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第5章
2 緊急事態②
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キッチンに戻って、盛りつけようと皿を準備していたら、ソファの足元に荷物を置こうとしていた伊月が、ふとバッグからスマホを取り出した。
「あれ? お父さんからだ」
伊月の手の内から小さく聞こえるバイブ音。どうやら着信中らしい。
「珍しいな……。ちょっといいですか?」
「どうぞ」
そう返すと、伊月は画面をタップしてスマホを耳に当てた。
「はいはーい。……うん大丈夫、今友達の家に来てるけど」
炊飯器を開けると、炊き立ての匂いが水蒸気とともに立ち上る。
軽く全体を混ぜていたら、
「……え? え。嘘……」
途中から声のトーンが落ちたので、気になって目を向ける。
伊月の顔からは先ほどまでの明るさが消え失せ、深刻な様子で眉を寄せて、微動だにせず固まっていた。
「うん……うん、……うん。わかった。ありがとう……また何かわかったら……、うん、うん。……はい」
消え入りそうな声でどうにか言葉だけは返した後、電話を切って、そのまま立ち尽くす。
何かよくない知らせだったことは想像にかたくなかった。
「……どうした?」
「……弟が……、バイクで、事故ったって」
「は!?」
「意識がなくて、今、病院に……」
俺はいったん炊飯器を閉めて、シンクのほうに向き直った。
「行かなくていいのか?」
「わかんない……けど、こ……怖くて……」
そこまで言ったところで、伊月は急に泣き出した。
「おいおい……」
慌ててキッチンを出て側に行き、細い両肩を掴んで揺さぶった。
「しっかりしろよ、お前がそんなでどうすんだよ」
「だって……、瑞月に何かあったら……私……」
震える指で拭う以上に溢れてくる涙。
乱れる呼吸とともに喉元から漏れる泣き声を抑えきれない様子に、胸が痛む。
「大丈夫だ、病院は聞いたのか?」
「地元の総合病院だって……でも、行ける自信ない……それに、ごはんも」
「ごはんはどうだっていいんだよ! あー……でも、腹は減ってるか……、でもどうせ今食べられるような心境じゃないだろ」
「むりです……」
「それじゃ、持っていこう。地元群馬だよな? 病院まで車で連れていく」
「えっ……でも、遠いし……」
「いいから行くぞ。泊まる準備してるからそのまま行けるだろ。どうせ着くまで時間かかるから、飯は後で落ち着いたら食え」
「先輩……」
こちらを見上げた瞳も、その周りも、赤くなって水でぐしゅぐしゅで、転んで泣きじゃくった子どもみたいだ。
「ありがとうございます。ごめんなさい、いつも迷惑かけて……」
「別に迷惑じゃねぇよ」
ちょうどいい容器なんか持ってないから、元々使おうとしていた深めの皿をそのまま使うことにした。
自分用と伊月用に量を変えてご飯をよそい、レタスを敷いてタコスミートをかけ、上からダイス状に切ったトマトを散らした。
チーズもまぶすつもりだったが、食欲がないときには少しキツいかもしれないと考え、そのまま盛りつけを終えてラップをする。
いくつかとってあったスーパーの袋に一つを入れて、二つ重ねるために間に何を挟もうか迷い、キッチンを見回して目に付いたステンレスのバットを挟んで、その上にもう一つを重ねた。
スプーンをラップで包んで二つ入れて、準備完了。
俺も着替えや充電器などの必需品をバッグに詰めて、ソファで放心状態の伊月に声を掛け、部屋を出た。
今にも倒れそうな伊月の肩を支えながらエレベーターで下に降りる途中、以前伊月が言っていた「何かあったとき」とは、きっとこういうときなのだろうと考えた。
「あれ? お父さんからだ」
伊月の手の内から小さく聞こえるバイブ音。どうやら着信中らしい。
「珍しいな……。ちょっといいですか?」
「どうぞ」
そう返すと、伊月は画面をタップしてスマホを耳に当てた。
「はいはーい。……うん大丈夫、今友達の家に来てるけど」
炊飯器を開けると、炊き立ての匂いが水蒸気とともに立ち上る。
軽く全体を混ぜていたら、
「……え? え。嘘……」
途中から声のトーンが落ちたので、気になって目を向ける。
伊月の顔からは先ほどまでの明るさが消え失せ、深刻な様子で眉を寄せて、微動だにせず固まっていた。
「うん……うん、……うん。わかった。ありがとう……また何かわかったら……、うん、うん。……はい」
消え入りそうな声でどうにか言葉だけは返した後、電話を切って、そのまま立ち尽くす。
何かよくない知らせだったことは想像にかたくなかった。
「……どうした?」
「……弟が……、バイクで、事故ったって」
「は!?」
「意識がなくて、今、病院に……」
俺はいったん炊飯器を閉めて、シンクのほうに向き直った。
「行かなくていいのか?」
「わかんない……けど、こ……怖くて……」
そこまで言ったところで、伊月は急に泣き出した。
「おいおい……」
慌ててキッチンを出て側に行き、細い両肩を掴んで揺さぶった。
「しっかりしろよ、お前がそんなでどうすんだよ」
「だって……、瑞月に何かあったら……私……」
震える指で拭う以上に溢れてくる涙。
乱れる呼吸とともに喉元から漏れる泣き声を抑えきれない様子に、胸が痛む。
「大丈夫だ、病院は聞いたのか?」
「地元の総合病院だって……でも、行ける自信ない……それに、ごはんも」
「ごはんはどうだっていいんだよ! あー……でも、腹は減ってるか……、でもどうせ今食べられるような心境じゃないだろ」
「むりです……」
「それじゃ、持っていこう。地元群馬だよな? 病院まで車で連れていく」
「えっ……でも、遠いし……」
「いいから行くぞ。泊まる準備してるからそのまま行けるだろ。どうせ着くまで時間かかるから、飯は後で落ち着いたら食え」
「先輩……」
こちらを見上げた瞳も、その周りも、赤くなって水でぐしゅぐしゅで、転んで泣きじゃくった子どもみたいだ。
「ありがとうございます。ごめんなさい、いつも迷惑かけて……」
「別に迷惑じゃねぇよ」
ちょうどいい容器なんか持ってないから、元々使おうとしていた深めの皿をそのまま使うことにした。
自分用と伊月用に量を変えてご飯をよそい、レタスを敷いてタコスミートをかけ、上からダイス状に切ったトマトを散らした。
チーズもまぶすつもりだったが、食欲がないときには少しキツいかもしれないと考え、そのまま盛りつけを終えてラップをする。
いくつかとってあったスーパーの袋に一つを入れて、二つ重ねるために間に何を挟もうか迷い、キッチンを見回して目に付いたステンレスのバットを挟んで、その上にもう一つを重ねた。
スプーンをラップで包んで二つ入れて、準備完了。
俺も着替えや充電器などの必需品をバッグに詰めて、ソファで放心状態の伊月に声を掛け、部屋を出た。
今にも倒れそうな伊月の肩を支えながらエレベーターで下に降りる途中、以前伊月が言っていた「何かあったとき」とは、きっとこういうときなのだろうと考えた。
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