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第8章
1 四十歳④
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「四十歳になったら、やっぱり何か特別な思いってあるの?」
亮弥くんが尋ねた。
「そうだねぇ……。まあ、さっきはちょっと、現状確認みたいなことをついしちゃったな」
「現状確認」
「若い頃の自分と、今の自分を比べちゃったりしてね」
「ふーん……」
「そうそう、私がここに住み始めたの二八の時だったから、今の亮弥くんと同い年だね」
「ほんと? 可愛かった?」
「どうなんだろう……」
ケーキをひとくち口に入れて、しばらく考え込んでしまった。
あの頃の私、可愛かったかと聞かれたら、もう可愛いと言える時期は過ぎていた気がする。
「俺、その頃の優子さん知ってるよ!」
「エッ……」
亮弥くんはおもむろにスマホを取り出し、妙に画質の悪い写真を私に見せた。
そこには、まだ肌がピシッと引き締まっている頃の私が、さっきの亮弥くんみたいな優しげな微笑みを見せている。
「これ、二八くらいじゃないの? 二十代の頃って姉ちゃんに聞いた」
「愛美ちゃん? 愛美ちゃんが私の写真持ってたの?」
「うん、会社で撮ったって言ってたよ。可愛いでしょ」
そう言われて記憶を辿ってみると……、思い出した。
たしか仕事納めの日。
部署の皆で飲みに行こうとして、エレベーターホールで課長が来るのを待っていた時だ。
愛美ちゃんが、「優子さん、私今日カメラ持ってるんで、写真撮りましょうよぉ」って言って、その場にいた愛美ちゃんと拓ちゃんと私の三人で試し撮りしたのだ。
結局その日、飲みの席では撮るのをすっかり忘れてたから、後日この時の写真だけ愛美ちゃんに渡された。
「確かにあったね、こんなこと……。私持ってるよこの写真」
「マジで!?」
「たぶん探せばあるはず」
「この写真、優子さんと出会った頃にガラケーで写メってもらったやつだから、新しく撮り直してほしいと思っててさ。でも姉ちゃん、写真どこ行ったかわからないって言うから……つかどこ行ったかわからなくするくらいなら俺に実物くれれば良かったのに……」
「たしかに」
「優子さん、写真見つけといてよ」
「あー……、うん」
でも、あの時交代で何枚か撮ったから、これと同じものは拓ちゃんと写っている可能性がある。
拓ちゃんとのツーショットは、ちょっと見せるのが憚られるな、と私は思った。
「それじゃ、見つけたら撮り直して送るね」
「え? なんで実物じゃないの?」
「えっ」
それは、ごく素朴な質問という感じの口調と表情で、特段疑っているようには見えない。
「だって……その部分があればいいんでしょ?」
「そうだけど……。もしかして、男と写ってたりする?」
そう言われて、私はつい視線を逸らしてしまった。
「やっぱり」
「いや、そういうアレじゃないよ、ただの同僚」
私は慌てて弁解した。
「その時その場に愛美ちゃんと三人しかいなかったから、二人ずつ交代で撮ったの。その写真が愛美ちゃんと撮った方か同僚と撮った方か、ちょっとわからないなと思って……ホラ、亮弥くん前に男性秘書の話しただけで嫌そうだったから、あんまりそういうの見たくないかなって……」
我ながら早口になってしまった。
亮弥くんはあの時と同じ、めったに見せない眉をひそめた顔で訝しんだ。
「本当は元カレなんじゃないの?」
「まさか」
「本当に? 言い寄られたことは?」
「ないない。全く何もない、ただの同僚」
「ならいいじゃん。つか、それなら別に怒らないし。隠されたほうが心配だし」
「亮弥くんが良いならいいけど……」
こういうことって、本当に人によって気にする範囲が違うから、すごく気を遣う。
亮弥くんは、気にするほうだと思う。
基本的にはあんまり物事にこだわらない人なのに、私の周囲の男性事情については、やたらと敏感だ。
余計な心配をかけないためにも、愛美ちゃんと撮った分も含めて提示して、早めに安心させてあげなければと私は思った。
亮弥くんが尋ねた。
「そうだねぇ……。まあ、さっきはちょっと、現状確認みたいなことをついしちゃったな」
「現状確認」
「若い頃の自分と、今の自分を比べちゃったりしてね」
「ふーん……」
「そうそう、私がここに住み始めたの二八の時だったから、今の亮弥くんと同い年だね」
「ほんと? 可愛かった?」
「どうなんだろう……」
ケーキをひとくち口に入れて、しばらく考え込んでしまった。
あの頃の私、可愛かったかと聞かれたら、もう可愛いと言える時期は過ぎていた気がする。
「俺、その頃の優子さん知ってるよ!」
「エッ……」
亮弥くんはおもむろにスマホを取り出し、妙に画質の悪い写真を私に見せた。
そこには、まだ肌がピシッと引き締まっている頃の私が、さっきの亮弥くんみたいな優しげな微笑みを見せている。
「これ、二八くらいじゃないの? 二十代の頃って姉ちゃんに聞いた」
「愛美ちゃん? 愛美ちゃんが私の写真持ってたの?」
「うん、会社で撮ったって言ってたよ。可愛いでしょ」
そう言われて記憶を辿ってみると……、思い出した。
たしか仕事納めの日。
部署の皆で飲みに行こうとして、エレベーターホールで課長が来るのを待っていた時だ。
愛美ちゃんが、「優子さん、私今日カメラ持ってるんで、写真撮りましょうよぉ」って言って、その場にいた愛美ちゃんと拓ちゃんと私の三人で試し撮りしたのだ。
結局その日、飲みの席では撮るのをすっかり忘れてたから、後日この時の写真だけ愛美ちゃんに渡された。
「確かにあったね、こんなこと……。私持ってるよこの写真」
「マジで!?」
「たぶん探せばあるはず」
「この写真、優子さんと出会った頃にガラケーで写メってもらったやつだから、新しく撮り直してほしいと思っててさ。でも姉ちゃん、写真どこ行ったかわからないって言うから……つかどこ行ったかわからなくするくらいなら俺に実物くれれば良かったのに……」
「たしかに」
「優子さん、写真見つけといてよ」
「あー……、うん」
でも、あの時交代で何枚か撮ったから、これと同じものは拓ちゃんと写っている可能性がある。
拓ちゃんとのツーショットは、ちょっと見せるのが憚られるな、と私は思った。
「それじゃ、見つけたら撮り直して送るね」
「え? なんで実物じゃないの?」
「えっ」
それは、ごく素朴な質問という感じの口調と表情で、特段疑っているようには見えない。
「だって……その部分があればいいんでしょ?」
「そうだけど……。もしかして、男と写ってたりする?」
そう言われて、私はつい視線を逸らしてしまった。
「やっぱり」
「いや、そういうアレじゃないよ、ただの同僚」
私は慌てて弁解した。
「その時その場に愛美ちゃんと三人しかいなかったから、二人ずつ交代で撮ったの。その写真が愛美ちゃんと撮った方か同僚と撮った方か、ちょっとわからないなと思って……ホラ、亮弥くん前に男性秘書の話しただけで嫌そうだったから、あんまりそういうの見たくないかなって……」
我ながら早口になってしまった。
亮弥くんはあの時と同じ、めったに見せない眉をひそめた顔で訝しんだ。
「本当は元カレなんじゃないの?」
「まさか」
「本当に? 言い寄られたことは?」
「ないない。全く何もない、ただの同僚」
「ならいいじゃん。つか、それなら別に怒らないし。隠されたほうが心配だし」
「亮弥くんが良いならいいけど……」
こういうことって、本当に人によって気にする範囲が違うから、すごく気を遣う。
亮弥くんは、気にするほうだと思う。
基本的にはあんまり物事にこだわらない人なのに、私の周囲の男性事情については、やたらと敏感だ。
余計な心配をかけないためにも、愛美ちゃんと撮った分も含めて提示して、早めに安心させてあげなければと私は思った。
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