ヒアラ・キュアー

るろうに

文字の大きさ
上 下
24 / 75
1章

22話 ノノの分岐点

しおりを挟む
俺は一体どうなってしまったのだろう…
両腕に抱いていた探索者の2人は気を失ったまま目を覚まさない。

「この壁は…確かマホロさんだよな?」

すごく強固な壁だ。透明なので龍の手の中が丸見えで怖いが、亀裂どころか軋む音すら感じられない

俺はどうなってしまうのだろう。逃げるのに必死であまり見えなかったがこの龍はとてつもなく大きな龍だった気がする。俺がこの中でどうしようと何も出来ないだろう。

「大人しく助けを待つしかないか…」

その時、どこからか声が聞こえた気がした

「ん!?誰だ!」

声にならないような遠くからの声…?
いや、耳を塞いでも聞こえるこれは…

「頭の中に直接ってやつか…?さすがにビビるぞ」

でもなにか大事なことを伝えてるような気がする。

「目を閉じて集中すればなにか聞こえるか…?」

そっと目を閉じて耳を澄ます。
すると心を落ち着かせるにつれてその声は次第に大きく聞こえるようになった

「…あなたはまだ死ぬ時じゃないわ。この龍を倒すためにも…あなたの力が必要なの」

「…君は誰なんだ?俺の心に直接語りかけてくるなんて回りくどいやつだな」

「仕方がなかったの。私には言葉を発する事が出来ないから…」

はっきり声が聞こえだすとその声の主の姿が自然と脳内に浮かび上がってくる。それは小柄な女性だった

「ん…?君はもしかして…」

「うん。幽霊だよ。かつてこの覇王龍に挑んで負けちゃった人達の1人。」

「幽霊…そちらからコンタクトされたのは初めてだな」

「生前に強い力を持っていると幽霊になっても意志を持つことがあるらしいんだよね。一般人は未練や呪いを意思のない霊体として残すだけなんだけど」

「そうなのか…君は、どうして俺に話しかけてきたんだ?」

「君の存在を他より強く感じたんだ…多分それは天啓の繋がりが関係しているんだと思う」

「繋がり?君は俺が産まれる前、速さの天啓の先代的な人なのか?」

「いや、天啓が被ることは無いよ。どんなに有名な名称だとしても一生に1度、ただ1人が宿したらどんなに能力が似ていてもそれは似て非なるものだよ。私の天啓は。刹那の天啓さ。君と同じ速さの分類に入るんだ」

「速さの分類か…なるほど。」

「おっと…ごめんね、まだ話したいことは沢山あるんだけど、とりあえず今はこの状況をなんとかしたい。そのために君の力をもっと引き出すことが必要なんだ。」

「俺の力を…もっと?」

「うん。正直君の能力はまだ2割も真価を発揮していない。練度もだけど君、この能力や自分のことを信用出来てないでしょ」

「そ、そんなことないと思うけど…俺は普通に頑張ってるぞ」

「隠しても無駄だよ。君と一緒にいる2人にも、まだ本当の君を見せられていないよね。何かを恐れて、それなりのことをそれなりにやって問題なく済まそうとしてる。何が君をそうさせてしまったの?」

「……」

「君に、その過去を乗り越える機会を与えるよ。私の天啓、刹那はその一瞬の時間、相手に対してあらゆる攻撃、効果を与えることを可能にする。刹那を発動した瞬間に君を精神世界に飛ばす。その中では現実の時間はほぼ止まってるから、ゆっくりでいい。過去と決別して、強くなって戻ってきてほしい。頼んだよ。ノノ」

「待ってくれ…!俺は!」

「ごめん、今はまだ寝起きみたいな状態だけどこの覇王龍がほんとに覚醒してしまったら誰も止められないんだ。その前に倒すためには時間が無い。だからもう飛ばすね。…刹那、解放。」

女性の霊が囁くと一瞬のうちに知らない世界が周りに広がっていた。

「ちょ、ちょっと!あまりにも強引だな…どこだ?ここ」

辺りを見回すと閑静な住宅街、子供達の笑い声、そうか。俺は、この場所を知っている…。

「あぁ…やっぱりここが俺の分岐点だったのか」

少し歩いたところにある公園で遊んでいる少年がいた。小学生低学年程のその男の子は、幼少期のノノだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

幼い頃のは、厳しい親に育てられた。探索者の家庭では無かったけど、裕福な親故に、幼い頃から英才教育を受けさせられ、厳しい生活指導を受け、真っ当な子供の扱いはされてこなかった。しかし…裕福、英才教育という形だけの環境を妬まれ小学校に入学してからはなかなか友達が出来ずに悩んでいたんだ。

そんなある日、1人の女の子が僕に声をかけてくれたんだ

「ねぇ!きみもあそばない?」

その少女はクラスの中でも人気者で、ひとりぼっちの僕に話しかけるメリットなんて何もなかった。でも他の誰とも違う真っ直ぐな目で僕を見てくれたんだ

「なんでぼくにこえをかけるの?みんなぼくのこときらだから、きみもきらわれちゃうよ!」

ただ僕は、それまでのことが原因で誰かを信じられなくなっていて、その子のことですら、自分から離れるように接してしまったんだ。

…でも、その子は諦めなかった。1年が終わり2年生になる頃、その子が僕に初めて話しかけてから半年程が経った頃、初めは週に1回程度だった声かけも次第に頻度が増え、その頃には毎日のように声をかけて来るようになっていた

「ノノくん!あそびましょ?」

「しつこいよ!なんでそんなにあそびたいの!?」

ある日、ついに僕は面と向かって思っていた事をぶつけてしまった。小学2年なんてまだ子供なのに、なんであんなこと言ったんだろうな。でもその子はニコッと笑って手を差し伸べてきた

「だって、ともだちになりたいから!」

その笑顔は自分とは全く違う、どこまでも明るく元気で純粋な笑顔。

その笑顔に、心を打たれた。

家に帰っても習い事、家庭教師、作法などを押し付けられ、頑張っていい成績を出しても褒めることすらされない。無機質だった日々、学校に登校しても誰からも話しかけられず、こちらから寄っても逃げられる白黒の日々、それらをその笑顔は全て消し去り、僕に手を差し伸べてきた

「ぼくとともだちになったら、ほかのひとにきらわれるよ…?」

「それでもいいの!ノノくんとともだちになりたいの!」

「ぼくとともだちになってもなにもたのしいことないよ?」

「それはわたしがきめるの!つまらなくてもたのしくしてあげる!」

…全てを、その少女は受け止めてくれた。

「…もう、しらないからね!ぼくもうかえるから!」

「じゃあ、いっしょにかえりましょ!…私の名前はハナ!よろしくね!」

その日、初めて2人で帰った。人生で初めての友達が出来た瞬間だった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...