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第7章
2 筒抜け①
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晃輝以外に友人と呼べる人がいない俺は、出産祝いというのをしたことがない。
職場の人に子供が生まれた時は、他の人達に便乗してお金を出しただけだったし、親戚に子供が生まれたことも、少なくとも俺が大人になって以降は無いから、実質これが初めての経験だった。
何かルールがあるのか、何をどうすればいいのか、何も情報を持たない俺は、大抵の人がそうするように、ネットで調べてみた。
すると、出産祝いは生まれてから一ヶ月以内にするものだと書かれていた。
出産後一ヶ月を過ぎると、今度は出産祝いを受けた側がお返しを始めるので、それと前後して手間をかけさせないように一ヶ月以内としているらしい。なるほど、よくできている。
別にお返しなんて要らないけど、と思いながら、一応決まりに則ったほうが無難だろうと、カレンダーを見た。
まだ子供が生まれて半月くらいだから、今週末か来週末にでも優子さんを連れてお祝いに行けばいいかな。
とりあえず晃輝に予定を聞いてみようと、電話をかけてみる。
「おー、亮弥」
「おー、今大丈夫?」
電話の向こうでは、赤ちゃんのフレッシュな泣き声が響いている。
「大丈夫じゃなさそうだな……」
「おう、いいのいいの。今あかりがなだめてっから」
「え、そんな時に電話してて、俺恨まれない?」
「大丈夫大丈夫。何よ?」
「優子さんと一緒に赤ちゃん見に行く話だけど……」
「あー、あーそれな。悪ぃんだけど、実はさ、この前あかりの友達が来てくれたんだけど、家に招くのけっこうバタバタしちゃって大変でさ。もっとこっちも慣れて落ち着いた頃にしてもらいてーんだわ」
「あ、そうなの? 俺らは全然構わないけど」
「すまんな」
「それじゃ、出産祝いだけ先に送ろうか?」
「何? 出産祝いなんてくれんの?」
その時、電話の奥から戸田さんの声が聞こえて、晃輝が「え、何? おむつケーキ?」と聞き返した。
「おむつケーキが欲しいんだと」
「何、おむつケーキって。それ一緒にして大丈夫なやつ?」
また戸田さんの声がする。
晃輝が「あー、あー、はいはい。わかった」と返す。
「あのな、おむつケーキっていう、おむつのギフトがあんのよ。あかりがそれが欲しいんだけど、けっこう値が張るし友達には自分からねだり辛いんだと。お前なら気兼ねなくたかれるから……」
そこでまた戸田さんの声が入る。
「え? たかれるは言うな?」
晃輝の返事に、俺はつい吹き出した。
「たかれるはナシだって」
「全部聞こえてるわ」
「すまん」
「おむつケーキが何かわからないけど、とりあえずわかった。どんなのが欲しいとかリクエストがあれば聞くけど」
「おう、ちょっと待って」
俺は返事を待つ間に、目の前のノートPCでおむつケーキを調べてみた。
画像を見ると、どうやらおむつとケーキのギフトではないらしい。
どちらかというとおむつタワーって感じ。
「なんでもいいんだと。花束みたいなモンだから」
「あ、そう。今調べたら色とかキャラクターとかがけっこうあるみたいだけど……」
「開ける楽しみがあるから全部お前に任せるって。あ、おむつはSサイズ」
「えー、後でセンスねぇとか文句言うなよ?」
「大丈夫大丈夫」
「それじゃ、そっちに直接送るから。訪問については、また落ち着いたら声かけて」
「おー、わかった」
電話を切って、冷蔵庫からビールを取ってくると、床に座って再びローテーブルの上のPCに向かい、早速おむつケーキ選びを始めた。
検索上位に上がったものをひととおり見て、概ねのギフト内容と価格帯を把握したので、さて、戸田さんに叱られないためにはどの商品を選べばいいだろうと考える。
せっかく貰うなら、おむつとデコレーションだけじゃなく、ちゃんと使えるグッズが入っていたほうがいいだろう。
キャラクターものはかわいいけど、万一戸田さんが嫌いなキャラクターだったら困るから、有名どころはできるだけ避けたい。
指定が無かったということは特に思い入れのあるキャラクターがいるわけではないだろうし、避けて怒られることはないだろう。たぶん。
極力普遍的なデザインで、……そうだ、花束みたいなものって言ってたな。
それなら、シンプルなものより華やかなほうがいいだろう。
ねだり辛い値段って言ってたから、手頃な価格のコンパクトサイズよりも、大きくて存在感があるほうが喜ぶに違いない。
そんなことを考えていたら、ふと、どうせ頭を悩ませてプレゼントを選ぶなら優子さんに選びたいよな……、と思ってしまった。
大人の女性が喜ぶプレゼントって何なんだろうな。
そう思って、「プレゼント 四十歳女性 誕生日」と検索する。
そこに出てきた様々な記事にざっと目を通してみたけど、俺にはこれといった正解を見いだせなかった。
いくらアドバイスをもらったって、それが優子さんに当てはまらなければ結局は意味がない。
戸田さんの好みに合わなくて怒られても「俺のせいじゃねーわ」って顔してられるけど、優子さんの好みに合わなくて気を遣わせたらそれは大きなダメージになる。
好きな人へのプレゼントは、そう簡単ではないのだ。
職場の人に子供が生まれた時は、他の人達に便乗してお金を出しただけだったし、親戚に子供が生まれたことも、少なくとも俺が大人になって以降は無いから、実質これが初めての経験だった。
何かルールがあるのか、何をどうすればいいのか、何も情報を持たない俺は、大抵の人がそうするように、ネットで調べてみた。
すると、出産祝いは生まれてから一ヶ月以内にするものだと書かれていた。
出産後一ヶ月を過ぎると、今度は出産祝いを受けた側がお返しを始めるので、それと前後して手間をかけさせないように一ヶ月以内としているらしい。なるほど、よくできている。
別にお返しなんて要らないけど、と思いながら、一応決まりに則ったほうが無難だろうと、カレンダーを見た。
まだ子供が生まれて半月くらいだから、今週末か来週末にでも優子さんを連れてお祝いに行けばいいかな。
とりあえず晃輝に予定を聞いてみようと、電話をかけてみる。
「おー、亮弥」
「おー、今大丈夫?」
電話の向こうでは、赤ちゃんのフレッシュな泣き声が響いている。
「大丈夫じゃなさそうだな……」
「おう、いいのいいの。今あかりがなだめてっから」
「え、そんな時に電話してて、俺恨まれない?」
「大丈夫大丈夫。何よ?」
「優子さんと一緒に赤ちゃん見に行く話だけど……」
「あー、あーそれな。悪ぃんだけど、実はさ、この前あかりの友達が来てくれたんだけど、家に招くのけっこうバタバタしちゃって大変でさ。もっとこっちも慣れて落ち着いた頃にしてもらいてーんだわ」
「あ、そうなの? 俺らは全然構わないけど」
「すまんな」
「それじゃ、出産祝いだけ先に送ろうか?」
「何? 出産祝いなんてくれんの?」
その時、電話の奥から戸田さんの声が聞こえて、晃輝が「え、何? おむつケーキ?」と聞き返した。
「おむつケーキが欲しいんだと」
「何、おむつケーキって。それ一緒にして大丈夫なやつ?」
また戸田さんの声がする。
晃輝が「あー、あー、はいはい。わかった」と返す。
「あのな、おむつケーキっていう、おむつのギフトがあんのよ。あかりがそれが欲しいんだけど、けっこう値が張るし友達には自分からねだり辛いんだと。お前なら気兼ねなくたかれるから……」
そこでまた戸田さんの声が入る。
「え? たかれるは言うな?」
晃輝の返事に、俺はつい吹き出した。
「たかれるはナシだって」
「全部聞こえてるわ」
「すまん」
「おむつケーキが何かわからないけど、とりあえずわかった。どんなのが欲しいとかリクエストがあれば聞くけど」
「おう、ちょっと待って」
俺は返事を待つ間に、目の前のノートPCでおむつケーキを調べてみた。
画像を見ると、どうやらおむつとケーキのギフトではないらしい。
どちらかというとおむつタワーって感じ。
「なんでもいいんだと。花束みたいなモンだから」
「あ、そう。今調べたら色とかキャラクターとかがけっこうあるみたいだけど……」
「開ける楽しみがあるから全部お前に任せるって。あ、おむつはSサイズ」
「えー、後でセンスねぇとか文句言うなよ?」
「大丈夫大丈夫」
「それじゃ、そっちに直接送るから。訪問については、また落ち着いたら声かけて」
「おー、わかった」
電話を切って、冷蔵庫からビールを取ってくると、床に座って再びローテーブルの上のPCに向かい、早速おむつケーキ選びを始めた。
検索上位に上がったものをひととおり見て、概ねのギフト内容と価格帯を把握したので、さて、戸田さんに叱られないためにはどの商品を選べばいいだろうと考える。
せっかく貰うなら、おむつとデコレーションだけじゃなく、ちゃんと使えるグッズが入っていたほうがいいだろう。
キャラクターものはかわいいけど、万一戸田さんが嫌いなキャラクターだったら困るから、有名どころはできるだけ避けたい。
指定が無かったということは特に思い入れのあるキャラクターがいるわけではないだろうし、避けて怒られることはないだろう。たぶん。
極力普遍的なデザインで、……そうだ、花束みたいなものって言ってたな。
それなら、シンプルなものより華やかなほうがいいだろう。
ねだり辛い値段って言ってたから、手頃な価格のコンパクトサイズよりも、大きくて存在感があるほうが喜ぶに違いない。
そんなことを考えていたら、ふと、どうせ頭を悩ませてプレゼントを選ぶなら優子さんに選びたいよな……、と思ってしまった。
大人の女性が喜ぶプレゼントって何なんだろうな。
そう思って、「プレゼント 四十歳女性 誕生日」と検索する。
そこに出てきた様々な記事にざっと目を通してみたけど、俺にはこれといった正解を見いだせなかった。
いくらアドバイスをもらったって、それが優子さんに当てはまらなければ結局は意味がない。
戸田さんの好みに合わなくて怒られても「俺のせいじゃねーわ」って顔してられるけど、優子さんの好みに合わなくて気を遣わせたらそれは大きなダメージになる。
好きな人へのプレゼントは、そう簡単ではないのだ。
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