ヒアラ・キュアー

るろうに

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1章

19話 負の連鎖

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新潟行きの電車に乗ってもうすぐ3時間半。地下鉄の代わり映えしない景色、東京から同行している探索者達の重い雰囲気は見るに堪えない光景だった

「はぁ…きついなぁ。戦場で緊張するのは分かるけどガチガチになりすぎても良くないのに…戦場では希望を抱かないと勝利を掴めないこともあるって昔教えたのに…まぁ、もう覚えてないか。」

この戦いで私は、また過去を繰り返そうとしている。

かつての戦いの果て、その結末にうんざりした私は世界を司る7人の調停者の1人と契約して皆の記憶から探索者としての活動の記憶を消してもらった。その結果、昔から夢見ていた誰かの力になれるお仕事に就くことが出来たけど…契約の内容や、今後も起こる事件を考えると、覚悟を決める必要があるかもしれない。

「ヒアラさん…キュアーさん…ノノ様…私より先に死ぬことは許しませんよ。あなた達を守るためなら…私は…」

ピロン、ピロン

端末に1件のメッセージが入る

「ん?…え…!」

メッセージを読んでいると隣の車両からドーズが入ってきた

「おっ?アカネさんじゃねぇか!知り合いがいて良かったぜ!俺のパーティの奴ら今日他の依頼で南日本の方に行っちゃってて…装備新調のために残ってた俺だけ取り残されてたんだよなぁ~」

「ドーズさん!あなたも来てたんですか!パーティメンバー居ないと厳しい戦いになると思いますけど…大丈夫ですか?」

荷物や装備を置いてた隣の席を空けてあげるとドーズは申し訳なさそうに頭を下げながら隣の席に座った

「まぁ、アカネさんもいるしなんとかなるだろ。それにこの新装備もあるからちょうどいい腕試しになりそうだぜ!あとは…これを藤野さんに頼まれてな…」

「これは…!!」

「へへへ、あいつらの喜ぶ顔が目に浮かぶぜ。これで貸しひとつにしてやるんだ。だから死ぬんじゃねぇぞ、嬢ちゃん達…!」

ドーズは手に持った大きな鞄の中身に対してニヤニヤしながらもしっかり2人の心配をしていた

「ヒアラさんとキュアーさん達が新潟にいるの…知ってたんですね。でも…大丈夫だと思いますよ」

「まぁ、緊急依頼の受諾パーティに入ってたからな。それで?大丈夫だと信じられる理由はなんだ?あいつらの強さは俺も知ってるが、そう断言出来るほどでも無いと思うが…」

「私の担当だから信じてる…と、言いたいところですが、それ以上に信頼出来る人達が今、あの二人の所に着くと連絡がありました。それのせいですかね…」

「ほう…?アカネさんがそこまで信頼する人達か…アカネさんは探索者時代の実績は全然残ってないが…その時の仲間か?」

「…はい。そうですね。私がこれまでの人生で1番長く行動を共にして、自分の命より信頼出来る人達です。」

だから…皆さん…それまでどうか無事で!

2人を乗せた列車は走り続ける

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

新潟駅へソウヤ達を送り届けたヒアラ達は現場の探索者の生き残りと連絡しながら残った生存者を救助するために動いていた

「今の連絡で確認した生存者がおそらく最後だって…集まった138人中76人が…亡くなったみたい。」

「…私とノノがもっと早ければ、救えた命もあったのかな」

「キュアー、皆死ぬ覚悟で常に戦っているんだ。立派に戦死した探索者達の想いを無下にするような考えはやめよう。敬意を評して追悼してあげるんだ」

そう言うとノノは現場の方向に向かって手を合わせて黙祷した。私とキュアーも同じように亡くなった人達へ黙祷を捧げた

「…私達も、探索者として死んじゃうのかな」

「ヒアラは死なせないよ。私が命にかえても守るから」

「…俺は?」

「…よし。じゃあ行こう。現場にはもう小型次元龍の迎撃作戦で動いてる人達がいるはずだから」

「今度はパーティだからね!信じて動いてね!ヒアラ!」

「…うん!ありがとう!」

「…俺はぁ!?」

「ノノも、だよ。当たり前でしょ?」

「あぁ、良かった…そうだよな!」

3人はこれから待ち受ける戦いに向けて気持ちを鼓舞するように、笑いで緊張感を解した

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヒアラ達が新潟駅を出て現場に向かっている頃、現場では既に先程の生き残りメンバーが新しい陣形を立てていた

「おい…さっきの見たかよ。Bランク常連のソウヤパーティがやられたらしいぜ…日本でも数少ないAランク常連パーティに今最も近いとされていた注目のパーティだ。それがあんなにボロボロになるなんて…」

「あぁ…肉体はヒールで回復してるように見えたが、あの装備のやられ具合は相当やばいのを受けたな…ソウヤの鉄鎧なんてドロドロに溶けてたぞ。ウィザードなんて紺の服がほぼ全部血で滲んでたじゃねぇか」

「それに前衛で次元龍を封じてた結界師もかなりの実力者だったらしい…なんでもこの前ーー」

複数の次元龍の出現に備え集合した探索者達だったが、有名パーティがやられた話等でもちきりで作戦どころじゃなかった

「おーい!皆落ち着け!皆が怖いのは分かる!逃げたいやつは今逃げてもいい!だがここで逃げても結局次元龍を止められなければ日本が全滅するのも時間の問題だ!それを聞いた上で、今この瞬間、日本の探索者の精鋭も合流出来る戦場で戦果をあげたらどうなる?想像すれば今何をしたらいいかなんて分かるだろ!」

崩れた建物の瓦礫の上、少し高いところから皆を鼓舞する男がいた。その男はソウヤたちが集合する時も皆を取り締まっていた男だった。

「それにみんなも見ただろ!あれほどの探索者がやられた次元龍を屠った一撃を!俺は遠くでよく見えなかったが、あんな一撃を食らわせられる味方もいるんだ!」

「お、俺その人見えたぞ…!まだ若い女の子だったが、次元龍の光線を自分のエネルギーにして返してたように見えた!あれは凄かった!」

「光線をエネルギーに変換!?そんなスキル聞いた事無いぞ!?なんの天啓だ!探索者情報はあるのか!?」

「何はともあれ味方にそいつがいるなら心強い!もうすぐAランク常連パーティも集まってくるだろうしもう少しだ!頑張るぞ!みんなで生きて帰るんだ!!」

残された探索者達は男の一言から希望を見出し再び活気を増した。しかし次元の穴から出てきた一人の男によりその希望はすぐに潰えることになる

「おいお~い、誰が生きて帰れるって~?お前らは全員皆殺しにするから生きて帰れるわけねぇだろーがぁ!」

「!?だ、誰だ!」

声のした方を見ると先程まではまだ出てきていなかった次元の穴から次元龍が顔を覗かせ、その上に一人の男が立っていた

「あいつ…次元龍に乗ってるぞ!!この事件の黒幕か!?」

「これから死ぬモブの皆さんこんにちわ~!俺の名前はアグナ。これからこの次元龍軍団で世界征服をしたいと思いまーす!」

金髪のアグナと名乗る男はいかにも下品なファッションでチャラチャラしたチェーンを振り回しながら見下ろしてくる

「…ガキが!探索者舐めてんじゃねぇぞ!お前さえ殺せば次元龍は止まるんだろうが!今すぐ殺してやる!」

集まっていた探索者集団の中の一人がアグナの態度に憤りを覚え正面から突っ込む

「おっと~?ちょうどいい餌が来たな。おい次元龍、餌だぞ」

男がそう言うと次元龍は大きな口を開け突っ込む男を一口で飲み込んだ
あまりにも一瞬の出来事に数秒間時間が止まった

「あ、あぁ…うわぁぁああああ!!」

集団の中の一人の感情がやっと追いつき悲鳴をあげるとそれにつられて周りの皆もパニックになり逃げ出した

「あっはっはっは!逃げろ逃げろ~!泣き喚きながら逃げる人間をゴミのように潰すのが1番気持ちいいなぁ~!」

穴から完全に出てきたアグナの龍は逃げ惑う探索者を一人一人踏み潰しだした

「だ、誰かぁぁあ!!!早く援軍を…!」

逃げ惑う探索者達は絶望の波に飲まれパニック状態と陥った現場には再び血の雨が降り注いだ
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