大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,956 / 2,022
本編

金と仕事と

しおりを挟む
ベルとラウクム君に謝り倒し、魔獣の素材やら何やらを置いて帰り、自室で溜息をつく。
金が足りねぇ。稼ぎ方も分からねぇ。
当たり前ではあるが、森にいた時はそもそも金を使って生活していなかったので、その辺の概念がかなり曖昧と言うか適当なんだよな。
俺がパッと思いつくのは、魔獣の素材を剥いで売って金にするぐらいだが。
「どーすっかな……」
『さっきの剣の代金の話か?』
シャルの言葉に肯定で返し、普通のヒトはなにで金を稼いでいるのかと聞いてみる。
『そりゃ色々あんだろ。実際アーネの親父さんは商人だ。他の所から物を仕入れて、そこに付加価値を付けて売る。それで金を稼いでる訳だな』
「付加価値ってどうやってつけるんだ?」
『さぁなぁ。俺も元々商人って訳じゃないしな。確か、名のある商人なんだよな?魔獣を撃退したりするアイテムを専門に扱う』
「だったはず。あとは防犯とかもやってるらしいけど」
『なら、命に関わる物だからな。ちゃんと名の知れた所から買ったという信頼自体が価値だな。お前もそこらのオッサンが打った剣より、槌人種ドワーフが打った剣の方が欲しいだろ?そういう事だ』
なるほどね。勿論他にも色々あるんだろうが、一先ず納得出来たのでそれで良い。
「そういやシャルは……あー、軍か」
『だな。そもそも衣食住は保証されてたし、欲しい物は大体支給された。まぁ、その度にアベルが何か書いてたけど』
「ふーん、紙書いたら貰えんのか。良いなそれ」
まぁ、今から軍属ってのは有り得ないのでパス。というかソレ、ユーリアん所に世話になる感じじゃないのか?別にいいっちゃいいけど。
『あー、あと、冒険者ギルドってのがあるか』
「あー、あったなそんなの。登録しようとしたら断られたけど」
『なんでだよ。来る者拒まずじゃなかったか?あそこ』
今の今まで忘れていた。
《英雄》になるための方法の、二つのうち一つなので検討したことはあったのだが。
「あれ、お前知らなかったっけ?俺あそこ年齢制限でハネられたんだよ」
男性は十五歳から、女性は二十歳から登録可能らしい。よく分からんが、そういう決まりだそうで。
そしてよくよく思い返せば、ギルドに行ったのはシャルが憑く前かつナナキの知らないタイミングなので、知らないのも当然なのか。
とりあえず、ギルドの仕組みと一緒に話しておく。
『年齢制限ってお前、十五はとっくに……あぁ』
「そういう事。歳を証明出来るモンも無かったしな」
と言いつつも、やっぱり納得は出来ないが。
「今なら多分、聖学に籍があるし、二つ名持ちって事でそこそこ良いランクから始められるはず」
ギルドの仕様として、仕事の危険度があって、それに応じたランクがあり、それに応じて報酬が上がる、とかだったはず。
要は報酬の良い仕事をするにはランクを上げなければいけない。ただ、どこからかの推薦だとか紹介があればかなり良いランクから始められたはず。二つ名というのはそう言う所にも効くと《雷光》あたりから聞いたことがある。
『で、やるのか?』
「やらね。というか今回は向いてない」
『?』
「依頼をやったら一々ギルドに報告しに行く必要がある。聖学の近くにギルドはあったか?」
つまり、いくら依頼をやっても、報告して金を貰う方法が厳しいのだ。
加えて、失敗した場合や一定期間内に達成出来なかった場合は違約金が発生する。当然、終わっていたけど報告出来なかった、していなかったものも同様だ。
『じゃ、聖学から一番近いギルドってどこだ?』
「さぁ……?王都にはあったけど、南の方にあったっけな」
北と西には支部があると聞いたような。あと東にもあるが、北と西が外縁の都市にあるのに対し、東は若干内側寄り……だったか?これも《雷光》情報。
「ま、そんな訳で今回はナシだな。やっぱり魔獣を狩って、素材を売るぐらいだな」
そう言っていると、部屋の戸を叩かれる。
落ち着いた音、急ぎでは無いか。加えて遠慮のある感じ。アーネではないな。
直前までほぼ足音が無かったことに小首を傾げ、返事をしてから扉を開く。
「あれ?モーリスさん?」
そこに居たのはこの屋敷の執事。アーネの家族達も信頼している、老紳士が立っていた。
ちら、と時計を見るが、まだ夕食の時間には早い。
先程のメッセージの事か、とも思ったが、アーネの呼び出しなら、アイツの性格的に本人が来るはずだ。
「レィア様、旦那様がお呼びです」
「?」
モーリスさんの顔は特段焦っている様子も怒っている様子もない。一方で、喜んでいる様子や笑っている風でもない。
はて、何かしただろうか。

── ── ── ── ──

「レィア君、君が義手や義足を作れると言うのは本当かい?それも、戦闘に使えるような高耐久な物を」
「え?あぁ、まぁ」
何の話かと思えば、そんな仕事の話だった。
「ちょい前に後輩の両手両足を。あと昔、育て親の分も両手両足を作ったな」
最初はただの真似だったが、そこから改造し、自作できるようになった。
と言っても、ナナキの奴は彼女のスキル前提のモノだったし、セラの分が本格的に作ったマトモな義肢と言えるだろうか。
「装着者はどうなんだい?」
「どうって……まぁ、普通に生活してるんじゃないか?何か不具合があったら教えるように言ってあるし」
今の所、特にセラからそういう話は聞いていない。基本的な修理やメンテナンスは自力でできるようにしたが、細かい所は俺じゃなきゃ分からん。
身体のことなので、「もし変な軋みがするとか、少しでも痛いと思ったら相談しろ、絶対だ」と言ってある。
まだ成長期は終わってないはず。筋肉の付き方や身長、体型とかはすぐ変わるだろうし、違和感があればその都度調整する必要がある。
「急にどうしたんだ?」
「いや、実は相談が……もっと言うと、君に頼みたいことがあってだね」
ニコラスの話をかいつまんで聞くと、知り合いの親戚が魔獣を撃退する際に下手を打ち、右腕を一本失くしたらしい。
どうにかならないかと相談されたが、ただの義手ではなく以前のような戦闘にも使えるような義手が欲しいと言われたのだと言う。
「いやそれ槌人種ドワーフに頼めよ」
思わずそう言ってしまった。だが、ニコラスもやや困ったような笑みを浮かべて「全くもってその通りだ」と言ってくれた。
「で、槌人種ドワーフには頼めない理由でもあんのか?やっぱ金か?」
普通に考えればそれだ。
槌人種ドワーフの作ったものは何にしろ高い。性能が頭抜けているとは言え、滅茶苦茶に高い。
「報酬については相当な額を約束してもらった。問題はそっちではなく、メンツの問題だそうだ。槌人種ドワーフに借りは作りたくない、と」
メンツ?借り?妙なことを言うもんだ。相手は貴族だぞ。むしろ槌人種ドワーフ製の義手となればそれだけで自慢が出来る。先程の信頼の価値みたいな話だ。
「──あ?」
いや、待て。そうじゃない。
メンツだの貸し借りだのという話が出るということは、槌人種ドワーフと同格の存在ということだ。
つまり、槌人種ドワーフを除いた三貴族。ないしはそれ以上の存在、大貴族か。
「……どこから依頼されて?」
獣人種ビーストマンだよ。君達が居ないタイミングで、メッセージが届いた」
獣人種ビーストマン、か……」
繰り返しその種族を口にする。
「もちろん君へ報酬は出す。なんなら向こう側から出された金額、そっくりそのまま君に渡すさ。断る事も出来る話だが、受けられれば金銭以外の見返りも大きい。出来そうかい?」
「なんとも。特にアイツらの種族魔法が面倒そうで」
奴らの種族魔法はヒトから獣へと姿を変える。戦闘にも使えるように、となるとそれに合わせて形を変える必要がある。
「ちなみに、どんな獣になるんだ?」
「白虎だそうだ。それに体格も非常に大きい。獣になる前でも二メートル近いとの事だ」
……うん?
「リオード・バルドバル?」
「おや?知っているのかい。なんでも、かなりの腕利きだったらしいのだが……」
マジか。あいつが腕失くしたとか初めて聞いたぞ。
と言うか何と戦ったんだ。アイツの腕一本って安くねぇだろ。
「わかった。やる」
「受けてくれるかい。ありがとう。だが、これを見ないで言うのは流石に早計だろう。これが彼のデータだ」
と言って、ニコラスが机の引き出しから書類を取り出す。
見てみると、そこに書いてあったのは彼の身長体重その他諸々といった細かい数字。これを見て作れということだろう。
「……こんなモン渡されたのか?」
データが赤裸々すぎる。これを他人に渡す意味を分かっているのだろうか。
「それだけウチが信用されているということだ。逆に言うと、その情報がどこからか漏れた瞬間、その信用は失墜するがね」
怖。
にしても、やはりこのデータを見るに、西学のアイツで間違いなさそうだ。
失くした部位は右腕……肘から先が無くなったという。獣になると、丁度前脚が半分なくなる形か。
で、この身長と体重か……………………………………うーん…………。
「やってみないと、ってのが本音だな。流石にこのサイズは初めてだし。特に獣形態が厄介だな」
変形とかはさておいて、この体重が加速と共に前脚にかかる事を考えると、強度が問題になってくる。
硬く、それでいてしなやか。加えて奴のスキルを考えると雷と相性のいい材質か。
金属なのは間違いないが、変に生物由来の素材を入れると焼け焦げて長期使用に向かない。かと言って、金属だけで作れば身体への負担や柔軟性が足りない。
「そう、か……それでは」
「いや、やる」
「大丈夫なのかい?」
「断言は出来ねぇけど、恐らくは。けど時間が要る。それと素材が。だから向こうの方に『リオード・バルドバルを聖学に連れて来い』って言っといてくれる?」
「わかった。伝えておこう」
そうと決まったら、一つメッセージを出すか。プクナイムに居る、世界一足が早い彼女に向けて、ちょっとしたお使いを頼もう。
見返りとして……そうだな、今度会ったら何かして欲しいことを聞いとこう。
「完成までどれぐらいかかると思う?」
「ざっくり……そうだな、ひと月。場合によっちゃもっとだが」
そう言うと、ニコラスは頷いた。
「急で申し訳ないが、頼んだよ」
「あぁ、任された」
丁度そのタイミングで部屋がノックされる。
「なんだ?」
「モーリスです。旦那様、レィア様、夕食の用意が整いました」
「わかった。今行く」
話の終わりを狙ってたんだろうか。それとも偶然だろうか。何にせよ、話はここで終わりとなった。
しっかし、アイツが腕をやられるなんてな。何があったんだろうか。

── ── ── ── ──

夕食も終え、風呂に入り、髪の手入れをしながら、のんびりとアーネを待つ。
夜の予定を空けておけと言っていたが、何の用なんだろうか。
手入れが終わる頃、部屋に足音が近づく。歩き方からしてアーネだろう。やっとか。
控えめなノックがされ、扉を開いてやると、寝巻きに着替えたアーネが少しだけ顔を赤くして立っていた。
「何用だ?」
思い当たる要件も何も無いので、シンプルにそう聞く。
とはいえ、立ち話もなんなので、取り敢えず部屋へ招き入れる。
するとアーネはベッドに直行し、そのまま腰を下ろして座る。
「べ、別に、なんでもないですわ」
なんでもないのに夜の予定を空けておけって言ったのか……?
変だろ。流石にそれは。
「単に貴方と話したかっただけですわよ」
「そんなもん何時でもしてやるし、話すだけならメッセージでもなんでもあるだろ」
と言いつつ、部屋に備え付けてあるコップに、水差しの水を入れて渡す。
「……貴方、本当に分かってないんですわね」
「?、何が?」
思いっきり呆れたようなアーネの顔を見て首を傾げ、向かい合うように椅子に座る。
「まぁ、大した用が無いなら無いでいいさ。元々お前の家だし、好きなだけこの部屋にいれば良い」
「じゃあ、同じベッドで寝ますの?」
「構わねぇぞ。向こうだとそうしてたろ」
特に何も考えずにそう返すと、大きく溜息をつかれた。
「貴方は本当に……」
アーネはそう言うと、急に立ち上がってこちらへと真っ直ぐ歩いてくる。通りがけに、渡した水をテーブルに置き、俺の正面に立つ。
……俺、何か悪いことしたっけ?
そう思うも、シャルは既に寝た後。マキナは沈黙。俺自身は考えても答えは出ない。
「私と貴方は、こ、恋人なんですわよね?」
「そうだな」
「私の事、ちゃんと好きなんですわよね?」
「あぁ」
何を当たり前のことを。そう思いつつ答えを返していく。
「でしたら、一つお願いがありますわ」
「?」
お願い。なんだろうか。
「あんまり、その、他の女の子と会わないで欲しいんですわ」
なんで?と思いつつ、それを口には出さない。
別に良くないか?いやでもなんか理由があるんだろうな。
「ベルとかセラとかか?」
「ユーリアや《雷光》もですわ。貴方、女の子の知り合いが多過ぎですわ」
それ、詰まるところ「俺に友好関係をほとんど絶て」と言っているようなものなのだが。
「全部、一切?」
「私と一緒ならいいですわよ。もちろん、出来る限りの話になりますけれど」
と言って、アーネが俺の膝の上に乗る。
可愛らしい動きではあるが、俺とアーネの身長差を少し考えて欲しい。多分真正面から誰かが見たら、俺の姿は完全に見えなくなっているだろう。
彼女の体重と共に確かな温もりが触れ、ふわりと香るいつもの匂いとはまた少し別の香りに、ほんの少しだけ心臓が早めの鼓動を打つ。
重いとは絶対に言ってはならないのだろう、と思いつつ、少しだけ体勢を直すために身動ぎをする。
「貴方、自覚が無いようですけれど、実は結構モテますわよ」
「はぁ。そんで?」
俺が身動ぎしたのに合わせてか、アーネも俺の上で僅かに動く。
「だから、その、私としては、貴方に変な虫がつかないようにしたいんですわ」
「お前がそうしたいんならそれでいいけど……流石にベルとかユーリアは大丈夫だろ」
「だとしても、ですわ。それと指輪、着けてますの?」
「指輪?あぁ、ニコラス達から貰ったのなら」
と言って見せようと左手を上げると、アーネがその手を取って、指輪が中指にあることを確認し、よくよく見つめる。
「それも基本的にしっかり見せておくんですわよ」
「???、わかった」
なんの意味があるんだろうか。後でシャルに聞いてみよう。
「あと、もうひとつ言う事がありましたわ」
「ん?なんだ?」
そう聞くと、アーネが俺の上に座ったまま、身体を捻ってこちらに寄りかかってくる。
身体がより密着しあい、俺とアーネの心臓が押し付け合わされ、心音が直に響く。
俺の首の後ろに腕を回し、ピタリと身体を押し付けた状態で顎を俺の左肩に乗せ、耳元で囁く。
わたくし、独占欲は強い方ですのよ」
そう言って、首元に口付けを一つ落として離れる。
「今はまだ分からなくとも、絶対に私が居ないと生きていけないぐらい愛させてあげますわよ」
「何言ってんだ。もう既に俺はお前が居ないとダメだよ」
間も置かずそう言う。
するとアーネはきょとんとして俺を見つめ、少しだけ笑った。
「じゃあ、私が居なくなったらどうしますの?」
「探し出すさ。何処へでも、何処までも」
「他の男に靡いたら?」
「もう一度振り向かせる」
「……死んだら?」
「一緒に歳食って死のう。それ以外は認めない」
もしかしたら、俺のこの気持ちは一般的な愛や恋とは違うのかもしれない。
それでも、彼女を大切に思う気持ち自体は嘘でも間違いでもない。
きっと、今の俺の心の中には、アーネが当たり前のようにいる。
「お前が居なくなるって考えると、心の奥が虚しくなるんだよ。きっと俺はこれに耐えられない。ナナキの時もそうだったけど、お前が居てくれたから耐えられた。けど、お前もいなくなったら、俺は今度こそ耐えられない」
お前が居ないならきっと、俺も居る意味を失う。
お前が居ない世界で戦争を終わらせても、そこになんの価値もない。
何度でも言うが、この感情を愛だの恋だのという感情で固めるのはおそらく違う。
それでも、他の誰かに対しての感情を形容する「好き」等とは違うが、俺はこの感情を大切に──もっと言うならば、愛おしく思う。
「きっと、俺の好きとお前の好き。俺の愛しているとお前の愛しているは形が違ってるんだろうけど──だから教えて欲しい。だから何度でも、聞かれた時に俺はこう言うよ」
今はまだ、口で言うことでしか伝えられないし、口付けも、アーネに告白された翌日にしたもの以外はほとんど形をなぞっただけのキス。
だから何となくでしか分からない。
それでも、それだからこそ、繰り返し伝えなければならない。
「俺はお前が好きだし、失いたくない」
そう言うと、アーネは小さく、本当に本当に小さく、溜息をついた。
「今回はそれでいい事にしますわ。けれど、我慢出来なくなったら知りませんわよ。こう言うのは理屈や理性で押しとどめられるモノじゃありませんもの」
「そうか」
ならきっと、俺があの日、衝動的に返したあの口付けは、本物だったのだろう。
俺の中にもそういう物がある、という事を知れた事で、少しだけ気が楽になった。
「どうしましたの?」
「いや何、安心したんだ」
「何がですの?」
「俺もお前と同じ、好きとか愛とかを持ってるっぽいって事を知れてな」
「なんですのそれ、詳しく聞かせてくださいまし」
「上手いこと言語化出来たらな。なんせ愛だの恋だのは理屈じゃないらしいし、落ち着いて整理出来たらな」
「それなら、今夜は貴方の言葉を聞かせてもらうまで、ずっとここに居ますわよ」
「夜が明けるぞ」
「あら、一晩で語り尽くせるんですの?」
「いいや。だから、一生掛けて示すさ」
そう言って、どちらともなく笑った。
「なら初めに、どこから私が好きだと思ったんですの?」
「質問形式か?まぁいい。多分お前に告白されて、その翌日にお前に会いに行ったあの後だな」
「最近ですわね。私なんて最初に貴方に魔族から救われて、それからずっとでしたのに」
「そんな事もあったなぁ。あぁでも、そしたら俺も、ひょっとしたらそこからだったのかもなぁ」
「どういう事ですの?」
「……決まってんだろ。嫌いな奴をわざわざ結界の外へ、それも学校から飛び出して助けに行くなんてする訳ねぇだろ」
「なら、貴方が先に私に惚れたんですわね。だって私が貴方を好きになったのは、私を助けてくれたからですもの」
「案外そうかもなぁ」
「あら、認めるんですのね」
「そりゃ勿論。でも多分、あの時はもっと違ってたかもな。少なくとも、今と同じ気持ちじゃあなかったし。だからお前に面と向かって愛してるって言えるようになるのは、やっぱりあの告白の日以降だろうな」
そう言って話し始めたこの話は、結局夜が明ける前に終わった。
互いに笑い合い、そんな事もあったなと言い合い、時折おふざけのような口付けを交わす。
語り明かしても良かったのだが、それなりに疲れが溜まっていたのもあって、どちらからともなくベッドに移動し、それでも二人で話を続けていると、気がついたら寝ていたらしく、朝になっていた。
一足先に起きた俺は、すぐ横で寝ているアーネの髪を軽く指で梳くと、起こさないようにそっと抜け出し、静かに着替える。
途中でアーネが起き、目が合った後、互いにおはようと言う。
そのなんでもないやり取りの相手が彼女だからだろうか。何物にも変えがたく思う。
「どうしましたの?」
じっと見つめていたら目が合い、アーネが聞く。
「いや。なんでもない」
口には出さない。だが、アーネには何か伝わったのだろう。
「私もですわよ」
そう言った。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:666

処理中です...