104 / 158
第9章
2 元カレの人格②
しおりを挟む
俺達が向かった先のビルの袂が、憩いの広場みたいになっていて、そこに座れるところがたくさんあった。
一人でスマホを見ている人や、グループで待ち合わせてる風の若い女の子達。
土曜日なのに仕事中なのか、スーツ姿でタブレットに見入っているサラリーマンや、もちろんデート中のカップルまで、いろんな人達が広場のベンチを利用していた。
その中の、木を囲むように配置されたベンチに俺達は座った。
雲が多かった空は順調に青空の割合が多くなっていて、広場はほのぼのとした陽気に包まれている。
「はー、なんか変な汗かいた」
正樹さんはポケットからハンカチを取り出して、丁寧に首もとの汗を拭った。
俺は完全にこの人の評価を下げていた。
あんなにいい人そうに振る舞いながら人を騙すような神経してるんだから、俺が劣等感を感じる程の相手じゃない。
「自業自得ですよ」
そう言って視線を向けると、正樹さんはふっと眉を下げて笑った。
「優子とはいつからつき合ってるの?」
さっきとは全く違う穏やかな声に、悪い気はしなかった。
あまり信用はできないけど、優子さん達の手前もあるし、気を取り直してこの人ときちんと話そう。
「八月からだから……、七ヶ月? くらいですね」
「それじゃ、大好きで仕方ない時期だ」
舐めてもらっちゃ困る。
「大好きで仕方ないのは、もう九年前からです」
「九年前?」
「あ……まあ、途中会えなかった期間がほとんどだけど、俺はずっと好きだったんで……」
「九年前ってことは、俺が実華子とつき合うよりも前だから……、もしかして、前に優子が言ってたのって、君だったのかな……?」
正樹さんは指で顎を触りながら考え込んだ。
「何すか、それ」
俺は思わず身を乗り出した。
「いや、チラッと話題に出ただけなんだけど……、別れてずいぶん経ってから、一度だけ二人で会ったことがあったんだよね。その時に、なんか若い子と何かあったような雰囲気だったから……」
「それって奥さんのことで何か話したってヤツですか? なんで二人で会ったんですか? 何話したんですか?」
「そんなに心配しなくていいよ。ちょっと実華子がきっかけで、優子に謝らなきゃいけない事態になっただけ。それに俺、その時に改めて振られてるから」
「え、どういうことですか?」
そんなこと、優子さんは言ってなかった。
「俺は優子のこと忘れられなくてね、本社まで追っかけてきたんだけど、優子はもうそういう気持ちは全くなかったみたい。実華子とつき合えばいいって平然と勧めるから、やり直せないかダメ元で確認したら、丁重に断られたよ」
「そうだったんですね……」
正樹さんもなかなか哀れな人だ。優子さん、やっぱりそういうところシビアなんだな……。
「実華子とはずいぶん年が離れててね。さすがにこんな若い子に手を出すのは……っていうような話をしたら、優子が妙に実感こもった返事したから、若い子に言い寄られたんだなーって思ったんだよね。きっと亮弥くんのことだね、あれは」
そう言って、ハハ、と笑った。
「でもあの時の気のない感じから、時を経て今はこうやってつき合ってるんだから、亮弥くん相当頑張ったんだね」
「まあ……かなり待ちました」
「いくつ離れてるんだっけ?」
「十二です」
「十二か。俺と実華子が十一だから、同じくらいだ」
「やっぱり年の差って気になるんですか?」
「亮弥くんは気にならない?」
「全然」
「断言できるんだ、すごいね。俺はやっぱり最初は躊躇したなぁ。優子でも五つ年下で、世間体としてはギリギリくらいかなって思ってたから」
世間体。
俺はその言葉に若干の衝撃を受けた。そんなこと考えるものなのか。
「まあでも、一緒にいるうちに馴染んで、今は別に気にならないけどね。年の差を理由に断らなくて良かったって、今は思ってるよ」
「ですよね!! 好きならそんなの関係ないと思うし」
「ハハ、若くて羨ましい」
今のはバカにされたんだろうか、と思ったが、正樹さんを見ると眩しそうな顔で笑ってるから、俺はとりあえず言葉どおりに受け止めた。
一人でスマホを見ている人や、グループで待ち合わせてる風の若い女の子達。
土曜日なのに仕事中なのか、スーツ姿でタブレットに見入っているサラリーマンや、もちろんデート中のカップルまで、いろんな人達が広場のベンチを利用していた。
その中の、木を囲むように配置されたベンチに俺達は座った。
雲が多かった空は順調に青空の割合が多くなっていて、広場はほのぼのとした陽気に包まれている。
「はー、なんか変な汗かいた」
正樹さんはポケットからハンカチを取り出して、丁寧に首もとの汗を拭った。
俺は完全にこの人の評価を下げていた。
あんなにいい人そうに振る舞いながら人を騙すような神経してるんだから、俺が劣等感を感じる程の相手じゃない。
「自業自得ですよ」
そう言って視線を向けると、正樹さんはふっと眉を下げて笑った。
「優子とはいつからつき合ってるの?」
さっきとは全く違う穏やかな声に、悪い気はしなかった。
あまり信用はできないけど、優子さん達の手前もあるし、気を取り直してこの人ときちんと話そう。
「八月からだから……、七ヶ月? くらいですね」
「それじゃ、大好きで仕方ない時期だ」
舐めてもらっちゃ困る。
「大好きで仕方ないのは、もう九年前からです」
「九年前?」
「あ……まあ、途中会えなかった期間がほとんどだけど、俺はずっと好きだったんで……」
「九年前ってことは、俺が実華子とつき合うよりも前だから……、もしかして、前に優子が言ってたのって、君だったのかな……?」
正樹さんは指で顎を触りながら考え込んだ。
「何すか、それ」
俺は思わず身を乗り出した。
「いや、チラッと話題に出ただけなんだけど……、別れてずいぶん経ってから、一度だけ二人で会ったことがあったんだよね。その時に、なんか若い子と何かあったような雰囲気だったから……」
「それって奥さんのことで何か話したってヤツですか? なんで二人で会ったんですか? 何話したんですか?」
「そんなに心配しなくていいよ。ちょっと実華子がきっかけで、優子に謝らなきゃいけない事態になっただけ。それに俺、その時に改めて振られてるから」
「え、どういうことですか?」
そんなこと、優子さんは言ってなかった。
「俺は優子のこと忘れられなくてね、本社まで追っかけてきたんだけど、優子はもうそういう気持ちは全くなかったみたい。実華子とつき合えばいいって平然と勧めるから、やり直せないかダメ元で確認したら、丁重に断られたよ」
「そうだったんですね……」
正樹さんもなかなか哀れな人だ。優子さん、やっぱりそういうところシビアなんだな……。
「実華子とはずいぶん年が離れててね。さすがにこんな若い子に手を出すのは……っていうような話をしたら、優子が妙に実感こもった返事したから、若い子に言い寄られたんだなーって思ったんだよね。きっと亮弥くんのことだね、あれは」
そう言って、ハハ、と笑った。
「でもあの時の気のない感じから、時を経て今はこうやってつき合ってるんだから、亮弥くん相当頑張ったんだね」
「まあ……かなり待ちました」
「いくつ離れてるんだっけ?」
「十二です」
「十二か。俺と実華子が十一だから、同じくらいだ」
「やっぱり年の差って気になるんですか?」
「亮弥くんは気にならない?」
「全然」
「断言できるんだ、すごいね。俺はやっぱり最初は躊躇したなぁ。優子でも五つ年下で、世間体としてはギリギリくらいかなって思ってたから」
世間体。
俺はその言葉に若干の衝撃を受けた。そんなこと考えるものなのか。
「まあでも、一緒にいるうちに馴染んで、今は別に気にならないけどね。年の差を理由に断らなくて良かったって、今は思ってるよ」
「ですよね!! 好きならそんなの関係ないと思うし」
「ハハ、若くて羨ましい」
今のはバカにされたんだろうか、と思ったが、正樹さんを見ると眩しそうな顔で笑ってるから、俺はとりあえず言葉どおりに受け止めた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼が指輪を嵌める理由
mahiro
恋愛
顔良し、頭良し、一人あたり良し。
仕事も出来てスポーツも出来ると社内で有名な重村湊士さんの左薬指に指輪が嵌められていると噂が流れた。
これはもう結婚秒読みの彼女がいるに違いないと聞きたくもない情報が流れてくる始末。
面識なし、接点なし、稀に社内ですれ違うだけで向こうは私のことなんて知るわけもなく。
もうこの恋は諦めなきゃいけないのかな…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる