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第5章
1 切り出すタイミング⑤
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建物の外は灼熱だった。
太陽の照りつけと、アスファルトからの照り返しで、空気がカラカラに灼けていた。そこを生ぬるい風が吹き抜ける。
大通りに並ぶ車からも熱が発されていて、目に入る人々も「暑いね」という顔しかしてなくて、もう何もかもが暑い。
「どこ行こうか」
「ポップコーン食べたから、お腹空いてなくないですか?」
「空いてないね。そうだな……」
頭の中ですぐに選択肢を探ってみたけど、商業施設に入って亮弥くんとショッピングするのもおかしいし、電車で遠くに行ってもどこも人が多そうだし、この暑さを考えると、どこかの喫茶店に入る以外に何も浮かばなかった。
「とりあえず、地下に入って銀座方面に歩いてみようか。あっちに着く頃には飲み物くらいは入るかも」
「ですね」
有楽町と銀座の境にある地下鉄丸ノ内線の入口から階段を下りると、そのまま銀座四丁目交差点の方へ地下通路が続いている。
その長い通路を抜けて銀座線、日比谷線の改札前を通りかかった時だった。
「亮弥! 亮弥!」
改札でICカードをタッチしながら、慌てて手を振って声をかけてくる男性がいた。
「えっ、なんでこんなとこいんのお前?」
ものすごく砕けた言葉が亮弥くんの声で耳に入り、私は驚いて隣を見上げた。
亮弥くんもその男性も、嬉しい偶然といった感じで笑い合って、改札を出てくると肩を叩き合った。
その後ろにスラリと背の高い女性が一人いたので、私は軽く頭を下げた。
女性は無表情で私と亮弥くんを交互にチラチラ見た。
「階段上がってきたらお前が見えてさ。やっぱ目立つねイケメンは!」
「お前銀座なんか来ることあんの? 似合わねーんだけど」
「銀座は乗り換え一回で来れるから」
「一回主義貫きすぎだろ」
気の置けないそのやり取りを見て、これはおそらく噂の親友くんだなと思った。
昔スポーツやってましたという感じのガッシリめの体格と短髪に、身長は亮弥くんより少し高いくらい。
愛嬌のある目つきと出し惜しみしない笑顔が底抜けの明るさを感じさせた。
「相変わらずキラキラしてんね、青山」
「げっ、戸田さん……」
「げってなんだよ」
こちらは彼女か、奥さんか。
茶色に染めた胸まであるストレートヘアで、不機嫌な眼差しとキツめの口調。
どうやら亮弥くんは彼女が苦手らしい。
「あ、優子さん、この人達は……」
「あー、"優子さん"! あ~……、はいはいなるほどね!」
二人を私に紹介しようとした亮弥くんの言葉を遮って、親友くんが私を指差しながら頷いた。
「噂の優子さんね、青山が撃沈した」
「してないです」
「すげーな、うまくいってんじゃん! 執念だな! 優子さん、こいつホントいいやつなんで、よろしくお願いします! マジで! いいやつなんで!」
「あ、はい……あ、えっと」
私は両手を胸の前で所在なく動かしながら、亮弥くんを見上げた。
「すみません優子さん。こいつ去年の情報で止まってるんで、後でちゃんと説明しときますから……」
「青山が女子とまともに喋ってるのマジ笑うんだけど」
不機嫌な彼女がくしゃりと笑みをこぼした。
その笑い方には、からかいと同時に親しみが垣間見えた。
「えっと、お二人とも、その、同級生……?」
亮弥くんと二人を交互に示しながら聞くと、そーですそーです、と親友くんが元気良く頷き、彼女もそれに合わせてゆっくり頭を下げた。
「こいつは親友の相田晃輝で、あと奥さんの戸田……じゃなくて、あかりさん」
「あ、ご夫婦なんですね」
「高校からのつき合いで」
「高校からずっと? え~、すごい」
晃輝くんは照れを隠すように首を前に出しながら、あざっす、と言った。
今日はあかりさんの誕生日で、これからプレゼントを選んで食事する予定らしい。
また今度ゆっくりごはんでもと言われ、二人とはその場で別れた。
太陽の照りつけと、アスファルトからの照り返しで、空気がカラカラに灼けていた。そこを生ぬるい風が吹き抜ける。
大通りに並ぶ車からも熱が発されていて、目に入る人々も「暑いね」という顔しかしてなくて、もう何もかもが暑い。
「どこ行こうか」
「ポップコーン食べたから、お腹空いてなくないですか?」
「空いてないね。そうだな……」
頭の中ですぐに選択肢を探ってみたけど、商業施設に入って亮弥くんとショッピングするのもおかしいし、電車で遠くに行ってもどこも人が多そうだし、この暑さを考えると、どこかの喫茶店に入る以外に何も浮かばなかった。
「とりあえず、地下に入って銀座方面に歩いてみようか。あっちに着く頃には飲み物くらいは入るかも」
「ですね」
有楽町と銀座の境にある地下鉄丸ノ内線の入口から階段を下りると、そのまま銀座四丁目交差点の方へ地下通路が続いている。
その長い通路を抜けて銀座線、日比谷線の改札前を通りかかった時だった。
「亮弥! 亮弥!」
改札でICカードをタッチしながら、慌てて手を振って声をかけてくる男性がいた。
「えっ、なんでこんなとこいんのお前?」
ものすごく砕けた言葉が亮弥くんの声で耳に入り、私は驚いて隣を見上げた。
亮弥くんもその男性も、嬉しい偶然といった感じで笑い合って、改札を出てくると肩を叩き合った。
その後ろにスラリと背の高い女性が一人いたので、私は軽く頭を下げた。
女性は無表情で私と亮弥くんを交互にチラチラ見た。
「階段上がってきたらお前が見えてさ。やっぱ目立つねイケメンは!」
「お前銀座なんか来ることあんの? 似合わねーんだけど」
「銀座は乗り換え一回で来れるから」
「一回主義貫きすぎだろ」
気の置けないそのやり取りを見て、これはおそらく噂の親友くんだなと思った。
昔スポーツやってましたという感じのガッシリめの体格と短髪に、身長は亮弥くんより少し高いくらい。
愛嬌のある目つきと出し惜しみしない笑顔が底抜けの明るさを感じさせた。
「相変わらずキラキラしてんね、青山」
「げっ、戸田さん……」
「げってなんだよ」
こちらは彼女か、奥さんか。
茶色に染めた胸まであるストレートヘアで、不機嫌な眼差しとキツめの口調。
どうやら亮弥くんは彼女が苦手らしい。
「あ、優子さん、この人達は……」
「あー、"優子さん"! あ~……、はいはいなるほどね!」
二人を私に紹介しようとした亮弥くんの言葉を遮って、親友くんが私を指差しながら頷いた。
「噂の優子さんね、青山が撃沈した」
「してないです」
「すげーな、うまくいってんじゃん! 執念だな! 優子さん、こいつホントいいやつなんで、よろしくお願いします! マジで! いいやつなんで!」
「あ、はい……あ、えっと」
私は両手を胸の前で所在なく動かしながら、亮弥くんを見上げた。
「すみません優子さん。こいつ去年の情報で止まってるんで、後でちゃんと説明しときますから……」
「青山が女子とまともに喋ってるのマジ笑うんだけど」
不機嫌な彼女がくしゃりと笑みをこぼした。
その笑い方には、からかいと同時に親しみが垣間見えた。
「えっと、お二人とも、その、同級生……?」
亮弥くんと二人を交互に示しながら聞くと、そーですそーです、と親友くんが元気良く頷き、彼女もそれに合わせてゆっくり頭を下げた。
「こいつは親友の相田晃輝で、あと奥さんの戸田……じゃなくて、あかりさん」
「あ、ご夫婦なんですね」
「高校からのつき合いで」
「高校からずっと? え~、すごい」
晃輝くんは照れを隠すように首を前に出しながら、あざっす、と言った。
今日はあかりさんの誕生日で、これからプレゼントを選んで食事する予定らしい。
また今度ゆっくりごはんでもと言われ、二人とはその場で別れた。
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