プラトニック添い寝フレンド

天野アンジェラ

文字の大きさ
上 下
20 / 59
第2章

2 親友英司③

しおりを挟む
「大宮さん」
 翌日の朝、商品開発部のコーヒーメーカーにコーヒーをもらいに行くと、企画担当の西山課長に声を掛けられた。

「おはようございます」
「おはようございます。朝からすみません、ちょうど大宮さんに話をしたかったから」
「いえ、いいですよ。どうしました?」
「今度エコアイテムの新ブランドを立ち上げるんですけど……」
 西山課長は俺よりもいくつか年上だが、目下の者に対しても丁寧語で話してくれる。
 スーツの着こなしがなぜだか周りよりも品よく見えるのは、朝から爽やかさのある笑顔のせいか、柔らかな人当たりのせいか。
「ああ、室長から聞いてます」
「あ、ほんとですか? デザイナー、大宮さんと鈴鹿さんでどうかなって思っていて」
「鈴鹿とですか?」
「オフィス向けのスタイリッシュなものと、学生向けの華やかなものと、二種類作りたいんですよね。四月くらいから打合せに入ってもらいたいから、それまでに仕事を調整しといてくれたら助かるんですけど……」
「はぁ、わかりました。大丈夫です」
「じゃ、室長から正式に下ろしてもらいますね」
「はい」
 伊月とペアの案件か。久しぶりだな。
 デザイン室には、上は五十代から下は二十代まで、十人くらいのデザイナーがいる。
 その中で案件ごとに相性がよさそうな人に割り振るわけだが、新しいものを作り出すよりも、今あるものの改良やデザイン変更のほうが得意なデザイナーも意外と多い。
 必然的に、新商品の場合は数人の中から選ばれることになるが、今回は俺と伊月がコンセプトに合っていると判断されたのだろう。

 コーヒーを持ってデザイン室に戻り、デスクでメールチェックをしている後ろ姿の伊月に話し掛ける。
「伊月」
「はーい」
 PCのキーボードに片手を置いたまま、伊月がぐるりとこちらを振り返った。
「今西山課長に声掛けられて、今度のエコアイテムのブランド、俺とお前だってよ」
「えっ、まじですか。やっった!」
 伊月は体ごとこちらへ向き直した。
 その嬉しそうな顔を見て、今回は順調に進みそうだな、と安心する。

「四月かららしいから、他に渡せる案件は渡して」
「三月中に終わるものもあるので大丈夫だと思います」
「あそ、じゃ問題ないな」
 自分の席に戻ろうと、そのまま歩き始めたら、それに合わせて伊月はくるっと椅子の向きを変え、
「先輩」
 と通り過ぎた俺を呼んだ。
 肩越しにそちらを見下ろすと、
「一緒にできるの楽しみですね。よろしくお願いします!」
 と笑顔の伊月。

 わざわざ呼び止め直して言うことなのかわからなかったが――。
「はいはい」
 俺を慕う伊月の気持ちが見て取れて、悪い気はしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ココログラフィティ

御厨 匙
BL
【完結】難関高に合格した佐伯(さえき)は、荻原(おぎわら)に出会う。荻原の顔にはアザがあった。誰も寄せつけようとしない荻原のことが、佐伯は気になって仕方なく……? 平成青春グラフィティ。 (※なお表紙画はChatGPTです🤖)

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

ゼンタイリスト! 全身タイツなひとびと

ジャン・幸田
ライト文芸
ある日、繁華街に影人間に遭遇した! それに興味を持った好奇心旺盛な大学生・誠弥が出会ったのはゼンタイ好きの連中だった。 それを興味本位と学術的な興味で追っかけた彼は驚異の世界に遭遇する! なんとかして彼ら彼女らの心情を理解しようとして、振り回される事になった誠弥は文章を纏められることができるのだろうか?  

処理中です...