アラフォーだから君とはムリ

天野アンジェラ

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第9章

2 元カレの人格②

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 俺達が向かった先のビルの袂が、憩いの広場みたいになっていて、そこに座れるところがたくさんあった。
 一人でスマホを見ている人や、グループで待ち合わせてる風の若い女の子達。
 土曜日なのに仕事中なのか、スーツ姿でタブレットに見入っているサラリーマンや、もちろんデート中のカップルまで、いろんな人達が広場のベンチを利用していた。
 その中の、木を囲むように配置されたベンチに俺達は座った。
 雲が多かった空は順調に青空の割合が多くなっていて、広場はほのぼのとした陽気に包まれている。

「はー、なんか変な汗かいた」
 正樹さんはポケットからハンカチを取り出して、丁寧に首もとの汗を拭った。
 俺は完全にこの人の評価を下げていた。
 あんなにいい人そうに振る舞いながら人を騙すような神経してるんだから、俺が劣等感を感じる程の相手じゃない。
「自業自得ですよ」
 そう言って視線を向けると、正樹さんはふっと眉を下げて笑った。
「優子とはいつからつき合ってるの?」
 さっきとは全く違う穏やかな声に、悪い気はしなかった。
 あまり信用はできないけど、優子さん達の手前もあるし、気を取り直してこの人ときちんと話そう。

「八月からだから……、七ヶ月? くらいですね」
「それじゃ、大好きで仕方ない時期だ」
 舐めてもらっちゃ困る。
「大好きで仕方ないのは、もう九年前からです」
「九年前?」
「あ……まあ、途中会えなかった期間がほとんどだけど、俺はずっと好きだったんで……」
「九年前ってことは、俺が実華子とつき合うよりも前だから……、もしかして、前に優子が言ってたのって、君だったのかな……?」
 正樹さんは指で顎を触りながら考え込んだ。
「何すか、それ」
 俺は思わず身を乗り出した。
「いや、チラッと話題に出ただけなんだけど……、別れてずいぶん経ってから、一度だけ二人で会ったことがあったんだよね。その時に、なんか若い子と何かあったような雰囲気だったから……」
「それって奥さんのことで何か話したってヤツですか? なんで二人で会ったんですか? 何話したんですか?」
「そんなに心配しなくていいよ。ちょっと実華子がきっかけで、優子に謝らなきゃいけない事態になっただけ。それに俺、その時に改めて振られてるから」
「え、どういうことですか?」
 そんなこと、優子さんは言ってなかった。
「俺は優子のこと忘れられなくてね、本社まで追っかけてきたんだけど、優子はもうそういう気持ちは全くなかったみたい。実華子とつき合えばいいって平然と勧めるから、やり直せないかダメ元で確認したら、丁重に断られたよ」
「そうだったんですね……」
 正樹さんもなかなか哀れな人だ。優子さん、やっぱりそういうところシビアなんだな……。
「実華子とはずいぶん年が離れててね。さすがにこんな若い子に手を出すのは……っていうような話をしたら、優子が妙に実感こもった返事したから、若い子に言い寄られたんだなーって思ったんだよね。きっと亮弥くんのことだね、あれは」
 そう言って、ハハ、と笑った。

「でもあの時の気のない感じから、時を経て今はこうやってつき合ってるんだから、亮弥くん相当頑張ったんだね」
「まあ……かなり待ちました」
「いくつ離れてるんだっけ?」
「十二です」
「十二か。俺と実華子が十一だから、同じくらいだ」
「やっぱり年の差って気になるんですか?」
「亮弥くんは気にならない?」
「全然」
「断言できるんだ、すごいね。俺はやっぱり最初は躊躇したなぁ。優子でも五つ年下で、世間体としてはギリギリくらいかなって思ってたから」
 世間体。
 俺はその言葉に若干の衝撃を受けた。そんなこと考えるものなのか。
「まあでも、一緒にいるうちに馴染んで、今は別に気にならないけどね。年の差を理由に断らなくて良かったって、今は思ってるよ」
「ですよね!! 好きならそんなの関係ないと思うし」
「ハハ、若くて羨ましい」
 今のはバカにされたんだろうか、と思ったが、正樹さんを見ると眩しそうな顔で笑ってるから、俺はとりあえず言葉どおりに受け止めた。
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