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第3章
5 半年目の決心⑥
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翌日はゴールデンウイーク最終日だった。
なかなか寝つけなかったのになぜか早起きしてしまい、缶コーヒーでも買おうと思って部屋着にパーカーを羽織って外に出た。
早朝だというのに、もう太陽はとっくに世間を照らしていて、なけなしの街路樹からゴキゲンそうな鳥の声が聞こえていた。
少し辺りをぶらついてみようかという気持ちになって、ダサい服装だけど人通りもまばらだからいいかと思い、いつもの道とは逆に向かって歩き出した。
しばらく歩くと公園にたどり着いた。
ここに来たのは久しぶりだった。
以前つき合っていた彼女がウチに来てケンカになった時、外の空気を吸って気持ちを切り替えようと、二人でここまで歩いてきたことがある。
俺と彼女しかいない部屋の中の重苦しい空気から解放されて、人とすれ違ったり車の音を聞いたりしたら、ようやく息をした気分になれた。
しかし公園まで来ても彼女は不機嫌なままだった。
俺は機嫌を直してほしいと思う気持ち半分、うんざりする気持ち半分で、彼女に言葉をかけるのをためらった。
優子さんとああいう状態になったら、俺はどうするだろうか。
機嫌を損ねて、笑顔を見せてくれなくて、お前が悪いと言わんばかりにふてくされられたとしたら。
考えて、口元が緩んだ。
やばい。可愛すぎる。もう、一生懸命謝っちゃう。
いやいや、と頬を叩いて唇を結ぶ。
そういう感じじゃなくて、本気で冷めた目をされて、拒絶されてしまったら。
それでも俺は絶対に折れる。
優子さんが納得するまで話もするし、要望に応えられるようにがんばる。
だって優子さんが好きだから。側にいたいから。
その時俺は、なぜ優子さんを好きなのかを思い出した。
俺は優子さんみたいな心の持ち主に出会ったことがない。
優子さんを逃したら、もう二度と出会えないかもしれない。
そう感じさせるものを優子さんは持っていたし、この半年のつき合いの中でも間違いなくそれはそのままあった。
計算されたり演技で作り出されたりしたものじゃなく、不意に出る言動、その時に感じさせる柔らかな空気。
それは間違いなく優子さんの中にあるものだ。
仮に俺が見てきたものが優子さんの一部でしかなかったとしても、その一部があるというだけで優子さんを選ぶ理由は充分だし、それを失わないためなら優子さんを理解するように努力できる。
そうだ、簡単なことじゃないか。
優子さんの気持ちを思いやれる男になればいい。
昨日もそう考えた。
俺は間違ってない。
そう結論付いたら、心の中がすうっと澄み渡っていった。
気持ちが晴れて軽やかな足取りで自宅に戻った俺は、朝食を食べようとキッチンに置いてあるパンを手に取った時、結局缶コーヒーを買い忘れていたことに気づいたのだった。
なかなか寝つけなかったのになぜか早起きしてしまい、缶コーヒーでも買おうと思って部屋着にパーカーを羽織って外に出た。
早朝だというのに、もう太陽はとっくに世間を照らしていて、なけなしの街路樹からゴキゲンそうな鳥の声が聞こえていた。
少し辺りをぶらついてみようかという気持ちになって、ダサい服装だけど人通りもまばらだからいいかと思い、いつもの道とは逆に向かって歩き出した。
しばらく歩くと公園にたどり着いた。
ここに来たのは久しぶりだった。
以前つき合っていた彼女がウチに来てケンカになった時、外の空気を吸って気持ちを切り替えようと、二人でここまで歩いてきたことがある。
俺と彼女しかいない部屋の中の重苦しい空気から解放されて、人とすれ違ったり車の音を聞いたりしたら、ようやく息をした気分になれた。
しかし公園まで来ても彼女は不機嫌なままだった。
俺は機嫌を直してほしいと思う気持ち半分、うんざりする気持ち半分で、彼女に言葉をかけるのをためらった。
優子さんとああいう状態になったら、俺はどうするだろうか。
機嫌を損ねて、笑顔を見せてくれなくて、お前が悪いと言わんばかりにふてくされられたとしたら。
考えて、口元が緩んだ。
やばい。可愛すぎる。もう、一生懸命謝っちゃう。
いやいや、と頬を叩いて唇を結ぶ。
そういう感じじゃなくて、本気で冷めた目をされて、拒絶されてしまったら。
それでも俺は絶対に折れる。
優子さんが納得するまで話もするし、要望に応えられるようにがんばる。
だって優子さんが好きだから。側にいたいから。
その時俺は、なぜ優子さんを好きなのかを思い出した。
俺は優子さんみたいな心の持ち主に出会ったことがない。
優子さんを逃したら、もう二度と出会えないかもしれない。
そう感じさせるものを優子さんは持っていたし、この半年のつき合いの中でも間違いなくそれはそのままあった。
計算されたり演技で作り出されたりしたものじゃなく、不意に出る言動、その時に感じさせる柔らかな空気。
それは間違いなく優子さんの中にあるものだ。
仮に俺が見てきたものが優子さんの一部でしかなかったとしても、その一部があるというだけで優子さんを選ぶ理由は充分だし、それを失わないためなら優子さんを理解するように努力できる。
そうだ、簡単なことじゃないか。
優子さんの気持ちを思いやれる男になればいい。
昨日もそう考えた。
俺は間違ってない。
そう結論付いたら、心の中がすうっと澄み渡っていった。
気持ちが晴れて軽やかな足取りで自宅に戻った俺は、朝食を食べようとキッチンに置いてあるパンを手に取った時、結局缶コーヒーを買い忘れていたことに気づいたのだった。
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