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第1章
4 夢みたいな時間②
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展示を観終わると、優子さんはミュージアムショップでさっき観た絵のポストカードを手に取った。
「買うんですか?」
「うん、記念に一枚だけ。ポストカードなら邪魔にならないし、観たこと忘れないでしょう?」
「じゃっじゃあ俺も記念に……」
「ほんと? それじゃ買ってあげる」
「えっ」
「どれがいい?」
「えっと、同じやつで……」
「はーい」
優子さんはなんでもない顔で会計を済ませ、一つを俺に手渡した。
小さい紙の袋に入ったその物体を受け取る瞬間、優子さんの指と俺の指が袋を介してひと続きになる。
う、うわぁ……!
数センチ先にある優子さんの指に胸がどきどきと高鳴って、緊張と喜びで両手が震えた。
「あ、ありがとうございます……!」
「いえいえ」
初プレゼント……!
俺は優子さんが触れたこの袋ごと取っておこうと心に決めた。
内心相当テンションが上がっている俺に気づく様子もなく、優子さんは「この絵のポストカードあって良かった~」と嬉しそうにニコニコしている。
俺だけが心の中で初デート、初プレゼントと舞い上がっている。
それは冷静に考えたら悲しいことかもしれないけど、二人の時間が恋愛イベントとして心に刻まれていくことにニヤニヤが止まらなかった。
この先、優子さんもこのポストカードを見る度に俺のことを思い出してくれるのだろうか。
それがただの「後輩の代わりに来た弟と観た」というだけの記憶でも、俺と一緒に回って、俺にも同じポストカードを買ったことを、覚えていてくれたら、最高だ。
「この後どうしようかな。もう解散する?」
ショップを出たところで、優子さんが伺うように俺を見上げた。
「一応亮弥くんのノルマは終わったし、愛美ちゃんのことも心配でしょ?」
「あ、いや……、今日は両親が家にいるんで、姉は大丈夫ですけど……」
「そうなの?」
携帯を開いて見ると、もう午後一時前だった。
午前中という目標は達成していた。でも、まだほとんど話もしていないし、ここで終了してもこの後暇になるだけ。
なんとか繋ぐ方法はないかと考えていたら、優子さんが言った。
「……それか、この後も時間大丈夫なら、お昼ごはん食べてから上野公園一緒に見て回る? せっかくこっちまで来てくれたんだし」
「えっ、いいんですか!?」
「うん、私は他に予定もないし。亮弥くんみたいなキラキラのイケメン君と歩けることもそうそうないしね~」
マジか――!
まさか優子さんから誘ってくれるなんて。しかも、ごはんだけじゃなくてその後も!?
ヤバい、完全にデートじゃん。なんなら優子さんのほうがデート気分なんじゃん!?
「俺で良ければ……!」
「それじゃお願いします」
にっこり笑う優子さんを見て、俺も口元が締まらなくなってしまった。
正直、外見を褒められるのはあんまり嬉しくなかった。
いつからか、会う人会う人「イケメンだね」と言ってくるようになり、初対面の相手との定型文みたいなやり取りが繰り返されることに辟易していた。
珍しい名前の人が「珍しい名前ですね」って毎回言われるようなものかもしれない。
そりゃ、顔がカッコいいと思ってもらえるのは良いことなんだろうなとは思う。
でも、全然知らない人に顔だけで好きと言われたり、顔から勝手に理想像を作り上げられたりするのが気持ち悪くて、イケメンという言葉自体に若干の嫌悪感もあった。
だからといってこの顔からは逃れられないし、生まれ持ったものだから受け入れるしかない。そんなふうに思っていたけど。
今日ほど、イケメンに生まれて良かったと思った日はない。
優子さんとの時間を繋いでくれてありがとう俺の顔!! ありがとうお父さんお母さん!!
そして優子さんに言われると、イケメンという言葉に嬉しさしか感じないから、恋ってすごい。
「買うんですか?」
「うん、記念に一枚だけ。ポストカードなら邪魔にならないし、観たこと忘れないでしょう?」
「じゃっじゃあ俺も記念に……」
「ほんと? それじゃ買ってあげる」
「えっ」
「どれがいい?」
「えっと、同じやつで……」
「はーい」
優子さんはなんでもない顔で会計を済ませ、一つを俺に手渡した。
小さい紙の袋に入ったその物体を受け取る瞬間、優子さんの指と俺の指が袋を介してひと続きになる。
う、うわぁ……!
数センチ先にある優子さんの指に胸がどきどきと高鳴って、緊張と喜びで両手が震えた。
「あ、ありがとうございます……!」
「いえいえ」
初プレゼント……!
俺は優子さんが触れたこの袋ごと取っておこうと心に決めた。
内心相当テンションが上がっている俺に気づく様子もなく、優子さんは「この絵のポストカードあって良かった~」と嬉しそうにニコニコしている。
俺だけが心の中で初デート、初プレゼントと舞い上がっている。
それは冷静に考えたら悲しいことかもしれないけど、二人の時間が恋愛イベントとして心に刻まれていくことにニヤニヤが止まらなかった。
この先、優子さんもこのポストカードを見る度に俺のことを思い出してくれるのだろうか。
それがただの「後輩の代わりに来た弟と観た」というだけの記憶でも、俺と一緒に回って、俺にも同じポストカードを買ったことを、覚えていてくれたら、最高だ。
「この後どうしようかな。もう解散する?」
ショップを出たところで、優子さんが伺うように俺を見上げた。
「一応亮弥くんのノルマは終わったし、愛美ちゃんのことも心配でしょ?」
「あ、いや……、今日は両親が家にいるんで、姉は大丈夫ですけど……」
「そうなの?」
携帯を開いて見ると、もう午後一時前だった。
午前中という目標は達成していた。でも、まだほとんど話もしていないし、ここで終了してもこの後暇になるだけ。
なんとか繋ぐ方法はないかと考えていたら、優子さんが言った。
「……それか、この後も時間大丈夫なら、お昼ごはん食べてから上野公園一緒に見て回る? せっかくこっちまで来てくれたんだし」
「えっ、いいんですか!?」
「うん、私は他に予定もないし。亮弥くんみたいなキラキラのイケメン君と歩けることもそうそうないしね~」
マジか――!
まさか優子さんから誘ってくれるなんて。しかも、ごはんだけじゃなくてその後も!?
ヤバい、完全にデートじゃん。なんなら優子さんのほうがデート気分なんじゃん!?
「俺で良ければ……!」
「それじゃお願いします」
にっこり笑う優子さんを見て、俺も口元が締まらなくなってしまった。
正直、外見を褒められるのはあんまり嬉しくなかった。
いつからか、会う人会う人「イケメンだね」と言ってくるようになり、初対面の相手との定型文みたいなやり取りが繰り返されることに辟易していた。
珍しい名前の人が「珍しい名前ですね」って毎回言われるようなものかもしれない。
そりゃ、顔がカッコいいと思ってもらえるのは良いことなんだろうなとは思う。
でも、全然知らない人に顔だけで好きと言われたり、顔から勝手に理想像を作り上げられたりするのが気持ち悪くて、イケメンという言葉自体に若干の嫌悪感もあった。
だからといってこの顔からは逃れられないし、生まれ持ったものだから受け入れるしかない。そんなふうに思っていたけど。
今日ほど、イケメンに生まれて良かったと思った日はない。
優子さんとの時間を繋いでくれてありがとう俺の顔!! ありがとうお父さんお母さん!!
そして優子さんに言われると、イケメンという言葉に嬉しさしか感じないから、恋ってすごい。
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