大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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2,020 / 2,022
外伝

英雄の焦燥

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その日の夜、魔族の集落からやや離れた位置に野営していたアベルは、部下の焦った声にたたき起こされた。
「隊長!隊長!!」
「っ、何事ですか!?」
野営テントの粗悪なベッドからはね起き、臨戦態勢を整えながら目を暗闇に慣らす。
三秒と待たずに闇夜に慣れた彼の目が捉えたのは、黒鎧で彼を補佐している男。もう長い付き合いでもある彼に、魔族の撹乱である事を警戒して合言葉を求めると、一言一句違わず返した。本物のようだ。
「ただ今、金剣黒鎧混合哨戒班が帰ってきたのですが、何者かに襲われたようです。負傷者は金剣黒鎧それぞれに一名。しかし黒鎧は軽傷で済んだようです」
「負傷の様子は?」
「はっ、どちらも体表に赤い斑点を浮かび上がらせ、それが痛みを発しているようです」
「赤い斑点……」
彼にはそれが何かは分からなかった。ただ、明らかに自然の物ではないのだろうという予想はすぐについた。
「わかりました。今の話、クラウウェン殿には?」
「既にしてあります」
その言葉に頷くと、彼は黒鎧を纏い始める。
「出陣なさいますか?」
「どんな危険があるか分かりません。最も手練である僕が行くべきでしょう。少なくとも、隊長ならそうしました」
「了解しました。それと、哨戒班が見たものをお伝えします」
「はい。お願いします」
カシャン、カシャンと身体を自由に変えながら戦う彼専用に改造された黒鎧を纏い、いくつか剣を腰に下げ、身の丈を軽く超える二メートル五十センチの特注の大槍を背負う。
。テントを出ればすぐに目視できるかと」
『……それは本当ですか?』
「少なくとも虚偽の申告ではないと私は断言します。高度な幻術である可能性は否定しませんが、そうする意味が分かりません」
彼の手が一度止まった。
しかしすぐに再び動き始める頃には思考も固まったようだ。
『黒鎧全体に伝達。敵は疫病型の魔法を使っている可能性があります。各自対策を。また、一時的に黒鎧の指揮権をクラウウェン殿に委ねます。全てそちらに従ってください』
「了解しました。ご武運を」
『ありがとうございます』
鬼面を模した兜の前面を下ろし、足元をローラー状にした彼が野営テントを飛び出す。
(……まずは哨戒班が襲われたという場所ポイントまで行ってみましょうか……)
ぎっ、と軋むような音を立てながら彼は進路方向を魔族の集落の方へと向ける。
(疫病型の魔法は手間がかかる。一応ああは言ったものの、実際に疫病型の魔法である可能性は低いでしょう。魔族ならそんなまだるっこしい事をするよりも、巨大な魔法一撃でも叩き込んだ方が手っ取り早い……なら)
可能性としてありえそうなのは、
(向こうのトラブルが風に乗って偶然こちら側に被害が及んだというのが妥当……ですかね)
だが何故魔族の集落が燃え上がる程の惨事が起こっているのか。
彼は三日程前にマムから聞いた情報を思い出しながら足を急がせた。
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