ヒアラ・キュアー

るろうに

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1章

16話 ベテラン探索者の実力

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「戦闘開始ぃー!!」

「うおおおおおおおおおお!!!!」

遠くで結界が割れたのが見えた。それと同時に待機していた探索者達は全員で襲いかかる

「ちょ、ちょっと!?こんなに全員で攻めるんですっけ!?ソウヤさん!」

「みんな焦ってるんだ!止まれー!体勢を崩すなー!陣形を整えて敵の攻撃に備えるんだ!!」

ソウヤの声も雄叫びを上げ突撃する探索者達の耳には届かない

後ろからも押し寄せる人に飲まれないよう踏ん張っていると、次の瞬間とてつもない爆音とともに前方の探索者達が宙に吹き飛ばされる光景が目に入ってきた

「!?!?」

その光景を脳が処理する前にその原因であろう風圧がヒアラ達に襲いかかる

「きゃぁぁあああ!!!」

前や後ろの人がクッションになり怪我はなかったが、次元龍の強さを感じるには十分すぎる一撃だった

「ヒアラさん!大丈夫か!?」

「そ、ソウヤさん…!サヤさんとカイさんは!?」

「今の衝撃波で人の波に飲まれてはぐれてしまった…でも見てくれ、探索者のみんながようやく冷静に状況を把握しだしたみたいだ。これから再度陣形を立て直すだろうから、ここからが本番だ。カイとサヤも戻ってくるだろう」

ソウヤさんは…常に仲間を信じて行動しているんだ。私は常に一緒にいるキュアーや幼なじみのノノがパーティだから信じることなんて当たり前だと思ってたけど…いざこういう場面になった時、心配ではなく前に進むことを優先できるだろうか。

「ソウヤさんは…強いですね。皆さんは普段から相当なレベルの探索者なんだってすごく感じます」

「そうかな?今はBランクの依頼をメインにこなしているが、Aランク以上は全く歯が立たない。中堅くらいだと思われたら嬉しいかもね。さぁ、前衛から少しずつ陣形が整ってきた。俺らも行こう。」

「はい!」

前で暴れている次元龍は今のところ足止めが何とか出来ているようだ。2人は再び武器を構える

「10秒後ー!波状攻撃ー!みんな合わせろー!」

前の方から号令が聞こえる。
すると奥の方から次元龍に向かって次々と攻撃が一斉に飛ぶ。その波は綺麗な波状となっており、後ろからの光景はまるで迫り上がる津波の花火のようだった

「ヒアラさん!行くぞ!」

「はい!」

私はこれまでスキルというスキルは全く使えなかった。でもこの前のキノコ戦で初めてこの双剣から感じたあの不思議な感覚を今でも覚えている。

試したことは無いけど、これがスキルでありどんな攻撃が出来るのかは、何故か体が理解してるみたいだった

前から押し寄せる攻撃の波。自分のタイミングになった瞬間飛び上がりそのスキルの名を叫ぶ

「スキル:飛斬ひざん!!」

大きく振り上げた剣からは見えない斬撃が飛ぶ。空気を切り裂くかのように空間を歪めるその斬撃は遠くの次元龍に確実に命中した

「やった!!効いた!?」

しかしその期待は無慈悲な攻撃により打ち消される事になる。探索者の波状攻撃を全く意に返さない次元龍が大きく横に薙いだしっぽの攻撃で前衛がほぼ壊滅したのだ

前方から聞こえる悲鳴、辺りに飛び散る血、すごい勢いで頭上を過ぎていった物体は、数秒前までだと一瞬で理解した。

「ヒアラさん!伏せろ!」

しかしその光景を受け止める間も無く再度衝撃波の攻撃が来る。ソウヤの指示でとっさにしゃがんだため風圧をもろに受けることは無かったが、その攻撃で中衛もかなりバラバラにされた

「100人以上はいたはずの探索者が…一瞬で半分以上やられた…!?後衛だったから助かったものの、前にいたら俺らもやられてたな…」

「ソウヤ!ヒアラさん!」

あまりにも惨い目の前の惨状で今にも吐きそうになっていた所で、後ろからカイとサヤが走ってきた

「カイ!サヤ!無事だったか!」

「うん。風圧が来た瞬間前から飛んできた人にぶつかられてね…サヤを守るように前に立ったら2人とも後方まで飛ばされちゃったんだ」

「ヒアラさん!大丈夫?今精神を落ち着かせてあげるからね…スキル:メンタル強化!」

サヤの魔法により精神的に不安定になっていた部分が落ち着いてきた。目の前の惨状は辛いが、吐き気やめまいは収まり、物事を考え動けるくらいには落ち着いた。そうだ、まだ駆け出しの私はこの仕事をなめていた。探索者は常に命を賭けている仕事なんだ。これが現実…アニメやマンガのように死者もなくすごい一撃で倒せるほど甘くは無い

「サヤさん…こんな術も使えるんですね…凄いです!」

「良かった!でも今はそれどころじゃないです!さっきまで前衛が動きを止めてたので…次元龍が動きますよ!」

はっ!と次元龍の方に目を向けると、次元龍は雄叫びを上げて周りを見回すと大きく飛び上がり街や建物を盛大に破壊し始めた

「私達を狙わない!?何が目的なの!?」

「そもそも知性があるのかすら分からないけど…止めないと新潟の都市部が壊滅的な被害を受けると思う!何とかして食い止めるんだ!」

ソウヤは残った中衛、後衛の人達に呼びかけようとする

「みんなー!次元龍が自由に動ける今、集まっていたらまとめてやられるだけだ!各パーティーで散開して、敵の動く先で少しずつ攻撃を当てよう!」

「そうだな…このままだとみんなやられちまう!その作戦乗るぜ!」

「俺らも乗るぞ!散開だー!」

「おおおおおおおおおおおお!!」

ソウヤの指示に残った皆は従い散開する。

「…さて、これで少しは犠牲を減らすことが出来るかな…」

「え?ソウヤさん…それってどういうことですか?」

「次元龍のあの攻撃を見ただろ?あんな一撃、俺らがどんなに固まって防御に集中しても絶対に止められない。それなら散開して時間を稼いだ方がいいんだ」

「時間を稼ぐ…?」

「あぁ!さっき端末に連絡があったんだが、今ここに集まってる探索者は元々近辺にいた探索者だ。日本支部のほんとに強い人達は基本都市や海外に行ってる。その人達がこちらに向かってるそうだ。Aランクも沢山こなせる主戦力の探索者が集まるまで待てば…あるいは可能性があるかもしれないだろ?」

「確かに…それなら作戦としては合理的かもですね」

「多少の犠牲は仕方ないと思うしかない…」

「みんな、誰かが犠牲になると分かった上で作戦に乗ったんだよ。誰もソウヤを責めたりしないよ。」

「サヤ…ありがとう。」

話が落ち着いたところで、次元龍に向けて戦闘態勢を構える。

「さて…どこに行くかな?」

次元龍を囲むような陣形になった探索者達はジリジリと包囲網を固める。それに気づいた次元龍は街の破壊をやめて探索者に意識を向け始めた

「まともに食らったら一撃だ。集中しろよ!」

「バフをかけます!攻撃強化!耐久強化!」

「ありがとう!サヤ!」

普段キュアーに全種類バフをかけてもらっているせいか、少し心もとない気持ちになる。いや、これが普通なんだ。むしろ複数バフを操れるサヤさんは人間だとかなり上級なんだと思う

そんなことを考えていると次の瞬間、以前にも感じたような頭痛が襲ってきた

「!?あっ…うぅ!」

その瞬間視線を強く感じて顔を上げる

その視線の先には次元龍がいた

目が合った瞬間なにかに反応するようにこちらに向かって走り出す次元龍

「!!!くそ!よりにもよってこっちか!言い出しっぺの法則だな!全員回避行動!!」

一瞬で目の前に来た次元龍は体長30メートルはとうに超えるであろう巨躯を激しくしならせ上げた腕を振り下ろす

間一髪で全員回避が間に合ったものの、あまりの衝撃で地面のコンクリートは激しく破壊され衝撃波で周りの建物が崩壊する

「ぐあぁぁあ!!!」

「きゃぁぁあ!!!」

吹き飛ばされる4人だったが、その途中一緒に飛ばされたサヤを庇い背中から地面に叩きつけられる

「がっ…はぁっ!!」

全身が熱い、口の中に鉄の味が広がる。手足も動かない…

「ヒアラさん!!私を庇うなんて…!スキル:ハイヒール!」

少しずつ体の感覚が戻ってくる。口の中に広がった血を吐き捨てると心做しかそれ以降は出るどころかすっきりした気がした

「サヤさん!ありがとうございます!」

「次が来ます!」

サヤが発言したその瞬間に頭上に大きな影がかかる。見上げた頃には落ちてきた次元龍の巨躯が視界を覆い隠す

あ…これは死ぬ。

成す術もなく死を待つとはこの事か、1歩も動けない。目の前が真っ暗になる

「まぁだだぁぁああ!!!」

しかしその絶望は突如聞こえた雄叫びと共に横から目にも止まらぬ早さで次元龍の体に体当たりをしたソウヤによってかき消された

「!!ソウヤさん!?」

「おおおおおおおああああ!!!スキル…!!シールドバッシュ!!!」

光り輝いた盾は突如次元龍の顔を大きく跳ね除けそのバランスを崩させる

「カイっ!!」

「任せろぉ!!」

バランスを崩した先に直ぐに回り込んだカイは次元龍が倒れる先に向かって剣を構える

「スキル:バーストスラッシュ!」

強く振り下ろされた剣は強力な衝撃波を地面に打ち込み、次元龍の下の地面を陥没させた

「バランスが崩れる!倒れるぞ!衝撃に備えろ!!」

「スキル:衝撃耐性!リジェネレーション!」

次元龍が倒れる瞬間を見計らい、その瞬間にサヤはその場で最適なバフをかける

倒れた次元龍の衝撃も踏ん張れるレベルとなり、ソウヤとカイが駆け寄ってくる

「2人とも無事か?危なかったな」

「あ…ありがとうございます!!」

すごい…これがBランク常連の探索者の実力!!恐らくここに集まってたパーティの中でもトップクラスに強い…!

このパーティーなら…次元龍を倒せるかもしれない!

「攻撃のチャンスだ!畳み掛けるぞ!」

前を走る背中の大きさを強く感じ、その背中を追いかける。

この人達はきっと、かつて英雄と呼ばれた存在にもなれる気がする!

「私に何したいか知らないけど…痛い目見るのはあんただよ!次元龍!ここからが本番だ!」


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