大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

見た目と車内

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そんなこんなで案内されたのは通常の馬車乗り場から少し離れた場所。
明らかに馬車としてのグレードが先程までの乗り場の馬車たちより二つ三つは上な雰囲気を纏った馬車がずらりと並んでいるところだった。
『ふぅん……貴族とかが使う用のはこっちに纏めてあんのか。しかし馬車本体だけなのに随分と大きいな』
「あぁ本当に。見ろよあの真っ白のやつ。サイズも周りと比べて五割増しでデカいアレ。装飾も凝ってる割に悪趣味だし重そうだ。今時あちこちに戦乙女ヴァルキリーなんて飾る奴がいることに驚きだよ。まだ見てもいないが、これを引く馬が二重の意味で可哀想になってくる。見せられてるこっちも目が痛くなりそうだ」
誰にも聞こえないように小声でそう言うと、ユーリアが爺と呼んでいた男がこちらを振り返る。
「あちらがお嬢様とレィア様がお乗りになる馬車になります」
そう言って指し示されたのは、たった今ボロカスに文句をつけたばかりの純白の馬車。
「………マジ?」
「もちろんでございます。側面にグランデンジーク家の家紋もございます」
本当かよと思って見てみると、真っ白な側面には騎士の持つような剣に無数の蔦が絡みつき、一体化しているような紋章があった。おそらくこれが耳長種エルフの家紋なのだろう。
「ご理解いただけましたか?」
「…まぁ」
そんなこんなで馬車に揺られること三十分。その間は広い馬車の中、ユーリアと二人きりで過ごしていた。爺は多分御者台の方じゃねぇかな……
「そろそろゼランバに着く頃合いかしら」
馬車の中でも口調を変えていなかったユーリアが不意にそう言った。
「えっ?流石に早すぎないか?」
俺はそう言うが、小窓もないし隙間なんてあるわけないこの馬車の中から、外を見て確認することはできない。
座席はやたらとふかふかで、振動も外の音も全くしない。外観にさえ目をつむれば、非常によい馬車旅だった。むしろこの馬車進んでないんじゃないかと思っていたぐらいには無音、無振動。
「そろそろでしょう?爺」
「その通りでございます」
声は向かい合った俺達の横から。そちらの方を見ると爺が何食わぬ顔で立っていた。
「ぅおっ!?」
いつからいた、爺。
「ゼランバまでおよそ二、三分と言ったところです。下車の用意をした方がよろしいかと」
と言われても……荷物はシステナのせいでほとんどないし、残った荷物は髪の中。十秒…いや、五秒もあれば降りておしまいだ。
「よいしょ…っと」
俺は立ち上がり、すぐに出られるようにする。……今更だが、俺どころか長身の爺が立っても不自由がないってのもとんでもない広さだな。
「ん、じゃあなユーリア。助かったわ。この礼はまた今度必ず」
「いえ、私は当然のことをしたまでですので」
笑顔で会釈するユーリア。流石にここまでくるともう慣れてくる。
「到着したようです」
爺がそう言うと、馬車の扉を開く。
ひょいと飛び降りてみれば、たしかにゼランバの街並み。振り返って馬車に手でも振ってやろうかと思ったが、既に馬車は行ってしまった後らしい。
『なんともまぁせっかちな』
まぁ、向こうも急いでるだろうし、仕方ないだろ。
さて、と。
思った以上に早く着いたな…………
『どうした?』
いや、何。
ちょっと寄り道してからアーネん家に向かおうかと思ってね。
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