大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

曲がり角と不意打ち

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薄く発光する特殊な壁床天井、少し前にお邪魔した魔族の家を思い出すが、どうやらそれとも微妙に材質が違うようだ。音がほとんど響かない。ついでに言うと光も少し強い。俺の髪が少し強めに光を反射している。
一本道をずっと歩き続けているのだが、まだ何も見えない。ついでに言うと何も聞こえない。
牢屋を出てすぐ右に行って壁に当たったからこの道しかないんだが、何度か左向きの曲がり角を曲がっただけ。ちなみに右は一つもなかった…と、また曲がり角。これも左。
最初、同じ所をぐるぐると回っているのかとも思っていたが、俺が入っていた牢屋が無いのでそれとも違うらしい。
加えて、少しずつ感覚が短くなってる気がする。となると多分、渦巻状になってんだな。
「………、……、………!」
「…………?…、……、………、……!」
「…ん?」
何か…と言うか誰かの声が聞こえた。会話の内容は全く理解できないが、興奮しているのは何となく理解出来る。物陰に隠れたいが…一直線だからそれも出来ない。
だが姿は見えない。となると──少なくとも曲がり角一つ分は先のはず。
「ちっ」
耳を澄ませるが、声の響き方が独特でどのぐらい離れているか分からない。
血呪を使わないまでも、かなりの速度で、それでいて足音は最小限に抑えて走り始める。
走ったお陰で次の曲がり角にはすぐ着いた。そこで銀剣を──いや、銀剣も金剣もやめておこう。ただでさえよく光を反射する剣だ、先手が取れなかったら不味い。
血界を使って始めて同じ土台に立てる相手に対して、血界を使わずに勝つつもりなのだから、不意打ちのアドバンテージは捨てたくない。
「──んでよ、そのヒトをエデュシア様が一騎打ちの末に──」
「マジかよ!そのヒト馬鹿だなー、忌々しいハーフとかじゃないんだろ?なのにタイマンをエデュシア様に挑んだんだろ?たかだか俺達に勝てるわけねーじゃんかよ!」
「だよなだよな!!こっちが無手で向こうがどれだけ武装しても遊べるだけの余裕は出るよな!」
ゲラゲラと楽しそうな笑い声、声音は成人したであろう男のもの。
「でさぁ、そんでその仲間が──」
と、ここで魔族が角を曲がって俺と軽くぶつかる。体格的に俺の方が小さいというのが何とも悲しいが──
「「えっ」」
「よぉ、楽しそうだな」
丸刈り頭の男魔族とライオンのたてがみの様な髪型の二人組が声を揃えてそう言う。ちなみにぶつかったのは丸刈りの方。
それでもまだ早く反応したのはライオン頭の方。少し下がって距離を取ろうとする。丸刈りは未だ理解出来ていないらしく、呆けた顔で俺を見ている。
「なんでっ──がっ!!」
丸刈りの頭を掴み、思い切り頭突きで鼻っ柱を潰し折り、吹き上がる血を血海で握る。
使えるのは右腕だけでいい──!!
「《血呪》」
右手のみに展開された血界が、鋭く丸刈りの顎を殴り抜くと、堪らず丸刈りが膝から崩れ落ち、動かなくなる。
「こ、このクソアマああああああ!!」
「あ?」
ライオン頭が腕を大きく振り抜くと、魔力で形作られた三本の斬撃が縦向きに飛んでくる。
至近距離だから避けにくいが──避けられない訳じゃない。
というか──
「なっ!?」
「荒い魔法だな。俺が何もしなくても勝手に掻き消える程度か」
斬撃を無視して踏み込むと、魔法は《魔法返し》で潰され、それに驚いたライオン頭が怯む。
「お前、言っちゃならんことを言いやがったな?」
「ひっ」
左手でライオン頭の髪を掴み、まだギリギリ残っていた血呪と共に右手を握りしめる。
「だぁぁぁぁぁぁれが女だクソがあああああああああ!!」
そんな叫び声と共に顎を殴り抜いた。
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