大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

開幕前と確認

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『気分はどうだ、今代の』
最悪だよクソ、今すぐ逃げ帰って寝てたい。
時刻は三時五十五分。もう始まる寸前だ。
空気がピリピリと高まってきたのが肌でわかる。フィールドが無いと今さっき聞いた一年生は尚更その空気が濃い。
負傷者をすぐに助け出し、回復魔法や治癒魔法をかける救護班は既に待機している。さらに今回は特別にシステナもついている。
「ほう、面白そうな事を行うな?余にも見せよ。何、タダでとは言わぬ」と言って一時的だが、自主的に救護班へ入った。ちなみにシステナは名前を隠して「シーナ」として周りに知られている。
ともかく、本人の言葉をそのまま伝えると、「即死でなければ余があらゆる傷を治してやろう。腕が千切れ、足が溶け、目が潰れようとも進むが良い。案ずるな、治癒に関して余に出来ぬことは無い」との事だ。本当に手足の欠損をしてまで突っ込んでくる奴らはいないだろうとは思うんだが…いや、何するかわかんねぇしな…
さて、今更だがルールは至ってシンプル。
降参か戦闘不能になるまで戦うだけ。それまで何をしても問題ない。どこまで許されるかというのは具体的に、この訓練所をぶっ壊してもセーフらしい。過去の話だが。
『そろそろ、だな』
もうか、早いな。
「マキナ」
『了解しました』
バシュッ、と鎚から音が鳴ると、一瞬で俺の身体が《千変》で覆われる。どうもあの大南下からマキナもまた進化したらしい。具体的にはまた後で機会があれば。
武装した状態で《雷光》の元へ行き、声をかける。
『よぉ《雷光》。ちょっといいか?』
「ん?《緋眼騎士》…か。また見た目が変わったのか」
『………その辺のデザインは全部マキ…適当に決めてるから気にしないでくれ』
変わってたのか、気づかなかった…じゃなくて。
『少し前に《勇者》から名指しで決闘を受けた。悪いが《勇者》とぶつかったら…』
「ウィルさ…《勇者》が?わかった。私も《不動》と《荒野》から雪辱戦だと決闘を受けている」
雪辱戦…?何かあったのだろうか。思い当たる節は俺が二つ名になった時のアレぐらいだが…まさかね。
「ついでに言うと、他には《剣姫》と《黒法師》、《貴刃》と《逆鱗》が衝突すると報告を受けている。貴様も絶対に同時に衝突しないよう、気を付けろよ」
『わぁってるよ』
俺達からしたら、ここは少し狭すぎる。もしも二組以上が同時に衝突したら、避けきれなかった他の生徒が酷い目を見ることになる。それぐらいの配慮は向こうもしているだろう。
「そろそろ始まる。私の近くにいると感電するぞ」
『おう、頑張れよ』
「お前もな」
金剣を右手に、銀剣を左手に。
《雷光》から離れながら抜いた剣の感覚を、確かめるように何度か握り直す。
初っ端から手加減は無し──いや、出来ない。
ピリリとした空気が一度、しんと静まり返り。
次の瞬間、空気が爆発した。
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