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第2章

2 親友英司②

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「そういう感じじゃないってなんだよ」
「なんだろうな……。向こうに全くその気がないから、こっちも警戒しなくていいっていうか……」
「まさか相手既婚とか?」
「いやいや、全くの未婚」
「じゃ彼氏持ち?」
「なし」
「それで何もなし?」
「なし」
「何、出会い系とかでそういう条件で知り合った感じ?」
「いや、職場の後輩」
「近っ! じゃあお互いによく知ってて? それでその子お前に魅力感じてないの?」
「あー、そいつ若いアイドルが好きだから、俺は好みと真逆なんじゃねぇかな。てか、つき合い長くてもうそういう対象じゃねぇし」
「お互いに?」
「お互いに」
「もしかして、相手よっぽどその……」
「なんとなく言わんとしていることは察するが、たぶん真逆」
「かわいいの?」
「どちらかというと美人」
「は~? なんだそれ、うらやま!!」

 たしかに、客観的にはそうだよな、と思いながら、ハラミの串を口に運ぶ。
 ジューシーで柔らかい食感。シンプルな塩だけの味付けが、豚肉の甘みを引き立たせていてうまい。

「もう何度も寝てんの?」
「あー、そうだな、わりと。この二ヵ月で……十回くらいは」
「けっこうな頻度だな。めっちゃ気に入られてんじゃん。てかお前、こう……ちょっと触ってみようとかそういうのは、やっぱりないの?」
「触る……。ある意味触ってるな」
「どういうことだよ!」
「いや、単に抱き寄せる感じで寝てるだけ……」
「は!?」
「期待させてすまん」
「いや期待超えてきてんの!」
 そういや、最初は遠慮がちに腕枕する感じだったけど、途中からべったりくっついて寝るようになったな。
 伊月がくっつきたがるから、わかったわかったって言ってるうちにそれが当たり前になってしまった。
 というか、なぜかほぼ毎回、抱き合ってるかどちらかが相手に抱きついてる状態で目覚めるせいで、慣れたのもある。

「うらやま……、独身の特権か。くぅっ」
 英司は悔しそうにカウンターに拳を落とす。
「お前だって奥さんと寝てるんだろ」
「寝室は同じだけどベッドは別で、添い寝はない」
「あっそ。じゃ、添い寝してもらえよ」
「そういう問題じゃない! で、お前は美女を抱きしめて寝てて好きになってねぇの? どんなポンコツメンタルだよ」
「いや、好きは好きだよ。正直外見は普通に好みだと思うし、中身もつき合いやすい人間だし……。それでも恋愛感情にならないのは、やっぱりトラウマがストッパーになってるのか……」

 トリガーになるようなことが起こらない限り、普段は昔のことなどもう思い出すことはないし、気にしてもいない。
 自分を客観視したら、伊月に恋愛感情や性的欲求を抱くのが普通のようにも思えている。
 それが、どこかでロックがかかったように先に進まないのは、心の奥底で恐れているのか、それともあまりにもその気がない伊月を前に無駄な挑戦はやめようという心理が働くのか、あるいはシンプルに伊月が恋愛対象外なのか、今のところはまだわからない。
 そもそも恋愛がどういうものだったか思い出せないし、突き詰めていくと、はたして俺は人生で恋愛といえるほどの気持ちになったことがあるのだろうか、と、結婚までしておきながらあるまじき考えに行き着いてしまう。

「相手もなんかあるの? トラウマてきな」
「いやー、そんな深刻なものは無さそうだけど。ただ、恋愛じゃない、何か違うものを求めてるぽい」
「ふーん……」
 わかったのかわからないのか、頬杖をついてビールジョッキを傾けながら、英司はしばらく考え込んだ。
「……でも、ソフレって意外とちょうどいいのかもな。お前結婚でキツい思いしたし、好みの美女がトラウマを刺激せず一緒に寝てくれるなんて、神様からのご褒美じゃね」
「だといいけどな……」

 正直今はまだ、どこかのタイミングで変わってしまったらどうしようか、という気持ちも無くはない。
 お互いにそのままでいられるのか、均衡が破られる時が来るのか、だとしたらどちらからなのか。
 その後の俺たちはどうなるのか――。
 まあ、考えても仕方ないか。
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