1,020 / 2,022
本編
原因と血脈
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「封印が壊れたって…何で…」
壊れるような原因は特になかったはずだ。
シャルの姿が見えなくなったのが何時からだったか思い出してみるが、少なくとも魔獣を掃討した時はいたはずだ。
その後は?
「んー?原因か?いや、ぶっちゃけお前さんはほぼ関係無いぞ」
「……?」
「俺がちょっと興味本位でほんの少しだけ表に顔を出そうとしたら封印がぶっ壊れたンだよ」
「────。」
絶句。
そこまでこいつの力が強いとは思ってもいなかった。
「待て、他の《亡霊》は普通に封印に引っかかってたんだよな?」
「当たり前じゃん。じゃなきゃ封印の意味ねーし。実際、他の奴らはかなり出たがってたなー。なまじ音も映像も見えてる分、不満は酷かったぞ。まー、多分俺が何もしなくても、全員で封印を破ろうとすれば破れたけどな。シャルレーゼは封印とかそっち系に関しちゃ《勇者》に珍しく詳しかったが、あれなら力技バンザイで破れただろーな」
「なんで…しなかったんだ?」
頬を釣り上げ笑うレイヴァー。この男がこうして笑うと、獲物に狙いを定めた鷹のような凄みがあるが、不思議とこの時は優い嬉しさのようなものを感じた。
男はまるでその質問が欲しかったと言わんばかりに、嬉々として答える。
「《勇者》には親も兄妹存在しない。だからだよ」
「……?」
「一番上の兄貴姉貴達が、末の妹と末の弟のお願いを聞かないわけにはいかないだろうよ」
「………。」
なんだ、それ。
シャルから話に聞いていた恐ろしい男とは全く違うじゃないか。
優しく目を細めると、レイヴァーは立ち上がる。
「なぁレィアくん、血は水よりも濃いって言葉があるらしいんだが…まさにその言葉は俺達にあるような言葉じゃないか?」
「…それ、本来の意味と微妙に違うと思うぞ」
差し出された右手、それを掴み返して立ち上がると、右手にちくりとした痛みが走る。
「血族よりも強い繋がりの血脈の一族、それが《勇者》だ。本来なら一番最初、君が生まれたばかりの時にでも言っておくべき言葉だったが…ま、今回は許してくれ。君が少しばかり特殊な《勇者》だったってことと、末の妹のワガママで会うのが遅れた事の詫びも兼ねて、先に《鍵》を渡しておく。自分でコントロール出来るって思えたら、あるいはどうしても力が足りないって思った時、シャルレーゼにでも聞いて使ってくれ」
「……第七?」
「それ以外に何があるよ、レィアくん。それと、お兄さんとかお兄ちゃんって呼んでくれていいぞぅ」
「遠慮しとくわ」
レイヴァーが笑ったあと、突然真面目な顔になる。
「さて、実はこんな話をしておきながら、状況は一周回って笑えるぐらい悪い。君の内側じゃ過去の《勇者》達が半ばお祭り騒ぎで暴れ回って、一方君は産獣師に非常にイイ一撃を貰って沈んだ。だから外の情報は入ってこないけど、好転したとは思えない。ここは夢じゃないが、それに近い内包世界だ。多少の時間のズレは生じてる。出てけとは言わないし、オススメもしない」
「え?なんで出て行くのが不味いんだ?」
「一つ、君の身体は限界だから。前にあった魔獣の進行の時は休みも僅かとは言えあったし、心の支えもあった。それにどうやら毎年やっていてそれなりに慣れていただろうけど、今は休み無しでほぼ一人、さらに慣れない環境、想定外の遭遇もあった。君には休息が必要だ。たとえそれが気絶に近くともね」
まぁ…否定は出来ない。
「でも産獣師が俺やあいつらを殺し──」
「たりはしないよ。間違いなく。今回はね」
妙に言い切るレイヴァー。
「理由は?」
「単純。あの女、ジェルジネンに首ったけなんだよ。で、レィアくんはそのジェルジネンのお気に入りだ。間違って殺したりしてしまえばジェルジネンに嫌われること間違いない。で、今度は君の仲間が殺されたりすると君が死にものぐるいで襲いかかる可能性が出てくるから殺せなくなる。な?少し休んでいきなよ」
「いや、そんでも結構休んだし──」
「休んでいきなよ?」
ちょ、近いです。ついでに少し怖いです、レイヴァーさん。
「休みなよ?」
「…了解」
なんか休まされた。
壊れるような原因は特になかったはずだ。
シャルの姿が見えなくなったのが何時からだったか思い出してみるが、少なくとも魔獣を掃討した時はいたはずだ。
その後は?
「んー?原因か?いや、ぶっちゃけお前さんはほぼ関係無いぞ」
「……?」
「俺がちょっと興味本位でほんの少しだけ表に顔を出そうとしたら封印がぶっ壊れたンだよ」
「────。」
絶句。
そこまでこいつの力が強いとは思ってもいなかった。
「待て、他の《亡霊》は普通に封印に引っかかってたんだよな?」
「当たり前じゃん。じゃなきゃ封印の意味ねーし。実際、他の奴らはかなり出たがってたなー。なまじ音も映像も見えてる分、不満は酷かったぞ。まー、多分俺が何もしなくても、全員で封印を破ろうとすれば破れたけどな。シャルレーゼは封印とかそっち系に関しちゃ《勇者》に珍しく詳しかったが、あれなら力技バンザイで破れただろーな」
「なんで…しなかったんだ?」
頬を釣り上げ笑うレイヴァー。この男がこうして笑うと、獲物に狙いを定めた鷹のような凄みがあるが、不思議とこの時は優い嬉しさのようなものを感じた。
男はまるでその質問が欲しかったと言わんばかりに、嬉々として答える。
「《勇者》には親も兄妹存在しない。だからだよ」
「……?」
「一番上の兄貴姉貴達が、末の妹と末の弟のお願いを聞かないわけにはいかないだろうよ」
「………。」
なんだ、それ。
シャルから話に聞いていた恐ろしい男とは全く違うじゃないか。
優しく目を細めると、レイヴァーは立ち上がる。
「なぁレィアくん、血は水よりも濃いって言葉があるらしいんだが…まさにその言葉は俺達にあるような言葉じゃないか?」
「…それ、本来の意味と微妙に違うと思うぞ」
差し出された右手、それを掴み返して立ち上がると、右手にちくりとした痛みが走る。
「血族よりも強い繋がりの血脈の一族、それが《勇者》だ。本来なら一番最初、君が生まれたばかりの時にでも言っておくべき言葉だったが…ま、今回は許してくれ。君が少しばかり特殊な《勇者》だったってことと、末の妹のワガママで会うのが遅れた事の詫びも兼ねて、先に《鍵》を渡しておく。自分でコントロール出来るって思えたら、あるいはどうしても力が足りないって思った時、シャルレーゼにでも聞いて使ってくれ」
「……第七?」
「それ以外に何があるよ、レィアくん。それと、お兄さんとかお兄ちゃんって呼んでくれていいぞぅ」
「遠慮しとくわ」
レイヴァーが笑ったあと、突然真面目な顔になる。
「さて、実はこんな話をしておきながら、状況は一周回って笑えるぐらい悪い。君の内側じゃ過去の《勇者》達が半ばお祭り騒ぎで暴れ回って、一方君は産獣師に非常にイイ一撃を貰って沈んだ。だから外の情報は入ってこないけど、好転したとは思えない。ここは夢じゃないが、それに近い内包世界だ。多少の時間のズレは生じてる。出てけとは言わないし、オススメもしない」
「え?なんで出て行くのが不味いんだ?」
「一つ、君の身体は限界だから。前にあった魔獣の進行の時は休みも僅かとは言えあったし、心の支えもあった。それにどうやら毎年やっていてそれなりに慣れていただろうけど、今は休み無しでほぼ一人、さらに慣れない環境、想定外の遭遇もあった。君には休息が必要だ。たとえそれが気絶に近くともね」
まぁ…否定は出来ない。
「でも産獣師が俺やあいつらを殺し──」
「たりはしないよ。間違いなく。今回はね」
妙に言い切るレイヴァー。
「理由は?」
「単純。あの女、ジェルジネンに首ったけなんだよ。で、レィアくんはそのジェルジネンのお気に入りだ。間違って殺したりしてしまえばジェルジネンに嫌われること間違いない。で、今度は君の仲間が殺されたりすると君が死にものぐるいで襲いかかる可能性が出てくるから殺せなくなる。な?少し休んでいきなよ」
「いや、そんでも結構休んだし──」
「休んでいきなよ?」
ちょ、近いです。ついでに少し怖いです、レイヴァーさん。
「休みなよ?」
「…了解」
なんか休まされた。
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