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第2章
1 昔の恋人②
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詳しく話を聞くと、こういうことだった。
営業事務の桜井さんは、顧客からの要望を定期的に取りまとめて商品開発部に報告している。
その関係で正樹と接することが増え、優しくて頼れる正樹に憧れるようになった。
ちなみに正樹は私より五つ年上。桜井さんとは十歳以上離れている。
二十代の女の子が年上の男性に憧れるのはよくわかる。
私もそうだった。子供っぽい同世代とは話が合わなかったから、いつも大人の落ち着いた男性ばかり見ていた気がする。
正樹は五つしか離れていないとは思えないくらい落ち着いていて、紳士だった。
二五歳からつき合い初めて約三年間、基本的にはとても心地いいおつき合いをしていた。
このまま正樹と結婚したら幸せになれるだろうと思っていたし、お母さまにもご挨拶を済ませていたくらいの仲だった。
先週末、桜井さんは商品開発部の同期の子に取り持ってもらい、正樹を含めた数人で飲み会をしたらしい。
まだ独身だと聞いていた正樹に、彼女もいないと確認した桜井さんは、好意をストレートに伝えてアプローチした。
でも笑って流されるばかりでまともに取り合ってもらえないので、「はぁ~、やっぱり優子さんくらいじゃないとダメかぁ~」と何の気なしに呟いたら、「な、なんで優子……?」と正樹が動揺した。
もちろん桜井さんは私達のことを知っていたのではない。ありがたいことに正樹に釣り合いそうな理想の女性として私の名前を挙げてくれたらしい。
呼び捨ての返事が返ってきて驚いたものの、もしかして元カノなのではと気づいた桜井さんは、正樹に詰め寄って聞き出した。
最初は否定していた正樹も、こんな話をしているのを他のメンバーに気づかれたら困るからと、厳重に口止めした上で交際していたことを認めた……が最後、いつ頃つき合っていたのか、期間はどのくらいか、なぜ別れたのかを根ほり葉ほり聞かれる羽目になったようだ。
私はあの分別ある正樹の口を割らせるとは若い子のパワーってすごいなと感心するとともに、彼に少なからず同情した。
「それで、なんで別れたって言ってた?」
「優子さんに振られたって言ってました」
その程度なのか、と少しホッとした。
「全部聞いてるなら、何も否定しません。でももう昔の話だし、お互いとっくに終わったことだから、桜井さんが西山さんを好きなら私のことは気にしないでくれたらいいなと思います……」
「もちろんそのつもりなんですけど、その前に聞いておきたいことがあるんです」
「何でしょう」
「優子さんも西山さんもどちらも素敵な人なのに、どうして上手くいかなくなったのか見当もつかないんです。私が言うのも悔しいんですけど、正直理想のカップルだと思います。どうして西山さんを振ったんですか? 他に好きな人ができたとか? それとも、西山さんに何か表面に見えない重大な欠点でもあるんですか?」
なるほど。確かにそこは気になるところだろう。
正樹のような完璧に見える人ほど、驚きの欠点を秘めていることもあるからな。
でもそんなものはなかった。
簡単に言うと、正樹の言葉に私が勝手に傷ついて、気持ちを取り戻せなくなってしまった。ただそれだけのことだった。
「西山さんは優しい人だったよ。何の不満もなかった。ただ、状況的にちょっと余裕がなかった時期があって、噛み合わなくなっちゃってね。タイミングが悪かったのと、私の性格のせいなんだろうな……」
「優子さんのせい?」
「うん。桜井さんみたいなハッキリした子のほうが、あの人には合ってるかもね」
「その内容って詳しくは聞けませんか?」
「う~ん……」
しばらく考えてみたけど、そんな話をしても誰の得にもならないと思った。
「ごめんなさい、言えないです」
「そうですか……。わかりました」
桜井さんはしぶしぶながらもそれ以上踏み込まずに帰ってくれた。
営業事務の桜井さんは、顧客からの要望を定期的に取りまとめて商品開発部に報告している。
その関係で正樹と接することが増え、優しくて頼れる正樹に憧れるようになった。
ちなみに正樹は私より五つ年上。桜井さんとは十歳以上離れている。
二十代の女の子が年上の男性に憧れるのはよくわかる。
私もそうだった。子供っぽい同世代とは話が合わなかったから、いつも大人の落ち着いた男性ばかり見ていた気がする。
正樹は五つしか離れていないとは思えないくらい落ち着いていて、紳士だった。
二五歳からつき合い初めて約三年間、基本的にはとても心地いいおつき合いをしていた。
このまま正樹と結婚したら幸せになれるだろうと思っていたし、お母さまにもご挨拶を済ませていたくらいの仲だった。
先週末、桜井さんは商品開発部の同期の子に取り持ってもらい、正樹を含めた数人で飲み会をしたらしい。
まだ独身だと聞いていた正樹に、彼女もいないと確認した桜井さんは、好意をストレートに伝えてアプローチした。
でも笑って流されるばかりでまともに取り合ってもらえないので、「はぁ~、やっぱり優子さんくらいじゃないとダメかぁ~」と何の気なしに呟いたら、「な、なんで優子……?」と正樹が動揺した。
もちろん桜井さんは私達のことを知っていたのではない。ありがたいことに正樹に釣り合いそうな理想の女性として私の名前を挙げてくれたらしい。
呼び捨ての返事が返ってきて驚いたものの、もしかして元カノなのではと気づいた桜井さんは、正樹に詰め寄って聞き出した。
最初は否定していた正樹も、こんな話をしているのを他のメンバーに気づかれたら困るからと、厳重に口止めした上で交際していたことを認めた……が最後、いつ頃つき合っていたのか、期間はどのくらいか、なぜ別れたのかを根ほり葉ほり聞かれる羽目になったようだ。
私はあの分別ある正樹の口を割らせるとは若い子のパワーってすごいなと感心するとともに、彼に少なからず同情した。
「それで、なんで別れたって言ってた?」
「優子さんに振られたって言ってました」
その程度なのか、と少しホッとした。
「全部聞いてるなら、何も否定しません。でももう昔の話だし、お互いとっくに終わったことだから、桜井さんが西山さんを好きなら私のことは気にしないでくれたらいいなと思います……」
「もちろんそのつもりなんですけど、その前に聞いておきたいことがあるんです」
「何でしょう」
「優子さんも西山さんもどちらも素敵な人なのに、どうして上手くいかなくなったのか見当もつかないんです。私が言うのも悔しいんですけど、正直理想のカップルだと思います。どうして西山さんを振ったんですか? 他に好きな人ができたとか? それとも、西山さんに何か表面に見えない重大な欠点でもあるんですか?」
なるほど。確かにそこは気になるところだろう。
正樹のような完璧に見える人ほど、驚きの欠点を秘めていることもあるからな。
でもそんなものはなかった。
簡単に言うと、正樹の言葉に私が勝手に傷ついて、気持ちを取り戻せなくなってしまった。ただそれだけのことだった。
「西山さんは優しい人だったよ。何の不満もなかった。ただ、状況的にちょっと余裕がなかった時期があって、噛み合わなくなっちゃってね。タイミングが悪かったのと、私の性格のせいなんだろうな……」
「優子さんのせい?」
「うん。桜井さんみたいなハッキリした子のほうが、あの人には合ってるかもね」
「その内容って詳しくは聞けませんか?」
「う~ん……」
しばらく考えてみたけど、そんな話をしても誰の得にもならないと思った。
「ごめんなさい、言えないです」
「そうですか……。わかりました」
桜井さんはしぶしぶながらもそれ以上踏み込まずに帰ってくれた。
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