85 / 158
第7章
2 筒抜け②
しおりを挟む
そうこう脱線しているところへ、テーブルの上のスマホがブルブルと震えて着信を知らせてきた。
手にとって見ると、姉ちゃんからの電話だった。
「はい」
「あー、私だけど」
「知ってる」
「今大丈夫? 一人?」
「一人だけど。なんかあったの?」
「やー、別に何もないけど、あんたに聞いておきたいことがあって……」
「何?」
なんとなく嫌な予感がした。
姉ちゃんがこういう曖昧な振り方をしてくる時は、大抵俺に何か隠している時なのだ。
「まーこれは仮定の話なんだけど、あんたさぁ、優子さん会社に元カレとかいるのかな、とか考えたことある?」
「はぁ?」
そんなことは当然考えている。
少なくとも、優子さんに言い寄った奴は絶対いるに違いないのだ。
優子さんがずいぶん前に彼氏を作ることをやめたって話は聞いたけど、かといってそれが俺と出会った九年前以前のことだという確認はしていない。
最後に誰かとつき合ったのはあの後だったかもしれないし、そうでなくても一瞬でもそういう仲になった人はいたかもしれない。
プライベートで人との交流を避ける優子さんが誰かと出会うとしたら、それが会社関係者である可能性は高い。
でもそれを考え始めるとキリがないし、過ぎたことをどうこう言っても仕方ない。
何より、今優子さんに愛されているのは確実に俺だけなんだから、その時点で俺の勝ちなのだ。
だから、当然考えてはいるけど、気にはしないようにしていた。
でも、わざわざ姉ちゃんが聞いてきたってことは……。
「……いるの?」
「えっ、いやまぁ、アハハ」
全然ごまかせてない。
「もしかしてそれって、……男性秘書?」
「男性秘書? 拓海さんのこと?」
「たくみっていうの? 優子さんのパートナー……」
「ああー、泊室長のことね! 違う違う! 泊室長とは無いと思うわ、たぶん」
「ちょっと待って、男性秘書って二人もいるの!?」
「二人いるよ。でも拓海さんも無いから、大丈夫。あれは周りが噂してただけで、本人達全くその気無かったから」
「ちょっと待って」
姉ちゃんの口からどんどん繰り出される事実に、俺は不安を覚え始めた。
これ以上聞かないほうが身のためな気がする。でも、聞かないのも不安を増幅させる気がする。
「……噂って、何」
俺は緊張で体が強張っているのを感じていた。
「いやー、拓海さんって、前に総務で私達と一緒だったのよ。私はその頃からの関係性知ってるし、全っ然、何もないから。心配しなくて大丈夫!」
「……それじゃなんで噂になんてなるの?」
訝しさを拭えない俺をよそに、姉ちゃんは軽い声色で答える。
「それはほら、結局アレよ。優子さんって、誰とでも似合っちゃうのよ。なんだろう、あの、人を優しく包み込んで受け入れちゃうオーラ? それで、並んでると誰でもお似合いに見えちゃうの。ていうか美人だし、ほら、アンタも言われることあるでしょ。ちょっと可愛い子がいると、"お前らお似合いだな"とかさ。周りが勝手に」
「それはまぁ……。ある」
「完全にそれ。まぁ~実際、阿吽の呼吸って感じだし、仲も良いけど……でも優子さんはもとより、拓海さんも優子さんをそんな風に見てないから。大丈夫。あくまで仕事上の関係。拓海さん何年か前に結婚して、子供もいるし」
「たくみさんって、いくつ?」
「ええと、私の四つ上だったかな?」
ということは、優子さんの二つ下だ。
同世代が恋愛対象かどうかは話題に上ったことがないから、セーフかもしれない。
「かっこいいの?」
「まー、比較的かっこいいほうだけど、アンドロイドみたいな感じだから。感情があんまり出ないっていうか。話し方も淡々としてるし」
「俺と近いタイプかもしれない……」
「いやいや、アンタのほうが美形だし感情あるって! 大丈夫!」
「仕事デキるの?」
「できる」
即答されて俺は凹んだ。
「いや、違うのよ。拓海さんはどうでもいいの。問題はそっちじゃない」
「優子さんの元カレ? 本当にいるの?」
「聞きたい?」
「もうここまで来たら聞くしかないじゃん。でも待って、いつつき合ってたかわかる?」
「えっと……」
俺はできるだけ前でありますようにと心の中で強く祈った。
「十年以上前って言ってたから、アンタと出会うよりも前だよ」
「な、な~んだ~……」
思ったよりも昔の話で、俺は一気に気が抜けてしまった。
ホッとして手元のビールを一口あおり、落ち着いて姉ちゃんの話に耳を傾けた。
姉ちゃんの話は、つまりこういうことだった。
優子さんは二十代の頃同じ営業所の人とつき合っていたことがあるが、優子さんが本社に転勤して何年か経ってから、その人も本社に来てしまった。
部署は物理的にも離れていて、普段は業務上も含めほぼ接点がなく、同じ建物内にいるというだけだ。
そして元カレは数年前に姉ちゃんの同期の人と結婚している。
ところがその結婚相手と優子さんは長年友人関係にあり、優子さんはそのことを俺に話すべきか否か悩んでいるらしいのだ。
「ていうか俺よりその奥さんのほうがやばくない? 優子さんが元カノって知ってて友達してんの?」
「あー、そっちは最初から知ってるみたいよ。ていうかそれがきっかけで仲良くなったっていうか」
「スゲーな、全然理解できない」
俺は優子さんの元カレと友達になんて絶対なりたくないけど。つか、まず会いたくないし。
手にとって見ると、姉ちゃんからの電話だった。
「はい」
「あー、私だけど」
「知ってる」
「今大丈夫? 一人?」
「一人だけど。なんかあったの?」
「やー、別に何もないけど、あんたに聞いておきたいことがあって……」
「何?」
なんとなく嫌な予感がした。
姉ちゃんがこういう曖昧な振り方をしてくる時は、大抵俺に何か隠している時なのだ。
「まーこれは仮定の話なんだけど、あんたさぁ、優子さん会社に元カレとかいるのかな、とか考えたことある?」
「はぁ?」
そんなことは当然考えている。
少なくとも、優子さんに言い寄った奴は絶対いるに違いないのだ。
優子さんがずいぶん前に彼氏を作ることをやめたって話は聞いたけど、かといってそれが俺と出会った九年前以前のことだという確認はしていない。
最後に誰かとつき合ったのはあの後だったかもしれないし、そうでなくても一瞬でもそういう仲になった人はいたかもしれない。
プライベートで人との交流を避ける優子さんが誰かと出会うとしたら、それが会社関係者である可能性は高い。
でもそれを考え始めるとキリがないし、過ぎたことをどうこう言っても仕方ない。
何より、今優子さんに愛されているのは確実に俺だけなんだから、その時点で俺の勝ちなのだ。
だから、当然考えてはいるけど、気にはしないようにしていた。
でも、わざわざ姉ちゃんが聞いてきたってことは……。
「……いるの?」
「えっ、いやまぁ、アハハ」
全然ごまかせてない。
「もしかしてそれって、……男性秘書?」
「男性秘書? 拓海さんのこと?」
「たくみっていうの? 優子さんのパートナー……」
「ああー、泊室長のことね! 違う違う! 泊室長とは無いと思うわ、たぶん」
「ちょっと待って、男性秘書って二人もいるの!?」
「二人いるよ。でも拓海さんも無いから、大丈夫。あれは周りが噂してただけで、本人達全くその気無かったから」
「ちょっと待って」
姉ちゃんの口からどんどん繰り出される事実に、俺は不安を覚え始めた。
これ以上聞かないほうが身のためな気がする。でも、聞かないのも不安を増幅させる気がする。
「……噂って、何」
俺は緊張で体が強張っているのを感じていた。
「いやー、拓海さんって、前に総務で私達と一緒だったのよ。私はその頃からの関係性知ってるし、全っ然、何もないから。心配しなくて大丈夫!」
「……それじゃなんで噂になんてなるの?」
訝しさを拭えない俺をよそに、姉ちゃんは軽い声色で答える。
「それはほら、結局アレよ。優子さんって、誰とでも似合っちゃうのよ。なんだろう、あの、人を優しく包み込んで受け入れちゃうオーラ? それで、並んでると誰でもお似合いに見えちゃうの。ていうか美人だし、ほら、アンタも言われることあるでしょ。ちょっと可愛い子がいると、"お前らお似合いだな"とかさ。周りが勝手に」
「それはまぁ……。ある」
「完全にそれ。まぁ~実際、阿吽の呼吸って感じだし、仲も良いけど……でも優子さんはもとより、拓海さんも優子さんをそんな風に見てないから。大丈夫。あくまで仕事上の関係。拓海さん何年か前に結婚して、子供もいるし」
「たくみさんって、いくつ?」
「ええと、私の四つ上だったかな?」
ということは、優子さんの二つ下だ。
同世代が恋愛対象かどうかは話題に上ったことがないから、セーフかもしれない。
「かっこいいの?」
「まー、比較的かっこいいほうだけど、アンドロイドみたいな感じだから。感情があんまり出ないっていうか。話し方も淡々としてるし」
「俺と近いタイプかもしれない……」
「いやいや、アンタのほうが美形だし感情あるって! 大丈夫!」
「仕事デキるの?」
「できる」
即答されて俺は凹んだ。
「いや、違うのよ。拓海さんはどうでもいいの。問題はそっちじゃない」
「優子さんの元カレ? 本当にいるの?」
「聞きたい?」
「もうここまで来たら聞くしかないじゃん。でも待って、いつつき合ってたかわかる?」
「えっと……」
俺はできるだけ前でありますようにと心の中で強く祈った。
「十年以上前って言ってたから、アンタと出会うよりも前だよ」
「な、な~んだ~……」
思ったよりも昔の話で、俺は一気に気が抜けてしまった。
ホッとして手元のビールを一口あおり、落ち着いて姉ちゃんの話に耳を傾けた。
姉ちゃんの話は、つまりこういうことだった。
優子さんは二十代の頃同じ営業所の人とつき合っていたことがあるが、優子さんが本社に転勤して何年か経ってから、その人も本社に来てしまった。
部署は物理的にも離れていて、普段は業務上も含めほぼ接点がなく、同じ建物内にいるというだけだ。
そして元カレは数年前に姉ちゃんの同期の人と結婚している。
ところがその結婚相手と優子さんは長年友人関係にあり、優子さんはそのことを俺に話すべきか否か悩んでいるらしいのだ。
「ていうか俺よりその奥さんのほうがやばくない? 優子さんが元カノって知ってて友達してんの?」
「あー、そっちは最初から知ってるみたいよ。ていうかそれがきっかけで仲良くなったっていうか」
「スゲーな、全然理解できない」
俺は優子さんの元カレと友達になんて絶対なりたくないけど。つか、まず会いたくないし。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる