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第5章
1 切り出すタイミング④
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軽く腕を引かれて立ち止まり、亮弥くんの指差す方に視線を向けると、ちょうど通りかかった柱の表面が鏡になっていて、並んで立っている私達を映していた。
そこにいるのは、自分でもちょっと驚いたほど違和感のない二人だった。
身長差も程よく、不思議なほど顔の雰囲気も合っていて、街中にたまにいる爽やかで好感の持てるオシャレカップルを思わせた。
「自分で言うのも何ですけど、美男美女じゃないですか? ちょっと写真撮っときましょうよ」
「何それ」
私は思わず笑ってしまったけど、いいからいいから、と亮弥くんはスマホを取り出し、鏡に向かってパシャリと写真を撮った。
「おお、いい感じ」
見せてもらって、恥ずかしいような、嬉しいような、複雑な気持ちになった。
「ね、お似合いでしょ?」
そう聞かれて返事を迷って無言でいると、
「優子さん、俺ね、この先もし優子さんに振られるとして、絶対イヤなのは、外見で振られることなんです。優子さんは俺と変わらないくらい人の視線を集める容姿だと思うんだけど、なんていうかすごく自己評価が低いっていうか、自分が綺麗だっていう意識が低いっていうか……、だから俺の見た目のせいでコンプレックスを感じられたらイヤだなあって、心配なんです。それを理由に振られたら、俺ホント立ち直れないんで。……だから、本当は全然不釣り合いじゃないんだぞと、年が離れてても外見は離れてないぞと、優子さんに知ってもらいたいし、その客観的証拠として、この写真を、提示したい!」
亮弥くんがこんなに主張をするのはとても珍しい。
私は少し圧倒されて、亮弥くんを見上げたまま聞き入ってしまった。
「……そんなわけで、送っときますからっ」
急に我に返ったのか、亮弥くんは少し恥ずかしそうにそう言って、すぐにメールを送信した。
「……ありがとう」
送られてきた写真を改めてじっくり見る。
体ごと正面を向き、スマホを胸の辺りに構えて、真面目な顔でシャッターを切る亮弥くんと、斜め向きのまま鏡越しに小さく笑みを向ける私が、ほぼ全身写っている。
やっぱり自分では年齢差を感じるし、亮弥くんの美形さが際立つようにも思うけど、それでもこれまで想像してきたほどの違和感はなかった。
何より亮弥くんが、私達が似合っていると思ってくれているのは、とても嬉しかったし安心した。
だからこそちゃんと念押ししないとと思った。
「ね、亮弥くん」
「はい」
「今はまだ大丈夫だとしてもよ、私はもうすぐ四十歳だし、容姿はこれから衰える一方だと思うのね」
「それを言ったら、俺だってもう衰え始めてますから、同じですって」
言いながら亮弥くんは歩き始めた。
私もそれにつられて歩き出す。
「え、どこが」
「イヤ正直、二三、四の頃がピークで、それ以降はだんだんゴツくなってきたんで……。優子さんは外見以外に魅力がたくさんあるけど、俺は何も無いから、これ以上衰えたらマジでどうすんだ人として、って危機感は逆にデカいと思います」
「そんなこと全然考えなかった。男らしくなったなーって、むしろ好感持てたけど」
「だから、そんなものですって。自分が一番気になるんですよこういうのは。俺から見たら優子さんはなんにも気にする必要ないし、そもそも年齢による自然な容姿の変化で俺が冷めることはないです。そんな単純な"好き"じゃないんで。強いて言えば、気にして整形でもされちゃったら冷めるかもしれないから、そのままでいてもらえれば……、アッ俺を冷めさせるために整形とかやめてくださいね!! その時は先に言ってくださいね!!」
「いやいや、整形なんてしないけど」
「絶対ですからね!!」
あまりの必死さに笑ってしまった。
私と歩いていて恥ずかしいと感じないのかとか、知り合いに見られたくないんじゃないかとか、聞こうかと思っていたけど、どうやらその心配は要らなさそうだ。
今日のトピックが図らずも一つ解決してしまった。
「それで優子さん、いつ三九になったんですか?」
「えっ、あはは…バレた。実は私も早生まれでね、もしかしたら亮弥くんと誕生日近いかも」
「そうなんですか? 優子さんがイベント苦手って言うから、ずっと聞くに聞けなくて」
「それじゃ、もう少し保留にしとこ」
「えー」
そこにいるのは、自分でもちょっと驚いたほど違和感のない二人だった。
身長差も程よく、不思議なほど顔の雰囲気も合っていて、街中にたまにいる爽やかで好感の持てるオシャレカップルを思わせた。
「自分で言うのも何ですけど、美男美女じゃないですか? ちょっと写真撮っときましょうよ」
「何それ」
私は思わず笑ってしまったけど、いいからいいから、と亮弥くんはスマホを取り出し、鏡に向かってパシャリと写真を撮った。
「おお、いい感じ」
見せてもらって、恥ずかしいような、嬉しいような、複雑な気持ちになった。
「ね、お似合いでしょ?」
そう聞かれて返事を迷って無言でいると、
「優子さん、俺ね、この先もし優子さんに振られるとして、絶対イヤなのは、外見で振られることなんです。優子さんは俺と変わらないくらい人の視線を集める容姿だと思うんだけど、なんていうかすごく自己評価が低いっていうか、自分が綺麗だっていう意識が低いっていうか……、だから俺の見た目のせいでコンプレックスを感じられたらイヤだなあって、心配なんです。それを理由に振られたら、俺ホント立ち直れないんで。……だから、本当は全然不釣り合いじゃないんだぞと、年が離れてても外見は離れてないぞと、優子さんに知ってもらいたいし、その客観的証拠として、この写真を、提示したい!」
亮弥くんがこんなに主張をするのはとても珍しい。
私は少し圧倒されて、亮弥くんを見上げたまま聞き入ってしまった。
「……そんなわけで、送っときますからっ」
急に我に返ったのか、亮弥くんは少し恥ずかしそうにそう言って、すぐにメールを送信した。
「……ありがとう」
送られてきた写真を改めてじっくり見る。
体ごと正面を向き、スマホを胸の辺りに構えて、真面目な顔でシャッターを切る亮弥くんと、斜め向きのまま鏡越しに小さく笑みを向ける私が、ほぼ全身写っている。
やっぱり自分では年齢差を感じるし、亮弥くんの美形さが際立つようにも思うけど、それでもこれまで想像してきたほどの違和感はなかった。
何より亮弥くんが、私達が似合っていると思ってくれているのは、とても嬉しかったし安心した。
だからこそちゃんと念押ししないとと思った。
「ね、亮弥くん」
「はい」
「今はまだ大丈夫だとしてもよ、私はもうすぐ四十歳だし、容姿はこれから衰える一方だと思うのね」
「それを言ったら、俺だってもう衰え始めてますから、同じですって」
言いながら亮弥くんは歩き始めた。
私もそれにつられて歩き出す。
「え、どこが」
「イヤ正直、二三、四の頃がピークで、それ以降はだんだんゴツくなってきたんで……。優子さんは外見以外に魅力がたくさんあるけど、俺は何も無いから、これ以上衰えたらマジでどうすんだ人として、って危機感は逆にデカいと思います」
「そんなこと全然考えなかった。男らしくなったなーって、むしろ好感持てたけど」
「だから、そんなものですって。自分が一番気になるんですよこういうのは。俺から見たら優子さんはなんにも気にする必要ないし、そもそも年齢による自然な容姿の変化で俺が冷めることはないです。そんな単純な"好き"じゃないんで。強いて言えば、気にして整形でもされちゃったら冷めるかもしれないから、そのままでいてもらえれば……、アッ俺を冷めさせるために整形とかやめてくださいね!! その時は先に言ってくださいね!!」
「いやいや、整形なんてしないけど」
「絶対ですからね!!」
あまりの必死さに笑ってしまった。
私と歩いていて恥ずかしいと感じないのかとか、知り合いに見られたくないんじゃないかとか、聞こうかと思っていたけど、どうやらその心配は要らなさそうだ。
今日のトピックが図らずも一つ解決してしまった。
「それで優子さん、いつ三九になったんですか?」
「えっ、あはは…バレた。実は私も早生まれでね、もしかしたら亮弥くんと誕生日近いかも」
「そうなんですか? 優子さんがイベント苦手って言うから、ずっと聞くに聞けなくて」
「それじゃ、もう少し保留にしとこ」
「えー」
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