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第3章
5 半年目の決心④
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お詫びに夜ごはんおごる、と優子さんが言うので、二人で半個室の居酒屋チェーン店に入った。
唐揚げ、焼き鳥、サラダ、フライドポテトと、俺はビール、優子さんはカクテルを注文して、食べながらイベント問題の真相を話してもらった。
どうやら、クリスマスや誕生日や記念日などの"失敗してはいけない感"が苦手らしい。
「特別な日って完璧にしようとして気負っちゃうとこあるでしょ。そうすると、ケンカしたらどうしようとか、料理が美味しくなかったらどうしようとか、期待に応えられなかったらどうしようとか考えちゃって、その緊迫した感じが苦手なの。ただ、たまたまバレンタインに会ったから何か買って渡すみたいなのは、気負ってないからいいの。気まぐれでやって終わりだから。あんまり違いがわからないかもしれないけど……」
「いやまあ、正直あんまりわかんないですけど……」
「あはは、だよね」
「優子さんがすごく気を遣う人だからそういうの気になっちゃうんじゃないかなぁ」
「そうなのかな……」
「それって相手が彼氏でもそうなんですか? 優子さんとつき合ったら、誕生日とかそういうイベントは一切ナシですか?」
「そこまで鬼ではない」
優子さんは手を振って否定した。
「正直これまでは、というか若い頃は、プレゼント一生懸命選んだり、料理作ったり、デートではしゃいだりしたけど、だからこそもうそういうのやりたくないなーっていうか……」
「あんまりいい思い出がないんですね」
「そういうわけでもないけど、なんだろう……、結局、年齢的なものかな……」
はぁーっとため息をついて、
「亮弥くんみたいに若い子と同じ感覚ではいられないの。昔は楽しいと信じられたことがそうでなくなったり、高揚する自分に逆に冷めたりするのよ」
「そんなもん、ですかね……」
唐揚げに箸を伸ばし、口に入れてから、自分にそういう経験があるか考えてみた。
優子さんといて幸せで楽しい最中、彼氏がいることを考えた時の虚しさは、高揚した自分に冷める瞬間だったと言えるかもしれない。
「亮弥くんはどういうクリスマスがいいの?」
ここからは興味本位です、という顔で優子さんが聞いてきた。
「う~ん……」
俺は後ろの壁にもたれて天井を見上げ、考えた。
「そうですね……」
優子さんとどういうクリスマスを過ごしたいとか具体的には考えていなかった。
ただ、二人でゆっくりお茶でもして、何か欲しいものあったら買ってあげて……みたいな……、つまり、
「俺は単純に、好きな人と一緒に過ごせたら満足ですけど……」
「そうなの? テーマパーク行ったりとか、夜景を見ながらフルコースのディナーとか、彼女の手料理でシャンパン開けたりとか、そういうのはしたくないの?」
「それは、彼女がしたいって言ったら……、というか、優子さんがしたいなら、何でもがんばります」
「そう? それじゃ、ディナークルーズ!」
「えっ、さっきと話が違うんですけど」
「あはは。でも私はね、お互い気負わず自然体でいられるなら、何やってもいいと思うの。要は、心の問題なのかもね~。いつも相手に合わせようとするから疲れちゃうんだろうなー」
なるほど、優子さんらしい結論な気がする。
そしてそれはたぶん俺も同じだ。
最初にデートした時、ほとんど初対面に近かった俺を連れていても気負わない優子さんの態度が心地よかったし、安心できた。
憧れの人と二人きりでも、緊張せずに楽しく会話できた。
あの時は俺が一方的に恩恵を受けていたけど、俺自身も優子さんにとって安心できてリラックスできる存在になれたら、もしかして、好きになってもらえるかもしれない。
だって今の優子さんにはそういう男性がいないのだから。
そのためには、もっともっと優子さんのこと知って、もっともっと思いやれる男にならなければ。
唐揚げ、焼き鳥、サラダ、フライドポテトと、俺はビール、優子さんはカクテルを注文して、食べながらイベント問題の真相を話してもらった。
どうやら、クリスマスや誕生日や記念日などの"失敗してはいけない感"が苦手らしい。
「特別な日って完璧にしようとして気負っちゃうとこあるでしょ。そうすると、ケンカしたらどうしようとか、料理が美味しくなかったらどうしようとか、期待に応えられなかったらどうしようとか考えちゃって、その緊迫した感じが苦手なの。ただ、たまたまバレンタインに会ったから何か買って渡すみたいなのは、気負ってないからいいの。気まぐれでやって終わりだから。あんまり違いがわからないかもしれないけど……」
「いやまあ、正直あんまりわかんないですけど……」
「あはは、だよね」
「優子さんがすごく気を遣う人だからそういうの気になっちゃうんじゃないかなぁ」
「そうなのかな……」
「それって相手が彼氏でもそうなんですか? 優子さんとつき合ったら、誕生日とかそういうイベントは一切ナシですか?」
「そこまで鬼ではない」
優子さんは手を振って否定した。
「正直これまでは、というか若い頃は、プレゼント一生懸命選んだり、料理作ったり、デートではしゃいだりしたけど、だからこそもうそういうのやりたくないなーっていうか……」
「あんまりいい思い出がないんですね」
「そういうわけでもないけど、なんだろう……、結局、年齢的なものかな……」
はぁーっとため息をついて、
「亮弥くんみたいに若い子と同じ感覚ではいられないの。昔は楽しいと信じられたことがそうでなくなったり、高揚する自分に逆に冷めたりするのよ」
「そんなもん、ですかね……」
唐揚げに箸を伸ばし、口に入れてから、自分にそういう経験があるか考えてみた。
優子さんといて幸せで楽しい最中、彼氏がいることを考えた時の虚しさは、高揚した自分に冷める瞬間だったと言えるかもしれない。
「亮弥くんはどういうクリスマスがいいの?」
ここからは興味本位です、という顔で優子さんが聞いてきた。
「う~ん……」
俺は後ろの壁にもたれて天井を見上げ、考えた。
「そうですね……」
優子さんとどういうクリスマスを過ごしたいとか具体的には考えていなかった。
ただ、二人でゆっくりお茶でもして、何か欲しいものあったら買ってあげて……みたいな……、つまり、
「俺は単純に、好きな人と一緒に過ごせたら満足ですけど……」
「そうなの? テーマパーク行ったりとか、夜景を見ながらフルコースのディナーとか、彼女の手料理でシャンパン開けたりとか、そういうのはしたくないの?」
「それは、彼女がしたいって言ったら……、というか、優子さんがしたいなら、何でもがんばります」
「そう? それじゃ、ディナークルーズ!」
「えっ、さっきと話が違うんですけど」
「あはは。でも私はね、お互い気負わず自然体でいられるなら、何やってもいいと思うの。要は、心の問題なのかもね~。いつも相手に合わせようとするから疲れちゃうんだろうなー」
なるほど、優子さんらしい結論な気がする。
そしてそれはたぶん俺も同じだ。
最初にデートした時、ほとんど初対面に近かった俺を連れていても気負わない優子さんの態度が心地よかったし、安心できた。
憧れの人と二人きりでも、緊張せずに楽しく会話できた。
あの時は俺が一方的に恩恵を受けていたけど、俺自身も優子さんにとって安心できてリラックスできる存在になれたら、もしかして、好きになってもらえるかもしれない。
だって今の優子さんにはそういう男性がいないのだから。
そのためには、もっともっと優子さんのこと知って、もっともっと思いやれる男にならなければ。
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