのかな。秘書ってどうしても、裏方だからね。経営には関われない」
「そうか……そうだったんだ……」
「ま、優子の仕事の話は長くなるから、この辺にしとこうか」
正樹さんが笑った。
「あ、いえ、ありがとうございます」
思いがけず、俺が知らなかった頃の優子さんの話を聞けて、嬉しかった。
やっぱり優子さんは若い頃から凄かったんだ。
でも、それを活かせないままでいるとしたら、かわいそうでもある。
「もう聞きたいこと聞けた? 俺ちゃんと返事できたかな?」
「あ……、はい。そうですね……。確認なんですけど、本当にもうこの先、優子さんを好きになることは無いですか? 例えば、今日みたいに四人で会うことがこの先もあったとしても?」
「まだそこが不安なんだ」
かわいいなぁ、と正樹さんは言った。
そういえばこの人、優子さんより五つ上ってことは俺より十七上だ。
ほとんど子供みたいな年齢差じゃん。
どうりで全くライバル視されないわけだ。
「えっと……。今、奥さんと優子さんが仲良しじゃないですか。そういうのって、どう思ってるんですか?」
「うーん……、あんまり何も考えてないかな。実華子が優子を元カノだって知ってても慕うのは、それだけ優子が魅力的だってことだから、良いことだと思うし……」
のんびりとした返答に、なんだか拍子抜けした。
「というか、優子さんのことは、今どう思ってるんですか? 本当に諦められたのか……とか」
「優子のことは今も大事に思ってるよ。でも、今も好きかと聞かれると、それは違うかな。実華子のほうが好きだし、実華子のほうが大事。奥さんなんだから、当たり前だけどね」
「それじゃ、今、正樹さんが独身で、優子さんと奥さんどっちでも好きなほうを選べるとしたら、奥さんを選びます?」
「アハハ、発想が若い。そうだなぁ、俺が優子を選んだら、亮弥くん困るでしょ」
「困るというか、渡しません」
「ハハ、じゃあ、俺は実華子にする」
「いや、そういうんじゃなくて、もし、何も制限がなくて、自由に選べたら!」
思わず手振りまで入れて熱弁してる自分に、一瞬何言ってんだと我に返った。
でも、ちゃんと返事を聞かねばと、強気に答えを待つ。
正樹さんは、そんな俺を温かな眼差しでたっぷり見つめてから、言った。
「亮弥くんには悪いけど、俺は実華子。だって、俺は優子と過ごした時間より、実華子といる時間のほうが圧倒的に長いんだよ。それだけ絆も深いし、愛情も深いし、正直もう、実華子のいない人生は考えられないな」
「優子さんと比べても、実華子さんが上なんだ……」
「俺にはね。……正直に言うとね、俺から見たら優子は完璧過ぎたっていうか……。自分以上に何でもできちゃう優子が、脅威でもあったんだ」
「脅威……」
「日頃から何でも一人で解決できたし、他人のためにも躊躇なく動ける人だったし、仕事も追い越されちゃって……、ほら、俺から見たら優子は年下だからさ、しかも五つも。やっぱり男としては、焦るよね。自分が上じゃなきゃ、カッコつかないから」
「たしかにそれはちょっとわかるかも……。俺も最初は、仕事くらいは優子さんよりデキる自分でいたいって思ってたし。でも全くかなわないってわかったら、あっさり降参しましたけど……」
「それが俺にはできなかったんだよね。結局最後まで、勝ってからもう一度、って思ってたし。張り合わずにいられるのは、十二も年下であることの特権かもね」
「そう言われると……張り合うとかは考えたこと無いです。だって経験値からしてどう足掻いてもムリだし……」
そう思えるのって、優子さんとつき合う上ではけっこう重要だったのかな。
何も考えてなかったけど。
「優子は本当にデキる子だったからね。仕事してても、他は皆、目の前のことをこなすのにいっぱいいっぱいなのに、優子は違ったんだよなぁ。何が会社にもお客様にもプラスになるか、何がマイナスになってるか。漫然と続けてきたやり方が本当に正しいのか、何をどう改善すればより良くなるのか、細部まで追究してたし、全体最適も常に考えてた。営業所の下っ端なのにだよ。まあ……周囲の凡人には理解しきれなくて、風当たりはキツかったとこもあるけどね。こういう人を経営者脳って言うのかなって俺は思ってた」
「経営者脳……」
「実際、そういうレポート出して本社に採用されてるしね。でも、秘書になってるのはちょっとびっくりした。もったいないなって。もちろん、社長秘書は重要な役割だから、優子が重宝されるのもわかるんだけど、秘書の器は小さいと思うんだよね、優子には」
「そういえば、俺が社長秘書って話題出した時も、なんかテンション低かったです」
「あ、そう? やっぱりもっと第一線で活躍したいのかな。秘書ってどうしても、裏方だからね。経営には関われない」
「そうか……そうだったんだ……」
「ま、優子の仕事の話は長くなるから、この辺にしとこうか」
正樹さんが笑った。
「あ、いえ、ありがとうございます」
思いがけず、俺が知らなかった頃の優子さんの話を聞けて、嬉しかった。
やっぱり優子さんは若い頃から凄かったんだ。
でも、それを活かせないままでいるとしたら、かわいそうでもある。
「もう聞きたいこと聞けた? 俺ちゃんと返事できたかな?」
「あ……、はい。そうですね……。確認なんですけど、本当にもうこの先、優子さんを好きになることは無いですか? 例えば、今日みたいに四人で会うことがこの先もあったとしても?」
「まだそこが不安なんだ」
かわいいなぁ、と正樹さんは言った。
そういえばこの人、優子さんより五つ上ってことは俺より十七上だ。
ほとんど子供みたいな年齢差じゃん。
どうりで全くライバル視されないわけだ。
応援ありがとうございます!
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