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第3章
4 隠しごと②
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ちょうどその頃、久しぶりに愛美ちゃんと接する機会があった。
愛美ちゃんの担当案件に関して、取引先の社長とうちの社長が会うことになり、スケジュールの相談から始まって、こまこまとやり取りが続いた。
それで、久しぶりにランチでも行きませんかというお誘いがあった。
秘書をしていると、基本的には秘書室内でしか昼食をとることができない。
社長の動向によって、秘書自身の時間は容易く左右されるからだ。
同じ理由で仕事後のお誘いも事前に約束することができない。
だから愛美ちゃんのお誘いも保留状態になってしまって、結局そのまま流れそうになっていた。
ところが今日、たまたま仕事が早く切り上がったので退社前にメールしてみたら、愛美ちゃんはちょうど会社を出た所で信号待ちしているという、ベストタイミングに当たったので、久しぶりの食事会が実現したのだった。
前回愛美ちゃんとゆっくり話せたのは、実華ちゃんの結婚祝いをした時だった。
余談になるけど、実華ちゃんには正樹についての相談相手として懐かれてしまい、もう長年そこそこ仲良くしている。
私は元カノなんて拒絶心しかないので、一応「私は正樹とかなり深いつき合いがあった元カノなのに、あなたのメンタルは大丈夫なのか」という確認をしつこいくらいにしたのだけど、実華ちゃんは全く気にしないらしい。
それどころか、むしろ正樹を熟知している頼れる情報源として重宝するという、全く理解しがたい思考の持ち主だった。
これも世代の差なのかと内心思いながら、私としても自分が今カノの立場じゃなければ特に不快になる要素もないので、実華ちゃんがいいなら、と友人関係になった。
ただし、私と正樹の直接の交流は禁止。
そして私からのお願いとしても、過去のことがバレないように実華ちゃんと私の交流は周囲には内緒。
という条件のもとの、ちょっとややこしい内密のおつき合いになっている。
そんな中、正樹と実華ちゃんの結婚に際し、愛美ちゃんを通してお祝い会のお誘いがあったので、しれっと参加してお祝いをしたのだった。
それがもう三年くらい前の話だから、本当に久しぶりだ。あっという間に時が過ぎていることに、ちょっと茫然としてしまった。
私の連絡を受けた愛美ちゃんは、通り沿いの信号で待っていた。
そのまま溜池山王まで歩いて、ちょっとお洒落なワインバーに入った。
愛美ちゃんとの出会いも、もう十年前になる。
当時は総務の先輩後輩だったけど、私が先に秘書室に移って、何年か後に愛美ちゃんは営業部に異動になった。
愛美ちゃんと実華ちゃんは同期で、今は同僚でもある。
入社と同時に総務に配属されていた愛美ちゃんは、初経験だった営業で意外な才能を発揮し、バリバリ実績を上げている。
その姿を、私は少し羨ましく思ってしまうのだった。
「優子さんいつも忙しいんですね。ごはん一緒に食べるのがこんなに難しいなんて思いませんでした」
「ううん、忙しいというか、自由が利かないだけかな。会社にいる間は社長が最優先だから。でも私は会社から出ちゃえば解放されるからまだいいほう。泊さんなんか夜も同行したり、休日は私用携帯にも連絡来るらしいから」
泊さんは社長付きの男性秘書で私の仕事のパートナーであり、秘書室長でもある。
「うわー、大変なんですね! でも良かった、優子さん社長秘書になってから遠い存在になっちゃって、そういう意味でもう気軽に誘えないなと思って遠慮しちゃってたから……」
愛美ちゃんはブルスケッタを手に取りながら言った。
「秘書ってそういうイメージ持たれるみたいだね。私自身はそんなに変わってないんだけど」
「でも優子さん一段と綺麗になったし、完全に高嶺の花って感じですよ。営業部でもよく美人秘書って噂されてるし~」
「そう……、……ありがとう」
「何引いちゃってるんですか」
「それより愛美ちゃんすごく活躍してるらしいじゃん」
「ああー、まあ、けっこう楽しくやってますけど」
それから取り留めなく仕事の話が続いていたけど、愛美ちゃんの近況を聞いているうちに恋愛の話になった。
愛美ちゃんは今つき合っている同い年の彼氏がいて、結婚も考えているらしい。
それで、ゴールデンウイークに家族に紹介しようと思っているけど、
「弟が仕事忙しいみたいで、まだ予定わからないんですよね~」
ということらしい。
愛美ちゃんの担当案件に関して、取引先の社長とうちの社長が会うことになり、スケジュールの相談から始まって、こまこまとやり取りが続いた。
それで、久しぶりにランチでも行きませんかというお誘いがあった。
秘書をしていると、基本的には秘書室内でしか昼食をとることができない。
社長の動向によって、秘書自身の時間は容易く左右されるからだ。
同じ理由で仕事後のお誘いも事前に約束することができない。
だから愛美ちゃんのお誘いも保留状態になってしまって、結局そのまま流れそうになっていた。
ところが今日、たまたま仕事が早く切り上がったので退社前にメールしてみたら、愛美ちゃんはちょうど会社を出た所で信号待ちしているという、ベストタイミングに当たったので、久しぶりの食事会が実現したのだった。
前回愛美ちゃんとゆっくり話せたのは、実華ちゃんの結婚祝いをした時だった。
余談になるけど、実華ちゃんには正樹についての相談相手として懐かれてしまい、もう長年そこそこ仲良くしている。
私は元カノなんて拒絶心しかないので、一応「私は正樹とかなり深いつき合いがあった元カノなのに、あなたのメンタルは大丈夫なのか」という確認をしつこいくらいにしたのだけど、実華ちゃんは全く気にしないらしい。
それどころか、むしろ正樹を熟知している頼れる情報源として重宝するという、全く理解しがたい思考の持ち主だった。
これも世代の差なのかと内心思いながら、私としても自分が今カノの立場じゃなければ特に不快になる要素もないので、実華ちゃんがいいなら、と友人関係になった。
ただし、私と正樹の直接の交流は禁止。
そして私からのお願いとしても、過去のことがバレないように実華ちゃんと私の交流は周囲には内緒。
という条件のもとの、ちょっとややこしい内密のおつき合いになっている。
そんな中、正樹と実華ちゃんの結婚に際し、愛美ちゃんを通してお祝い会のお誘いがあったので、しれっと参加してお祝いをしたのだった。
それがもう三年くらい前の話だから、本当に久しぶりだ。あっという間に時が過ぎていることに、ちょっと茫然としてしまった。
私の連絡を受けた愛美ちゃんは、通り沿いの信号で待っていた。
そのまま溜池山王まで歩いて、ちょっとお洒落なワインバーに入った。
愛美ちゃんとの出会いも、もう十年前になる。
当時は総務の先輩後輩だったけど、私が先に秘書室に移って、何年か後に愛美ちゃんは営業部に異動になった。
愛美ちゃんと実華ちゃんは同期で、今は同僚でもある。
入社と同時に総務に配属されていた愛美ちゃんは、初経験だった営業で意外な才能を発揮し、バリバリ実績を上げている。
その姿を、私は少し羨ましく思ってしまうのだった。
「優子さんいつも忙しいんですね。ごはん一緒に食べるのがこんなに難しいなんて思いませんでした」
「ううん、忙しいというか、自由が利かないだけかな。会社にいる間は社長が最優先だから。でも私は会社から出ちゃえば解放されるからまだいいほう。泊さんなんか夜も同行したり、休日は私用携帯にも連絡来るらしいから」
泊さんは社長付きの男性秘書で私の仕事のパートナーであり、秘書室長でもある。
「うわー、大変なんですね! でも良かった、優子さん社長秘書になってから遠い存在になっちゃって、そういう意味でもう気軽に誘えないなと思って遠慮しちゃってたから……」
愛美ちゃんはブルスケッタを手に取りながら言った。
「秘書ってそういうイメージ持たれるみたいだね。私自身はそんなに変わってないんだけど」
「でも優子さん一段と綺麗になったし、完全に高嶺の花って感じですよ。営業部でもよく美人秘書って噂されてるし~」
「そう……、……ありがとう」
「何引いちゃってるんですか」
「それより愛美ちゃんすごく活躍してるらしいじゃん」
「ああー、まあ、けっこう楽しくやってますけど」
それから取り留めなく仕事の話が続いていたけど、愛美ちゃんの近況を聞いているうちに恋愛の話になった。
愛美ちゃんは今つき合っている同い年の彼氏がいて、結婚も考えているらしい。
それで、ゴールデンウイークに家族に紹介しようと思っているけど、
「弟が仕事忙しいみたいで、まだ予定わからないんですよね~」
ということらしい。
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