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第5章
1 切り出すタイミング③
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いい機会だから、この前実華ちゃんと話題になった、SNSについても聞いてみることにした。
「あー、俺何もやってないですね」
ピザを一切れ、トマトを落とさないように慎重に持ち上げながら亮弥くんが言った。
「職種柄、何年か前に一度やってはみたんですけど、誰をどんな基準でフォローすればいいのかわからないし、発信したいこともないし、全然使わなくてすぐやめちゃいました。優子さんは?」
「私は情報収集を兼ねてやってる」
「えっ、ほんとですか? 何か書き込んだりもします?」
「そ、それなりには」
「えっ、見たいです……」
「えっ」
一瞬身構えた私に気づいたのか、亮弥くんは手に持ったピザを左右にウロウロさせながら、
「あ、イヤ、ダメなら、全然……。ですよね、プライバシーですもんね」
「えっと、いや、そんなには、別に……」
別に見られて困ることは書いていないけど、知人に公開したことがないので、リア友に見られるのはちょっと恥ずかしいなという気持ちがあった。
本音を言えば、あまり私生活に踏み込まれたくないという気持ちもあった。
ただ、普段の私を亮弥くんに知ってもらうためには、SNSを見せることは有意義でもある。
「わかった、今日別れるまでに、教えるか考えとく」
そう言うと、亮弥くんは優しく笑って言った。
「いや、ほんと無理しないでくださいね。俺、優子さんが嫌なことはしたくないんで」
さすがの私もこの時ばかりは、亮弥くんの心遣いに、愛されていると感じてしまった。
なんだか話すほどに関係性は近づく一方で、どのタイミングでめんどくさい話を切り出せばいいのか、はたしてちゃんと切り出すことができるのか、だんだん不安になってきた。
少なくとも今日のメインイベントである映画は見終わった後がいいだろうし、今はまだ話すわけにいかないけど、こんなにいい雰囲気で話を展開した挙げ句に亮弥くんをガッカリさせたらと思うと、いたたまれない。
一方で、亮弥くんの情報収集をしながら、この先恋人としてうまくやっていけそうかを密かに探っている自分もいて、とても複雑に思いが入り混じっている。
どっちつかずの状態というのは、ことのほかエネルギーを使うものだ。
そんなことを考えながら、電車に乗って映画館のある有楽町へと移動した。
公開から三週間くらい経っているにも関わらず、映画はほぼ満席の大盛況だった。
「すごく面白かったね!」
シアターを出て飲食のゴミを片づけてから、興奮を抑えられずに亮弥くんに声をかけると、ホッとしたような表情が返ってきた。
「あんなに壮大なエンターテインメント映画だと思わなかった。俳優さん達の演技もすごく格好良かったなぁ~」
「良かった、好みに合わなかったらどうしようかと思った」
「あはは、私も」
ロビーには、次の上映を観る人達が、チケットやポップコーンを手に開場を待っていた。
その中の女の子達の視線が、亮弥くんへと集まっていく。
その後、判で押したように私にも視線が向けられる。
だよね、ごめんなさい。
そう思いながら視線を下げてロビーを抜けると、亮弥くんが言った。
「やっぱりな……」
「どうしたの?」
「俺、気づいたんですけど、優子さんといると、普段の倍くらい人に見られるんですよ」
「そうなの? たぶん私が亮弥くんに不釣り合い過ぎて、みんなの好奇の視線が追加されるせいじゃないかな……」
「いや、違うと思います」
亮弥くんは力を込めて否定した。
「絶対そうだよ~」
「絶対違います。一人よりもカップルのほうが目立ちやすいのもあると思うけど、たぶん、俺達が客観的に見てお似合いだからだと思う!」
「いやいやいや……」
ポジティブなのは良いことだけど、世間の目はもっと厳しいものだ。こんな美麗男子の横に、こんなおばちゃんが並んでいたら、誰だってギョッとするはず。
「あ、優子さんほら、見てください」
「あー、俺何もやってないですね」
ピザを一切れ、トマトを落とさないように慎重に持ち上げながら亮弥くんが言った。
「職種柄、何年か前に一度やってはみたんですけど、誰をどんな基準でフォローすればいいのかわからないし、発信したいこともないし、全然使わなくてすぐやめちゃいました。優子さんは?」
「私は情報収集を兼ねてやってる」
「えっ、ほんとですか? 何か書き込んだりもします?」
「そ、それなりには」
「えっ、見たいです……」
「えっ」
一瞬身構えた私に気づいたのか、亮弥くんは手に持ったピザを左右にウロウロさせながら、
「あ、イヤ、ダメなら、全然……。ですよね、プライバシーですもんね」
「えっと、いや、そんなには、別に……」
別に見られて困ることは書いていないけど、知人に公開したことがないので、リア友に見られるのはちょっと恥ずかしいなという気持ちがあった。
本音を言えば、あまり私生活に踏み込まれたくないという気持ちもあった。
ただ、普段の私を亮弥くんに知ってもらうためには、SNSを見せることは有意義でもある。
「わかった、今日別れるまでに、教えるか考えとく」
そう言うと、亮弥くんは優しく笑って言った。
「いや、ほんと無理しないでくださいね。俺、優子さんが嫌なことはしたくないんで」
さすがの私もこの時ばかりは、亮弥くんの心遣いに、愛されていると感じてしまった。
なんだか話すほどに関係性は近づく一方で、どのタイミングでめんどくさい話を切り出せばいいのか、はたしてちゃんと切り出すことができるのか、だんだん不安になってきた。
少なくとも今日のメインイベントである映画は見終わった後がいいだろうし、今はまだ話すわけにいかないけど、こんなにいい雰囲気で話を展開した挙げ句に亮弥くんをガッカリさせたらと思うと、いたたまれない。
一方で、亮弥くんの情報収集をしながら、この先恋人としてうまくやっていけそうかを密かに探っている自分もいて、とても複雑に思いが入り混じっている。
どっちつかずの状態というのは、ことのほかエネルギーを使うものだ。
そんなことを考えながら、電車に乗って映画館のある有楽町へと移動した。
公開から三週間くらい経っているにも関わらず、映画はほぼ満席の大盛況だった。
「すごく面白かったね!」
シアターを出て飲食のゴミを片づけてから、興奮を抑えられずに亮弥くんに声をかけると、ホッとしたような表情が返ってきた。
「あんなに壮大なエンターテインメント映画だと思わなかった。俳優さん達の演技もすごく格好良かったなぁ~」
「良かった、好みに合わなかったらどうしようかと思った」
「あはは、私も」
ロビーには、次の上映を観る人達が、チケットやポップコーンを手に開場を待っていた。
その中の女の子達の視線が、亮弥くんへと集まっていく。
その後、判で押したように私にも視線が向けられる。
だよね、ごめんなさい。
そう思いながら視線を下げてロビーを抜けると、亮弥くんが言った。
「やっぱりな……」
「どうしたの?」
「俺、気づいたんですけど、優子さんといると、普段の倍くらい人に見られるんですよ」
「そうなの? たぶん私が亮弥くんに不釣り合い過ぎて、みんなの好奇の視線が追加されるせいじゃないかな……」
「いや、違うと思います」
亮弥くんは力を込めて否定した。
「絶対そうだよ~」
「絶対違います。一人よりもカップルのほうが目立ちやすいのもあると思うけど、たぶん、俺達が客観的に見てお似合いだからだと思う!」
「いやいやいや……」
ポジティブなのは良いことだけど、世間の目はもっと厳しいものだ。こんな美麗男子の横に、こんなおばちゃんが並んでいたら、誰だってギョッとするはず。
「あ、優子さんほら、見てください」
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