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2章
46話 鈴の音の波動
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次の日から早速修行が始まった。アリーシャとの修行は短期間で結果を出すためとはいえ、かなりハードスケジュールだった
「あなたはまず魔導の天啓を理解し、本質を使いこなす必要があります。そのために魔力とは何なのかまず説明していきますね」
「お、おう」
「魔力を上手く操るためには常に冷静な考えを持つこと、それと威力を出すには放つ際の感情の爆発力が必要です。あなたは感情の爆発に関しては全く問題無いので、冷静な頭脳を保つところから始めましょう」
なんだ…なんか遠回しにめちゃくちゃディスられた気がしたぞ
「冷静な頭脳とは豊富な知識と感受性を豊かにする必要があります。しかしあなたには時間が足りないため、特別に私の知識を授けることにします。」
「え?アリーシャの知識を?」
「はい。座って坐禅を組んでください。額を合わせることで私の知識をあなたに伝達します。情報量が人間の脳みそでは処理しきれないので魔力で上手く整理してください。でなければ脳の情報処理機能に支障をきたして生きたまま植物のようになってしまいますよ」
「は!?ちょ、何サラッとやばいこと言ってんだよ!」
「大丈夫です。あなたは純粋で感情が豊かですから、処理しなきゃ!って考えればなんとでもなりますよ」
「そ、そうなのか…?わ、分かった!とりあえずやってみる!」
アリーシャに坐禅のやり方を教えてもらいゆっくりと目を閉じる。少し待っているとアリーシャの気配…?気の流れのようなものが前かがみになってきたのを感じた
合わせて顔を前に出すと額が触れるのを感じた。
「…!!」
額が触れたその瞬間、脳みそがギューっと絞まる感覚に陥った
「あっ…!やば…」
「集中して」
ギューっと締め付けられる感覚がもう限界!という所までいくと、次の瞬間すっと収まった。だがほっとするのも束の間、次は頭蓋骨を壊すんじゃないかというレベルで膨張するような感覚に陥る。その次はまた締め付け、そしてまた膨張して…その繰り返しが激しく行われ、それと同時に記憶やこれまでの考え、生き方、何が現実で何が夢、はたまた記憶なのかが曖昧になる
…途中から何が起きていたのか分からなかった。あまりの痛みやカオスになる脳に抗ううちに気を失ってしまっていたのだ。
目を覚ますとアリーシャの膝の上だった
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
「…終わったのか?負けねぇってずっと思ってたけど、途中から意識を失っていたのか」
「エルフは人間に比べて長寿です。それに私は女王直属の魔術師ですから一般のエルフに比べても膨大な知識を持っています。それを受け止めるとは、あなたの脳はもう人間を遥かに凌駕していますよ」
「…なんか、不思議な気分だ。記憶や言葉使い、これまでの私が変わる訳じゃないが、話を聞いているだけで次に自分が話したいこと、気になることが明確に脳内に湧き上がってくるんだ」
「…ふふ、心なしか語彙力も上がったように感じますね」
「…とりあえずこれで私は魔力を操ることが出来るようになったんだな!」
「いえ、そんなことはありませんよ。知識はあっても冷静な頭脳がまだ出来ていませんから」
「えぇ!?そんなのどうすればいいんだよ?」
アリーシャはニヤニヤしながらこちらを見ている。気味が悪いぞ
「あなたの知識ならもう答えが分かるのでは?」
「え、うーん…あぁ、なるほど性格を直せばいいのか」
「そうです。ちゃんとインプットされてて良かったです」
「ただ、自身で性格を矯正するのはほぼ不可能に近いため、性格を持つ魔力を自身に流して感情を制御する…と。」
「その通りです。では2週間あるので10日でそれを習得しましょう」
「10日か…意外といけそうか?」
「そうですね、まず人間より魔力センスのいいエルフのさらに秀でた人だとして、約5年かかりますかね」
「…は!?」
「ふふ、大丈夫です。私がついてますし、何よりあなたは一般エルフではなく、魔導の天啓なのですから」
「はぁ…全くその魔導の天啓ってのはなんなんだ…なんで私がなっちまったんだよ」
「天啓は、その人の潜在的な意識から派生して発現するんです。ただ、その人と強く結び付きが強い考えや想いが天啓として現れるケースは稀で、大体はふと知識にあった程度の言語や物体の天啓になるものが多いです。そしてそのバランスは世界を司る7人の調停者によって保たれています。なので被ることが少なく唯一無二なことが多いんですよね。似たものは多数存在しますけど」
「…それは分かるよ。今の私にはアリーシャの知識があるんだから」
「そうでしたね、じゃあ分かっているのでは無いですか?」
「…発現が遅れた者の中でごく稀に、強い思いが爆発して天啓と成る。か」
「はい。その場合通常の天啓を遥かに凌駕した強さを発揮すると言われています。そしてあなたは過去に…」
「母からの過度な虐待を受けて、心の底から叫んでいた。人は何故皆平等では無いのか、私意外の生物全てを憎んでやる…」
「でもその渦巻いた想いが孤児院で虐められるまでの2年間で少し変わっていた。大人になったら私がこの世の人間を支配してやる。私に逆らうものは全て排除する。と」
「あんた、私の記憶を…」
「ちょっとだけ、覗いちゃいました。すみません。でも、それが爆発した時に強い支配力と破壊力、そして支配という言葉は導くという意味になり、人間は概念として魔力を持つ生命体に変換された。」
「…それで魔導…か」
「その力は使い方によってこの世を破滅にも導くし、平和にも導く。それを選ぶのはあなたです。ただ…」
「あなたはきっと正しい使い方をする。か?」
「…はい。」
「ふん、なんで私をそこまで信用できるのか意味が分からねぇよ」
「あなたほどの過去を持ちながら生きることに絶望せず前に向かっている強い方は見たことがないので、安心して信頼してますよ」
「……」
少し恥ずかしくなったのでアリーシャの膝から起き上がる
「早く精霊まといの修行をするぞ」
「はい!」
それから修行の日々はアリーシャの言う通り10日目でいい所まで進むことが出来た
「ふぅ…今日こそはやる。」
「頑張ってください!」
やり方はまた坐禅を組み目を閉じるところから始まる
まず大気中を漂う魔力を感じる。強く感じ始めたらその場その場で表情の違う魔力を選び穏やかで礼節のある魔力を自身の中に取り込む
取り込むだけでは自身の魔力になるだけなのだが、今回は自分自身の性格その魔力を宿すため、体内を循環、逃げないようにしっかりと固定する
そして最後…1番の難関!
定着させた魔力と精神世界で会話し10時間保つのだ。1度仲良くなればこの世に存在する同カテゴリーの魔力は今後ノータイムで体内に吸収と定着をさせることが出来る
~10時間後~
「…はっ!」
目を覚ますとアリーシャが近くで本を読んでいた
「あら?もう目を覚ましたのですね。えっと…、あら!10時間!経ってるじゃないですか!成功ですよ!成功!」
「ほ、本当ですか?…良かったです!」
「はい!凄い凄い!ちゃんと定着してますよ!どうですか?気分は」
「なんでしょうか…変な感覚ですね」
本当に変な感覚だ…でも、無理矢理矯正されてるとか、自分じゃないとかそんなことは無い。紛れもなく自分で考えも思った通りのことを話せてる。その上でアリーシャの知識からこの場での言葉選び等が完璧に出来るようになっている
「昨日は9時間28分でダメでしたけど…32分の違いでこんなに変わるものなんですね」
「そうですね!…ではいよいよ明日から魔力の使い方を教えます!」
「よろしくお願いします!」
その日の夜から突然変わった私を見てマリーラはあまりの衝撃から気持ち悪そうな目で見られた
ーそして迎えた、マリーラ再発の日
「マリーラさん。私のリバースコンディションはもう使えないので、今日はあなたのパートナーにお願いします。もちろん私もお手伝いはしますが、信頼してあげてくださいね」
「はい…アリーシャ様。私は信じてるのです。ずっと頑張ってた毎日を見てきたから…う゛っ!!」
「マリーラ!!」
マリーラの体の周りに現れた黒いモヤがまたマリーラを強く締め付ける
それは確実に、以前より濃く激しく、そして強くなっていた
「あぁ、ぐっ…がぁぁぁああ!!!!」
「マリーラさん!呼吸をしっかり!」
マリーラに必死に呼びかけるアリーシャ。
私はあまりにも苦しむマリーラを目の前にして突然、救えなかったらどうしようという恐怖が出てきてしまった
怖い、体が動かない!どうすれば…
しかしそんな感情はすぐに吹き飛んだ
「た…すけて…」
誰よりも苦しむマリーラが私の手を握り目を見たのだ
そこから先は無我夢中だった
「マリーラ!マリーラ!」
巨大な魔法陣をマリーラの全身を包むように展開し魔力伝達力を上げると、また魔法陣を介して光に包まれた腕で黒いモヤを力強く握りしめる
「ぐっ、あぁあ!」
黒いモヤは取れるどころか私の腕にまで伸び始めてくる
「負けません…!私はマリーラを絶対に救います!」
その瞬間、黒いモヤを伝ってマリーラの過去の記憶が脳内に流れ込んできた
今よりもさらに幼いマリーラ。3歳くらいからだろうか?回想のように流れる記憶はアリーシャに拾われるまでの数年間を見せたが、それはまるで昔の私を見ているようだった
親からの虐待、エルフ間でのいじめ、その後もエルフとしてまともな生活を送ることも許されず。…奴隷として人間界に運ばれまだ幼い歳にして純潔を失ったマリーラは飽きたからと道端に捨てられ醜い人間の苗床として扱われていた
もういっそ死んだ方が楽だ。そう思いある時橋から飛び降りようとしたマリーラを助けたのがアリーシャだったのだ
その後救われたと思われたマリーラだったが体内に吸収された多くの醜い人間の魔力が私怨や憎悪、負の感情の呪いとなって体に現れ始めたのが事の発端だった
「許せない…許せないよ…!マリーラ!」
こんな呪いに負けたらダメだ!私とはまた違うけど、その感情は分かる
「こんな呪いに負けたらダメです!マリーラ!」
モヤを掴む手に力が入る。下に展開した魔法陣を強化しさらにマリーラの痛覚緩和の魔法陣、そして私自身のバフをかける魔法陣、そして精神汚染を止める魔法陣を3つ展開し決着をつけようと体勢を整える
「はぁぁぁあ!!」
全身に力を込めて両手に魔力を集中させる
「今です!私が教えた魔力爆発でマリーラを救ってください!」
魔力爆発とは、魔法を扱うものが冷静な頭脳を持ちながら強い破壊力を誇る魔法を放つ上で必要不可欠な技術だ。感情を露わにすることで体内の魔力を通常の5倍以上に膨らませ放つその技術は、素の感情の私自身を表に出すことで安定した爆発力を発揮する
「この…クソッタレがぁぁぁあ!!!!」
引き出された素の感情は全ての魔法陣を共鳴させ私自身の魔力を膨大なまでに強化する。ブチブチブチと激しい音と共にマリーラの体から引き剥がされた黒いモヤは私の魔力に触れたことで完全に消滅した
「はっ、はっ、はっ…はぁ…やったか?」
「やりましたよ!凄い凄い!ほんとにマリーラを救えるなんて!すごいです!」
アリーシャは私を後ろからギュッと強く抱きしめた
「あはは…やめろよアリーシャ、疲れてるんだ」
「あれ?口調が戻ってますね」
「あはは…多分魔力爆発でそれごと持ってかれたかも…」
「ふふふ、それをキープしながらやる余裕はまだありませんでしたね。今後は修行を重ねながらそこも改善していきましょう」
「あぁ…そうだな」
それから少しマリーラの様子を見ていると、5分ほどでマリーラはゆっくりと目を覚ました
「マリーラ!」
「…鈴の音が…魔力の波動になって私を飲み込んでくれた…その瞬間楽になりました」
「…?どういうことだ?」
マリーラは私の手を握り目を見るとゆっくりと微笑んだ
「あなたの想いが、魔力を通して私に伝わったのです…。鈴の音の波動…あなたの名前は…スズハ」
マリーラのその目は最初に会った時の事など忘れたかのように温かく、そしてつけられた私の名は、まだ幼い少女が考えたとは思えないほど、優しく、力強い名前だった
「スズハ…それが私の名前…?」
「はい。スズハさん…ありがとうございます。この約1ヶ月間で気づいたことがあったのです。スズハさんは表情や喋る事はおっかなかったけど、私を見る目はいつも大切な人を見守るかのような目でした。自覚は無いかもですけど…。それを上手く活かした名前にしようと思ってたのですが、時間がかかってすみません。でも、やっと言葉に出来ました。さっき感じた強い波動は今でも私の中に宿っています。」
「マリーラ…」
「これから改めて、よろしくお願いしますね!スズハさん!」
そうしてその後数年間に渡り魔導の天啓としての修行をこなした私はついにエルフの国を出て日本に帰ることが出来た。アカネやマホロと出会い探索者として世界中で名を馳せる事になったのは、また別の話
「あなたはまず魔導の天啓を理解し、本質を使いこなす必要があります。そのために魔力とは何なのかまず説明していきますね」
「お、おう」
「魔力を上手く操るためには常に冷静な考えを持つこと、それと威力を出すには放つ際の感情の爆発力が必要です。あなたは感情の爆発に関しては全く問題無いので、冷静な頭脳を保つところから始めましょう」
なんだ…なんか遠回しにめちゃくちゃディスられた気がしたぞ
「冷静な頭脳とは豊富な知識と感受性を豊かにする必要があります。しかしあなたには時間が足りないため、特別に私の知識を授けることにします。」
「え?アリーシャの知識を?」
「はい。座って坐禅を組んでください。額を合わせることで私の知識をあなたに伝達します。情報量が人間の脳みそでは処理しきれないので魔力で上手く整理してください。でなければ脳の情報処理機能に支障をきたして生きたまま植物のようになってしまいますよ」
「は!?ちょ、何サラッとやばいこと言ってんだよ!」
「大丈夫です。あなたは純粋で感情が豊かですから、処理しなきゃ!って考えればなんとでもなりますよ」
「そ、そうなのか…?わ、分かった!とりあえずやってみる!」
アリーシャに坐禅のやり方を教えてもらいゆっくりと目を閉じる。少し待っているとアリーシャの気配…?気の流れのようなものが前かがみになってきたのを感じた
合わせて顔を前に出すと額が触れるのを感じた。
「…!!」
額が触れたその瞬間、脳みそがギューっと絞まる感覚に陥った
「あっ…!やば…」
「集中して」
ギューっと締め付けられる感覚がもう限界!という所までいくと、次の瞬間すっと収まった。だがほっとするのも束の間、次は頭蓋骨を壊すんじゃないかというレベルで膨張するような感覚に陥る。その次はまた締め付け、そしてまた膨張して…その繰り返しが激しく行われ、それと同時に記憶やこれまでの考え、生き方、何が現実で何が夢、はたまた記憶なのかが曖昧になる
…途中から何が起きていたのか分からなかった。あまりの痛みやカオスになる脳に抗ううちに気を失ってしまっていたのだ。
目を覚ますとアリーシャの膝の上だった
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
「…終わったのか?負けねぇってずっと思ってたけど、途中から意識を失っていたのか」
「エルフは人間に比べて長寿です。それに私は女王直属の魔術師ですから一般のエルフに比べても膨大な知識を持っています。それを受け止めるとは、あなたの脳はもう人間を遥かに凌駕していますよ」
「…なんか、不思議な気分だ。記憶や言葉使い、これまでの私が変わる訳じゃないが、話を聞いているだけで次に自分が話したいこと、気になることが明確に脳内に湧き上がってくるんだ」
「…ふふ、心なしか語彙力も上がったように感じますね」
「…とりあえずこれで私は魔力を操ることが出来るようになったんだな!」
「いえ、そんなことはありませんよ。知識はあっても冷静な頭脳がまだ出来ていませんから」
「えぇ!?そんなのどうすればいいんだよ?」
アリーシャはニヤニヤしながらこちらを見ている。気味が悪いぞ
「あなたの知識ならもう答えが分かるのでは?」
「え、うーん…あぁ、なるほど性格を直せばいいのか」
「そうです。ちゃんとインプットされてて良かったです」
「ただ、自身で性格を矯正するのはほぼ不可能に近いため、性格を持つ魔力を自身に流して感情を制御する…と。」
「その通りです。では2週間あるので10日でそれを習得しましょう」
「10日か…意外といけそうか?」
「そうですね、まず人間より魔力センスのいいエルフのさらに秀でた人だとして、約5年かかりますかね」
「…は!?」
「ふふ、大丈夫です。私がついてますし、何よりあなたは一般エルフではなく、魔導の天啓なのですから」
「はぁ…全くその魔導の天啓ってのはなんなんだ…なんで私がなっちまったんだよ」
「天啓は、その人の潜在的な意識から派生して発現するんです。ただ、その人と強く結び付きが強い考えや想いが天啓として現れるケースは稀で、大体はふと知識にあった程度の言語や物体の天啓になるものが多いです。そしてそのバランスは世界を司る7人の調停者によって保たれています。なので被ることが少なく唯一無二なことが多いんですよね。似たものは多数存在しますけど」
「…それは分かるよ。今の私にはアリーシャの知識があるんだから」
「そうでしたね、じゃあ分かっているのでは無いですか?」
「…発現が遅れた者の中でごく稀に、強い思いが爆発して天啓と成る。か」
「はい。その場合通常の天啓を遥かに凌駕した強さを発揮すると言われています。そしてあなたは過去に…」
「母からの過度な虐待を受けて、心の底から叫んでいた。人は何故皆平等では無いのか、私意外の生物全てを憎んでやる…」
「でもその渦巻いた想いが孤児院で虐められるまでの2年間で少し変わっていた。大人になったら私がこの世の人間を支配してやる。私に逆らうものは全て排除する。と」
「あんた、私の記憶を…」
「ちょっとだけ、覗いちゃいました。すみません。でも、それが爆発した時に強い支配力と破壊力、そして支配という言葉は導くという意味になり、人間は概念として魔力を持つ生命体に変換された。」
「…それで魔導…か」
「その力は使い方によってこの世を破滅にも導くし、平和にも導く。それを選ぶのはあなたです。ただ…」
「あなたはきっと正しい使い方をする。か?」
「…はい。」
「ふん、なんで私をそこまで信用できるのか意味が分からねぇよ」
「あなたほどの過去を持ちながら生きることに絶望せず前に向かっている強い方は見たことがないので、安心して信頼してますよ」
「……」
少し恥ずかしくなったのでアリーシャの膝から起き上がる
「早く精霊まといの修行をするぞ」
「はい!」
それから修行の日々はアリーシャの言う通り10日目でいい所まで進むことが出来た
「ふぅ…今日こそはやる。」
「頑張ってください!」
やり方はまた坐禅を組み目を閉じるところから始まる
まず大気中を漂う魔力を感じる。強く感じ始めたらその場その場で表情の違う魔力を選び穏やかで礼節のある魔力を自身の中に取り込む
取り込むだけでは自身の魔力になるだけなのだが、今回は自分自身の性格その魔力を宿すため、体内を循環、逃げないようにしっかりと固定する
そして最後…1番の難関!
定着させた魔力と精神世界で会話し10時間保つのだ。1度仲良くなればこの世に存在する同カテゴリーの魔力は今後ノータイムで体内に吸収と定着をさせることが出来る
~10時間後~
「…はっ!」
目を覚ますとアリーシャが近くで本を読んでいた
「あら?もう目を覚ましたのですね。えっと…、あら!10時間!経ってるじゃないですか!成功ですよ!成功!」
「ほ、本当ですか?…良かったです!」
「はい!凄い凄い!ちゃんと定着してますよ!どうですか?気分は」
「なんでしょうか…変な感覚ですね」
本当に変な感覚だ…でも、無理矢理矯正されてるとか、自分じゃないとかそんなことは無い。紛れもなく自分で考えも思った通りのことを話せてる。その上でアリーシャの知識からこの場での言葉選び等が完璧に出来るようになっている
「昨日は9時間28分でダメでしたけど…32分の違いでこんなに変わるものなんですね」
「そうですね!…ではいよいよ明日から魔力の使い方を教えます!」
「よろしくお願いします!」
その日の夜から突然変わった私を見てマリーラはあまりの衝撃から気持ち悪そうな目で見られた
ーそして迎えた、マリーラ再発の日
「マリーラさん。私のリバースコンディションはもう使えないので、今日はあなたのパートナーにお願いします。もちろん私もお手伝いはしますが、信頼してあげてくださいね」
「はい…アリーシャ様。私は信じてるのです。ずっと頑張ってた毎日を見てきたから…う゛っ!!」
「マリーラ!!」
マリーラの体の周りに現れた黒いモヤがまたマリーラを強く締め付ける
それは確実に、以前より濃く激しく、そして強くなっていた
「あぁ、ぐっ…がぁぁぁああ!!!!」
「マリーラさん!呼吸をしっかり!」
マリーラに必死に呼びかけるアリーシャ。
私はあまりにも苦しむマリーラを目の前にして突然、救えなかったらどうしようという恐怖が出てきてしまった
怖い、体が動かない!どうすれば…
しかしそんな感情はすぐに吹き飛んだ
「た…すけて…」
誰よりも苦しむマリーラが私の手を握り目を見たのだ
そこから先は無我夢中だった
「マリーラ!マリーラ!」
巨大な魔法陣をマリーラの全身を包むように展開し魔力伝達力を上げると、また魔法陣を介して光に包まれた腕で黒いモヤを力強く握りしめる
「ぐっ、あぁあ!」
黒いモヤは取れるどころか私の腕にまで伸び始めてくる
「負けません…!私はマリーラを絶対に救います!」
その瞬間、黒いモヤを伝ってマリーラの過去の記憶が脳内に流れ込んできた
今よりもさらに幼いマリーラ。3歳くらいからだろうか?回想のように流れる記憶はアリーシャに拾われるまでの数年間を見せたが、それはまるで昔の私を見ているようだった
親からの虐待、エルフ間でのいじめ、その後もエルフとしてまともな生活を送ることも許されず。…奴隷として人間界に運ばれまだ幼い歳にして純潔を失ったマリーラは飽きたからと道端に捨てられ醜い人間の苗床として扱われていた
もういっそ死んだ方が楽だ。そう思いある時橋から飛び降りようとしたマリーラを助けたのがアリーシャだったのだ
その後救われたと思われたマリーラだったが体内に吸収された多くの醜い人間の魔力が私怨や憎悪、負の感情の呪いとなって体に現れ始めたのが事の発端だった
「許せない…許せないよ…!マリーラ!」
こんな呪いに負けたらダメだ!私とはまた違うけど、その感情は分かる
「こんな呪いに負けたらダメです!マリーラ!」
モヤを掴む手に力が入る。下に展開した魔法陣を強化しさらにマリーラの痛覚緩和の魔法陣、そして私自身のバフをかける魔法陣、そして精神汚染を止める魔法陣を3つ展開し決着をつけようと体勢を整える
「はぁぁぁあ!!」
全身に力を込めて両手に魔力を集中させる
「今です!私が教えた魔力爆発でマリーラを救ってください!」
魔力爆発とは、魔法を扱うものが冷静な頭脳を持ちながら強い破壊力を誇る魔法を放つ上で必要不可欠な技術だ。感情を露わにすることで体内の魔力を通常の5倍以上に膨らませ放つその技術は、素の感情の私自身を表に出すことで安定した爆発力を発揮する
「この…クソッタレがぁぁぁあ!!!!」
引き出された素の感情は全ての魔法陣を共鳴させ私自身の魔力を膨大なまでに強化する。ブチブチブチと激しい音と共にマリーラの体から引き剥がされた黒いモヤは私の魔力に触れたことで完全に消滅した
「はっ、はっ、はっ…はぁ…やったか?」
「やりましたよ!凄い凄い!ほんとにマリーラを救えるなんて!すごいです!」
アリーシャは私を後ろからギュッと強く抱きしめた
「あはは…やめろよアリーシャ、疲れてるんだ」
「あれ?口調が戻ってますね」
「あはは…多分魔力爆発でそれごと持ってかれたかも…」
「ふふふ、それをキープしながらやる余裕はまだありませんでしたね。今後は修行を重ねながらそこも改善していきましょう」
「あぁ…そうだな」
それから少しマリーラの様子を見ていると、5分ほどでマリーラはゆっくりと目を覚ました
「マリーラ!」
「…鈴の音が…魔力の波動になって私を飲み込んでくれた…その瞬間楽になりました」
「…?どういうことだ?」
マリーラは私の手を握り目を見るとゆっくりと微笑んだ
「あなたの想いが、魔力を通して私に伝わったのです…。鈴の音の波動…あなたの名前は…スズハ」
マリーラのその目は最初に会った時の事など忘れたかのように温かく、そしてつけられた私の名は、まだ幼い少女が考えたとは思えないほど、優しく、力強い名前だった
「スズハ…それが私の名前…?」
「はい。スズハさん…ありがとうございます。この約1ヶ月間で気づいたことがあったのです。スズハさんは表情や喋る事はおっかなかったけど、私を見る目はいつも大切な人を見守るかのような目でした。自覚は無いかもですけど…。それを上手く活かした名前にしようと思ってたのですが、時間がかかってすみません。でも、やっと言葉に出来ました。さっき感じた強い波動は今でも私の中に宿っています。」
「マリーラ…」
「これから改めて、よろしくお願いしますね!スズハさん!」
そうしてその後数年間に渡り魔導の天啓としての修行をこなした私はついにエルフの国を出て日本に帰ることが出来た。アカネやマホロと出会い探索者として世界中で名を馳せる事になったのは、また別の話
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