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第3章

3 交流③

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 インターホンが鳴ったのに気づき、掃除機を止めた。
 モニターを確認したら、晃輝がカメラを覗き込む姿が映っている。
 俺は応答ボタンを押した。
「はーい」
「うーい」
「あいー」
 解錠ボタンを押してマンションの入口を開けると、晃輝が中に入っていったので、画面を消した。

 軽く掃除機の続きをかけてからクローゼットにしまい、玄関を開けたら、コンビニの袋いっぱいのビールと菓子を手に提げた晃輝がいた。
「寿司じゃなかったの?」
「面倒だから出前でも取ろうと思って」
「それで良いならいいけど。入れよ」
「おう」
 部屋に入ると晃輝は袋をテーブルに置いて、
「綺麗にしてんじゃん」
「片づけたんだよ、朝から。普段は散らかしっぱなしだから」
「別に良かったのに」
 そう言ってソファに腰を下ろした。

 昼前だったのと、俺は朝から何も食べていなかったのもあって、早速二人でスマホで調べて出前を取った。
 くだらないんだけど、二人同時に別のところに注文して、どっちが早く来るか試すという遊びをやった。
 会うのが久しぶりだったせいで、いきなり恋愛の話を始めるのを気恥ずかしく感じていたけど、出前の到着予想を話し合っていたら気持ちがほぐれて、頼んだ寿司とピザが揃う頃にはすっかりいつもの調子になっていた。

 まだ温かいピザを早速つまみながら、ビールを飲み始めた。
 軽く近況を報告しあった後、晃輝が話を切り出してくれて、俺はそれに答える形で優子さんとのことを話し始めた。
 昔好きになった人に偶然再会したこと。
 当時のバレンタインの埋め合わせにとカフェに連れて行ってくれたこと。
 その人が十二歳年上だということ。などなど。

「それでさ、俺が奢ろうとしたら、"自分が奢るつもりだったから高いとこに連れてきた"って言うの。凄くない? 女の子って普通逆じゃん?」
「まあなー。でも年上だからそんなもんなんじゃね?」
「でも結局俺が強引に奢ったんだよ。そしたらさ、会計の時、肩のとこからこう、ひょこっと顔出して、"それじゃ甘えさせてもらって"って上目遣いで言うの、超可愛くない??」
「うーん、若い子なら可愛いけど、おばちゃんなら可愛いのか微妙だな」
「全然おばちゃんじゃないって。本当に可愛いの。しかも可愛い自覚がないみたいなの。でさ、すごいのが、"甘えさせてもらうけど代わりにチョコ買ってあげる"って、その店の高いチョコをプレゼントしてくれたの。すごくない?」
「後腐れ無いように貸し借りナシってことじゃね?」
「お前ヒドいね」
「俺は冷静な意見を言ってるだけよ」
「でさ、まだあるんだよ。渡す時にさ、えっとね……"ありがとう、ごちそうさま"って言ったの。渡す側なんだから、普通は"どうぞ"って言うじゃん!? 俺ほんと衝撃で……、こんなことサラッとできる人いるんだって。頭ん中どうなってんだろうって」
「ふうん……」

「とにかくいちいちずっとそうなの。気配りというか、すごく自然に気が回るというか、会話も楽しくしてくれるし、俺が言うこともちゃんと真正面から受け止めてくれるっていうか……。優子さんといると、すごく素直に自分の言葉が出てくるんだよね。嘘みたいにどんどん喋っちゃうの」
 話を聞きながらビールと寿司を交互に口に運んでいた晃輝が、手を止めて感心した顔でこちらを見た。
「それは凄いな。俺以外との話量激少のお前が」
「話量激少ってやめて。何その四字熟語。人見知りでいいじゃん」
「やっぱり年の功的なやつ?」
「一言多いわ。でも年上がみんな優子さんみたいじゃ絶対ないし、今姉ちゃん三二だけど、三十の頃の優子さんより全然落ち着いてないし、あんな風に安心して話せる女の人って出会ったことないんだよ、おばちゃん含めて」
「うーん……。お前その人の写真ないの? どうも、フツーに人生すっかり落ち着いたおばちゃんしか想像できないんだわ」
「二十代の頃のなら、昔姉ちゃんにもらったやつがあるけど……」
「そんな昔のじゃ意味ねーじゃん」
「だって再会していきなり写真撮っていいですかはムリだろ」
「まあなー」

 晃輝はソファの背にもたれながら天井を仰いで、しばらく無言になった後、ふと起き上がった。
「そうだ、送ってもらえよ」
「はぁ?」
「メールしてるんだろ? 写真くれって言やいいじゃん」
「言えるわけねーでしょ! だいたい、ケースの感想もまだ言えてないのに……」
「ちょうど良いじゃん、今メールしようぜ!」
 晃輝が身を乗り出して、テーブルに置いてある俺のスマホに手を伸ばしたので、俺は慌ててスマホを取った。
「こんな昼間っから酒飲んでメールなんてできるわけないだろ」
「そんだけ理性ありゃ充分充分! こういうのは勢いでやらねーと、お前なかなか自分から行けねーだろ!」
「そ……うかもしれないけど……」

 晃輝は既に缶ビールを三本空けていて、ほろ酔い状態だ。
 単純に面白いからメールさせようとしているのはわかっていたが、晃輝の言うとおり勢いでやってしまったほうが気が楽かもしれないし、もし返事が来なくても二人なら気が紛れて落ち込まなくて済むかもしれないという気持ちもあった。
「じゃあ、ちょっとお礼だけ言ってみる」
「っしゃー! いけ!」
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