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第4章
1 握手会①
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はっきりいって、体に力が入りすぎてすでに腹筋を痛めてしまったと言っても過言ではない。
緊張に体をこわばらせながら、どうにかたどり着いた都内某所のイベント会場。
ネットで調べたら、音楽用ではない、おそらく展示会とかに使われるような普通のイベントホールで、収容人数は千五百人となっていた。
こんなところにひっそりZYXが来ようとは、知らなければ気づくはずもない。
特典ライブも握手会も初めてで、どんな感じになるのか全く予想できないけど、正直今はもう予想をするなんていう余裕すらないし、むしろ心臓が飛び出そうで考えたくない。
ZYXへのプレゼントを胸に強く抱きしめて、入り口の辺りで待ち合わせした瑞月を探してきょろきょろしていると、
「伊月!」
「あ」
先に私を見つけた瑞月が手を振りながらこっちに歩いてくるのを、無事に発見した。
「それプレゼント?」
「うん。ああ~、どうしよう、緊張する。脚震えるよ~」
「落ち着いて落ち着いて」
瑞月は私の肩をさする。
「瑞月がいてよかった。まだ気が紛れる」
「そうだろ、後でなんか奢って」
イベントは、握手会が先というスケジュールになっていた。
十四時から握手会。
十六時から一時間のミニライブ。
たしかに、先に握手を済ませられたほうが落ち着いてライブを観られるけど、先に彼らを遠目に見て心の準備をする時間を与えてくれないなんて、運営は強火ファンの緊張度合いを舐めている。
私たちはとりあえずロビーに入った。
握手会に当たったとおぼしき人たちが、もうたくさん集まっている。
「プレゼントボックスそこじゃね?」
「う、うん……」
瑞月が指した手前側の壁際を見ると、テーブルの上に四つのボックスが並べられていたので、そちらに移動した。
箱には各メンバーの名前が貼られていて、四つ目はZYX宛てになっていた。その箱の前に、息を呑んで立つ。
まだ握手会当選者しか来ていないからか、各ボックスには数えられるくらいずつしかプレゼントが入ってない。
もしかして今日のプレゼントって、通常のライブと違って一つ一つが印象に残りやすいんじゃ、と考えて、より一層緊張が膨らむ。
私が用意したのは、キャンバス画。
デジタルで描いた三人の絵を、印刷所でキャンバスに印刷してもらったものだ。
この絵がどう扱われても邪魔にならず埋もれないサイズを、と一生懸命考えて、大きさはF3号にした。だいたいA4サイズに近いくらいの大きさだ。
印刷所から送られてきた完成品に手紙を添えて、明るい色のラッピング袋できれいにラッピングして持ってきた。
これまでZYXのライブに参戦したことはあったけど、プレゼントは初めてだ。
これが彼らの手に渡ると思うと、手が震える。
でも、この後握手までするのにここで怖じ気づいている場合ではないと思い、
「どうかジークスに見てもらえますように!」
願掛けをしながら、えいっとボックスに入れた。
「はぁ、緊張したぁ」
「お前そんなんでこの後大丈夫なの?」
「大丈夫なわけないでしょ~! ジークスだよ? Zee様だよ?」
「ちゃんと伝えたいこと練習してきた?」
「もちろん! 十秒あれば伝えられるけど、五秒だったらどうかなぁ~。ああ~。握手会ってけっこう流れ作業だよね……」
「伝え終わるまで粘れ」
「ええ~、そんなに肝据わってないよぉぉ」
「据わってるだろ」
その時、スタッフの人が会場の扉から出てきて、拡声器を口元に当てた。
「まもなくZYXの握手会が始まります。握手会に当選された方はこちらにお並びください」
「よし、行ってこい!」
「う、うん……」
アナウンスに従って、呼ばれた場所に並んだ。
ちょうどすぐ近くにいたせいで、想定外に前になってしまい、数えてみたら五番目に並んでた。
早すぎない?? 心の準備できなくない?
そう思って、後ろに並び直そうかと振り返ると、もう何十人もずらっと並んでいたので、あれを待つのもイヤだと思い、その場に留まった。
ドキドキしながら十五分くらい待っていたら、スタッフが当選画面の確認を始めて、終わった人から扉の中に促されていく。
私も画面を確認してもらって、ジークスが待っているであろう扉の中に入った。
中は薄暗くて、ホールの一部を可動式間仕切りで仕切って作られた、横幅十メートルくらい、奥行きはけっこうあるフロアで、十メートルくらい先にパーテーションがあって、その向こうは明るくライトアップされているようだ。
その明かりがギリギリ届く端のほうに、スタッフが立っている。
あの中にジークスがいるんだ――。
脚が震えて、倒れそうなくらい鼓動が打つのを、「これは仕事……これから始まるのは大事なプレゼン……仕事……仕事……」と謎の呪文を唱えて落ち着ける。
パーテーションの三メートルくらい手前に一列に並んで待っていたら、いよいよ握手会が始まって、一人目が向こう側に入っていった。
その途端聞こえてきた小さな悲鳴と、ちるぴの声。
二人目……三人目と、列が進んでいく。人数が増えて少しずつ賑やかになっていく握手会ゾーン。
そして私の番が来て、スタッフに促されるままにパーテーションの向こう側に進んだ。
緊張に体をこわばらせながら、どうにかたどり着いた都内某所のイベント会場。
ネットで調べたら、音楽用ではない、おそらく展示会とかに使われるような普通のイベントホールで、収容人数は千五百人となっていた。
こんなところにひっそりZYXが来ようとは、知らなければ気づくはずもない。
特典ライブも握手会も初めてで、どんな感じになるのか全く予想できないけど、正直今はもう予想をするなんていう余裕すらないし、むしろ心臓が飛び出そうで考えたくない。
ZYXへのプレゼントを胸に強く抱きしめて、入り口の辺りで待ち合わせした瑞月を探してきょろきょろしていると、
「伊月!」
「あ」
先に私を見つけた瑞月が手を振りながらこっちに歩いてくるのを、無事に発見した。
「それプレゼント?」
「うん。ああ~、どうしよう、緊張する。脚震えるよ~」
「落ち着いて落ち着いて」
瑞月は私の肩をさする。
「瑞月がいてよかった。まだ気が紛れる」
「そうだろ、後でなんか奢って」
イベントは、握手会が先というスケジュールになっていた。
十四時から握手会。
十六時から一時間のミニライブ。
たしかに、先に握手を済ませられたほうが落ち着いてライブを観られるけど、先に彼らを遠目に見て心の準備をする時間を与えてくれないなんて、運営は強火ファンの緊張度合いを舐めている。
私たちはとりあえずロビーに入った。
握手会に当たったとおぼしき人たちが、もうたくさん集まっている。
「プレゼントボックスそこじゃね?」
「う、うん……」
瑞月が指した手前側の壁際を見ると、テーブルの上に四つのボックスが並べられていたので、そちらに移動した。
箱には各メンバーの名前が貼られていて、四つ目はZYX宛てになっていた。その箱の前に、息を呑んで立つ。
まだ握手会当選者しか来ていないからか、各ボックスには数えられるくらいずつしかプレゼントが入ってない。
もしかして今日のプレゼントって、通常のライブと違って一つ一つが印象に残りやすいんじゃ、と考えて、より一層緊張が膨らむ。
私が用意したのは、キャンバス画。
デジタルで描いた三人の絵を、印刷所でキャンバスに印刷してもらったものだ。
この絵がどう扱われても邪魔にならず埋もれないサイズを、と一生懸命考えて、大きさはF3号にした。だいたいA4サイズに近いくらいの大きさだ。
印刷所から送られてきた完成品に手紙を添えて、明るい色のラッピング袋できれいにラッピングして持ってきた。
これまでZYXのライブに参戦したことはあったけど、プレゼントは初めてだ。
これが彼らの手に渡ると思うと、手が震える。
でも、この後握手までするのにここで怖じ気づいている場合ではないと思い、
「どうかジークスに見てもらえますように!」
願掛けをしながら、えいっとボックスに入れた。
「はぁ、緊張したぁ」
「お前そんなんでこの後大丈夫なの?」
「大丈夫なわけないでしょ~! ジークスだよ? Zee様だよ?」
「ちゃんと伝えたいこと練習してきた?」
「もちろん! 十秒あれば伝えられるけど、五秒だったらどうかなぁ~。ああ~。握手会ってけっこう流れ作業だよね……」
「伝え終わるまで粘れ」
「ええ~、そんなに肝据わってないよぉぉ」
「据わってるだろ」
その時、スタッフの人が会場の扉から出てきて、拡声器を口元に当てた。
「まもなくZYXの握手会が始まります。握手会に当選された方はこちらにお並びください」
「よし、行ってこい!」
「う、うん……」
アナウンスに従って、呼ばれた場所に並んだ。
ちょうどすぐ近くにいたせいで、想定外に前になってしまい、数えてみたら五番目に並んでた。
早すぎない?? 心の準備できなくない?
そう思って、後ろに並び直そうかと振り返ると、もう何十人もずらっと並んでいたので、あれを待つのもイヤだと思い、その場に留まった。
ドキドキしながら十五分くらい待っていたら、スタッフが当選画面の確認を始めて、終わった人から扉の中に促されていく。
私も画面を確認してもらって、ジークスが待っているであろう扉の中に入った。
中は薄暗くて、ホールの一部を可動式間仕切りで仕切って作られた、横幅十メートルくらい、奥行きはけっこうあるフロアで、十メートルくらい先にパーテーションがあって、その向こうは明るくライトアップされているようだ。
その明かりがギリギリ届く端のほうに、スタッフが立っている。
あの中にジークスがいるんだ――。
脚が震えて、倒れそうなくらい鼓動が打つのを、「これは仕事……これから始まるのは大事なプレゼン……仕事……仕事……」と謎の呪文を唱えて落ち着ける。
パーテーションの三メートルくらい手前に一列に並んで待っていたら、いよいよ握手会が始まって、一人目が向こう側に入っていった。
その途端聞こえてきた小さな悲鳴と、ちるぴの声。
二人目……三人目と、列が進んでいく。人数が増えて少しずつ賑やかになっていく握手会ゾーン。
そして私の番が来て、スタッフに促されるままにパーテーションの向こう側に進んだ。
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