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第4章
2 抱えているもの④
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「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
窓を少し開けて、強く振動する胸元を押さえ、伊月に顔を見られないよう車道側を向きながら、できるだけゆっくり、深く呼吸しようと努める。
大丈夫、まだ大丈夫だ。思い出すな。
そう自分に言い聞かせるも、嫌な記憶は抑制を打ち破って頭をもたげようとする。
どう抜け出せばいい? 隣には伊月がいるのに。
何も考えるな。何も起きてない。落ちつけ。大丈夫だ。
「具合悪いんですか? 私が無理に呼んだから……」
「いや、違う。……心配するな」
不安そうに話し掛ける伊月の頭を視界の端に確認しながら、手探りで撫でる。
「……何か、障りました? 話題がよくなかった?」
「いや……、大丈夫だ」
そう言った俺の手を、伊月は頭から外し、そのまま両手でぎゅっと握った。
「先輩、こっち見てください」
伊月を不安がらせてはいけないと思い、平静を装って軽く視線を向けたら、思い詰めたように真剣にこっちを見つめるまっすぐな瞳と、そのすぐ下で強く握られた手が見えた。
「先輩。私は絶対に先輩を傷つけません。私が先輩の隣にいます。だから、大丈夫です」
そんな言葉を、伊月がなぜ発したのかわからなかったが――。
俺を受け止めようとする姿が、とても健気に見えて、そのことに安心したら、次第に鼓動は落ち着いていった。
「ああ、……大丈夫だ。ありがとう」
「ほんとですか?」
「うん、大丈夫そうだ」
伊月の表情がほっとしたように緩む。
握った手を下に下ろしながら、伊月はなおも心配そうにこちらを見つめている。
「手、もう離していいぞ。ジークスとの握手が薄れるだろ」
「それもそうですね」
ぱっと手を離す伊月。
「はや」
「何か飲み物買ってきましょうか? あそこにコンビニがあるから……」
「いや、いい。こんな時間に一人で歩くと危ない」
「でも……」
「もう落ち着いたから大丈夫だ。車、出すぞ」
伊月が体勢を戻したのを確認して、サイドブレーキを下ろし、再び車を発進させた。
くだらないことで迷惑を掛けてしまった。
――でも、伊月がいてくれたおかげで助かった。
「……悪いな、かっこ悪いところを見せて」
「先輩にかっこよさは求めてないので大丈夫です!」
「あっそ」
そのまま家に帰りついてから、眠る直前まで、伊月はどこか俺の様子を気にかけているようだったが、何が起こったのか、とは聞いてこなかった。
きっと伊月なりに察して、深入りしないでくれているのだろう。
そんなところまで、ありがたい存在だ。
「いや、なんでもない」
窓を少し開けて、強く振動する胸元を押さえ、伊月に顔を見られないよう車道側を向きながら、できるだけゆっくり、深く呼吸しようと努める。
大丈夫、まだ大丈夫だ。思い出すな。
そう自分に言い聞かせるも、嫌な記憶は抑制を打ち破って頭をもたげようとする。
どう抜け出せばいい? 隣には伊月がいるのに。
何も考えるな。何も起きてない。落ちつけ。大丈夫だ。
「具合悪いんですか? 私が無理に呼んだから……」
「いや、違う。……心配するな」
不安そうに話し掛ける伊月の頭を視界の端に確認しながら、手探りで撫でる。
「……何か、障りました? 話題がよくなかった?」
「いや……、大丈夫だ」
そう言った俺の手を、伊月は頭から外し、そのまま両手でぎゅっと握った。
「先輩、こっち見てください」
伊月を不安がらせてはいけないと思い、平静を装って軽く視線を向けたら、思い詰めたように真剣にこっちを見つめるまっすぐな瞳と、そのすぐ下で強く握られた手が見えた。
「先輩。私は絶対に先輩を傷つけません。私が先輩の隣にいます。だから、大丈夫です」
そんな言葉を、伊月がなぜ発したのかわからなかったが――。
俺を受け止めようとする姿が、とても健気に見えて、そのことに安心したら、次第に鼓動は落ち着いていった。
「ああ、……大丈夫だ。ありがとう」
「ほんとですか?」
「うん、大丈夫そうだ」
伊月の表情がほっとしたように緩む。
握った手を下に下ろしながら、伊月はなおも心配そうにこちらを見つめている。
「手、もう離していいぞ。ジークスとの握手が薄れるだろ」
「それもそうですね」
ぱっと手を離す伊月。
「はや」
「何か飲み物買ってきましょうか? あそこにコンビニがあるから……」
「いや、いい。こんな時間に一人で歩くと危ない」
「でも……」
「もう落ち着いたから大丈夫だ。車、出すぞ」
伊月が体勢を戻したのを確認して、サイドブレーキを下ろし、再び車を発進させた。
くだらないことで迷惑を掛けてしまった。
――でも、伊月がいてくれたおかげで助かった。
「……悪いな、かっこ悪いところを見せて」
「先輩にかっこよさは求めてないので大丈夫です!」
「あっそ」
そのまま家に帰りついてから、眠る直前まで、伊月はどこか俺の様子を気にかけているようだったが、何が起こったのか、とは聞いてこなかった。
きっと伊月なりに察して、深入りしないでくれているのだろう。
そんなところまで、ありがたい存在だ。
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