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第2章
2 親友英司③
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「大宮さん」
翌日の朝、商品開発部のコーヒーメーカーにコーヒーをもらいに行くと、企画担当の西山課長に声を掛けられた。
「おはようございます」
「おはようございます。朝からすみません、ちょうど大宮さんに話をしたかったから」
「いえ、いいですよ。どうしました?」
「今度エコアイテムの新ブランドを立ち上げるんですけど……」
西山課長は俺よりもいくつか年上だが、目下の者に対しても丁寧語で話してくれる。
スーツの着こなしがなぜだか周りよりも品よく見えるのは、朝から爽やかさのある笑顔のせいか、柔らかな人当たりのせいか。
「ああ、室長から聞いてます」
「あ、ほんとですか? デザイナー、大宮さんと鈴鹿さんでどうかなって思っていて」
「鈴鹿とですか?」
「オフィス向けのスタイリッシュなものと、学生向けの華やかなものと、二種類作りたいんですよね。四月くらいから打合せに入ってもらいたいから、それまでに仕事を調整しといてくれたら助かるんですけど……」
「はぁ、わかりました。大丈夫です」
「じゃ、室長から正式に下ろしてもらいますね」
「はい」
伊月とペアの案件か。久しぶりだな。
デザイン室には、上は五十代から下は二十代まで、十人くらいのデザイナーがいる。
その中で案件ごとに相性がよさそうな人に割り振るわけだが、新しいものを作り出すよりも、今あるものの改良やデザイン変更のほうが得意なデザイナーも意外と多い。
必然的に、新商品の場合は数人の中から選ばれることになるが、今回は俺と伊月がコンセプトに合っていると判断されたのだろう。
コーヒーを持ってデザイン室に戻り、デスクでメールチェックをしている後ろ姿の伊月に話し掛ける。
「伊月」
「はーい」
PCのキーボードに片手を置いたまま、伊月がぐるりとこちらを振り返った。
「今西山課長に声掛けられて、今度のエコアイテムのブランド、俺とお前だってよ」
「えっ、まじですか。やっった!」
伊月は体ごとこちらへ向き直した。
その嬉しそうな顔を見て、今回は順調に進みそうだな、と安心する。
「四月かららしいから、他に渡せる案件は渡して」
「三月中に終わるものもあるので大丈夫だと思います」
「あそ、じゃ問題ないな」
自分の席に戻ろうと、そのまま歩き始めたら、それに合わせて伊月はくるっと椅子の向きを変え、
「先輩」
と通り過ぎた俺を呼んだ。
肩越しにそちらを見下ろすと、
「一緒にできるの楽しみですね。よろしくお願いします!」
と笑顔の伊月。
わざわざ呼び止め直して言うことなのかわからなかったが――。
「はいはい」
俺を慕う伊月の気持ちが見て取れて、悪い気はしなかった。
翌日の朝、商品開発部のコーヒーメーカーにコーヒーをもらいに行くと、企画担当の西山課長に声を掛けられた。
「おはようございます」
「おはようございます。朝からすみません、ちょうど大宮さんに話をしたかったから」
「いえ、いいですよ。どうしました?」
「今度エコアイテムの新ブランドを立ち上げるんですけど……」
西山課長は俺よりもいくつか年上だが、目下の者に対しても丁寧語で話してくれる。
スーツの着こなしがなぜだか周りよりも品よく見えるのは、朝から爽やかさのある笑顔のせいか、柔らかな人当たりのせいか。
「ああ、室長から聞いてます」
「あ、ほんとですか? デザイナー、大宮さんと鈴鹿さんでどうかなって思っていて」
「鈴鹿とですか?」
「オフィス向けのスタイリッシュなものと、学生向けの華やかなものと、二種類作りたいんですよね。四月くらいから打合せに入ってもらいたいから、それまでに仕事を調整しといてくれたら助かるんですけど……」
「はぁ、わかりました。大丈夫です」
「じゃ、室長から正式に下ろしてもらいますね」
「はい」
伊月とペアの案件か。久しぶりだな。
デザイン室には、上は五十代から下は二十代まで、十人くらいのデザイナーがいる。
その中で案件ごとに相性がよさそうな人に割り振るわけだが、新しいものを作り出すよりも、今あるものの改良やデザイン変更のほうが得意なデザイナーも意外と多い。
必然的に、新商品の場合は数人の中から選ばれることになるが、今回は俺と伊月がコンセプトに合っていると判断されたのだろう。
コーヒーを持ってデザイン室に戻り、デスクでメールチェックをしている後ろ姿の伊月に話し掛ける。
「伊月」
「はーい」
PCのキーボードに片手を置いたまま、伊月がぐるりとこちらを振り返った。
「今西山課長に声掛けられて、今度のエコアイテムのブランド、俺とお前だってよ」
「えっ、まじですか。やっった!」
伊月は体ごとこちらへ向き直した。
その嬉しそうな顔を見て、今回は順調に進みそうだな、と安心する。
「四月かららしいから、他に渡せる案件は渡して」
「三月中に終わるものもあるので大丈夫だと思います」
「あそ、じゃ問題ないな」
自分の席に戻ろうと、そのまま歩き始めたら、それに合わせて伊月はくるっと椅子の向きを変え、
「先輩」
と通り過ぎた俺を呼んだ。
肩越しにそちらを見下ろすと、
「一緒にできるの楽しみですね。よろしくお願いします!」
と笑顔の伊月。
わざわざ呼び止め直して言うことなのかわからなかったが――。
「はいはい」
俺を慕う伊月の気持ちが見て取れて、悪い気はしなかった。
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